第27話 それぞれの能力
それから少しばかり本選の説明が続いたが、残っていた重要な話は日程くらいで、あとはそこまで記憶に残るようなものじゃなかった。
いや、もしかしたら必要だったかもしれないけど……まあその時は、仲間がフォローしてくれるだろう。
そう、仲間。互いの弱いところを補い合える。素晴らしい。今まではなかったことだ。
あ、ちなみに本選は八日後の正午かららしいよ。ちなみに、なんて言うような軽い情報じゃなかったな、すまん。
「はいはーい、ぼくから一つ提案!」
説明が終わり、解散となったところで空さんが挙手をした。
さっさと退出しようとしていた湊さんはあからさまに嫌そうな顔をしたが、それについては見なかったことにしよう。
「ぼくたちの能力もバトルで使えるようになったんだから、細かい仕様とかをリョー君に把握しといてもらったほうがいいと思うんだ!」
「おお、確かに。……二人ともどう? 付き合ってくれる?」
「もちろんにございます。いつでも構いませんぞ」
「……わかったわ」
二人のリアクションが正反対すぎてつらい。
「決まりだねー。どこでやろうか? もうここに長居はしないほうがいいだろうしさ」
「んー、どっか店でってわけにもいかねーよな」
「だねー。人には能力の正体は極力知られないほうがいい。異能力バトルものの基本だね」
「俺んちくらいしか思いつかねーけど……それでいいかな?」
「おっけーおっけー!」
「かしこまりましてございます」
湊さんは無言だ。好きにして、って感じの顔をしている。
早く個人行動に戻りたいんだろうなあ。でも俺もあまり彼女の目的に賛同できてないので、いっそこうやってずっと一緒にいるのはありかもしれない。
……ああなるほど。だから彼女はあの時、このトーナメントのシステムを面倒って言ったのか。彼女としては本当にそうなんだろうな。
うーん……どうしたもんかね、ホント?
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まあともあれ戻ってきました俺の部屋!
仮の住まいだから、あんまり自分の家って感じはしないけどな。生活感ゼロだし。
「予想はしてたけど、部屋割りは同じだねー」
「そりゃあ」
きょろきょろと様子をうかがい笑うのは、空さん。
「拙者は隅で構いませんので……」
「いや、話し合いだからもっと近くでさ」
やたら遠慮して頭を下げるのは、織江ちゃん。
「さっさと始めるわよ」
「はい」
ちんたらしてんじゃねーよオーラ全開なのが、湊さん。
うん。みなさん俺の部屋を遠慮なく使ってくださり何よりです。
「とりあえず椅子は全員分あるみたいだな。……んじゃ、早速始めるか」
「第一回作戦会議だねー」
空さんが拍手する。……ノリのいい人だなあ。
「えーっと……能力について、だな」
「だねー! 今回の議題、特殊能力ってことで」
「……空さん、司会頼んでいっすか?」
「へ? おっけー、任されたっ」
サムズアップを返して、空さんが笑う。
うん。俺、こういう役割苦手だわ。空さんのが上手そうだし、ここは丸投げしてしまおう。
「それぞれの特殊能力、ってことだけどー。
えーと、確認なんだけど、リョー君がフレアロード、火を操る能力。いーちゃんが水を操る能力、であってるかな?」
いーちゃんて。
織江ちゃんのことだろうけど、この人彼女を闇討ちしたって事実忘れてるんじゃないだろうな。
「俺のは正解、織江ちゃんのは違うっすね」
「え、違うの? 水じゃないの?」
さすがの空さんも、織江ちゃんの能力を正確にはわかってなかったか。
そうだよなあ、彼女は水しか使ってなかったもんな。俺が知ってるのは、彼女から直接教えてもらっただけだし。
「拙者の能力は、液体を操る能力でござる」
空さんに、無表情に近い顔で答える織江ちゃん。
……もしかして、まだ予選のこと引きずってる? それともニックネームのほうか……。
「液体! そっかー、水だけじゃなかったのか。だとしたら、酸とか水銀なんかもいけるわけだね。なるほど、面白いね」
うんうんと頷く空さんは、気にしている様子はない。
この人はもう……本当に気にしていないのか気づいていないのか……。
「話戻して……ぼくの能力は楔之王剣……動きを止める能力さっ」
「うわ、なんか今すごいの出てきた!?」
「異能力にはかっこいい名前があって当然じゃない! 漢字にまったく関係のないルビが振られるのは王道さ!」
「漢字! そこまで考えてなかった!」
「ふっふっふ、伊達に二十年以上オタクやってないよ! 専門家みたいなもんだしね!」
