第29話 新たな決意と情報交換
皆さん、たくさんの能力やエリアのアイディア本当にありがとうございます。
連絡が遅くなってしまいましたが、すべての案には目を通して本選初戦でどれを使おうか考えている最中でございます。
連絡が遅れてしまい申し訳ありませんでした、とてもありがたく思います!
まだまだ案は募集しておりますので、何かございましたらよろしくお願いいたします!
それからもしばらく特殊能力について実験や相談をしていたが、それだけを延々とやり続けられるほど俺たちはまだ人間をやめてない。
湊さん以外の三人(ここまで来ると湊さんは人間をやめている気すらした)の集中がいい加減で切れてきたので、一旦休憩をはさむことになった。
ちなみに、提案は空さん。彼自身も休憩したかっただろうが、それでもこういう雰囲気の中であえて流れを変える発言ができるのはさすがである。三徹が死を招く原因になってるだけに、無理はしないように考えているのかもしれない。
織江ちゃんとか、何があっても続けてやるみたいな、ある種のチキンレースのようなオーラを出していたレベルだったからな。精神の髄まで日本人の魂で詰まっているらしい。
「うわーっ! 空さんめっちゃ絵うまいっすね!? ぱねぇ!」
「んはははは、いやー、それほどでも、あるかなあ!?」
今俺たちは、リビングのテーブルで向かい合いながら、生前漫画家一歩手前まで行ったという空さんのお点前を見せてもらっているところだ。
俺たちに掲げられているスケッチブックには、空さんが死後この賽の河原で描きためたラフ画がある。それは、制服を着たかわいい女の子がマシンガンで武装しているというもので、なるほど空さんらしい絵と言える。特に銃の描き込みは、とてもシャーペンによるものとは思えない。
「これは……確かに。見事な出来ですな」
織江ちゃんは、かなり感心しているようで言葉少なだ。だが、その口調にはちゃんとすごいものを作り上げる人に対する尊敬の色が見て取れたので、俺としては安心だ。
うん、こういうところから空さんへの悪感情を減らしていってもらいたいね。
「絵が上手いだけで漫画家はできないでしょう?」
ダメ出しを忘れないのは、もちろん湊さんだ。この流れの中で、バッサリと切って捨てられるその精神力はさすがである。
まあ、俺としては彼女がこの休憩につきあってくれていることが既に奇跡に近いことのような気がするので、多少の無礼は大目に見ようと思う。
当の空さんも、あまり気にしている様子はないしな。
「ははは……耳が痛いなあ。その通りなんだよ」
言いながら、空さんはスケッチブックをめくっていく。
色々なキャラクターの絵が、どんどん現れては去っていく。その多くは女の子だが、たまにおっさんや老人も混じった。かなり割合は少ないが、建物や風景のスケッチ、ポーズ集のようなものも含まれていた。
だが共通しているのは、そのスケッチブックのどのページも、隅から隅まで絵で埋め尽くされていることだ。死してなお、貪欲に技術の向上に努めていることがうかがい知れる。
「色んな技術、知識が求められるからねー、難しいよ。
でも、どんなに苦しくてもそれが夢のためならどれだけでもがんばれたね。努力はいつか、必ず報われるんだから」
「……努力しても報われなかったら、いかがなさるおつもりだったので」
「報われない努力なら、それはまだ努力って言えないね」
……うあ。
何この人、すげーかっこいい。ひたすら続けてきた空さんの日々の積み重ねが、その短い言葉の中に詰まっていると言ってもいいだろう。
それはとても重くて、短い言葉に込められた空さんの気持ちや、夢に対するひたむきな姿勢は、何も目標がなかった俺にとって、あまりにもまぶしすぎた。
毎日は楽しくて、幸せだった。でも、そうじゃない何かがあるとも思っていた。足りない何かが、どうしてもあるような気がして。
……それはもしかして、そういう上を見る姿勢だったのか。目指すものに向かって走る、その瞬間の感動とか、そういうものが……。
「王貞治さんの名言ね。けだし名言だと思うわ」
「あは、やっぱりスズちゃんにはわかっちゃうか。でも、真実だと思うからね。ぼくの座右の銘さ」
日本人なら誰でも知っているであろう偉人の名を聞いて、俺はさらに頷いた。先に質問した織江ちゃんも、無言で空さんの顔を見つめている。
世界一の座に立ってなお、高いところを目指し続けた人の言葉だったのか。そりゃ、重いはずだ。
でも、目の前で本気になって努力している人が言ったからこそ、より重く感じたんだろうな。
「まあ、ぼく野球はさっぱりなんだけどね!」
「あるぇー、じゃあなんでその名言」
「たまたまネットサーフィンしてたら見つけただけ! でも、いい言葉だったからさ? 王さんなら、いくらぼくだって知ってたし」
しまらねえなー、この人! せっかくいい雰囲気だったのに!
