第13話 振り分けタイム
総合PV、1000突破しました。想定していたよりなかなかハイペースな動きしてるので、嬉しいです。
これからも来世に(ryをよろしくお願いします。
次の対戦相手は織江ちゃんか……。湊さんよりも小さい女の子と戦うのは彼女以上に気が引けるが、こればっかりは気にしてもしょうがない。
え? さっきのバトル?
うん、まあみんなお察しの通りだよ。タイムアップで空さんの判定勝ち。
本当、大人って卑怯だよね!
真琴も怒ってたよ。あれくらいの子供にしてみれば、本当にただの卑怯に見えただろうなあ。
ただ、このトーナメントにルールらしいルールってほとんどないんだよなあ。何をしても死人が出るわけでもないし……。
その上で、勝つために手段を選ばないってのは必ずしも間違いじゃないと俺は思う。まして、勝ち上がった特典である転生をどうしてもしたいっていう人は、本当に何が何でも勝ちたいだろうし。
それを考えると、そういう意思がある人と戦う時は最後の最後まで気を抜くわけにはいかないだろう。湊さんみたいに、勝つつもりがない人のほうが少数なんだ。それを再認識できたことが、さっきのバトルを見て一番の収穫かもしれない。
さてそんな俺だが、今は真琴と別れて次の待ち合わせ場所になる第三ポータルで体育座りしている。そう、次は俺の出番なのだ。
真琴は別れ際に、子供らしい純真な笑顔で、
「がんばってねお兄さん! 応援してるからね!」
と送り出してくれたので、俺のやる気はかなり高い。やっぱり応援してくれる人の存在はありがたいぜ。
いや、別に何も深い意味はないぞ。確かにあの子はなかなか美少年だが。それ以上でもそれ以下でもない。勘違いしてくれるな。
で、今の俺だが、メニューを開いてスキルの振り分けとアイテムの調達に悩んでいる。同時に、さっきのバトルを見ていて気になったところをイメちゃんに確認もしている。正確には、彼女の話が今はメインかな。俺の頭じゃ、スキル割り振り考えながら人の話を聞いて理解するなんてマルチタスク、無理だから。
「このトーナメントで降参するためには、相手のメニューを開いて降参を受け入れる必要があるんですよ」
「めんどくせーな……」
「口で降参と言うのはいつでもできますからね。他にも事情はありますが、双方の合意がない限りは降参は認められないんですよ。
だから涼様は飛び降りたんでしょうね。手続きに時間がかかるし、亮様は降参を受け入れなさそうでしたし」
「……確かに」
あの状況で降参するって言われても、俺は受け入れなかっただろう。受け入れるにしても、納得できる理由が説明されないと首を縦には振らなかっただろうな。
だって勝ってる相手が降参する、なんて言ったって。なあ? 普通は相手が何考えてるか疑うってもんだろ。
「でも、俺のメニューに降参なんてコマンドなかったと思ったけど?」
「降参する意思を明確にした時に初めて表示されます。ですから、それがちゃんと表示されていたので伊月様も油断されたのでしょうね。
完全に降参するという意思を出しておきながら奇襲を仕掛けた永治様は、細工をしていたのかそれとも自身の心を制御していたのか……あるいは、本当にあの直前までは降参する気だったのか。
いずれかでしょうが、それはご本人のみが知ることでしょうね」
「心を制御できるとしたら強敵だな。いや、そうでなくてもあの人が油断ならない相手だってことはわかるが」
イメちゃんの推測のどれかに正解があるのだとするならば、そのいずれもが彼の戦闘力とはまた違った部分の強さを裏付けることになる。
結局、彼の能力ははっきりとはわからなかったしな。攻撃を止める能力に見えるんだが、最後取り出した拳銃は明らかに最初から彼の手が握った状態で出てきていた。
湊さんの裏ワザでは、アイテムボックスから取り出した時と同じく参加者の手には触れてない状態で出ていたから、あれは彼の能力のはず。一体どんな能力なんだろう。
どうにもこうにも、予選最大の壁は彼のようだ。一応次は彼じゃないから、そのことを考えるのは後回しにするとして。
「今は織江ちゃん対策だな。あの子はたぶん水を操る能力だから、やっぱりライター以外に燃料も用意しておいたほうがいいよな」
イメちゃんが見守る中、俺はアイテムカタログを眺める。
単純に燃料と言っても、その種類はたくさんある。俺の知らないものも燃料に入っていて、実に悩むところだ。
とりあえず、ガスの類は扱いにくいだろうからやめておくことにする。うっかり手で持っている時に爆発されても困る。
それから、石炭とか木炭も却下。石炭はわからないけど、少なくとも木炭は着火するまでに時間がかかる。継続性にはわりと優れてると思うんだが……。
あとは、合成燃料ってやつか。料理屋とかで小型のコンロみたいなのに入ってる青いやつとかだ。問題は小さいってことだな。
となるとやはり液体燃料だよなあ。ガソリン(レギュラーとハイオクに分けられても困る)、軽油、灯油、石油辺りが有名どころかな。料理用の油もあった。本当に品ぞろえが豊富だな、死後の世界は。
「……でも一番値段が安いのは料理用の油なんだよなあ」
身体に脂肪が付きにくい、なんていううたい文句が書かれたやつを見ながら、首をひねる。
色々使ってみて、一番使いやすいものを選びたいところだがポイントには限りがある。スキルにも振っておきたいから、ここはやっぱり抑えて食用油かなあ……。
「とりあえずこの業務用っての買ってみるか」
