第26話 一蓮托生
「まず、本選のルールですが基本的に予選と変わりません。ですが、大きな違いがあります」
ぴ、と人差し指を立ててイメちゃんが言う。
久しぶりに見る教師モードなイメちゃんだ。……イメちゃんそのものが久しぶりな気もするが、一人の時しか基本出てこないんだから仕方ない。
「もっとも大きな違いは、予選で下した参加者が支援に参加する点です」
「はい先生、質問です」
「なんでしょう?」
イメちゃんの言葉に、間髪入れず手を上げたのは空さんだ。あのイメちゃんを先生と呼ぶあたり、彼の感性は案外俺に近いのかも。
先生と呼ばれたイメちゃんは、ちょっと得意そうに続きを促す。
「支援に参加ってどういうことですかー? 確かトーナメントは全部シングルスって聞いてたけど」
なるほど、確かにそうだ。俺もそう言う風に説明を受けた。
織江ちゃんも頷いていて、……湊さんはどうでもよさそうに無表情。まあ彼女は知ってるだろうから当然か……。
「はい、バトルそのものはすべてシングルスです。相手と直接戦うのは、本選に上がった人……この場合、亮様のみです。
ですが、他の三名もバトルに介入することができます。
具体的な方法といたしましては、音声によるサポート、道具の譲渡、能力の貸与の三つです」
なん……だと……?
「本選バトルに際しまして、涼様、永治様、伊月様には全員ポータルに待機いただきます。ここで状況に応じて様々な形で亮様を支援し、優勝を目指してください」
「なるほど、ぼくたち敗退者も本選に出る、ね……」
空さんが訳知り顔で湊さんの顔を一瞥する。対する湊さんは相変わらず変化なし。
……織江ちゃんは完全に前情報がなかったから、首をひねってるな。
「音声によるサポート、ってのはつまり、バトルを見てるみんなから意見をもらったりできるってことー?」
「はい、その通りです。状況を俯瞰できる仲間からの意見ですので、お役にたつかと思いますよ」
つまり、湊さんからも意見がもらえるってことだな? これはでかい。
あれだけ頭がよくて、俺にも空さんにも常に優位に戦い、能力も見極められる彼女が控えにいるなら、これほど心強いものはない。俺にないものを、大体持ち合わせているんだからな。
彼女が助けてくれるかどうかは、また話が別だけど……。
「アイテムの譲渡、っていうのはー?」
「ポータルに待機している三名のアイテムボックスから、任意のアイテムを一バトルにつき最大五個まで転送することができます。どれを送るか、いつ送るかは自由です。
ただし、一度に転送できるのは一人のものを一つのみ。また、アイテム転送ポイントと呼ばれる特定の場所にしか転送することはできないうえ、転送完了にはタイムラグがありますので、タイミングにはお気をつけください」
「せっかく送ったアイテムが、相手に使われる可能性もあるってことでおけ?」
「はい、その認識で構いません」
「把握」
……俺が疑問に思ったことは、大体空さんが解決してくれるなあ。織江ちゃん共々、口を挟む隙がまるでない。
この辺りも年の功か。……いや、単純に空さんも湊さん並みの秀才ってことかなあ。
「最後に能力の貸与ですが、これは他三名の能力を亮様に貸し与えることができるものです。つまり、亮様はバトル中に他の方の能力を使うことができます」
「マジで!?」
「マジです!」
あ、このやり取り久しぶり……。
「ってことは、バトル中の選択肢がかなり広がるね」
「そっすね。特に空さんの能力が味方って考えると、守りめっちゃ頼もしいっす」
「能力を組み合わせるってやり方も出てくるよね。すぐには思いつかないけどさ」
「それはまた熱いっすね! 俺も思いつきませんけど」
「し、しかし……それは相手も同じことなのでは?」
織江ちゃんの指摘が俺たちに刺さる。
ヘルプアイをイメちゃんに向けたところ……。
「もちろんです。相手も四つの能力を持つことになるので、より観察が大事になるかもしれませんね」
とのことである。うわ、きっつい。
「マジか……一つでも大変だったのに……」
「拙者、その辺りは自信ないでござる……」
俺みたいなわかりやすい能力ならいいんだけど、それがすべてでもないだろうしな……。
「能力の貸与ですが、バトル中、一度に貸与できる能力は最大二つまでとなります。その時々の状況で、入れ替わるなどの対応が求められます。
どれを使うかは任意ですが、亮様の能力はもちろん外すわけにはいかないので、組み合わせにはご注意ください」
二つまで……一つは絶対省く必要があるのか。俺の能力が外せないのは、まあ当然だろう。これは仕方ないな。
「最後に、最も気をつけるべきことを。
以上三つの支援行動は、すべてこの転移装置を使用します。一つの行動につき、一つを使用します。
そのため、すべてを同時に行うことはできません」
「……つまり、音声サポートを常に受けたければ、支援枠一つを常に潰す必要があるわけだ。能力の貸与も同じく。
逆に能力貸与を二つやったら、音声サポートはおろか道具の転送すらできないわけで?
