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第2話 まずは下準備 上

 気がつけば、俺は見覚えのある塔の下に立っていた。見上げれば雲よりも高いその塔は、日本人なら誰だって知っているはずだ。


「……スカイツリーじゃね?」

「はい、そうですよ」


 バカみたいに口を開けっ放しにして空を見る俺。その隣で、イメちゃんが当然と言う調子で同意した。


「ここは賽の河原のトーキョーエリアです。現世の東京をそのまま再現した地区になりますね」

「すげーなあ」

「全てではないんですけどね。ランドマークになるスカイツリーを中心にした周囲五キロ内だけです」


 前は東京タワー周辺だったんですけど、と締めくくってイメちゃんは笑った。死後の世界も日々変わってるってことか。


「……で、えーっと? 会場はどこになるんだ?」

「会場はバトルごとに変わり、その都度現地に赴く形になります。観戦するならこのトーキョーエリアのスカイツリーですけど」

「待った、現地ってここどんだけ広いんだ」

「ネイチャーエリア、シティエリアなどいろいろありますよ。その辺りは追々ということで、まずはトーキョーエリアです」


 早速置いてけぼりになりかかった俺の前に立つイメちゃん。


「ここトーキョーエリアは、参加者の滞在場所です。居住する家のほか、戦いに必要な道具の準備や訓練、食事などもこちらで行います」

「……死んでる人間に家とか食事とか必要あんの?」

「もちろんありません」


 即答かよ。


「ですが、起き続けていても暇でしょう? それに、食事は楽しいものですよ」

「……それは、まあ、そうかもしんねーが」

「利用しないのであれば構いません。ですが、結構生前と同じように行動したいという方は多いので、その要望に沿っているんですよ。

 武具の店なども、そうした要望に合わせて対面販売です。通販もできるんですけどね」

「……そういうもんかな」

「そういうものらしいですよ? さ、参りましょう亮様」

「ん、あ、おう」


 歩き始めたイメちゃんに従い、俺も足を踏み出す。彼女の隣に並んで、見慣れた東京の街を歩く……って言うとなんかデートみたいだな。彼女は単純にこれが仕事なんだろうけど。


 ……しっかし、なんだな。地面を踏む感触とか、歩いてる時の身体の具合とか、とても死んだとは思えない。

 いやまあ、頭上を見ればあの輪っかが相変わらず浮いてるから、死んでないと断言するのも違う気はするんだが。


 っていうか今気づいたけど、俺高校の制服着てんのな。焼死だから仕方ないのかもしれない。着慣れていると言えば一番着慣れてるとも言える。いずれにしても、全裸に比べれば何倍もマシだ。ご丁寧に靴まで学校指定のローファーだけど、戦うにはちょっと動きづらいな。あとで着替えられないか聞いてみよう。


 それからしばらく、俺たちは歩き続けた。大体二十分くらいか。

 イメちゃんがこちらですと言って足を止めたのは、どこからどう見ても金持ちが住んでそうな高層マンションだった。


 待って。


「……でかくね?」

「お一人様ワンフロアをご自由にお使いいただけます」

「でけーよ! そんな広い家とか住むどころか入ったことすらねーぞ!?」

「中身は見た目とは異なりますから、大丈夫ですよ」


 どの辺が大丈夫なんだよ……幽霊っつーか神様っつーか、その手の人たちって人間と感覚違いすぎてんじゃねーのか?



▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽



 と、思っていた皆さん。別にそんなことはなかったぜ!

 うん、家って言える部分は割と普通だった。いや、それでも俺の感覚から言えば広いんだけど、まあ常識の範囲内だった。


 目を疑ったのは、ここで好きに暴れてもいいんですよ、とイメちゃんに紹介されたトレーニングルームだ。

 そこは見渡す限り真っ白で、何もない空間だった。精○と時の部屋を思い浮かべてくれれば大体あってる。具体的な広さはわからなかったけど、少なくとも十秒くらい全力疾走しても端までは行けなかった。高さも明らかにおかしくて、天井までは俺が五人は必要だろう。あ、ちなみに俺、百七十五センチな。その高さ、察してくれ。