購入と同時に、画面から油の入った一斗缶が出てくる。それを受け取って、早速アイテムボックスへ。
「ライターは買い足さなくってもいいかな……あとは……」
食べ物だな。
回復効果はたぶんものによって違うだろう。ゲームに準拠したシステムを使ってるこのトーナメントなら、そうに違いないはずだ。
ただ、ゲームみたいにいつでもどこでも即座に使えるってわけじゃない。一応現実だからな、これ。
となると、効果よりも戦いながら食べられるような、そういう手軽なやつのほうが使うには向いているんじゃないだろうか。
「そーなると、やっぱウィ○ーインゼリーだよな!」
十秒チャージ、これ一本! 個人的にはマスカット味が王道にして最高だと思ってる。
というわけで、一本買っておこう。
……おお、冷えてる。わかってるな、死後の世界。ではこれもアイテムボックスへ、と。
「じゃ、次はスキルかなー」
画面を切り替える。
ちなみに今のポイント残数だが、湊さんに勝ったことでおよそ二万五千ポイントが振り込まれていた。油とゼリーで、約四千ポイントを使ったので、残りおよそ二万と千。
「織江ちゃんは武器使ってなかったけど、何よりあの能力が厄介だよなあ。対抗するにはパッシブを上げておいたほうがいい……かな」
ひとまず、今のところ振ってない身体能力向上系のパッシブの中で、あったほうがいいと思われるやつを取るとするか。
ライフアップ、反射速度アップを2まで取って計六千。特殊能力防御アップを1にして五千。これで残りは一万。
「あとは……うーん……」
一万……一万か。何に使うのがいいだろう。フレアロードのほうに使ってみたいところだけど、正直こっちのほうはスキルごとの名前がおおまか過ぎてよくわかんねーんだよな。ぶっちゃけ、時間と威力しかわからん。
効果がどういう効果なのかさっぱりだし、強度がどう影響してるのかもわからねえ。連結に至ってはまったく答えが見えてこない。訓練の成果か、一応どれもレベル1にはなってるんだが、この辺りを上げるメリットがわからないので、ポイントを振るのに躊躇する。
そもそもフレアロードのスキルアップは、膨大なポイントが必要になるのでやめておくとしよう。
「と、なると……そうだな……この辺はどうなんだろう?」
俺が目を付けたのは、今までスルーしていたものだ。
分類は追加パッシブ系、と書かれている。内容は、各属性ダメージ軽減や攻撃効果付与といったものだ。これまたゲームではよくあるな。
炎軽減は俺には不要だろうが、水軽減はあってもよさそうだ。最初の取得には千五百ポイントなので、財布にも優しい。
それから打撃ダメージ軽減と、刺突ダメージ軽減はあってもよさそうだな。あとは……状態異常系に少し振っておくかな?
状態異常一つに対してピンポイントで軽減するものは同じく千五百。だが、全状態異常軽減となると五千まで跳ね上がっている。これはつまり、広く浅くか狭く深くか、っていう選択肢って考えればいいだろうか。
しかしそうは言っても、状態異常付与ってスキルはないんだよな。属性を乗せるのはあるんだが……まあありすぎてもややこしいか。
しかし普通の攻撃で、ここにある防ぐ系のスキルで防げる状態異常になる可能性はあるわけだよな? 毒が塗られた武器を使った、とかしか思い浮かばないけど。
突然なるかもしれないけど、間違いなく敵がそれを狙ってくる、っていう状況はあまりないわけだから……ピンポイントを狙うよりも広く浅く行ったほうがいいかもしれない。
……よし、全状態異常軽減をレベル1にして五千、直前のダメージ軽減系と合わせて九千五百で、残り五百。うん、これで行こう。
「これで準備よし、と」
本当にいいかどうかは戦ってみないとわからないけど、今俺が考えうるベストはこれだ。
時計を見れば、最低ラインを経過したもののタイムリミットまだ少し時間がある。織江ちゃんはまだ来ていない。
暇つぶしにマップを見てみると……ここに向かってくる赤い点がある。これ、織江ちゃんかな?
あとは……観客席のあたりに真琴の名前。あいつは「応援する」という言葉通り、あそこから動いてないみたいだ。うん、あいつにはいいところを見せてやりたいところだ。
……ん? 観客席の参加者の数が増えてるな。十五人か……この中に空さんがいないことを願うばかりだ。
あ、湊さんが観客席にいる。何してるんだろう?
観客席にいるなら純粋に観戦してるんだろうと思いたいが、彼女の目的が目的なので、テロみたいなことするんじゃないだろうなっていう心配がこう、ね。
……さっきの赤い点がここの前で止まってる。織江ちゃん……だよな? なんで入ってこないんだろう。
俺が首をひねっていたその時、遂に扉が開かれた。そこに現れた、和服っぽい感じの改造制服は見間違えるはずもなく、織江ちゃんだ。
そして彼女は、中にいた俺を見るなりこう言った。
「おお明良殿! 此度の遅参、まこと申し訳ございませぬ!」
なんだこの子!?
「拙者、織江伊月と申しまする! 此度の手合せ、貴殿の胸をお借りいたしますゆえ、なにとぞよろしくお頼み申す!」
俺は、唖然としたままフリーズするのを止めることができなかった。
当作品を読んでいただきありがとうございます。
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二人目の対戦相手、織江伊月との初対面です。
彼女のキャラ付け、迷った挙句こうなりました。次回、明良の予選第二回戦開始です。