ムムッ、それぞれのバランスをどう取り持つかが難しいところだねえ」
「仰る通りです。また、いかに手早く支援行動を切り替えられるかもバトルの勝敗を分けたりするので、お三方にはその点もお気をつけください、と」
えーっと、転送装置が右と左で一つずつで……ああ、だから同時に使えるのが二つまでってことか。ポータルって、ただの窓口だと思ってたけど色々見越してあるんだな。
……俺の理解が空さんに比べてめっちゃ遅い。悲しくなってくるぜ。
「本選について、説明は以上になります。ここまでで何かご質問はありますか?」
「はーい」
手を上げたのは、またしても空さんだ。
「肝心なことが説明されてないよー」
空さんはそう言って、睨むような鋭い視線をイメちゃんに向けた。
「ぼくたちがこの支援に参加するメリットは? ただ他人の転生を助けるためだけなんて、ぼくはできれば御免なんだけどな?」
……最もな話だ。
自分にどれだけ利益があるか、損得をしっかり考えて行動できるのは大人だなーって思う。俺が逆の立場だったら、何も考えずオッケー言ってそうだ。
どっちがいいかは一概には言えないと思うけど、一つの線引きを明確に持っているのは大事だよな。
もちろん、それだけの大人にはなりたくねーけどな。
「皆さんにも、当然メリットはございますよ。本選出場者である亮様が上位入賞を果たして転生の権利を勝ち取ったら、皆さんにも限定的ではありますが転生が認められます」
「まーじーで!?」
イメちゃんの回答を受けるや否や、空さんは目の色を変えて彼女に詰め寄った。
「ホントに!? 転生できるの!?」
「限定的、ですけどね?」
「いいよいいよ、どっちみち負けたんだし! もうチャンスないと思ってたし! 何か抜けがあってもこの際いいよ!」
空さんが吼えている。かと思えば、突然俺のほうに向かって来て手を取ると、全力で手を握ってきた。
「リョー君! ぼく死ぬ気で応援するよ! なんだってするから! だからぼくらの分までお願いだよ!!」
「ぅえあ、は、はあ、その、がんばります」
あまりの勢いに、そう答えるのがやっとだった。
うーん、人によって差はあるのはわかってたけど、こんなに転生したいと思ってる人もいるんだな。よっぽど生前やり残したことがあったんだろう。
「あ、明良殿!」
「お、おう?」
「拙者も明良殿を応援致しますぞ!」
織江ちゃんもかよ。
あんまりそうは見えないけど、空さんに負けた後の姿を考えると、この子も何かしらやりたいことがあったんだろうなあ。
しかし、俺はそこまで生前に未練はない。こうなりたいという夢だってあったけど……なんだかんだで、幸せな人生だったんだろう。家族の仲もよく、友達づきあいもまっとうにやっていた。
ちょっと刺激が足りないと思っていたけど、ああいうのが幸せってことなのかもしれない。
「これからは拙者を家来と思いお使いください。そして、よろしければお館様と呼ぶことをお許しいただければ……!」
「ん、うん、わ、わかった。好きにしてくれ」
……織江ちゃんもブレないな。とことん戦国時代のスタイルにこだわるつもりなのか。
俺としては家来だ親方だなんてそんなガラじゃないし、そもそも人を使うって考え方は好きじゃないんだけどな。
とはいえ、本人がそうしたいって言うなら俺からどうこう言うのもね。どうしても譲れないところは俺だって意見はするし、呼び方とかその程度なら別に構わない。
「よ、よーし。そんじゃこの四人で優勝目指すぞー!」
「「おー!」」
こうして俺たちは、一致団結を果たし……てなかったわ。
「やれやれ……」
一人。そう、湊さんが大きくため息をついたのだ。
当然、水を差すその行為に全員が冷めた目を向ける。だが、返ってきた視線はもっと冷めていた。
「『限定的』という言葉の真意も聞かずに、よくそこまで盛り上がれるわね?」
「……いいじゃん。ぬか喜びになるかもしれないけど、それでもないよりは」
こういう時、湊さんに意見できるのは空さんくらいのもんだ。
