第19話 予選 9
「多すぎて選べないけど、ボクはやっぱり信長かなあ。俺についてこい! って感じがして、かっこいいよね」
「わかる、わかりますぞ。時代が生んだ革命児……本能寺がなければ歴史はどうなっていたか。しかし拙者、一番となるとやはり信玄公でして」
「甲斐の虎だっけ。この人ももうちょっと長生きしてたら、絶対違う歴史だったよねー」
「信玄公没後の武田家は十年持ちませんでしたからな……」
俺にはわからない話が、二人の間で続いている。名前くらいはわかるが、それ以上のことはサッパリだ。
なんでこうなっているかというと、織江ちゃんがいわゆる歴女というやつだったからだ。彼女がござる口調を使っている理由はここにあったわけだな。俺にはやりすぎにも思えるが、本人がいいならいいんだろう。
それはともかくとして、歴史とくれば、同じく歴史好きの真琴と話が合わないはずがない。さらに好きな時代までかぶったようで、あっという間に二人は意気投合した。
そして今に至る、と。
俺は歴史……というか、そもそも学業に関わるなことは大半苦手なので、話にはついていけずうんうんと頷くしかできない。できないんだが、二人の会話は内容の濃さに見合った面白さだったので、別に退屈ではなかった。
学校の授業も、二人みたいに話してくれれば俺ももう少し歴史という科目が好きになっていたかもしれない。もう遅いけど……でも、そうだな。もし転生できたら、少しその辺りまじめに取り組んでみるか。
『さあさあみなさん! お待たせーいたしましたー! これより、第十二リーグ四回戦目を行います!』
「お、いよいよ始まるか」
突然のナレーションに、会場が一瞬静かになって、そしてすぐに元よりも騒がしくなる。
俺たちも、会話を終わらせてフィールドへと目を向ける。
『赤コーナー! 湊涼選手!』
かんせ……いや、大歓声だな。
人気なのか、彼女?
『青コーナー! 空永治選手!』
ブーイング。
……あの人はなんていうか、織江ちゃんとのバトルで完全にヒールになっちゃったな。
そんなつもりはなかっただろうけど、あの人がだまし討ちしたことは事実だからなあ。
『さあぁァァ両者とも! 転移装置に上がってください!』
司会の言葉を受けて、二人が装置の上に上がる。
『ルーレット開始ィ!』
と同時に、司会が手を掲げながら宣言。バトルエリアを決めるルーレットが始まった。
『さあー、今回のバトルエリアは……!?』
いつも通り、いろんなエリアの映像が次々と切り替わっていく。
そして……。
『グレイブエリア! ですッ!!』
司会の宣言と同時に、歓声が上がる。
エリアの名前が日本語じゃないのでそれがなんなのかわからないんだが、映し出されている映像を見ればそれが何かはよくわかった。
「……墓だな」
「お墓だね……」
「墓場ですね……」
そう、映っていたのは墓場だ。四方八方あらゆる方向すべてに墓石が並んでいて、さながら死者の都って感じだ。一応映像は明るいのでさほどではないが、暗くなったら感じる印象は一気に変わるだろう。
……っていうか、どうせバトル中に夜になるんだろう。フィールド効果か何かで。俺にはまるっとお見通しだ。
『さあ、転移が始まるぞ! 両者、準備はいいかあー!?』
司会が叫ぶ。さて、バトル開始だな。
『それでは、転移装置稼働!』
そうしてフィールドが白い光に包まれ、景色が変わっていく。
何もなかったフィールドに、墓場が出現。そして、その中の二か所に一人ずつ、人間の姿が浮かび上がる。もちろん、湊さんと空さんだ。
バトル開始が告げられ、その瞬間エリア全体が一気に暗くなった。
あれ、最初は昼だと思ってたけど。いきなり夜なのか?
『さあ始まりました! グレイブエリアも初めてですね! 十二リーグは初めてのエリアが多いです!』
そーっすか。そんじゃ説明、おなしゃーっす。
『グレイブエリアは見ての通り、墓場がモチーフのエリアです! 居並ぶ墓石、卒塔婆はもちろん、場所によっては土饅頭も完備です!』
「……どまんじゅう、ってなんだ?」
聞いたことのない単語に、俺は首をひねる。周りの観客は気にしてないみたいだが……。
「どまんじゅうというのは、土葬をした跡のことですぞ」
「ほう」
そんな俺に、織江ちゃんが説明してくれる。
「土葬の時は穴に棺桶を埋めるのですが、その場所には山になるように土を盛るのです。これが土饅頭というものにございます」
「へえ……なるほどなあ。よく知ってるね」
「戦国の世においてはよくあることにございますれば」
なるほど、その絡みね……。
『このエリアのフィールド効果は、みなさんお察しの通り! ゾンビです!』
察してねーよ! なんだそれ!
