第28話 四つの王
「こんな使い方、だったのね……」
ようやく使い方がわかった能力に、湊さんは小さくため息をついた。
彼女の前には、ぼろぼろになったマネキンが転がっている。今しがた、かめ○め波をぶっ放したのだ。
「まったく思いつかなかったわ。悔しいけど、私の負けね」
「いやあ、それはどういう知識を持ってたかってだけだよー。その人が思いつくことってのは大体、その人が持ってる知識量と質で変わるんだから」
「持っている道具を生かしきれないんだから、負けでしょう?」
「……勝ち負けにこだわるのは若さの証拠だよねえ」
両の手のひらを見せながら、空さんが苦笑する。うらやましい、と付け加えながら。
「スズちゃんがそう言うなら、そういうことにしておくよ」
「……それも癪ね」
「まあいいじゃんもうー。それに勝ち負けにこだわるってんなら、ぼくは漫画家だったんだから。その辺の知識で負けるわけにはいかないんだよねー」
「……わかったわよ」
湊さん、意外と負けず嫌いだということがよくわかる一幕だった。
まあ、そうじゃなかったら、負けるつもりのバトルでも先に相手を追い詰めようとは思わないか。ある意味、茶番と呼んだトーナメントを台無しにしたいという行動も、勝ち負けにこだわるところから来ているのかもしれない。
しっかし、今さらっと衝撃の事実が空かされたよね。
「空さん、漫画家だったんすか?」
「ああいや、漫画家志望、が正しいんだけどさ。これでも一応、佳作はいくつか取ってて、今度編集さんもつくって話が上がってたんだよ」
そうかあ、なるほどね。言われてなんとなく納得した。
いかにも不健康です、って感じの空さんの外見は、漫画家と言われると妙に納得ができる。それに、オタクがどうのというのも、そういう職業にはきっと必要なんだろうな。というか、そういうのが好きだったから志したと言うべきか。
「でもデビュー前に死んじゃったからさー。三日連続で徹夜したぼくが悪いんだけど、諦めつかなくってね。だから来世にはどうしても転生したいんだ」
だが、そう言って肩をすくめる空さんはどこかさみしそうだった。
……そっか。せっかく夢をつかみかけたのに、その直前で死んじまったのか。
そりゃ確かに、未練も残る。なんとしてでも転生したくなるのは当然だろう。
夢、夢か……大人になってもそれに向かってずっとがんばれる人って素敵だよな。俺には目立った夢なんてなくて、そのうち何か見つかるさとは思ってたけど……こういう人を見ると、それじゃダメだったんだろうなって感じるな。
うん。こういう人こそ転生するべきだよ。俺みたいなやつがするより、よっぽど有意義ってもんだ。
「……ま! 死んだことを今更言っても始まらないしね! これからのことを考えるのが最優先だよ!」
「うぃっす」
切り替えが早いのか、それとも考えないようにしてるのか。
それはわからないが、ともあれ空さん本人がそう言うなら俺から言うことなんて何もない。なんて言ったらいいかもわかんねーしな。
「んじゃ、みんなの能力を一個ずつ試してみっか。まずアクアロード借りるよ、織江ちゃん。コツとかあったら、教えてくれ」
「はっ、かしこまりました!」
こうして、俺たちは能力の確認作業にしばらく打ち込むことになる。
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さて、数時間経過。
能力を使ってみて、問題点を洗い出したり。具体的に何ができるのかを試してみたり。二つの能力を組み合わせてみたり。
とにかく色んなことをやった。
その結果、いくつかわかったことがある。
まず、織江ちゃんのアクアロード。液体を操るこの能力だが、能力を発動させて液体を操っている最中は、液体によるダメージを受けない。
どういうことかというと、明らかに人体に影響を与えるだろう酸や水銀を触っても、ダメージを受けなかったのだ。
これはつまり、水を弾丸にして攻撃するより、もっとダメージ効率のいい攻撃が可能ということに他ならない。強酸の弾丸を敵にぶち込むことができれば、その威力は水の比じゃないだろう。
「しかし、溶岩を操っていた時はダメージを受けましたぞ?」
「それはたぶん、溶岩そのものが持つ攻撃力ではなくて、溶岩が放つ高温でダメージを受けていたのよ」
「な、なるほど」
「物質そのものが持つ攻撃力と、そこから派生した攻撃力はあくまで別物。そしてそれぞれの持つ属性も違う。パッシブの属性防御を選ぶ際には、その辺りの配慮も必要かもね」
「面倒だけど、そこを駆使できればバトルも優位に進められそうだねー」
四人で考えれば、一人じゃ出なかった答えも出るもんだ。
まあこの場合、湊さんの存在があまりにも大きいんだけど。
「水や酸で攻撃した場合は何でやっても水属性として処理されるけど、水銀で攻撃した場合はその形状にあった属性になるみたいね。
