第20話 予選 10
『お……おっと、ここで湊選手、さすがに弾切れのようです! ロケットランチャーをアイテムボックスにしまい、代わりに拳銃を取り出した!
攻撃を止んだと見た空選手、マシンガンを構えて突撃です!』
うん……もうあの人の回りに遮蔽物何もないからね。同じ狙い撃たれるなら、背中向けるより正面から突っ込んだほうがマシだろう。
しかし何を思ったか、そんな隙だらけのはずの空さんに対して、湊さんは攻撃をしない。拳銃を取り出したままの状態で、佇んでいる。
その拳銃も、ただ握っているだけ。銃口をだらりと下に向けている様子は、戦おうというつもりがないようにしか見えない。
いや、実際のところ彼女には戦うつもりはないんだろうけど。それでも今回は、直前までロケットランチャーの雨を降らせてるわけで、その意図がさっぱりわからない。
そんな彼女の周りに、爆撃を逃れたゾンビたちが集まりつつある。彼女、それでも動かないけど……どうするつもりなんだろう?
『空選手が突入した!……あーっと、しかしこれは、間にゾンビが集まっていてまだ湊選手には近づけないぞ! そんな彼に気づいたゾンビが動きます!』
……なるほど、空さんに対する壁か。あわよくばそのまま攻撃してもらおうと。
大体、半分のゾンビが空さんに向かう。残り半分が、そのまま湊さんに。湊さんは、自分に向かってきたゾンビだけを撃退している。
空さんが来るタイミングとか、やってくる方向とか、全部計算済みなんだろうか。末恐ろしい頭脳してるな……。
『湊選手、ゾンビを一層! 鮮やかなヘッドショットでした!』
一撃必殺かよ。映画の主人公か何かか。随分銃にスキル振ってるんだなあ。
『一方、空選手もゾンビを一層! こちらはマシンガンの威力がモノを言いました! そして二人は向かい合ったー!』
対面した二人の距離は、十数歩くらい。となると、拳銃の湊さんよりマシンガンの空さんのほうが有利か。
でも湊さんが仕掛けた罠? の、類はまだ一つも動いていない。それがどういう風になっていくかでも、かなり変わっていくよな。
……なんか会話してるな。どういうことを話しているかは、ここまで聞こえてこないからなんともわからない。
見た感じの印象では、どこまでもクールに湊さんが淡々と話を流しているような感じだな。空さんのほうが質問してるっぽい……?
『先に動いたのは湊選手! 拳銃を横に払いながら発砲! 続けざまに五発です!』
んん? でもその五発の弾丸は、全部方向がバラバラだぞ。
ゾンビ相手にあれだけ正確なヘッドショットをしてたんだから、ミスってことはないだろう。何を考えてるんだ?
『空選手、これを能力で防御! そしてそこを離れながらマシンガンを掃射!……あーっと!? 湊選手これを避けない!
正面からまともにこれを食らって、ライフが一気に半減だ!』
会場の雰囲気に、ちょっと困惑の色が混ざる。
いやホント、彼女なんで避けなかったんだろう? 微動だにせず全弾食らうって、なかなかできることじゃないぞ。
この辺りは、さすがに死んだことを完全に受け入れているってことだろうか。
と思っていると、空さんが逃げ込んだ先で爆発が起きた。
『逃げた先で手りゅう弾が爆発だー! 先ほどの道具はこれが狙いかー!?』
糸とかを仕掛けていたわけではなく、ただ置いてあるだけだった手りゅう弾のピンを拳銃で撃ち抜いて起動するという離れ業を湊さんはやってのけた。遮蔽物がかなりあるのに、……いや、ないな。
自分のいる位置からしっかり狙えるところに用意して、そこに誘導したのか。すごいなオイ。
そして、さすがにそれを防ぐことはできなかったらしく、空さんは爆発を食らって地面を転がっていく。ゲージの減り方がそこまで大きくないのは、彼のライフが底上げされているからか、それとも直撃ではなかったからか。
だがそこに、容赦なく墓石が襲い掛かる。
『あーっ! 今の爆発で崩れた墓石が次々に倒れ、空選手に向かって一直線! なんという周到な準備ー!』
墓石でドミノ倒しとか、全国の寺を敵に回す所業だな。どこぞの妖怪御一行様だってよくやって運動会だってのに。……それを躊躇しない湊さんは、つまり手段を選ばないタイプなんだろうなあ。
ところで、あの石ってどれくらいの重さがあるんだろうな。今度のは空さん、ちゃんと能力で防いだのかギリギリのところで下敷きから逃れてたけど……。
『その墓石から逃れた先では、湊選手が待ち受けている! 手にはスイッチ! きっと爆弾でしょう! スイッチを手にたたずんでいます!』
もしかしてだけど、空さんの辿ってきたルートって全部計算されたやつなんじゃないだろうか。
対面した時に撃った弾丸がバラバラの方向を狙っていたのも、当てるためではなく罠に誘い込むためで。
爆発を食らった時のゲージの減りは直撃していなかったからで。
その直撃ではなかったというのも、もしかして狙ったところまで飛ばすためで。
倒れていく墓石をとっさにかわすとなると、向かう先は自分の方向で……。
……え? いや、ちょ、待って、湊さんって実はこの第十二リーグ最強なんじゃねーの?
こんな考え抜かれた理詰めの戦い方、俺には絶対できない。前回のアレも、本気で戦ってたらケチョンケチョンにされてたんじゃね、俺?
