第3話 まずは下準備 下
多少の混乱はあったが、とりあえず一通りの説明は終わった。
まずメニューだが、別に口に出さなくても出てこいと思えば表示される。便利だ。口にするのも最初はいかにもゲームみたいで楽しかったんだが、慣れてくるとぶっちゃけめんどかったからな。
メニューにある項目は、スキル、アイテム、ステータス、メッセージ、マップ、購入の六つ。スキルについてはもう説明はいいと思うから飛ばす。
アイテムとは、モノを保存しておく項目だ。中に入っているモノが表示され、欲しいものを選べば目の前に出てくるってわけだな。入れる時は、この項目からアイテムボックスを開いて中にポイ。
どんなに大きいもの、重いものでも入れられるが、最大十個までしか入らないとのこと。その限界値は昔のゲームを思わせるが、どうやらバトルはすべて一対一のシングルスらしく、持ち込める道具の数を制限しているという。
ま、確かにそこはある程度で線引きしないと何されるかわからないしな。大きさとか重さを無視できるだけでも十分だろう。
次にステータス。今の俺の状態を、目で見てわかる数値にして表示してくれるってわけだな。表示されるのは攻撃力とか防御力とか、いかにもゲームらしい項目がズラリだ。現在習得しているスキルなんかも、一通り表示してくれる。
あとはライフポイント、なんてのがあったからイメちゃんに聞いてみたら、このライフポイントを互いに削り合うのがトーナメントのバトルらしい。バトル中はその残数がゲージで相手の頭上に表示されるんだってさ。格ゲーかよ、って感じだ。
それからメッセージ。これは、他の参加者とメッセージのやり取りができる項目らしい。もちろん参加者は基本的に戦う相手だけど、交流自体は禁止されてないとのことだ。まあ、今のところ俺以外の参加者には誰とも会ってないから、使いたくても使えないけどな。
軽く触ってみた感覚では、スマホのメッセージと似たような感じだったな。ちなみに、トーナメントからの公式メッセージなんかもここで見るらしい。次の会場の案内とか日程もこの機能で送られてくるらしいので、マメにチェックしたほうがいいかもしれん。
あと、マップ。これを出すと、今自分がいるエリアの地図が見れる。俺を含めた参加者全員は、赤い点で表示されている。正直今はさほど必要じゃないな。トーキョーエリアはそもそも実際の東京のコピーだからな。それにまだ組み合わせは発表されていないらしいから、できるだけ人と接触するのは避けたいところだ。
ただ、これがバトル中となるとめちゃくちゃ重要になる。バトルエリアはここと同じく周囲五キロの広いフィールドが用意されているうえ、用意されるエリアによっては身を隠す場所がいっぱいあったり、入り組んでいて動き回るのにも困るようなものに当たる可能性があるらしいのだ。
そんな時は、この機能。自分と敵の位置を確認したり、進むべき道を考えたりするのに必要というわけだ。マーキングもできるので、自分で仕掛けた罠に引っかかるなんてヘマはしないで済むだろう。地図は偉大だ。
最後に購入。これほど文字通りな項目はないかもな。要は通販だ。欲しいものがあったらここで選んで購入できる。もちろんポイントを使って、だ。買ったら即座にここに品が出てくるらしい。ア○ゾンもびっくりの配送スピードだな。
売っているものは武器や防具に限らず、日用品や生活雑貨、果ては食べ物まであった。ガチでなんでもあるっぽい。エクスカリバーだのブリューナクだのといった、どう見ても伝説なやつもあったんだけど死後の世界ってどうなってんだろーな。
「……なるほどな。大体分かった」
一連の操作の具合を確かめて、俺はつぶやいた。操作するにあたってのストレスは、ないと言っても良かった。このシステムを開発したやつ、相当優秀だったんだろうな。現世のゲームがどんなものかをかなり深く把握していないと、こうはいかない。
さて、各種項目の使い方がわかったところで、まずは武器防具の調達を考えることにしよう。