彼は首を傾げ、……ながらも怪訝そうに湊さんを見つめている。
「最悪の場合、権利取得者がすべての権利を持って行ったとしてもそう言える?」
「……どーいうことさ?」
「転生の権利というのは……」
「あっ、あー、あーっ、涼様、ボクの出番を取らないでくださいよう!」
説明しかけた湊さんを、イメちゃんが大慌てで遮った。
出番て。
いや、確かにここ最近、彼女に何か質問することはほとんどなかったけど。
「じゃあ、説明どうぞ。言っておくけど、あなたが説明をあえて省いたものは全部私が説明するから、今のうちに全部言っておいたほうがいいわよ。
これは私たち参加者が当然共有すべき知識でなんだから」
「わ、わかってますよー」
ぷう、とほっぺを膨らませてイメちゃんが答える。
が、すぐに居住まいを正して俺たちに向き直った。
「転生の権利は、準決勝まで到達した上位入賞者に与えられます」
そして、そういえば今まで具体的に聞いたことのなかった部分の説明が始まる。
「与えられる権利の内容は、『百文字以内で設定した条件での転生』となります。
百文字という制限の中で記載した条件は、ごく一部の例外を除いてすべて転生に適応されるのです。
そして、優勝者にはその条件設定用文章枠を四つ、準優勝者には三つ、上位入賞者には二つ与えられます。
この文章枠をどう使うかは、もちろん獲得者次第なのですが、一人ですべてを使い切る必要はありません。
つまり、共に戦いを勝ち抜いてきた仲間に分け与えることができるのです」
「へえー、自由に転生の条件を付けられるの。
ってことは、次生まれる時はもっと頭よくなって、とか。もっと才能を持って、とか。そういうことができるってこと?」
「はい、才能に関する記載は皆さんが一番設定にこだわる部分ですね」
「あ、やっぱりそういう過去の事例は多いんだね」
「そうですね。あと多いのは、お金持ちに生まれたいとか、権力者の子として生まれたいとか、そういうのでしょうか。
ミーハーな方だと、特定の有名人の子として生まれたいというのもあったりしますね」
「な、では、かような設定も可能と?」
「可能です。ただし、特定の人物を指名する場合は明確にフルネームを記載する必要があるので、認められないことも多々ありますね。
本名と思っていたものが実は芸名だった、実はもっと長かった、などがその理由です」
「か、過去の人物でも?」
「はい、可能ですよ」
「できるのですか!?」
「まーじーで。それはぼくもちょっと気になる」
……できるの!? 過去の人でも可能って、それ、そんなことしていいの!?
だって、転生したら生前の記憶保ってるんでしょ? そんなことしたら、歴史変わっちゃうんじゃ……ほら、えーっと、なんだっけ。タイムなんとかックスってやつが起きちゃうんじゃないの?
「可能ですが、対象とする故人に戒名などの死後の名前が与えられていた場合、そちらを使用する必要があります。
ですので、一般の方が故人を名指しで転生を実行できるのは、せいぜいここ数十年程度ですかね」
あ、ちゃんと対策はしてあるんだな……。
「さ、左様ですか……。ま、まあ、何もかもうまくいくわけではありませんものな」
織江ちゃん、明らかにがっかりしてる。
いやー、あれは間違いなく本気で戦国時代を狙ってたね。具体的には甲斐の虎のあの人とか。
ただ、歴史上の人物のところに転生は……確かに、ちょっと面白いかもしれない。
ふむ、そう考えると転生もそこまで捨てたもんじゃないのか。前世の延長って形で来世を考えるなら、ある種強くてニューゲームするのと似たようなもんで。
……なんていうか、本当にこのリバーストーナメントはゲームを参考にしまくってるんだな。神様ってやつは、ひょっとして日本人だったりするのか?
「いやー、夢が広がりんぐだね! しかしそうなってくると、百文字って制限はちょっち厳しいねー」
「それは同感っすね……」
自由に転生する条件を決められるのはありがたいけどな。ツ○ッターだって百四十だぜ?
