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第1話 突然の死

「あなたは死にました!」

「マジで!?」


 ビビった。いやマジでビビった。

 いきなり目の前にかわいい女の子が出てきたと思ったら、そんなこと言ってくるんだぜ?


「マジです!」


 そしてその子は、にっこりと笑いながらこくりと頷く。反応があったのはまあいいとして、死んだってのはいくらなんでも納得できねーぞ、おい。


「受け入れがたいことはわかっていますが、事実ですのでこれについては受け入れていただくしか」


 って、ちょっ、俺の考えはだだ漏れなのか!? 心を読まれるっていうのはこういうことか、なんかすっげーヤな気分だな!


「とりあえず、ボクの説明をお聞きくださいな。時間はたっぷりありますから、よく考えて、結論を出すのはそれからでも遅くないですよん」


 俺の意向はやっぱりスルーで、その子はもう一度笑った。きゃるん♪ って感じの効果音が見えたような気がした。

 なんだこれ。


「まず初めまして、明良あきらりょう様」

「!?」


 おいおい、名前まで完全にバレてんのかよ。何から何まで全部筒抜けなのか。

 ってことはまさか、俺が部屋に隠してる大人の写真集の場所とかも!? うわーうわーっ、勘弁してくれ!


「ご安心ください、死者とはいえプライバシーに関わることは極力関知しませんよ。名前に関しては、先に知っておかないと色々面倒ですから、ご容赦を」

「あー……おう……」


 ああもう、全部読まれてることは間違いないっぽい。俺はもう深く考えるのを諦めて、凪のような心に徹することにした。

 それを確認したのか、女の子はまたにっこりと笑って、ぺこりと頭を下げてくる。


「では改めまして、明良亮様。ボクはイメと申します。どうぞ、以後お見知りおきを」

「おう……よろしく?」


 お目にかかったことのないレベルの丁寧さを見て、なんて言っていいのかわからなくなる。とりあえず適当に、首を傾げながらだったけど返しておく。

 こんな丁寧なあいさつされたことがなかったから不安だったけど、このイメっていう女の子はそれは気にしかなった。顔を上げてにこりと笑うと、さっさと話題を変えてしまったのだ。


「さて亮様。先ほども申し上げた通り、あなたは死にました」

「…………」


 改めて言われても、混乱する話だぜ。っつーか、いきなり面と向かって死んだなんて言われても、信じる信じない以前にちょっとむかつくな。


「みなさんそういう反応をされるので、人間にとっては喜ばしくない話題だとはわかっているんですが、どうかご容赦を。

 ボクだって、何も好き好んで言ってるわけじゃないんです。仕事だし、その経験上、一番最初にストレートに言ったほうがやりやすくなるから言ってるだけなんです」

「……はいはい。なんかよくわかんねーけど、俺は死んだ、それで間違いないんだな?」


 なんか引っかかる言い方だったけど、あまり深く切り込んで小難しい話をされても嫌だったから、俺は自分が一番気になっていたことだけを聞くことにする。

 返事はすぐに来た。


「はい、それは間違いなく。あなたは就寝後、お父上のたばこの不始末による出火により、お亡くなりになりました。享年十八歳と百六日、死因は焼死です」

「マジで!?」


 うわーっ、知りたくなかった! そこまでは知りたくなかった!

 親父のせいで死んだって、すげえ後味悪いじゃん!

 それに焼死って! どんなふうになったのか、考えるだけでぞっとする!


「残念ながらマジです。表皮のおよそ八十パーセントが焼し」

「ストップストップ! もういい、それ以上はいい!」


 畳み掛けるように俺の死にざまを言いかけるイメちゃんを慌てて遮って、俺は叫んだ。首を全力で横に振りながらだ。これ以上彼女の話を聞いてたら、もっと聞きたくない話が出てきそうでマジで怖い。