 うん。「ルーム」ってレベルじゃない。


 極めつけは、入り口付近にあった操作盤だ。

 イメちゃんが、


「状況に合わせて環境を変えてみてください」


 とか言いながらボタンを押すと、たちまちその空間が小川の流れる山になったのだ。

 仮想空間? 現実なんだな、これが。死後の世界、半端ない技術してた。


 イメちゃんが言うには、観念で構築されてるから現世の法則とか細かいことは無視できる、らしい。俺ら参加者が獲得する特殊能力もそういうものらしい。ここに来た人間の中に物理学者とかがいたとしたら、発狂したんじゃねーかな。

 ちなみに、さっき言った山以外に海もあったし、街もあったし、城もあった(日本城と西洋城の二つが完備されてた)。なんなら宇宙まであって無重力まで再現してやがったが、トーナメント会場には宇宙なんてエリアがあるんだろうか。

 イメちゃんは笑って答えてくれなかった。戦いに影響しうることは教えられないらしいが、その言い方はあると見ていいだろう。絶対に宇宙では戦いたくない。


 まあそんなわけだ。

 つまりは部屋の大半はトレーニングルームで、戦いに備えてここで調整しとけよ、っつーことだな。


 家にそういうのが用意されてるのはありがたいが、ここまでやらなくてもいいような気もする。このトーナメント、参加者にどこまで望んでるんだろうか。


「バトルの詳細はまた後でご説明いたします」


 俺の心境は丸見えのはずだが、イメちゃんはあえてそこには触れずに違う説明を続ける。

 まあ俺としても、あまり畳み掛けられても理解が追いつかないことは考えるまでもないので、このスタンスでいい……と思う。その都度びっくりすることには変わりないと思うが。


 というわけで、家の居住スペースのほうに戻ってきた。イメちゃんに勧められるままに、ソファに座る。


「では早速、この世界でのことについてご説明いたします」


 先生っぽい振る舞いのイメちゃんだ。かわいい。


「……と、言いましたが、実のところボクが常にナビゲーターとしてついて同行しますので、その手の説明も後回しにします」

「おおう」


 それもかよ。いやま、確かにいつもそばにいてくれるなら聞きたくなった時に聞けばいいのか。

 ……ん? トイレとか風呂の時もついてくるのか?


「魂だけの存在である亮様は、そのいずれも必要ありませんよ?」

「……そうだった」


 死んでるわけだから、トイレに行ってもそもそも出すものがあるわけない。風呂も、身体が汚れたりするわけじゃない、と……。

 便利って言っていいんだろうか。尿意とかがないならトイレはそりゃあ不要だろうけど、風呂は完全に習慣だっただけに慣れるまでは時間がいるかもしれないな。


「お風呂はもちろん、入ろうと思えば入れますけどね。お背中、流しましょうか?」

「……考えとくわ」


 理想の女の子が風呂場で身体を洗ってくれるのか。それなんてヘヴン? あ、ここ死後の世界か。

 あの世の手前でこれってことは、天国はめっちゃ期待できそうだな。転生とかそういうの諦めてさっさと逝っちまうか?

 ……いや、勢いとはいえやるって言った話だし、それは失礼か。


「さて、これから最も重要なことをお話しします」

「ん、わかった」


 イメちゃんが言葉を強調したので、俺も気持ちを切り替える。

 重要なことか。どんなことだろう?


「バトルにおいて、素人が下手に戦おうとしても無駄です。それは先ほどご指摘を頂きました通りです。

 そのため、参加者の皆さんには戦うための能力を入手する手段が与えられています」

「んん……?」


 どういうことだろう。修行する時間があるってことか?


「ふふふ、これは論より証拠です。亮様、『メニュー』と仰ってみてください」

「? メニュー。……うおっ!?」


 とりあえず言われるままに従って、言ってみる。

 すると目の前に、なんか四角い映像のようなものが現れたからびっくりだ。


「な、なんだこれ……? なんか、パソコンの画面みたいだな……あ、触れるのかこれ」


 その物体を恐る恐る触ってみて、思ったことをそのまま言う。なんていうか、タブレットって感じだな。


「大体その通りです。それは、亮様のパーソナルデータを表示する画面になります」

「データを表示って……」

「現世でテレビゲームはやったことありますよね。能力を表示する画面とか、見たことありません?」

「あー、ああ、あーうんうん。なるほど、言われてみれば」


 確かに、ゲームのメニューウィンドウにそっくりだ。話すとか装備とかはないけど、ステータスとかスキルとかって項目はある。

 ……んん、言われてみればゲームそのものだな。


「当然ですよ、それを参考にして創られたシステムですからね」

「マジか! 現世も捨てたもんじゃねーな!」


 死後の世界にまで来てたか、日本のゲーム。クールジャパンってこういうことか……日本やるじゃん。


「というわけでですね、まずは『スキル』をタップしてみてください」

「ん。……なんか色々あるなあ」


 操作で画面に現れたのは、整然と並んだいろんなスキル名……だと思う。


 一番最初に目に入ったのは、い式剣術レベル1、というやつだ。その下に、ろ式剣術レベル1、は式剣術レベル1と並んでいる。よくはわからんが、細かいところが違う剣術なんだろう。