水銀で聖水剣をすれば完全に斬撃になるし、弾丸にすれば銃撃になるし……使い分けは面倒だけど、時と場合によっては活躍するかもね」
そんな風に、思いついたことはなんでもすぐに実験して、答えをどんどん見つけていくのだから、ぶっちゃけ俺の役割と言えば実験台になるくらいだったと言える。
やはり彼女は、好奇心の塊だ。気になったことは知りたい。だからこそ、このトーナメントのルールや法則も、誰より詳しく知りつくしているんだろうな。
さて話を戻してアクアロードだが、他にもわかったことがある。油やガソリンを剣にしたり、弾丸にすることで俺のフレアロードと融合した技が出せるようになるのだ。
たとえば、油で剣を作って着火すれば、フレアロード・モードセイバーの出来上がりだ。
斬撃に加えて、切ったものをその場で即座に焼き払うという、めちゃくちゃ攻撃力の高い逸品である。剣になるので、俺自身の剣の技量で効果はかなり左右されるが、そこはスキルを振っていくことで何とかなるだろう。着けてるレッドホークの効果で、最低限1レベル分の力はあるし。
モードバレットに関しても、一度に大量の油しぶきを飛ばしてそれに着火すれば、モードグレープ(空さん命名)にランクアップだ。
いわゆる散弾銃だな。多方面から一気に攻撃するので一発の威力はさほどでもないが、空さんの楔之王剣みたいな能力でもない限りは回避できないだろう。そして当たれば、即座にそこが燃え上がるという仕組みだ。
他の方法として、対戦相手から水分を奪えば即勝ちなんじゃ、と湊さんが提案があった。人体の大半は水分だから、ということだったのだが、これはできなかった。要するに、湊さんの生命力と同じ理論で、魂だけの俺たち死人に、体内の水分もクソもないということらしい。
まあ、そもそも触った相手を即KOするような能力、凶悪すぎるしな。使えればラッキーだったが、こればっかりは仕方ない。
ただ、同じく湊さんからの提案ではあるが、バトルエリアから水分を取り出して使用する、という方法は大半のエリアで有効だった。
トレーニングルームのエリアと実際のトーナメントでのエリアは一致しないことが多いが、そこにある物質の法則性は同じだろうから、恐らく実戦でも使えると思われる。
特に、地面がむき出しになっていたり、自然物がエリア内に存在するところでは大体可能だった。これはそれぞれのバトルエリアの物質が、ちゃんと水分などを保有しているということの証明でもある。
自然界のものも、多くは水分を含んでいるらしいので、そういう場所から水を調達できれば、アクアロードはより使い勝手がよくなるだろう。
ちなみにアクアロード。フレアロード以外の能力との融合技は今のところ開発できなかった。まあ、具体的なモノを操る二つの能力に比べて、空さんと湊さんのは対象がモノじゃないからな。その辺りは仕方ないのかもしれない。
次に、空さんの楔之王剣。動きを止めるというこの能力だが、その汎用性は高く、仕組みを理解して使いこなせれば相当な壊れ性能だということがよくわかった。
まず、空さんが俺とのバトルでも使った絶対王権と王権発布。
前者は、単純に攻撃を止める技だ。自分に向かってきた攻撃をその場で一定時間制止するというもので、武器だった場合武器が空中に固定されてしまうし、俺みたいに素手で殴りかかった場合は自分自身も動けなくなるという、なかなかタチの悪い能力だ。
後者は、対象そのものを完全に止めてしまう技。これを食らった俺にはよくわかるが、こいつを発動されるとマジで何もできなくなる。攻撃、移動はもちろん会話すら封じられるので、その間に何か食らえばひとたまりもない。
もちろんその高性能に比例するようにコストは高く、これを使うと他の技が出せなくなる上、止めていられる時間は絶対王権より格段に少ない。さらに対象に触れる必要があるので、なかなか使うタイミングが難しい。
決まった時のリターンを考えれば無理からぬことではあるが、使いどころには気をつけないといけないわけだ。
これらに加えて、空さんは俺とのバトルで中央集権という技を使っていたらしい。音を消す能力だという。
正確には、音を消すのではなく音を出さないようにする能力らしいが、俺には違いがよくわからん。
銃声がなく、彼が無音で俺に近づいてきた理由はこれにあるようだ。音波の動きを止めるということらしいんだが……理科の話は難しくて困る。
これに加えて、光の動きを止めることで相手の視界から消えるという技も開発中らしい。織江ちゃんとのバトルで試しに使ったらしいが、あれは偶然成功しただけとのこと。
銃が突然現れた現象の謎も解けたわけだが、それよりも相手から見えなくなるという能力のすごさは、お分かりいただけると思う。
他にも、空さんと湊さんは「止める」ことで何が可能なのかを話し合っていたが、聞いてるだけで頭が痛くなる内容だったので、そこにはノータッチで押し通ることにした。その間は、織江ちゃんとひたすら能力の精度を磨いてたよ。
