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第15話 予選 6

 先に口を開いたのは織江ちゃんだ。


「……もしや、炎を操る能力でござるか。お見事でござる」


 そう言って、水鉄砲を構えなおした。慌てる様子はないな……これくらいは想定の範囲内ってことか。


「正解だ。そう言う君は、水を操る能力だろ?」


 俺の返しに、彼女は一瞬目を見開いた。が、すぐに立ち直り、うっすらと笑みを浮かべる。


 イエス、だな。

 俺は確信して、さてどうしたものかと考える。


 彼女の能力は、攻撃にも防御にも使えるものだ。闇雲に殴りに行っても、どうにもならないだろう。まして、火と水は相性が悪い。

 現実的に考えるなら、必ずしも火が水に弱いということはない。ただ、日本のクールなゲームをかなり参考にしているこのトーナメントのシステムを考えると、シンプルに火は水に弱いと考えていいだろう。

 かと言って、離れるという選択肢は悪手だ。遠くから戦うには、武器がなさすぎる。モードバレットは、それ自体にダメージを与える力はほとんどないのだ。

 というわけで、極力ダメージを抑えて接近するしかない。さっきみたいに突っ込むことになるが……これだけ近づくと、大半は食らっちまうだろうな。


 そうだな……ここは一つ、ハッタリかましてやるか。


 俺はそう考えて、メニューを開いた。それを見た織江ちゃんが、させるかと言わんばかりに攻撃を仕掛けてくる。バトル中にメニュー開くなんてのは、アイテムボックスが目的なのは間違いないものな。実際その通りだし。

 だが、もちろんメニューを開けば攻撃されるというのは予想通りだ。相手の嫌なことをすることが、究極勝利の近道だからな。それが予想できていたからこそ、俺はメニューを操作しながらも即座に行動に移ることができた。


 飛んできた水を後ろに倒れて回避しそのままブリッジ、そしてバク転へと繋げて体勢を整えていく。それと同時に、アイテムボックスから○ィダーイ○ゼリーを取り出し開封!


 織江ちゃんが目を丸くしている。なんでそんなものを、って感じだな。ふふふ、いいぞ。この調子でもっと驚かせてやんよ。


 俺は織江ちゃんに向けて駆け出しながら、口に着けた容器の中身を全力で吸う。あっという間に中身のゼリーが俺の口に飛び込んでくる。十秒チャージ!

 懐かしさすら感じるマスカット味を舌全体で満喫しながらも、意識は目の前の織江ちゃんに集中だ!


「えーっ!? なっ、か、回復するなんて聞いてないよ!……聞いてないでござる!」


 あ、一瞬ござるじゃなくなったぞ。それはやっぱりそういうポーズなんだな?

 ははは、全身にむずかゆさが走る。俺にも似たような覚えがあるぜ……もう思い出したくない過去ってやつだ。


 まあそれはともかく、完全に彼女の虚をつくことに成功した。反応を見る限り、ちゃんと回復にも成功したらしいし、上々だな。このまま一気に叩くぜ!


「おらっ!」

「うひゃ……っ! むーっ、そんなに近づかれたら……!」


 ボディーブローを狙った俺のパンチは、あと少しのところで留まり当たらない。だが、最初の一発で片が付くとは思っていない。この勢いがあるうちに、追い打ちだ!


 右と左、両方を使ってパンチのラッシュをお見舞いする。もちろん織江ちゃんは回避かたがた距離を取って反撃に転じようとするわけだが、そうはさせない。

 彼女の動きに合わせて俺も動き、またフェイントも織り交ぜながら彼女の逃げる位置取りを制限する。


「せいやーっ!」

「あ……っ!」


 そして俺は、遂に彼女の武器を弾き飛ばすことに成功した。俺のパンチを食らった水鉄砲は、大きく弧を描いて離れたところに転がる。

 さらにこの隙をついて、回し蹴りでみぞおちに一発お見舞いだ!


「うきゃっ!?」


 っしゃあ、入った! 織江ちゃんの身体が富士の坂道をごろごろと滑り落ちていく。


 ……うん?


「思ったよりダメージがねーな」


 転がる織江さんを追いかけながら、俺は首を傾げた。確かにみぞおちにクリーンヒットしたと思ったんだが……彼女のゲージは、さほど減っていない。マネキン相手にやっていた時の、半分くらいだ。


 考えられるのは、彼女が防御力にかなりのスキルを振っていることか。それなら説明がつく。

 ……待てよ、防具ってこともあるか。あの改造制服、もしかしてすごくいい装備だったりするのか?