購入項目に真剣や銃が平気で置いてある辺り、このリバーストーナメントのルールは間違いなく何でもアリだ。イメちゃんが言うには「魂の状態から完全に消滅しないように対策はしてある」とのことなので、俺にしても対戦相手にしても遠慮する必要はない。ライフポイント制ということは、たとえ頭を撃ち抜かれても即KOってことにはならないだろうし、相応の準備は絶対に必要だと思う。
攻撃に関しては、格闘をメインにしようと思っている。能力が能力なので、いっそ武器は使わなくてもいいだろうという判断だ。
となると問題は防具なわけだが……。
「なあイメちゃん、どういうのがいいかな?」
「申し訳ありませんが、習得や購入に直接影響する助言は一切できないことになっております」
「……だよなあ」
唯一の話し相手からの助言は期待できない。俺一人でなんとかするしかない。
カタログを眺めながら、とりあえず考えることにするか。
身体、頭、盾、小手といったいくつかの種類に分かれていたので、まずは一番上の身体から。すると出てきたのは、服や鎧の類だ。なるほど、身体ね。
一番わかりやすいのは鎧だよなあ。というわけで、最初に目に入ったプレートメイル・鉄とやらを選んでみる。
ふむ……防御力15、重量13と。
よーし、わからん。イメちゃーん!
「防御力とは文字通り、攻撃を受けた際のダメージをどれだけ軽減できるかという数値です。高ければ高いほどいいのは当然ですが、多くの防具の場合、効果があるのは実際に装備が守っている部位だけになります。
それから重量ですが、装備することで身体にかかる負荷を現した数値になります。ステータスには最大重量という項目がありまして、これをオーバーするものは着用できません」
なるほど、よくわかりました。
というわけで、俺はステータスに移る。俺の限界値を確認することがまず必要だろう。
見てみたところ、今の俺の限界値は15だった。マジか、ってことはあのプレートメイルを選んだらもうそれ以上着けられないじゃねーか。っつーか、ほとんど動けないんじゃね? あれはパスだな。
そう思ったところで、今身に着けている制服がどれほどのものかが気になった。生前通っていた高校は底辺ぎりぎりの私立だったが、制服のデザイン自体はわりと気に入っている。さてさて、ステータスを見てみると……お、ちゃんと表示されてるじゃないか。
制服・ブレザー 防御力2 重量1
……まあこんなもんか。防御力1が具体的にどれくらいのものなのかよくわからないけど、プレートメイルとの差は材質の差ってことなんだろう。
むむむ、道具選びも難しいなあ。軽くて丈夫なやつってないのかな。
そう思って一気に下のほうへスクロールしてみると、あった。どう見ても現世では考えられない名前がずらりと並んでいるあたり、死後の世界の人たちも相当ゲームをやりこんでいるに違いない。
たとえば、黒のローブなんてのがあった。上から下まで黒で統一されたローブで、ダークな雰囲気がいかにもかっこいい。裾なんかの一部分にあしらわれた金色が、いいアクセントになっている。これの性能が、防御力7の重量3。
おまけに、「自身の特殊能力の威力アップ」なんていう効果まで持っていた。防御力だけで見ればプレートメイルより劣るが、どう考えてもこっちのほうが防具としては優秀だろう。
まあお高いんですけどね。プレートメイルが四千二百ポイントなのに対して、黒のローブは破格の一万四千ポイントだ。三倍以上って。それだけでいくつのスキルが習得できると思ってる。
うーん……武器防具はいっそ捨てて、まずはステータスを底上げするパッシブスキルとかを取っていったほうがいいかもしれん。あっちはあっちで種類がいろいろあったが、一つ一つの値段はさほど高くはなかった。重量負荷もないし。
そう思うと、なんだか名案に思えてきた。よし、道具は一旦置いておこう。スキルのほうを考えることにするぜ!
