第23話 予選 12
総PV2000ありがとうございます。牛歩ですが確実に前に進めているんですね。
これからもよろしくお願いいたします!
慎重に空さんに向かって進むことしばし。狙撃された回数は両手では数えきれなくなった。
うち、回避することができたのは半分ちょいだ。俺としてはもうちょっと回避できると思ってたんだが、なかなかうまくいかないもんだ。
……とは言ったが、実際はちょっとした誤算があって回避に失敗している。
その誤算というのは――。
「くうっ!?」
突然目の前から飛んできた銃弾を、なんとか伏せてギリギリで回避する。それから横に転がって、追撃を防ぐ。
茂みに隠れて、一旦向こうの出方をうかがう。これを結構な回数繰り返してきたわけだが……。
「やっぱり、気のせいじゃねーな。銃声がまったく聞こえねー」
チッ、と舌打ちしながら俺は頭をかいた。
そう。誤算というのはこれだ。狙撃の際に、銃声が一切聞こえないのだ。せめて聞こえるなら、もうちょっとなんとかなったとは思うんだが。
きっとサプレッサーを使っているんだろう。聞いた話じゃ、あれは完全に音を消せるわけではないらしいんだが……距離が距離だからなあ。聞こえなくても無理はない。
「もうちょっとか……」
とはいえ、だいぶ距離は詰めた。森じゃなかったら、狙撃するような距離じゃないくらいまでのところまでは来た。もう少し追えば、直接対峙できるはず。
考えながら、頭上のゲージを見る。まだ四分の三くらい残っている。ライフアップと銃ダメージ軽減さまさまだ。これなら、まだ回復する必要はないな。
「……うし、行くか」
また少し離されたが、三歩進んで二歩下がるって感じだ。確実に近づいてはいる。
俺は茂みから出て、また走り出す。
それからしばらく進んで、俺はふと首をかしげた。
「飛んでこねーな」
そう、銃弾が飛んでこなくなったのだ。
狙撃を諦めたか? それとも、単純に弾切れか? あるいは、別の思惑があるのか?
俺としては弾切れを期待したいところだが、空さんのことだ。きっと何か考えがあるんだろう。
俺は改めてマップを見る。もう空さんとの距離はめちゃくちゃ近いと言っていいだろう。今のままでは、俺と彼の表示がかぶっていて正確にわからない程度には近い。
このままだと距離感がわからないので、マップの状態を拡大して使うことにした。
あ、これはイメちゃんからの情報な。画面出しっぱで行動してて初めて気づいたんだけど、メッセージ機能って画面開いてる時に新しいメッセージ来るとちゃんとアラートで教えてくれるんだぜ。
「!? めっちゃ近……」
「動かないで」
「ッ!?」
突然後ろから声がして、振り返ろうとしていた俺は硬直した。考えるまでもなく、空さんだろう。
拡大したマップには、俺の後ろに彼がいることになっていた。どうやら気づくのが遅かったようだ。
身体を少しひねった状態なので、横目で見れば少しだけ空さんの姿が見える。顔まではわからないが、至近距離で頭に拳銃を突きつけられていることはわかった。……リボルバーか。
なるほど、動かないで、な……。
「……いつの間に」
「引きこもって隠れるのは得意でさ」
まあ、確かにアウトドア派には見えない。
しかしどうするか……。頭に銃弾を食らって、どれだけライフが減るのかわからないんだよな。
あと今になって気づいたんだけど、俺、今回ライター出すの完全に忘れてたわ。これじゃフレアロードを使うにも使えない。
一旦彼から距離を取らないとな……。せっかく近づいたのに俺のバカァ!