 その他、格闘術や槍術といった武術と思われる項目がずらりと並んでいて、スキルというよりは技術って感じだ。


 と思っていると、今度はオートガードだとか攻撃力アップとか、ザ・スキルな名前のものが現れる。……スキル、っつーか、パッシブスキルの類か。持ってるだけで何かしら効果が得られるってタイプだろうな。ありすぎると中途半端になるが、決して軽視できないジャンルだ。

 すべてのスキルは最大レベル10で統一されているようだ。0が未経験者として、10が世界最強クラスって解釈でいいだろうか。パッシブスキルのほうは、マックスまで上げたとしてその差がよくはわからないが。


「……この中から好きなのを選んで習得できる、ってことか?」

「はーいその通りです。お若い方は慣れ親しんでいる方が多くて説明が楽ですね」


 正解らしい。うーん、なんかこうなってくるとリアルゲームって感じだな。これを習得するだけで本当に何か変わるのか?


「論より証拠と申しましたでしょ? とりあえず、お好きなスキルを選んでみてください。

 あ、レベルが設定されているものは1から順にしか習得できないので注意してください」

「好きなスキルか……んー……」


 どれがいいだろう。ぶっちゃけ、数がありすぎてめっちゃ迷う。


 男としては華麗に剣を振り回してみたいと思うが、万が一武器を手放した時のことを考えるとちょっと尻込みしてしまう。銃もかっこいいと思うけど、同じ理由で怖い。銃がこの世界にあるのかどうかって心配もある。格闘術なんかは、レベル1を習得したところでド素人がどこまでレベルアップするのやら。

 かといって、パッシブスキルを選択するのも怖い。ないとは思うけど、スキル一つ習得して次までめっちゃ時間がかかったりしたら目も当てられない。攻撃は最大の防御って言うけど、ジリ貧になり得る状況ならそれは真実だと思うんだよな。


「うーん……まあ、ここは無難に行くかなあ」


 考えた末、結局俺は格闘術をチョイスすることにした。こちらも剣術と同じくい、ろ、はの三種類があったのだが、イメちゃんに聞いたところ、全スキル共通でい式が攻撃重視、ろ式が防御重視、は式が総合力重視とのこと。なので、ここはい式を選ぶ。

 その心? もちろん、戦うならまずは攻める必要があるからな。戦いって言うなら、攻撃が最重要。俺はそう思ってる。


「では、横の『習得』をタップ……次に最終確認を求められますので、よければ『了承』、やめるなら『撤回』を」


 イメちゃんに言われるまま、俺はその手順に従う。確認画面には、「千ポイント使って習得しますがよろしいですか?」って出てる。

 ポイント……そういえばさっきの画面の右上になんか数字が出てたな。あれを使うってことか? まあいいや、とりあえずこれはチュートリアルみたいなもんだ、イエス以外に選択肢はないぜ。


 すると画面には、「習得完了」と表示が出て、しばらくすると習得画面に戻った。そこでは、さっき俺が選んだい式格闘術レベル1の隣に星マークがついていた。習得したということか。