いやでも、こういう落差は空さんの親しみやすさでもある、かな。はっきり言って、毎日目標に向かって努力し続けるなんて、口で言ってもなかなかできるもんじゃない。それだけでも、十分な才能って言ってもいい。
それを実際にやってる空さんが、近寄りがたい崇高な人物、というイメージではなく、漫画家志望のもやしな青年、というイメージから揺らがないのは、そういうことなんだろう。
そのほうが絡みやすいし、今のままでいいんだと思うことにしよう。織江ちゃんも、さっきまでと違ってくすくす笑ってるしな。俺らの中で唯一が年齢が高い空さんとは、こういう関係のほうが今後もやりやすいと思うよ。
しかし……夢、夢か。生前は持てなかったけど……今は、そうだな。トーナメントで優勝するっていう目標がある。
最初はあまり意識してなかったけど、それでも食べ物を控えてまでポイントを節約したり、技の練習したりとがんばることができたのは、そんな目標が最初に目の前に掲げられていたからかもしれないな。
夢というには近すぎるかもしれないけど。それでも、今やこの目標には俺以外の夢もかかっている。負けられないし、俺だって負けたくない。
決意が改まった瞬間だった。
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それからしばらく、それぞれの身の上や生前のことを話題に雑談していたが、いつの間にかそれはトーナメントに関係するものに移っていった。
自分たちが今直面している問題でもあるし、空さんや織江ちゃんにとっては転生がかかった大一番でもあるから、無理もないことだ。
だが、今はトレーニングルームで練習をしているわけでも、実験をしているわけでもない。必然的に、そこで交わされるものはそれ以外のことだ。
「マジで!? それマジっすか!?」
「大マジだよ!」
空さんからもたらされた情報に、俺は目を剥いた。
湊さんはだろうな、と言いたげに目を半分閉じている。彼女は知っていたのか……まあそれもそうだよな。
織江ちゃん、……あ、よかった、織江ちゃんはこっち側だ。驚いてる。うん、彼女は俺側だ。
何をそんなに驚いているのかというと……。
「道具を、えーとひもとかゴムとか鞄で一つにまとめて……アイテムボックスに入れれば……」
聞いたばかりの情報を復唱しながら、俺は複数の百円ライターを輪ゴムで止めた。そして、それをアイテムボックスに放り込む。が、入れてすぐにそれを取り出す。
出てきたのは、当然のように入れた時と同じ状態のライターたちだった。
「……マジだ!!」
その現象に、俺はもう一度驚いた。
……つまるところ、アイテムボックスには、必ずしも一枠に一つしか物が入らないというわけではなかったのだ。
今やったように、一つの状態にまとめたものであれば、アイテムボックスはそれを一つと認識して一枠に入れてしまう。
これは要するに、十個という制限を大幅に無視することができると言うことに他ならない。俺みたいに能力の発動に道具が必須だったり、空さんみたいに能力自体が攻撃に向いていないため武器が必要な人にとって、これはありがたすぎる裏ワザと言えるだろう。
「これ、地味だけどすっごく便利なんだよね。マガジンなんかはこれでひとまとめにできるしさ。スズちゃんがぼくとの戦いで使った大量のロケランとかも、きっとそうでしょ?」
「もちろん。あんな大量の道具、十個に制限されたら持ち込めないもの」
「お、お二人はよく気づかれましたな……?」
「道具を大量に持ち込む方法を考えていけば、自然に行き着く結果だと思うけど」
「ぼくは偶然だねー。武器のカタログの中に、手りゅう弾五個セットってのがあってさー。
道具がセットで扱われてるなら、アイテムボックスのほうもセットで認識するんじゃないかーって思って」
空さんはともかく、湊さんはどうなんだ。自力でそこにたどり着いたことより、最初から道具を十個以上持ち込む気満々だったってことだよな? それってつまり、ルールを無視する気満々だったってことじゃ……。
……いや、勝つために人がやらないことをやるってのは大事なことだとは思うけどさ。俺がバカ正直すぎたってのもあるだろうし。
「……お二人は、拙者などとは頭の出来が違うようです。我が軍の両兵衛ですなあ……」
「え、それってどっちかが早死にするってこと?」
「あ、いや、決してそういうつもりでは……」
「私は結構だから、譲るわ」
「ぼく!? いや、もう死んでるから死ねないよ!?」
……え、あれ?
待って、今織江ちゃんが言ったセリフの意味が分からないの、もしかして俺だけ?