『常に夜に支配されたエリアに現れるゾンビ! みなさんをホラーの世界へいざないます!』
「マジかよ……。リアルバイオの世界とか、俺最後まで見れるかな……」
「拙者は平気ですぞ。バイオの映画は全編観ました」
「織江ちゃん……なかなか猛者だな」
「真琴は、……ああ」
ちらっと胸元の真琴を見てみれば、目をぎゅっと閉じて耳をふさいでいた。
うん。
なるほど? ダメなんだね? 根っからダメなんだね?
「真琴……」
「知らない! ボク知らない! 何も見ないから! 終わったら教えて!」
「……はいはい」
「ホントだよ!? 嘘ついたらヤだからね!?」
「言わない、大丈夫だって」
ビビりすぎだろ……。気持ちはわからなくもないけどさ。
仕方ないので、俺は真琴の頭を撫でてフィールドに意識を戻す。
『もちろん、人魂も出ます!』
ちょっと待て。
『幽霊も当然出ます!』
待てって。
『妖怪も出ます!』
おいやめろ。やめてあげろ。
真琴が耳をぽんぽんしながらあーあー言ってるだろ。耳ふさぐだけじゃ、アナウンスの大音量が聞こえちゃうから! 意識をそらしつつ音を遮断する最後の手段にもう出ちゃってるから!
『妖怪は嘘です!』
てへーって感じで司会が言う。
ゾンビの時点で大して変わんねーよ、ばーか!!
『さて、両者まずは相手の位置を確認しているようです!』
……自分があの場にいないからって、司会もだいぶマイペースなもんだよ。
『空選手、身をかがめながら慎重に墓場を進みます! どうやら、湊選手の死角を狙っているようだー!』
ブーイングが上がる。
いや、それくらい許してやろうぜ。こんな広くて遮蔽物の多いところなんだからさ、な?
『一方の湊選手、何やら周りに物を仕掛けているぞー!? これは……プラスチック爆弾か!?』
「どうやって調達したんだ……」
ロケットランチャーやタンクローリーが購入できるシステムなので、爆弾そのものには驚かない。ただ、それが安い買い物ではないことくらい、さすがに俺でもわかる。
あと、平気な顔して設置進めてるけど、彼女って何者なんだ。元グリーンベレーか何かなんじゃないだろうな?
どこの世界に、プラスチック爆弾を使いこなせる女子高生がいるってんだ。
『おっと湊選手、墓石から現れた幽霊に絡まれている! あれは世間話を延々と続けて足止めするタイプのエリア効果ですっ!』
なんで妙に人間臭いんだよ!
……いや、どうせあの幽霊も地獄にいる人なんだろう。生前のことを話すくらい、地獄の責め苦としては優しいもんか……。
『あーっ! 湊選手これを無視! 完全にスルーです! なんというスルー力!』
うん、そうだろうね!
彼女って冷静に物事考えるタイプだろうし、絶対最短距離でゴールまで行きたがるタイプだと思う! 無駄を嫌うっていうか!
そんな人が周りから会話を吹っかけられる程度の妨害、気にするはずもないよね!
『一方、空選手はゾンビに追いかけられている! これは厳しい!』
厳しすぎだろ!?
あ……ああ、ちょっ、ゾンビの動き早くね!? 普通さ、そういうやたら俊敏に動くやつは後半のステージかボスクラスだけじゃねーか!?
『鳴り響く銃声! 飛び交う弾丸! 飛び散るゾンビの身体!』
うまくねーから! 全然うまくねーから、その実況!
っていうか、いくら宗教の扱いが雑な日本だからって、このやり方はさすがに各方面から怒られるだろ!?
墓場でゾンビ暴れさせてマシンガン乱射してる光景、見る人が見たら卒倒するんじゃね!?