 そして、そのさらに隣にあるレベル2の項目が白くなっている。さっきまで灰色だったはずだが。これはあれか、選択可能になった、っつーことかな。


「その通りです。亮様は優秀ですね」

「お、そ、そーか?」


 美人に言われて悪い気はしない。本当にそうかはさておきな。


「さて、無事に習得できたわけですが、ここで右上に表示されている数字が減っているのがわかりますか?」

「さっきの数字を覚えてないからアレだけど、たぶん減ってるんだろうな。さっき表示された数字の分だけ使ったってことだな?」

「はい、そうです。このポイントが足りていないと、習得はもちろん不可能です」

「……このポイント、どうやって増やすの?」


 今のところ、残高はおよそ五万五千ってところだ。この数値が多いのか少ないのかはよくわからないけど、こういうのは多いに越したことはない。


「一度バトルが終わると、その戦績に応じて加算されます。それ以外では絶対に増えません」

「……ってことは、習得の機会は結構限られるわけか」

「はい。ご利用は計画的に、ということですね」


 どっかで聞いたことのあるフレーズだな。死んでまで聞くことになるとは思わなかったぞ。


 ともあれ、だ。


「この中にあるいろんなスキルを習得して、組み合わせて、勝利を目指せってことだな」

「そういうことになりますね。なお、亮様ご本人が所有している特殊能力も同じ方法で強化していくことになります」

「マジか」


 ってなると、なおのこと節約しないとだな。

 たぶん、バトルの肝は特殊能力だ。これをいかに使うか、いかに使いこなせるかは絶対重要になってくるはず。少しでもそっちに回すようにしよう。他の奴は最低限くらいでいいかな。

 考えながら、イメちゃんの誘導で特殊能力の習得画面に飛んでみる。


「……おいおい、なんだこれ」

「特殊能力の習得画面ですよ」


 いや、それはわかってる……大丈夫、俺はまだボケちゃいないんだ。記憶力にはあんまし自信ないけど、こんな短時間のことを忘れるほど落ちぶれちゃいない。

 イメちゃんが言う通り、習得画面は表示されている。正常に、だろう。ただ、その分岐というかルートというか、まあともかく数がめちゃくちゃ膨大だったのだ。


「『炎を操る能力』……これが俺の能力名かな?」


 まんますぎんだろ。もっとこう、かっこいい名前はねーのかよ。イグニスとか、エクスプロージョンとか。


「名前は変更できますよ。こちらをどうぞ」


 と思ったら、能力名は自分で命名できました。名前タップしたら入力欄とキーボードが出てきた。せっかくなので、フレアロードと名付けておいた。かっこよくね? 能力名「フレアロード」。かっけー。マジかっけー。


 ……ごほん、名前はいいんだ、今はそこじゃない。


「今の俺の状態がゼロなのはいいとしても……スキルの名前おかしくね?」


 習得方法自体はさっきと一緒だ。だが選べる項目が、制御だの時間だの連結だのと、わけのわからない名前がついていて意味不明。レベルが高ければいいというのはわかるが、それぞれをどう覚えていけばいいのかまるでわからん。頭が熱暴走しそうだ。威力ってのはなんとなくわかるけど、すぐにわかりそうなのはそれだけなんだよなあ。

 さらに、そのスキルを一つ修得するだけでも、五千ポイントとかいうかなり高い数値が必要になる。どうせ後に続けば、その分もっと必要になるんだろう。こうなってくると、さっきみたいな技術系のスキルをメインにしたほうがいいんじゃないかって気すらしてくる。


「計画的に、能力を伸ばしてくださいね」


 イメちゃんは相談に乗ってくれそうにない。まあナビゲーターという立場上仕方ないんだろうけど、でもこれは一人でどうにかなる気がまったくしない。相談できる仲間がほしいな……。


「ちなみに、食事の代金などもこのポイントを消費しますから、食べすぎには気をつけてくださいね」


 巻き上げる気満々じゃね死後の世界!?

 いやでも、食べるなんて死んだ今の俺には必要ないわけだし、貴重なポイント使うなんてわかってて使うやつなんていないだろ!


「ふふふ、意外とみなさん食べていかれますよ。生前の食に対する記憶が強く出るみたいでして」

「死後の世界が腹黒い!」


 なおさら巻き上げる気じゃん! あの世の人たちは俺らをどうしたいんだ!?


「いえいえそんな。ボクたちは、皆さんの要望に、応えているだけ、ですよ?」


 そう言って笑うイメちゃんだったが、その目はとても笑っているようには見えない俺だった。


当作品を読んでいただきありがとうございます。

感想、誤字脱字報告、意見など、何でも大歓迎です!


バトル自体は異能力バトルですが、それ以外の部分は比較的ゲーム的な要素が強いです。

ただ、序盤はチュートリアル的な説明回が続きそうです……なにとぞご容赦を。

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当作品の異能力バトルにおいてキャラクターが使う特殊能力と、彼らが戦うバトルエリアのアイディアを募集しています。
もしアイディアがございましたら、規定をご確認の上提供していただきたく思います。
【急募】能力とエリアのアイディア【来世に(ry】
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