「豊臣秀吉が頼りにした二人の軍師、竹中半兵衛と黒田官兵衛の二人を指して両兵衛って言うのよ。どちらも極めて頭が回る戦争巧者だったらしいわ。
ただし、竹中半兵衛はまだ秀吉が織田家中にいた時に病死している。あの人の切り返しはそういう意味よ」
「あ、そ、そうなのか……ありがとな、マジでわかんなかったから……」
「……だと思ったわ」
俺に的確すぎるアドバイスをくれた湊さんには、感謝しかない。俺の中で、彼女に対する株価がストップ高である。
苦笑する彼女の表情は、いつも通り「それくらい知ってろよバーカ」な感じなんだが、その中に「まったくもう仕方ないわねぷんすか」なんて感じがあるように感じてしまうくらいには、急激な高騰だ。
これで目的がアレじゃなかったら、とっても頼れる仲間なんだけどね……。
「道具って言えばさー」
サブカルに限らず歴史にも明るいことが判明した、こちらは正真正銘頼れる仲間な空さんがふと思い出したように言った。
そのまま視線を湊さんに向けて、首をかしげる。
「スズちゃんさ、アイテムボックス出さずに道具取り出してたよね?」
「……あ、そういえばやってたな」
「なんですと!? そんな方法があるのですか!?」
空さんの言葉に、今度は全員の視線が湊さんに注がれる。
「あれって、どうやってたの?」
「……さほど、難しいことじゃないわ」
最初は少し躊躇している様子だったが、すぐに湊さんはメニューを開きながら質問に応じた。
まあ、一応形の上では同じチームだしな。ここではっきり否定すると、後々面倒になると判断したのかもしれない。予選が終わってから、なんだかんだでずっと一緒にいてくれてるのも、そういうことかもな。
それはともかく。俺たち三人は、湊さんが開いたメニューを注視する。
「アイテムの項目を開いて、アイテムボックスまで行く。ここまでは普通通りなんだけど」
言いながら、メニューを操作する湊さん。
うん、言われるまでもなく、道具を使うには絶対必要な行為だ。これをしないと、道具は取り出せない。その第一段階だ。
「アイテムボックスの回りに隙間があるでしょ?」
「……あるねえ」
「うん、あるな」
「ありますな」
アイテムボックスは、枠だけでギッチギチになってはいない。枠と枠の間は多少の隙間があるし、すべての枠の外側、画面の端のほうには枠半分くらいの空きがあるレイアウトになっている。
彼女が言っているのは、そこのことだろう。
「……ここに、一度ボックスに入れた道具をドラッグする」
言いながら、彼女は自身のボックスに入っていたロケットランチャーをタップではなく、タッチした状態のまま、アイコンを引きずる形で枠外にずり出した。
正直言って、その発想はまったくなかった。
他の二人も同じ感想なんだろう。全員二の句を注げずにいる。……と、
「こうしておくと……一度メニューを閉じて、もう一度メニューを開こうとした段階で」
説明を続けている湊さんの目の前に、先ほどのロケットランチャーが音もなく出現した。
「……出てくる、という寸法よ。逆に言えば、この方法は一度出すまでメニューが開けなくなる欠点もあるけど」
「「「…………」」」
「コツとしては、メニューを閉じる前にアイコンを枠外に出した状態のまま手早くタップすること。これをしないと、アイコンが枠に戻って普通の状態になるからね。
枠に戻らなければ固定に成功してるから、それを確認してメニューを閉じるの」
もはや俺たちは、言葉もなかった。無言以外のリアクションができないまま、話が進んでいく。
「最後に、この方法で取り出せるのはあらかじめボックスの枠外に固定しておいた道具だけ。ものはすべて目の前にしか出ない。そして、固定したものが全部同時に出る。
その点はくれぐれも注意しないとまずいわね。逆に相手にチャンスを与えることになるわ。
そしてわかってると思うけど、事前に準備が必要だから、バトルの真っ最中にそうだあれがほしいって思ってもできない。そこで文句言われても知らないからね」
そう締めくくった湊さんは、ロケットランチャーを改めてボックスにしまって軽く一息をついた。
だが、それでもなお、俺たちは黙り込んだままだ。目の前で披露されたやり方が、あまりにも衝撃的すぎて。
恐らく、全員が全員同じことを思っていただろう。
「そんなバグ技あんのかよ」
と……。
当作品を読んでいただきありがとうございます。
感想、誤字脱字報告、意見など、何でも大歓迎です!
空永治という人物、っていう感じの回になりました。
後半、涼がおいしいところ全部持って行きましたが。
永治が博識なのも、漫画のシナリオを作り上げるためあらゆる分野を一通りかじっているからです。
あくまでアイディアのためなのでその深度は涼に譲りますが、広さは彼のほうが上です。