……あ、でも周りの反応はいい感じだな。お前ら、どんだけ空さん嫌いになったんだよ。ここまであからさまだと、逆に彼を応援したくなってくるぞ。
『空選手、迫るゾンビに襲われ、……おっと? ここで能力発動か? 彼に襲い掛かったゾンビが止まってしまったぞー!?』
むむ、どういうことだろう。確か織江ちゃんとのバトルでも似たようなことをしていたけど……。
「うーん。あの能力、攻撃以外にも使えるのですかな?」
織江ちゃんも首をひねっている。
直接戦ったことがある彼女がそうしていることを考えると、まだ何か秘密がありそうだ。
『この隙に空選手、走ってその場を去る! 賢明な判断と言えるでしょうー!』
「そのまま食われてしまえばよいものを」
ちょ……っと、織江ちゃん? 今、さらっとすげー不穏なこと言わなかった? ねえ?
『ここで人魂が出現です! 人魂は、参加者の頭上にしばらくとどまり、相手のその存在を知らせます! 五分ほどで消えますが、五分後にまた現れまーす!』
……うん、それくらいのフィールド効果が一番いいと思うよ。
幽霊はまだしも、ゾンビとか明らかにやりすぎだから。ついでに言うと、富士山の噴火とか絶対やりすぎだからな?
『さて湊選手、随分と色々なものを仕掛けている! これは一体何が狙いなんだー! わからーん!!』
湊さんは本当に行動がよくわからないな……。
……ただこう、なんだろう。彼女がやってる仕掛けを見ると、無性にピタ○ラスイッチを思い浮かべるのは俺だけだろうか。
なんて思っていると、湊さんが満足そうに立ち上がった。そして、何もないところから……。
『湊選手、ロケットランチャーを取り出したー! 今回も使う気だー!』
出たーっ! 湊さんのロケットランチャーだーっ!!
あの人、武器にどんだけポイント使ってるんだよ……。ロケットランチャーとか、絶対高いだろ……。
『しかし湊選手? ここはすぐに使わずさらに新しく何か取り出したぞ? 箱……箱ですね。
中身は……な、なんと! ロケット弾だー! ロケット弾がたくさん入っている!』
「なにーっ!?」
「えーっ!?」
「わっわっ、な、なに!?」
俺と織江ちゃんが同時に腰を上げ、俺が抱えていた真琴がそれに巻き込まれる形で椅子から落ちそうになる。
それをギリギリのところでとめて、俺は座りなおしながら彼を引き寄せた。……だから、構図については何も言うな。
『さあ湊選手、ここで遂にロケットランチャーを……撃ったー! 空選手の近くに着弾! 周囲一角が吹き飛びます! 逃げまどう空選手!
だが湊選手、追撃の手を緩めない! 次の弾を装てんして……二発目ー! 行ったー!』
おお……もう……なんていうか……。
無表情に近い顔で、淡々とロケットランチャーを連射する湊さんはむしろ怖い。歴戦の戦士ってあんな感じになるんだろうか……。
っつーか、あのロケット弾はどこからどうやって調達したんだ。俺と戦い終わった時は、拳銃の弾丸を用意することすらままならない感じだったのに。俺とのバトルでどれだけのポイントをもらったんだろう?
……墓場のほうもとんでもないことになっている。粉々になっていく墓石、砕け飛ぶ卒塔婆、空を舞うゾンビ……ホラーっていうか、これはコ○ンドーとかあの辺のジャンルじゃないだろうか。
あっという間にあれだけ整然と並んでいた墓石の多くは既に形すらなくなり、あちこちが更地になった。攻撃する側の湊さんの近くは健在だが……彼女、さっき爆弾しかけたしなあ……。
いやでも、一番たまらないのは空さんのほうだろう。頭上の人魂のせいで、どこにいるかはバレバレだ。今のところかろうじて当たっていないし、マジで当たりそうなやつは恐らく特殊能力と思われる技で止めて逃げているので致命傷は受けていない。
それでも、度重なる爆撃は確実に彼のライフを削っている。彼からしても、湊さんがどこから攻撃をしているかは人魂でわかるはずだが、こうも連続で正確に狙われ続けたら反撃したくてもできないだろう。
……織江ちゃん? ガッツポーズは、さすがにどうかと思うなお兄さん……。
当作品を読んでいただきありがとうございます。
感想、誤字脱字報告、意見など、何でも大歓迎です!
涼VS永治スタートです。銃火器はロマンですね。
……涼が自分の能力を戦闘に使えないと思っていて使わないとはいっても、さすがに異能力使うシーン少なすぎますね。
亮が戦うときはちゃんと異能力バトルをしますから……。