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第14話 予選 5

「いかがなされたか、明良殿?」

「はっ!?」


 俺が正気に戻ったのは、織江ちゃんにそう言われてからのことだ。

 戻ったとはいっても、完全ではない。俺の頭はまだ混乱していて、とりあえず彼女に対して返事をするまでが精一杯だった。


「え、あー、う、うん、よろしく……」

「はっ、お手柔らかにお願いいたしまする!」


 俺の返事に、織江ちゃんはそう言って小さく会釈した。


 ……なんだこの子。マジで。

 第一印象はこれに尽きる。それくらい度肝を抜かれたのだ。生前では時代劇でしか聞いたことのない言葉遣いは、ぶっちゃけ第一声でこの感想を口にしなかった自分をほめてやりたいレベルだ。


 言動を抜きにして考えれば、この織江伊月という女の子は十分すぎるほどの美少女(幼女?)と言えるだけに、実にもったいない。……戦国好きの真琴みたいな人種には、こういう人はアリなんだろうか?


 まあともかく、だ。この子の背丈は真琴に勝るとも劣らない……とまではいかないが、かなり小柄と言えるだろう。百四十はあるにしても、百五十は絶対にない。百四十五あるかどうか、怪しいレベルだ。

 その背丈に合わせて胸はないにも等しいが(なんて口に出したら殺されるか)、顔のつくりはその背丈によく似合う童顔でバランスはいい。その身体だからか、和服のように改造された制服は彼女にとても似合っている。


 イメちゃんがモデル体型のアイドルタイプ、湊さんがスレンダーな正当派美人タイプとするならば、彼女はズバリ、ロリっ子タイプとでも言えばいいか。一定の層の人がとても喜びそうなタイプだ。


 ちなみに、俺の好みの話をするなら言った順にタイプな。さすがに小さい女の子は対象外だ。


『皆さんっ! おまたせェェいたしましたァァ! これより、第十二リーグ予選第三試合をはじめまァァす!』


 俺が織江ちゃんの観察を終わらせるタイミングで、司会の声がディスプレイから飛んできた。


 いよいよか。とりあえず織江ちゃんのことは置いとくとして、こっちに集中だ。


『赤コーナー! 明良亮選手!』


 歓声が上がる。


『青コーナー! 織江伊月選手!』


 もっと歓声。

 ……もうなんていうか、慣れたよね。この扱いの差。


『さあぁァァ両者とも! 転移装置に上がってください!』


 司会の言葉を受けて、俺たちは装置の上にあがる。そっとため息をしたのは秘密だ。


『ルーレット開始ィ!』


 そして司会が手を掲げながら宣言、エリア選定のルーレットが動き出した。

 さて次はどんな場所かな、っと……。


『おおおおおフジヤマエリアだぁー!!』


 司会の声がポータル内に響く。


 壁のディスプレイには、雲一つない青空にそびえたつ富士山の姿が映っていた。

 エリアって言うにはでかすぎやしないですかね……。樹海からスタートにならないことを祈るばかりだ。


 とはいえ、富士山には上ったこともなければふもとまで行ったことすらない。まさか死んでから富士山に行く(もちろん偽物だけどこの際構わない)ことになるとは思ってなかったから、実のところちょっとテンションが上がっている俺だ。


 ちらりと織江ちゃんに顔を向けてみると、かなり嬉しそうな様子。彼女も富士山に登ってみたかったとか、そんなところかもしれない。

 かわいいなあ。俺くらいの歳になると、そうやってはしゃいでもかわいくないし、むしろ「いい年して何してんだよ」なんて言われるのがオチなんだよなあ。


 ……なんて思っていると、


『さあ、転移が始まるぞ! 両者、準備はいいかあー!?』


 司会がハイテンションで呼びかけてきた。


 うん。よくないけど、いいよ。やるなら早くやってくれ。


 俺がそう考えるのと、目の前が白い光で覆われて何も見えなくなるのはほとんど同時だった。



▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽



 気がつくと、俺は富士山の頂上にいた。


 ……うおお頂上!? いきなり頂上かよ!? 風情も何もあったもんじゃねーな!


 いや、バトルの会場で風情もクソもあったもんじゃねーけど、だって富士山だし、そこはこう、もうちょっと、なあ?