「まあいいや……今は攻め時だ!」


 疑問をひとまず頭の隅においやって、俺は追撃する。身体を起こした織江ちゃんに、走る勢い乗せて勢いよくスライディング!


 ……かわされましたー。


 今度は俺が坂道を転がる番……と思ってもらっちゃ困るぜ! 伊達に身体能力重点でスキルを振ってるわけじゃない。すぐに体勢を整えて、織江ちゃんに向き直る。


「むっ?」


 改めて対面した織江ちゃんは、水筒を手にしていた。今の隙に出したのだろう。それはハンディタイプの水筒で、ふたを開けたらそのまま口をつけて飲むことができる小型のやつだ。

 何かしてくるのは間違いないだろう。俺は警戒して身構えた。俺の行動と同時に、織江ちゃんはその蓋を開けながら言う。

「出でよ聖水剣!」

「うおっ!?」

 水筒からあふれ出た水が剣の形になった! やべーなんだあれ、かっけーぞ!


 そうだよな、水で相手を拘束できるんだ。これくらいのことはできるだろうな。本当に使い道たくさんだな、この子の能力!

 問題は、あの聖水剣とやらがどれくらいの威力があるかだな……。普通に剣と同じレベルだとしたら、さっきまでとは違って何発も食らうなんてことはできない。


「いざ、参る!」

「おう、来い!」

 内心の不安を隠しながら、迫ってくる織江ちゃんに啖呵を切る。威勢もケンカの時は重要だぜ。


 目の前を、透き通るほどきれいな水でできた剣がかすめる。そのすぐ下に潜り込みながら、カウンターの右ストレート!

 しかしそれは、織江ちゃんがくっと重力に任せて下げた腕に当たり防がれる。そして今度は、俺がカウンターを受ける番。下段からの突きが、躊躇なく一直線で向かってきた。これは一旦距離を取るしかないか。

 だが直撃はまぬがれたものの、左肩スレスレのところを剣先がかすっていく。死んでいるので血は出ないが、服はきれいに切り裂かれたし、攻撃を食らったという感触はあった。ゲージが減ったのは間違いないだろう。


 ま、そううまくはいかねーよな。


「なんの、逃がしませぬぞ!」


 そう言いながら、織江ちゃんがさらに攻めてくる。

 下がった分だけ距離を詰められ、また彼女の間合いに入る。むむ、やっぱり武器を持った相手と素手で接近戦するのは不利だな。


 攻撃そのものは見切れないものじゃない。冷静に落ち着いて対処できれば、かいくぐって攻撃することは可能だ。だがそれは、決して万全な状態で放てるわけではないので、クリーンヒットには届かない。

 そしてそれは、向こうも同じなんだよなあ。


 結局俺たちは、お互いに決定打を出せないまま、しばらく一進一退の攻防を繰り広げることになる。

 が、その時間は唐突に終わりを迎えた。聖水剣が形を崩し、突然その場に落ちたのだ。能力の持続時間が切れたようだ。


「チャンス!」


 俺はここぞとばかりに踏み込んで、織江さんの手を狙う。武器さえなければ勝てる! そう思いながら。


 だが、


「甘い!」


 その一言と共に、聖水剣が再構成された。中身残ってたのかよ! やべェ!!


「うおおおフレアロード!」


 とっさに俺は、しばらく出番のなかったライターを使って炎の壁を作り出した。もちろん悪あがきでしかないのだが、それにぶつかった聖水剣は即座に蒸発して消えた。

 フレアロードで広げた炎も同時に吹き飛んで消えたので、相殺したということだろうか。どうやら運がよかったらしい。


 その隙に、驚いている織江さんのすぐ脇を勢いのままかすめて距離を取り、改めて向き直る。


「むむむ、なんと」

「俺もびっくりだ」


 向かい合って、俺たちは互いにリアクションを交換する。向こうは驚きを、俺は苦笑を。


 どうやら、俺たちの能力をぶつけあうと相殺されて能力の効果が解けるようだ。よかった、能力の上ではそこまで不利でもないらしい。


 ただ、これじゃ結局進展なしだ。さっきまでの攻防と一緒で、お互いの長所をつぶし合うだけで先に進まない。

 ライフの残りを見る限り、判定の上では一度回復をした分俺のほうが有利ではある。だからこのまま戦って攻撃を防ぎ続けていれば、勝つことはできるだろう。疲労のない身体だから、不可能ではないはずだ。


 ……けど、それってなんか違くね? どうせならKOしたいよな。織江ちゃんとしても判定勝ちにはいい記憶がないだろうし、なんとか正攻法で倒すことはできないもんか……。


「かくなる上は奥の手を使わせてもらうでござる!」


 前言撤回、攻撃を防ぎ続けられるかどうかまったく自信なくなった! 余裕こいてる暇なんてねーな!