『空選手、驚きの表情で湊選手と顔を合わせる! だが湊選手は動じず、……あーっ! スイッチを押したー!』
そして湊さんの足元が盛大に爆発し、彼女の姿が見えなくなった。
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「え……?」
いつも何かにつけて騒がしい観客席が、いつもとは違う騒がしさに満ちている。
どよめきってやつだ。みんな何が起こったのか、よくわかっていない。そんな感じだ。俺たちもな。
『な……な、なななんとー! 最後の最後で大番狂わせ! 湊選手、誤爆により自滅です!!』
「な、なんですと……」
織江ちゃんがうめくように言う。それと同時に、観客席から歓声とブーイングが織り交ざった音が湧き上がる。
『自らの真下で起きた爆発を受けた湊選手、あっという間にライフがゼロに!
このバトル、空選手の逆転勝利です! 空選手、敵失に救われた形だー!』
フィールドが、白い光に包まれている。すぐに、何もない状態に戻るんだろう。だが観客席の喧騒は、しばらく収まりそうにない。
その中で、俺だけが首を傾げていた。
……誤爆? 本当にそうなのか?
湊さんは、俺に「勝ち抜くつもりはこれっぽっちもない」と言った。その言葉通り、俺とのバトルでは自ら勝ちを譲っている。今回も、そういうことなんじゃないだろうか?
負けるつもりだって言うなら、どうして事前にあれだけ相手を追いつめたかという疑問は残るが……それでも、誤爆という点についてだけ言えば、俺はどうも違うような気がしてならない。
……会って聞いてみるか?
『いやまさかの展開でした! ともあれ、これで空選手は二勝、湊選手は二敗! 第十二リーグは、二勝が二人に二敗が二人と、きれいに結果が分かれる結果となりました!
えー、これにより、十二リーグのバトルが一つ減ります。二敗の両選手は既に予選敗退が確定となったため、明良選手、空選手のバトルをもって今リーグは終了となります!』
アナウンスが響く。
『次のバトルも、九十分後に始めます! それまでみなさん、どうかお待ちくださいますようお願いいたします!』
その言葉を最後に、司会の声は途切れた。だが、周囲のざわめきは収まらない。
無理もない。あの終わり方は納得できないだろう。誰だってそうだ。俺だってそうだ。
そして、もちろんあれを良しとしない子がここにもいる。
「明良殿! あの幕引きは拙者納得いかぬでござる! いくらなんでも、湊殿が不憫でござろう!?」
織江ちゃんが、青筋を額に浮かべながら言う。言ってることには頷けるが、そこには私怨が見え隠れするので、素直に頷けない俺がいる。
「終わった? 終わったんだよね? ああ怖かった……」
一方、バトルをまるまる無視していた真琴は何が起きたのかわかっていない。
知らないほうが幸せなんじゃないかとも思う。途中から、ホラーというにはおこがましいくらいのアクションオンリーだったことも含めて。
うーん、二人になんて言うのが正しいんだろうなあ……。湊さんの意図を、そのまま二人に伝えていいものかどうか。
「かくなる上は、明良殿にすべてを託すしかありますまい!」
俺が悩んでいることとは無関係なセリフが飛んできた。俺の悩みが無駄骨だったのは、この場合喜んでおいたほうがいいんだろうな。
とはいえ、託すって何が言いたいんだ、織江ちゃんよ。
「明良殿、あの憎くき男に裁きの炎を! 地獄の業火で焼き尽くしてくだされ!」
怖い! 織江ちゃん怖いよ!
君、ひょっとしなくても根に持つタイプだな? そうだね!?
「……お兄さん、何があったの?」
サンキュー真琴、話題チェンジ素直に嬉しい。
「湊さんが誤爆して、空さん勝利。織江ちゃん、げきおこ」
「……なんとなくわかったよ」
苦笑を浮かべて、真琴はちらりと織江ちゃんに目を向ける。しかしそれはほぼ一瞬、すぐに俺へ視線を戻した。
俺が小さく首を傾げてそれに応じると、真琴は頷いて織江ちゃんに向き直る。
「お姉さん、気持ちはわかるけどそろそろお兄さん行かなきゃ。準備しないといけないもん」
……理解が早くて助かる。よくあれだけの仕草で俺の考えていることがわかるな。
やはりこいつの頭の出来は、俺より数倍いいに違いない。ていうか、こいつ本当は年齢詐称なんじゃね? って思うレベル。
「さ、左様にございますな……」
年下からの的確な攻撃に、織江ちゃんは眉根を下げて頷いた。
「……明良殿、邪魔立てしてしまい申し訳ありませぬ」
「ああいや、いいんだって。気持ちはわかるよ」
ひらひらと彼女に手を振って、俺は立ち上がる。真琴を改めて座席に座らせて。
「勝ちたいのは俺も思ってることだ。任せとけ、俺が織江ちゃんの敵取ってやるからな!」
そう言ってサムズアップする。
織江ちゃんは、それに対して力強く頷き返した。
「気をつけてね、お兄さん。がんばって!」
「おう! んじゃ、行ってくる!」
「行ってらっしゃい!」
「ご武運を!」
そうして俺は、二人に見送られて観客席を後にした。
まずは、前回のバトルでもらったポイントの振り分けを考えたいところだが……その前に、湊さんに話を聞いてみるか。
マップを開き、俺は動く気配のない湊さんに向かって歩き始める。
当作品を読んでいただきありがとうございます。
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これにて、涼VS永治おしまいです。
なんていうか、涼無双という感じになりました。
能力なしで戦い抜くっていうのは、うまく描写できれば相当のカタルシスなんでしょうが、ボクの力がそれに見合っているかどうか……。