 まあいいや、とりあえず状況を確認だ。


「……と、言いたいけど、これを見せられたらなあ」


 俺の目の前には、純白の雲から顔をのぞかせる太陽の姿があった。その光はただの朝日とは違う雰囲気を放っていて、とても神々しい。観ているだけで心が洗われるというか、ものすごく偉大な存在を目の前にしたような、そんな気分になる。

 これが富士のご来光、ってやつか……想像以上の絶景だ。登山をする人の気持ちが、なんとなくわかったような気がする。これは生前に観ておきたかったなあ。できれば、バトルとかそういう理由じゃなくて、もっと純粋な気持ちで。


 うん……そうだな。もし転生できたらその時は、富士山にアタックしてみよう。いつになるかわからねーし、そもそも無理かもしれねーが。それでもこの景色は、もう一度観てみたい景色ナンバーワンだ。


 それから俺は、バトルのことも忘れて数分ほどご来光をただ眺め続けていた。試合としてみると実に退屈な数分間だったとは思うが、これを見せられてもなおガチで戦う気でいられるやつは、日本人じゃないと思うわ。


「……さて。そろそろ動くか。まずは、っと」


 ようやく意識をバトルに戻した俺が最初にしたのは、武器となるライターを二本取り出すこと。それから、マップで織江ちゃんの位置を確認することだ。


 ライターをいつでも使えるよう、一本を右手で握りしめながらマップを見ると、織江ちゃんはさほど離れていない場所にいるようだった。

 ただ、前にも言ったがこのマップ、高さについては表示されない。だから、彼女が表示通りそこまで遠くないというわけではない。


 ましてここは富士山を模したエリア。俺が今頂上にいるということは、俺から離れている織江ちゃんは間違いなく下のほうにいることになる。

 となると……さて、俺はどうすべきだ?


 その一、ここに残って織江ちゃんを迎え撃つ。

 その二、ここから打って出て織江ちゃんを攻撃する。


 大別すると選択肢はこの二つか。まあ考えたのはいいけど、待つのは俺の性分じゃない。じっとしているのはどうも苦手なのだ。

 というわけで、さっさと突撃するとしよう。もうちょっと、この感動的な景色を眺めていたかったがそうもいかないしな。それは来世の楽しみに取っておこう。


「あっちだな。よし、行くぜ!」


 こうして、マップで確認した方向に向けて、俺は駆け下り始めるのだった。


 …………。


 …………。


 えーと、まあ、その。なんだな。


 富士山死ぬほど広いのな!!

 いや、広いっつーか動きづらいっつーのか!


 山だからそもそも足場が斜面だし、舗装されてるわけでもないからさらに条件は悪い。そこらじゅうにごろごろ転がる石は小さいものから大きなものまでいろいろだが、ばらけてる分余計動きづらくして仕方ない。

 生身だったら、ここに疲労とそれから酸素の薄さがさらに襲ってくるんだろう。四千メートルに達していない富士山でこれなら、世界最高峰のエベレストとか一体どうなっちまうんだろうな。想像がつかなさすぎて余計に怖い。


 で、肝心の織江さんだが、まだ彼女とは遭遇していない。マップを見る限りだいぶ近くまでは来たと思うんだが、彼女に動きがあんまり見られないから困ったもんだ。

 既に三十分は経過してるんだが、いやあどうしたもんかな、これ。このままだと、遭遇してから戦える時間はかなり短いぞ。


「……あと、天気が変わるのが早すぎるのもちょっと気になるな」


 少し速度を緩めながら、俺は空を見上げる。そこには、どう見ても不穏としか思えない黒い雲が少しずつ近づいてきているのがよく見えた。

 最初は、山頂にいた俺が下ってきたから、雲の下に来ただけなんだと思っていた。だが、どうもそうじゃないことは、青空が既に見えなくなってきていることからほぼ間違いないと見ていいだろう。