最後に湊さんの能力だが、こちらはまだ使い方がわかった直後なので、明確な方向性が出ていない。
イメージがしっかりしていれば誰だってかめはめ○が撃てるので、その爆発力はすごいと思うが……それだけじゃどうしようもないし、何よりライフを消費する能力なので、もうちょっとうまく使えないかを考えるほうが先、となった。
考えるにあたって、空さんがどういう知識から能力の解明に至ったかを聞き出した湊さんが、その場でタブレットにドラ○ンボールとハン○ーハン○ーを全巻ダウンロードしたのにはさすがに目が点になったけどな。
使い方としてはまっとうだが、せっかくのポイントを漫画に使うってのもどうなんだろうか。そもそもそのタブレットって……。
参考資料にするとのことだが、漫画が参考になるんだろうか……。という俺の疑問に、
「ゲームがモデルのシステム使ってるんだから、案外いけるんじゃない?」
と空さんに言われたのには、妙な説得力を感じたね。
で、現在湊さんは漫画を読んでいる真っ最中。そろそろ魔人○ウ編も佳境に入ったところらしい。髭面の世界チャンピオンは英雄だよね。
あ、そうそう。湊さんの能力だけど。いつまでも「生命力を操る能力」じゃ面倒だったので、これまた空さんの勧めで名前をつけておいた。
生命力を操る、ということだったので、俺や織江ちゃんともかぶせる形でオーラロードと命名した。
した瞬間に空さんが、
「ハイッパーオオォォーラ斬りだあァァーーッッ!!」
と叫んだ時は何事かと思ったがな。
その後もしきりに、「悪しきオーラ力に飲まれるな」とか「バイ○トン・ウェルの物語を覚えているものは幸いである」とかぶつぶつ言っていたが、全員意味を理解できなかったので、それについては放置ということで一致した。
今まで、見た目とは違って社交的で明るい空さんばっかりを見てきたので、初めて見る彼のザ・オタクな姿にはちょっと引いた。
まあそれは置いといて。
名前なんだが、四つの能力のうち、フレアロード、アクアロード、オーラロードと三つがそろっているのに一つだけ楔之王剣というのは浮いている、という織江ちゃんの意見を受け、家中統一を果たすため(織江ちゃん談。俺にはよくわからん)、改名を断行することになった。
いろいろ考えたが、元々空さんは王の権力みたいな意味を常々能力や技につけていたので、ストレートにキングスロードと改名……しようとしたら、湊さんにキングスもロードも同じ王侯の意味でかぶっている、とツッコミを受けた。
ぶっちゃけ、ロードにそういうつもりを込めていたつもりがなかった。だが図らずもそれぞれが火の王、水の王、生命の王という意味になっていてかっこよかったし、確かに湊さんの主張はもっともと言える。そうとわかれば、確かにキングスロードではまるかぶりだ。
そんな協議を重ねた結果、楔之王剣はグロウロードとなりました。
栄光の王、ということらしい。案を出した湊さんは「訳としては無理やりだけど」と言っていたが、かっこいいので別にそこは気にしなくていいと思う。
空さんも意外とあっさり承諾してくれた。なんでも、かっこよさも大事だが統一感もかなり大事らしい。よくわからないこだわりだが、彼の言動についていけない数時間だったので、そのままその一環として流すことにした。
なお、空さんが作った技は、変わらず漢字にルビを振る状態のままで行く。ここは譲れないと言われたのもあったが、俺自身もそっちのほうがかっこいいと思ったので、残すことにしたのだ。
その分統一感も減るので、せっかくだし空さんには俺たちの能力にも漢字の名前をつけてもらうことにした。
その上で、今までの読み方をルビとして振ろうというわけだ。
昔の痛い記憶がよみがえりかけたが、生前と違って今の俺たちは実際に特殊能力を使うことができる。だから、凝ったネーミングくらい許されるだろう。
もちろん、空さんがいい笑顔で快諾してくれたのは言うまでもないし、湊さんだけ乗り気ではなかったのも言うまでもない。
オーラロード関係の技の命名権は、そのまま流れで空さんに移管された。
ともあれ、フレアロード、アクアロード、オーラロード、グロウロード。俺たちの能力が出そろい、そして一つにまとまった瞬間である。
え、後半に行けばいくほど何を表しているのかわからなくなっていく?
細けぇこたぁいいんだよ!
……って言えって、空さんが言ってた。
当作品を読んでいただきありがとうございます。
感想、誤字脱字報告、意見など、何でも大歓迎です!
今回はネタが多くなってしまいました。
ぶっちゃけ、オーラロードとかダン○インネタがやりたかっただけでした(土下座
それから、さらっと明かされた永治の生前。
第二章は、メンバーの生前も掘り下げていきたいところです。