にやりと笑う空さんの顔は、自信に満ち溢れている。ただ、元々顔色はさほどよくないので、不気味さもかなり増しているのが惜しまれるところだ。
オタク。オタクかあ……たまに飛んでくる、俺にはわからない言動はそこ由来ってことか。詳しくはないが、内輪でだけわかる話題ってのは誰だって好きだし。
「……織江ちゃんは何か名前つけてる?」
「へ? い、いえ、拙者は特に……。必殺技にミズチ、聖水剣くらいですな」
「技名はつけてるけど能力名はつけてないのか……」
空さん……なんでちょっとがっかりそうなんだい。
「リョー君、せっかくだから何か名前つけてあげようよ。液体を操る能力、じゃ面倒だし」
「そ、そーっすかね? まあ、いいけど……」
「お願いします、お館様」
織江ちゃん、そこは乗るんだ。彼女の本気度がいまだにうまく測れない。
まあいいや。名前、名前か……。
彼女の能力は液体を操ることだけど、やっぱり一番メインになるのは水だろうしなあ。それに、いっそ水に関係した名前をつけておいたら、対戦相手が勝手に勘違いしてくれるかもしれない。
水だけと思って油断したところを、酸とかでずどん、みたいな? うん、そうなるかどうかはわからないけど、そういうことも想定して水に関係した名前にしよう。
せっかくだし、俺のフレアロードと共通項を持たせて……。
「えっと……じゃあ、アクアロードとか、どうよ?」
「アクアロード! ありがたく頂戴仕ります!」
決断早いよ! 他にも候補あったんだけど、チャンスなしだったよ!
いやていうか織江ちゃん、頭下げられるようなことしたつもりないんだけど?
「主君より名をいただけるということは、大変な名誉なのです」
「…………」
主君……いや、違……いや、もうなんかどうでもいいや……。
「シンプルに攻めてきたね」
「わかりやすいのがいいかなって」
「それもそーだね。えーと、リョー君のフレアロード、いーちゃんのアクアロード、楔乃王剣と来て……」
話を本題に戻しつつ、空さんは視線を湊さんに向ける。その仕草につられる形で、俺と織江ちゃんも湊さんを見た。
「……そろそろスズちゃんの能力を教えてほしいな」
そしてそう言う空さんに、湊さんはゆっくりと息をつく。
彼女は以前、自分の能力は戦いに向かないと俺に言った。
どう向かないのかはわからないが、だから彼女は能力を一切使わず、銃火器と頭脳を駆使して戦っていた。ある意味、能力を駆使して戦うはずのこのトーナメントで、かなり異色の存在と言える。
しかし、頭がよく機転も利く彼女が戦いに向かないと判断した能力とは、一体どんなものなのだろう。
言われた時は気になったものの、聞けなかった疑問に遂に答えが出る。
「……私の能力は、『生命力を操る能力』よ」
「せ、生命力を……」
「操る……?」
だが、湊さんの答えに俺は首をかしげた。織江ちゃんとそろって、その意味を理解しようとするがどうもわからない。
頼みの綱は空さんくらいだが……。
「生命力……うーん、なんかものすごく漠然としてるね。そもそも、死んでるぼくたちに生命力もクソもないはずだし……」
彼もまた、その意味がよくわかっていないようだった。
「ええ、おかげでどう使えばいいのか結局わからずじまいよ。
唯一浮かんだ方法といえば、相手からライフを吸収するくらいだったけど……そんなことはできなかったわ。
理由はきっと、今あなたが言った通り。死人の私たちに生命力なんてないんだと思う」
なるほど、だから「戦闘に向かない」ってことか。そもそも能力の使い方がわからないんじゃ、どうしようもないというわけだ。
俺のフレアロードだって、ある程度具体的な結果をイメージできないと使えないもんなあ。
「……でも生命力か……。もしかして、気力とかそういう方面だとするなら……」
「空さん?」
「イメちゃーん! しつもーん!」
考え込んだかと思えば、突然空さんは天井に向かって声を張り上げた。
生前やったらただの奇行だが、今の俺たちには意味のある行動だ。
「はいはーい、なんでしょうかー?」
空さんの求めに応じて、部屋の隅にイメちゃんが現れた。
……現れながらポーズを取るのは、何のアピールだろう。誰の影響だろう。
「能力の貸与って、ここでもできる?」
「できますよー。トレーニングルームでの練習なら、仲間の能力を無制限に使えますのでそちらをお使いください」
「おけ、把握した! よしみんな、ちょっと確認したいことあるからトレーニングルームにれっつごーだよ!」
そう言って、空さんはまっすぐトレーニングルームに向かっていく。
なんだろう、何か閃いたのか?