 山の天気は変わりやすい、ってのはどこかで聞いたことがあるが……こんなにすぐに変わるものなのか。山って怖い。


「……とりあえず何を差し置いても織江ちゃんと遭遇しないと話に、……!?」


 ため息交じりにつぶやいて、だがその瞬間に妙な違和感を感じて俺は足を止めた。

 その判断は、正しかった。俺のすぐ目の前を、何かの塊が猛スピードで横切って行ったのだ。


「……来たか!」


 あんなことができる奴は一人しか……というより、今この場所には俺と織江ちゃんしかいない。俺じゃないなら、彼女の仕業に決まってる。


 俺は、その何かが飛んできたほうに目を向けると、そちらに向けて斜面を勢いよく滑り降りていく。


「う……っお!? ち、ちいっ、この状況で飛び道具乱射はさすがにきついぜ!」


 岩肌を下りていく俺の前方から、矢のようなものが断続的に飛んでくる。それをすべて、横にずれたりジャンプしたり、あるいは少し速度を下げるなどしてかわしていく。

 普通ならこんな状態でそれができるわけがないが、そこは新しく修得した反射速度アップのパッシブの力だろう。動体視力も上げてあるから、俺には飛んでくるものすべてがちゃんと正しく認識できている。


 もちろんそれは完璧ではないので、すべてを回避しきれるわけではなくいくつかは食らってしまう。だが、それくらいは必要なダメージと割り切るしかない。食べ物も持ってきているから多少ならそれらでしのげるはずだ。

 そして飛んでくる物体だが、彼女の能力が水を操る能力だとわかっていれば、当然それが水による遠隔攻撃だというのはすぐにわかる。水軽減のパッシブを取ってる俺にしてみれば、この程度は怖くないさ!


「……見つけた!」


 そして数十秒。ようやく、織江ちゃんの姿が見えてきた。

 彼女は大きい岩の陰から、水鉄砲をこちらに向けている。


 なるほど。水を操れる彼女にとって、水鉄砲は下手な銃より有効な武器になるのか。恐ろしい話だ。

 だが、俺のフレアロードだって遠距離攻撃はできるんだぜ?


 俺はライターで着火すると同時にそれを勢いよく振り抜き、炎を織江ちゃんにぶん投げる!


「フレアロード、モードバレット!」


 説明しよう! フレアロードモードバレットとは、遠距離攻撃用の技である!


 ライターで出した火をフレアロードで大きくしてまとめ、それを前方にぶん投げるだけのすごくシンプルな技とも言うけどな!

 それでも、武器を持たない俺にとって数少ない遠距離技なので不要ってことは絶対ないはず。威力はさほどではなくても、火そのものだから着弾した後の延焼に期待できるから牽制としては十分だ。

 そして、今回撃ったのはそれだけではない。もうちょっと手を加えて、延焼する効果を強くしてある逸品だ。これがどういう意味を持つかというと……。


「っ、きゃあっ!? わ、あっ、服が!」


 よし、読み通り!


 俺の放った炎は、織江ちゃんが盾にしていた岩にぶつかってその岩ごと燃え始めたのだ。そう、俺は最初から彼女ではなく、この岩を狙って技を放ったのである。

 そもそも、あんな大きな岩に隠れる小さな女の子に、ピンポイントで技を当てられるほど俺は細かい作業が得意ではないのだ。だから、端から当たらなくていいと割り切っていた。

 どのみち、痛みや温度の変化といった影響は俺たちにない。けど、身体に支障がなくてもダメージは受ける。火に触れたら、ライフはちゃんと減るのだ。


 だからこその岩狙い。壁にしている岩が燃え上がれば、その火でダメージを受けてしまう。よっぽどのバカじゃない限り、隠れ続けることはないはず。

 そう、すべては彼女を岩陰から引きずり出すため。俺だってこう見えて、ちゃんと考えてるんだぜ。

 もちろん、彼女の服にまで燃え移ってくれたのは想定外だけどな!


 そして俺は、


「っしゃあ、これでようやく面と向かって戦えるぜ」


 そう言いながら、なんとか服に燃え移っていた火を消し終えた織江さんの前に着地するのだった。

 そして俺たちは、互いに面と向き合って少しばかり沈黙する――。


当作品を読んでいただきありがとうございます。

感想、誤字脱字報告、意見など、何でも大歓迎です!


二人目との戦い、スタートです。

伊月のござる口調ですが、もちろんあれは演技です。あの年齢にありがちな、勘違いした個性ってやつです。


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