「うーん……明良君、よっぽど防御にステ振ってるんだね。堅実だなあ」
そんなことを言われて一瞬なんのことだと思ったが、すぐにライフの減りについてのことだと察する。
無音の、しかも森からの狙撃を回避できているとは思っていないのだろう。死んでいる俺たちが、攻撃の跡が残らない身体だから勘違いしたか。
まあ、防御にかなりポイントを割いてるのは本当だが、実際のところ俺はオールラウンダー的に攻撃、防御にまんべんなく振っている。残念ながら空さんの発言はハズレと言っていいだろう。
俺のスタイルは器用貧乏と言われるかもしれないが、全体を底上げしておかないと俺みたいに考えの浅いやつは、何もできずに負けると思うんだよ。湊さんくらいの頭脳があれば、もうちょい極端な振り方も気にせずやれるかもしれないけどさ。
「さすがに頭に食らったらどうなるかわかんねーけどな」
「だろうねー。普通なら一気にライフゼロ近くまでなるから、こうやってフリーズかけたんだけど……マズったかもね。なんか普通にカウンター食らいそうだ」
……バレてるか。
そう、たぶん一発食らっても即KOではないと踏んで、俺は反撃のタイミングをうかがっている。この人もなかなか頭よさそうだな。
「でも頭に一撃入れられれば、ぼくがもっと優位になるのは間違いないからね。悪いけど、負けたくないんで」
そう言うと、空さんは俺の返事も待たずに躊躇なく引き金を引いた。
だろうな! あんたはそう来ると思ったよ! あの状況で織江ちゃんに不意討ちをしかけたあんたならな!
いつ引き金を引かれてもいいように警戒していた俺は、彼の指の動きが始まると同時に脚に力を込めてそこから飛びのく。それと同時に、拳銃から弾丸が音もなく発射された。
無音!? バカな、その拳銃にサプレッサーはついてないぞ!?
驚いて、思わず俺は身体の動きが鈍る。そんな俺の額を、弾丸が掠めていった。あっぶねえ!
けど、おかげで正気に戻ったぜ!
「おらぁっ!」
カウンターのハイキックを食らえ!
「絶対王権!」
「ッ!?」
空さんが言うと同時に、俺の身体は突然動かなくなった。せっかく出した蹴りも、彼の目前でピタリと止まってしまう。
正確に言えば、動かないのは蹴りを放った右足だけではある。だが、ハイキックをかました状態でその足が動かないとなると、どのみち動くことはできない。
「残念。面と向かった戦いで、ぼくに攻撃を当てるのは難しいよ?」
空さんがにやっと笑った。そして蹴りの動線を避けてから、動けない俺の顔に銃が向ける。
「それじゃ、今度こそ!」
「うおおおああああーっ!」
銃声が鳴り響き、弾丸が俺の顔面を貫通した!
その瞬間身体の硬直が抜け、足が何もないところを薙ぎ払う。
どうやら、もくろみ通りヘッドショット一発では俺のライフを削りきることはできないらしい。
「……うそっ!? 頭に当てたのに!」
「こなくそっ!」
「っ、絶対王権!」
攻撃が当てられないなら、とばかりに俺はしゃがんで土をつかで空さんにぶちまけた。目くらましになればいいと思ったが、彼はそれを能力で防御した。スキありだ!
空中で止まった土の横をするりと抜ける形で空さんの懐に潜り込み、利き手のボディーブローをお見舞いする!
よし、入ったッ!
「うぐっ……、くっ、王権発布!」
「ぬお……っ!?」
だが直後、完全に俺の身体は動かなくなった。右手を突き出したままの状態で、固まってしまう。
さっきとはまた違う、んだな!?
そうか……これが湊さんの言っていた「動きを止める」能力! 攻撃だけじゃない、相手の行動すら止めてしまう、そういうことか!
って待て待て、感心してる場合じゃない! この状況、袋叩き間違いなしじゃん!
「銃が効かないなら……!」
わっ、ちょっ、待って! タンマタンマ!
銃を向けながらも、空さんは手りゅう弾を取り出す。爆破する気かよ!
……っていうか、動き完全に止められてるから口も動かないのか! いや、言えたところでこの人はやめるような人じゃないだろうけど……って、うわーっ!!
ばくはつ!
「ぐへぇっ!」
吹き飛ぶと同時に、能力の効果が切れたのだろう。木に激突した俺の口から、声が漏れた。
だが、身体はまだ動く。いつも酷使させていただいてありがとうございます、死後の世界!
そして……ふふふ、手りゅう弾による攻撃も予測済み! 爆発に対する防御スキルを持ってるんだ、一個くらいの手りゅう弾じゃ即死しないぜ!
「うっそお!? 手りゅう弾まともに食らってまだライフゼロにならないの!?」
空さんもびっくりしてる。うん、俺も結構驚いてるが、今はそんな場合じゃない。煙で視界が悪いうちに、ライターを出……そうとして止め、逃げる!