「お館様、参りましょう」
「お、おう、そうだな。……湊さん?」
「行くわよ。……何、その意外そうな顔?」
「いやだって、勝手にしろとか言いそうな気がしてて」
「ずっと謎だった自分の能力よ? 使うかどうかは置いといて、謎が解けるのは歓迎するわ」
「……そか。わかった、んじゃ行こうぜ」
わからないことを知る、知りたい、ってのが湊さんの本質的な性格なのかもしれないな。
だって、さっきまでと違って明らかに表情に力がある。面倒とか、いやだとか、そういう負の感情がないのだ。
そういう顔をしていてもらったほうが、こっちとしても精神衛生上いいんだけどねー。そうはいかないのが彼女の難しいところかもしれない。
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で、トレーニングルーム。俺は今、「行動:何もしない」に設定されたマネキンを前に立っている。
空さんが思いついたアイディアを、できるかどうか試すのだ。
「どうすりゃいいんすかね?」
「その前に逆に聞きたいんだけど、リョー君ってドラ○ンボール読んだことある?」
「はっ? あ、ああまあ……一応は……」
「おっけー、ならいいんだ!」
……どういうことだよ?
「よし、リョー君! か○はめ波だ!」
「はあ!?」
だからどういうことだよ!?
あ、ほら。湊さんを見てみろよ、ふざけてんじゃねーぞって顔してるじゃないか!
「いーからいーから。やってみてよ!」
「は、はあ……」
意味はわからねーが、しゃーなしだ。
えーっと、かめは○波……確か、こう……腰を落として両手を腰のあたりで向かい合わせて……。
「かー……めー……○ー……めー……」
最後のタイミングで手首を合わせた状態で前に突き出して、エネルギーを放出する技だったよな!?
「波ーっ!!」
その瞬間、オレンジ色に輝くエネルギー体が俺の両手から大量に放出され、激しい音と共にマネキンを襲った。
もちろん、何もしないように設定してあったので防御はされない。マネキンは直撃を食らい、そのまま思いっきり後ろにぶっ飛んで、ぼろ雑巾のように床を転がって動かなくなった。……いや、元から動かなかったか。
いや、それはいい。そんなことはどうでもいい。
「……え……」
「ウソ……」
「……あり得ないわ……」
俺たちは、あまりの出来事に呆然と立ち尽くすことしかできなかった。
たった一人、空さんを除いて。
「やっぱりー! やっぱりねー! 生命力イコール生命が持つ気ってことだね!
……あ、でもライフ減ってるな。そうか、なるほどなるほど。死人に気なんてないから、ライフを気として代用してるのか。ライフを使用する能力ってことかな!
ハイリスクだけどリターンも多そう! でも気を使うってことは、もしかして○ンター○ンターのネ○みたいな使い方もできるのかな?
だとしたら、選択肢の数は無限大な夢……!?」
そう言って楽しそうに笑う空さんは、やたらと輝いていた。まるで、新しいおもちゃを買ってもらった子供か何かのように。
だが、それについていけるほど、まだ俺たち三人の心に余力はないのだった。
当作品を読んでいただきありがとうございます。
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遂に明かされる涼の能力。
今回はやたら伏字が多い気がします。それというのも漠然とした能力だからなのですが、一人称で説明するのは難しそうです。
自分の力量不足を感じる次第でありますなあ……。