「出たッ!!」


 俺は思わず叫んで、かすかな揺れに応じて数歩後ろに下がった。


 織江ちゃんが取り出したものはそう、タンクローリーだった。中身は、考えるまでもない。あれ一杯に、水が入っているに違いない。


「前回大破したじゃん! また買ったのか!?」


 俺は逃げ腰になりながら叫ぶ。あの量の水が一斉に襲い掛かってきたら逃げ道なんてないぞ、冗談じゃない!


「なんで、……なにゆえ、前回のことをっ?」

「ん?」


 だが、織江ちゃんの返答はちょっとズレていた。その表情は固く、また、どこか悔しそうでもある。


 ……ああ、なるほど。そういうことか。


「なんでって、空さんとのバトル見てたからな。知らなかったか? 他人のバトルは、観客席で見れるんだぜ」


 どうやら、織江ちゃんも俺と同じで観戦できることを知らないらしい。ここに付け入れないかと心の中で考えつつ、俺は他人からもらった情報をドヤ顔で披露する。

 その瞬間、彼女は大きく目を見開き、一瞬泣きそうな顔になり、それから今度は赤くなったかと思うと、にぶんぶん首を大きく振って、最後に吼えた。


「ちくしょーーーっ!!」


 悲鳴にも似た雄叫び。ああ……あの感じは空さんとのバトルを相当引きずってるな。

 無理もない。倍以上は歳の離れた相手に、容赦なく不意打ちを食らった上、相手は逃げて判定勝ちをかっさらったのだ。織江ちゃんくらいの年齢でこのやられ方は、相当こたえただろう。

 俺はどうやら、触れてはいけない心の地雷を踏み抜いてしまったらしい。


 一方織江ちゃんはというと、複雑な感情が入り混じって爆発したせいで、ござる言葉が完全に吹っ飛んでる。我を忘れているというのは、ああいうこと言うんだろう。


 なんて俺が場違いなことを考えていると、


「へあっ!」


 そんな間の抜けた怒声と共に、タンクローリーのタンクに穴を開けられた。聖水剣だ。


 ……あっ。

 あっ、ちょっ、まっ、やめ……み、水が! 水が一気に噴き出して……!


「ミズチぃぃぃ!!」

「うおおおああーっ!?」


 タンクローリーから一気にあふれ出た大量の水は、織江さんの叫びに応じて一つの巨大な蛇のような姿になる。

 そしてその軽く数メートルには達するだろうその水の蛇が、ぐあっと大口を開けてまっすぐ俺に突っ込んできた!


 こんな……こんなもんッ、どうしろってんだああ!!


「フレアロード全開ぃぃぃ!!」


 俺は左手をポケットにつっこみ予備のライターを握ると、両手で火を起こして一気に巨大化!

 その二つの火をくっつけてさらに大きくして、なんとか水の蛇をふせぐため壁にした!


 これで防げなかったら俺、そのまま水に飲まれてふもとまで一直線だよ!


 なんとかなれと心の中で叫びながら、もしダメだった時のことが脳裏に浮かんで無意識のうちにきつく目を閉じた。


 そんな俺の周囲を、猛烈な風が吹き抜けて行ったのはその直後のことだった。


当作品を読んでいただきありがとうございます。

感想、誤字脱字報告、意見など、何でも大歓迎です!


三人称デフォでずっと書いていたので、戦闘シーンなど動作を強く描写しなければならないシーンだとバカなはずの亮が突然賢い言い回しをするようになるのが、目下の悩みです。


※作品の更新についての話を、活動報告に書かせていただきました。そちらにも目を通していただけると幸いです。

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当作品の異能力バトルにおいてキャラクターが使う特殊能力と、彼らが戦うバトルエリアのアイディアを募集しています。
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【急募】能力とエリアのアイディア【来世に(ry】
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