なんで逃げるかって? ふっふっふ、いいことを思い付いちまったのさ! なーに、詳しいことはまた後でな!
「くそっ、待てっ!」
後ろから弾丸が飛んでくる。あの完全停止の能力は、近くないと使えないのかもな。それに、空さんの銃は装てん数の少ないリボルバー。すぐに弾切れになって、飛んでこなくなった。
この隙に、一目散だ! あんな能力を使う相手に、至近距離から攻撃できるか!
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ふう……ここまで来ればいいだろう。
表示サイズを戻したマップでは、俺からかなり離れたところに空さんがいる。あまり動く気配がないのは、狙撃に戻ったのか、それともこのまま放置すれば時間切れで勝てると踏んだのか。
まあいい。どっちにしても、これから俺がやろうとしていることは近づかれないほうがいいからな。
「その前に……」
ライフを見れば、俺のライフはレッドゾーンだ。これ以上攻撃を食らったら、真面目にアウトなレベル。
というわけで、まずは回復だ。アイテムボックスから、アレを取り出す。
十秒チャージ! うまいっ! よしっ!!
「……うん、リンゴ味もなかなか」
ライフを確認。約半分……ふむ、当然のように全回復はしないか。そりゃそうだ。
うーん、これからは複数持ち込んだほうがいいかもな。前回はそこまで急じゃなかったけど、これくらい一気にダメージを食らう可能性はあるんだし。
まあ、それは後で考えればいい。
「さて、作戦開始と行くか」
俺はつぶやきながら、アイテムボックスから一斗缶を取り出した。
そう、前回織江ちゃんとのバトルでは使う機会どころかその存在すら俺に忘れられていたアレだ。まさかこんなところで使うことになるとはね。世の中、何がどうなるかわからないもんだ。
中身は油だ。もうここまで来れば、誰でもわかるだろう。
森に放火する!
「ふふふ……あぶりだしてやんよ」
俺は悪い笑顔を作りながら、一斗缶を開封。とぽん、という音が響いた。
これを少しずつ、近くの木や茂みにかける。それが終わったら、封をしてアイテムボックスへ。
そして、ライターで着火!
「……おお、燃える燃える」
生木などはなかなか燃えないはずだが、さすがに油があると結構違うもんだな。
さて、これに俺のフレアロードを仕掛けて、火の持続時間と威力を普通の火より高めておく。そうすれば……。
「よし、成功だ」
油をかけていなかった部分にまで、強化された炎が広がって植物たちを蹂躙し始めた。
これで、この場所は大丈夫だろう。少し動こう。
これが、先ほど俺が思いついた作戦だ。接近戦は、能力のおかげで俺が圧倒的に不利。ならばどうすればいいかと考えたところで、湊さんの言葉が脳裏をよぎったのだ。
『勝負するなら奇襲か、大規模な攻撃で圧殺するのがセオリーじゃないかしら』
奇襲は、遠距離攻撃の手段がない俺には難しい。気配を消したくてもできないし、こんな森の中じゃ、動けば必ず音を出してしまうだろう。
というわけで大規模な攻撃を考えたわけだが、その結果がこの作戦である。
バトルエリアへの放火自体は、織江ちゃんと空さんが戦ったキャッスルエリアでも思いついた。一度考えたことがあったからか、わりとこのアイディアはすんなり出てきてくれた。
作戦の目標としては、空さんを取り囲む形で火の包囲網を作ること。それができれば、あとはフレアロードで一気に中に火を送り込んで一丁上がりというわけだ。
そして、俺はフレアロードの影響で火によるダメージは一切受けない。つまり、この森が全部炎上しようと俺はノーダメージなのだ。実はこのエリア、無差別に攻撃していくなら俺のほうが圧倒的に有利なエリアだったらしい。
唯一心配があるとすれば、この森に生き物が住んでいたらどうしようか、ということだが……今まで走り回ってきて、特に生き物と遭遇することはなかったので、大丈夫だろう。
「よーし……そんじゃ行くか!」
俺は、空さんとの位置関係を気にしながら走り出した。
当作品を読んでいただきありがとうございます。
感想、誤字脱字報告、意見など、何でも大歓迎です!
放火作戦開始。
ちなみに、狙撃銃の銃撃速度は音速を超えたはずなので、音があろうとなかろうと関係なかったり……。