「問題は」
盛り上がっていた俺たちに、冷静な声が届く。もちろん、湊さんだ。
「設定の条件よりもその枠の数よ。最悪の場合、得られる枠は二つだけ。明らかに足りないわ。あなたならどうする?」
「でも、もらった権利は全部仲間に上げることもできるんだよな?」
「もちろんです。……過去にその例はありませんけど。しかし逆に言えば、もらった権利をすべて自分で使い切ることも可能なのです」
「……あ、そうか」
「リョー君は優しいなあ……普通、独り占めのほうが先に思い浮かぶと思うよ」
そ、そーいうもんかな? 単純に名案だと思っただけなんだけど……。
「でも、スズちゃんが言いたかったのはそういうことだね?」
「ええ。優勝しても得られる枠は四つ、全員で平等に分割できるギリギリのラインが最高。
これがそれ以下だとしたら、間違いなくもめるわ。必ずのけ者にされる人が出てくる。私たちは一蓮托生なのよ。良くも悪くもね」
「なるほどねー、確かにこれは全員が共有すべき知識だ」
でも、さすがに俺でもよくわかりました。
少なく、そして分けることのできないものを分けなきゃいけない時って、大体ケンカになるもんな。全員がどうしてもそれを欲しいってなった時、人間ってなかなか分かり合えないよね。
ただ、今回に限って言えばそれは起こらないので大丈夫だ。なんたって、
「まあ大丈夫っすよ。俺、絶対転生したいって思ってるわけじゃないんで。もし枠足らなかったら最初に降りますんで」
ってわけだからな。
俺がそう宣言すると同時に、空さんと織江ちゃんの視線が一斉に向けられる。
少しだけ沈黙があったが……。
「あなたが神か!!」
空さんが一気にテンション吹っ切れて土下座してきた。
「ありがとう……そしてありがとう!!」
「いや、ちょ……っ、そ、空さん! いくらなんでもやりすぎっすよ!」
なんていうか、あっちこっちテンションが迷子になる人だな! とてもこのガリッガリな見た目の人とは思えないエネルギーを感じる。
見ていて飽きないけど、たまにどう対応すればいいのかわかんねーよ!
「いや、それくらいしたくなる話なんだよ! ここに来てる以上誰だって転生はしたいはずなのに、自分から辞退できるとか……リョー君って聖徳太子か何かの転生体なんじゃ?」
「んなバカな……」
だとしたら、俺はもっと頭いいはずだ。
いや、そんなことはよくってだな……。
「俺は転生より戦いそのものが目的っていうか……」
「まーじーで。ホント君変わってるね……」
「そっすかね……?」
俺が首をかしげていると、視界の端で織江ちゃんが頷いてる。
湊さん……には、諦めろと言いたげに首を振られた。
そうか……俺は変わってるのか……。
そんなつもりは生前まったくなかったんだが。死んだと言うのに、どうやら妙な個性を新しく得てしまったようだ。
「えと……まあそんなわけで、転生より勝ち負けが気になるだけっつーか? だから、みんなのためにもぜってー勝つさ!」
「キャーリョーサーン!」
「お館様……なんと申せばよいか……!」
「みんなで勝ちに行こうぜ!」
「「おーっ!」」
こうして俺たちは一つにまとま、……りはしないんだな、これが。
湊さんは、結局最後まで俺たちの輪の中には入ってこなかった。
彼女がどうするつもりなのか、俺は少し知ってるわけだが……このことを二人に話すべきだろうか?
たった一人でトーナメントを台無しにすることができるとは思えないけど……湊さんの能力は並みじゃない。もしかしたらもしかする。
というより、結果トーナメントを台無しにできるかどうかより、彼女が何かしでかすんじゃないかという心配のほうが大きいかも。事件を起こすだけならそこまで難しくないだろうし。
彼女一人の暴走で、他の二人が転生の資格をなくしたりするのは心苦しい。
……うーん、俺はどうすべきだろう。どうするのが正解なんだろうなあ。
俺としては、このまま四人で勝ち進みたいんだけどね? なあ、湊さんよ……。
当作品を読んでいただきありがとうございます。
感想、誤字脱字報告、意見など、何でも大歓迎です!
26話にして、ようやくタグ「チームプレイ」の伏線を回収。
というわけで、新章突入です。
しばらくは説明回が続くと思いますが……。