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苦節二時間。がんばった。俺、超がんばった。
足りない頭でうんうんうなりながら考えて、どうにかこうにかこれだと思う構成にすることができた。……と思う。
俺が修得したのは、攻撃力アップ、防御力アップ、素早さアップ、動体視力アップ、筋力アップ、体力アップをそれぞれレベル2まで、特殊能力威力アップ、特殊能力時間アップをそれぞれレベル1まで、い式格闘術とろ式格闘術をレベル3まで、しめて四万五千ポイント分だ。
考えとしては、ステータス上昇系のパッシブスキルを全ジャンル取ることで、道具を使わない弱点を補う形だ。まあ全ジャンルと言っても、潜水とか明らかに局所的な場所でしか使わないようなのもあったから、そういうのは省いたけどな。直接戦う時にいるだろうやつを全部、って意味だな。
ちなみに、いつの間にか最大重量の値が27まで上がってた。筋力と体力が底上げされたからだと思うが、もしかしたら他にも影響するステータスはあるかもしれない。今は検証する余裕がないからしないけど。
何せスキルのレベルが上がっていくにつれて、必要になるポイントがうなぎ上りで増えていくものだから参った。これ、マックスまで上げるとするとどれだけ必要になるんだろう。っていうか、上げられる人がいるのか?
これで残りは約一万だが、これ以上はスキルに使わないほうがいいだろう。使い道が広すぎるわけだから、ある程度は残しておかないと後で痛い目を見るかもしれないし。
大きなため息をついてソファに身体を沈める俺に、イメちゃんが微笑みながら声をかけてくる。
「お疲れ様でした」
「さんきゅーな……」
労ってくれる人がいるだけで十分だぜ、イメちゃん。
いやあ疲れた、何か炭酸の類でも飲んですっきりしたいな。確か購入の項目は食べ物もあったし、コーラくらいあるだろ。
そう思ってリストを眺めてみれば、おー、あるじゃんちゃんと。しかも、各種メーカーごと、さらにはサイズごとにと完璧なラインナップだ。死後の世界にペ○シとか○カとかあるのが心底不思議だが、これも例の「観念で構築されてるから現世の法則とか細かいことは無視できる」ってやつだろう。
さて……えーっと、五百ミリペットボトルが百五十ポイントか。死後の世界の消費税は五パーセントのままなのか?
まあいいや、とりあえずこれを買って飲、…………。
「ぬああぁぁっ、これが生前の食に対する記憶ってやつか!?」
直前でなんとか思いとどまって、俺は思わずメニューから飛びのいた。誘惑を断ち切る意味もあったのだが、俺から一定距離を保つのかついてきやがった。仕方ないのでメニューを閉じる。
「くっ、なるほどな……確かにこの誘惑は強烈だ……今めっちゃコーラ飲みたいぜ……」
口を手で覆い、更に目を閉じて俺はその誘惑に耐える。
今の俺は、魂だ。飲み食いは必要ないし、する意味もない。するだけ時間とポイントの無駄だ。そう、無駄なんだ。
特にポイントの浪費は避けないといけない。勝ち進むためには、これが一番重要なんだ。転生自体はそこまで気になっているわけじゃないが、バトルには勝ちたい。やるからには優勝したいじゃないか。
そう、俺はわかっている。目的もやるべきことも、ちゃんとわかっているんだ。そのためには、この程度のことで挫けるわけにはいかないんだ……!
「ふう……はあ……」
深呼吸。そうだ、深呼吸で心と身体を落ちつけよう。冷静になれ、冷静になるんだ。
…………。
……よし。
耐えた! 耐えきった! よくやった俺! 今日から鋼の精神を名乗ろう!
いや、しかしこのままぼんやりしていたらまた誘惑に負けそうになるかもしれない。ここは身体を動かしてごまかそう。
それに、どのみち修得したスキルや俺の能力フレアロードがどれほどのものなのか、確認する必要があるし。
うん、そうと決まったら早速試してみよう。トレーニングルームに向かうとしよう。
当作品を読んでいただきありがとうございます。
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ゲーム要素の解説回でした。現実でもポイントで能力が得られればいいんですがねー(遠い目
次回は軽くですが戦闘を入れるつもりでいます!