 まだ彼女が何か言いたそうにしていたけど、俺は拒否った。とにかく拒否った。このままだと身体が鳥肌になりそうだ。


「……死に方の説明はボクたちの義務なんですが、まあ、そこまで仰るならこれ以上は申しません」


 わかってくれて何よりだよ……。


「では続きまして、今の状況についてご説明いたします」


 今。今、ね。うん、それそれ。そういう話が聞きたかったぜ。

 俺は頷きながら、腕を組む。まあまださっきの冷や汗、残ってるけどね。そこはね、うん。


「まず、今のあなたですが、要するに魂だけの状態です。焼死したあなたの身体が一見無事っぽいのは、そのためですね」

「ふむふむ」


 魂だけ、ね。

 まあ死んだ、ってことはそういうことなんだろうな。漫画でもよくあるしな、そういうの。


 そう思いながら上を向いたら、金色の輪っかが浮かんでた。わかりやすっ。いかにも死んでますって感じじゃねーか。


「そしてこの場所ですが、あなたたちの言葉で言うと、この世とあの世の境目、ってことになりますかね。死後の世界とでも言いましょうか」

「……なるほど?」


 この世、ってのは要は普通にみんなが暮らしてる世界、ってことかな。あの世、っていうと、あの世なんだろうな。死後の世界、ってやつか。


「えーっと。俺は死んだ、でもまだあの世には行ってない、ってことでいいのか?」

「はい、ご明察です」


 言葉は難しかったが、たぶん褒められたんだろう。こんなかわいい子に褒められるのは気分いいな。


「次に、どうして境目にいるのか、についてご説明させていただきますね」

「ああ、頼む」


 イメちゃんの顔にメガネが見える。もちろん幻影なんだけど、キリッとした表情で説明を始める彼女は、なんだかそんなイメージが浮かんだのだ。別に深い意味はないぞ。


「普通、死んだ人はまず魂の裁判にかけられます。これは、生前の行いを公平に調べ、それに基づいて天国に行くか地獄に行くかを決めるものです」

「お、おお。地獄に行くと閻魔さまにベロ抜かれるってアレだな」

「うふふ、閻魔様はいらっしゃいますけど舌は抜きませんよ」


 抜かないのか。まあ抜かれないほうがいいけどさ。


「ですが、亮様の場合魂の裁判にはかけられません」

「……なんで?」


 聞き返しながら、俺はちょっと内心ビクついてた。

 裁判にかけられる余地がないくらい悪いことをした覚えはない。そりゃまあ、子供の頃は子供にありがちな残酷なやり口で虫とかカエルをアレしたこともあったし、両親の大事なものを壊したのを嘘ついて隠し通そうとしたこともあった。あったけど、それは誰もが通る道のはずだ。

 ……はずだけどさ。そりゃ、気になるじゃんよ。


「ご安心ください、決して即地獄行というわけではありません」


 くすりと笑って、イメちゃんが小首を傾げた。そういえば、考えてることだだ漏れだったな。

 でもその言葉に、俺はほっとした。と同時に、今度は疑問がわいてくる。


「じゃあ、なんでだ?」

「はい。それは、亮様が寿命を迎えるより早くお亡くなりになったからです」

「……うん?」


 さあわからなくなってきたぞ、っと!


「詳細の前に、まず寿命について。寿命とは、その人に設定された『生きていられる時間』です。

 たとえばある人の寿命が六十年となっていた場合、その人は六十歳で亡くなります。例外もありますが、それは今は不要なので省きますね。

 とにかく、この年までは生きるという時間設定とお考えください」

「お、おう……」

「亮様の場合、寿命は七十一歳百五十五日となっていました。しかし、あなたはそれを全うする前に亡くなってしまわれました」

「……マジで?」


 めっちゃ残ってんじゃん、寿命。まだ五十年以上あるじゃん、俺。なんで死んじまったんだよ。


「残念ながら、マジなのです。寿命以前に亡くなってしまうこと自体はよくあることです。現代の日本ではさほど多くはありませんが、それでも珍しくはありません。

 寿命とは、その歳までは死なないということではないのです。病気とか事故とか、何があってもおかしくない世の中ですから」

「ああ、なるほどね」

「ですが、寿命を残して死んだ。はい、おしまい。来世に期待してね。これ、納得できます?」

「できねーな」

「でしょう?」


 そう言って頷くイメちゃんに、俺は頷き返した。


 自分が悪いわけでもないのにある日いきなり死んで、それで終わりっていくらなんでも投げやりすぎんだろ。保険のほうがよっぽどマシだ。


「というわけで、寿命を残した人間をすぐに裁判にかけるのは心苦しいのです。そのため、そうした方には特別措置が与えられることになっているんです」

「とくべつそち?」

「はい。寿命を残した方は、無条件で生まれ変わることができるというルールがあるのです」

「ほう」


 生まれ変わり。つまり、……えーっと、どういうことだ?

 今のまま違う人間として生まれるってことか?


「違います。それはボクたちの業界では『転生』といいます」


 ……もう驚かないけど、できれば心を読んでほしくはないなあ。


「どう違うんだ?」

「はい。『転生』とは、生前の知識や記憶、技術などを維持したまま新たな生命として現世に生まれることを言います。

 人格や能力など、その多くは生前に準拠します。こちらのほうが、現在はなじみ深いかもしれませんね」

「うん、なんとなくわかるぞ」

「対して『生まれ変わり』とは、そうしたものを受け継がずに再度生まれることを言います。

 魂の状態はリセットされないので、よほど環境が違わない限り似たような生き方になりますし、知識や技術の獲得にかかる時間が減る……すなわち才能が増えるということになります」

「……? よく、わかんねーんだけど」


 それって、普通に死んで天国とか地獄に行くのと、どこか違うのか?


「違うんです。寿命を迎えて死亡した場合、その人は輪廻から解脱します。魂は完全に浄化され、ゼロになります。消滅すると言っても良いでしょう。

 その後の魂が、再度人間となる保証はありません。天となるかもしれませんが、修羅、あるいは餓鬼、畜生などに堕ちる可能性もあり……」

「だっ、ちょ、わからん、わかんなくなってきた! つまりどういうことだ!?」


 なんか急に話が難しくなったんだけど!?


「うーんと……つまり、人間じゃなくなるかもね、ってことです」

「……?」


 うん、わからん!


 別にいいじゃん、生前のこと覚えてないなら人間じゃなくたって。

 俺だって、人間として生きていた記憶があるのに犬になったら、それは嫌だ。テレビとか漫画とかがあって、友達と遊んだり騒いだりした記憶があるのに犬。それはさすがに嫌だ。

 でも、そういうのがないんだったら、気にしようがないんだしさ。わからないんだから、それでいいだろ?


「……最近はそう言う方が多いですね」


 相変わらず俺の思考読みまくりなイメちゃんは、そう言って笑った。


「生まれ変わりは何千年も前、それこそ各巨大宗教が形を成していなかった頃にはメリットだったんですけどね。

 今の時代、そういう考え方はもうほとんど薄れてしまっているのでメリットとは思わない方がほとんどです」


 よーし、またしてもわかんねーぜ!

 宗教だとかなんだとか、そういう話はチェンジ、チェンジで!


「えー、まあ、そういうわけで、今の人にこのルールを説明しても歓迎されません。なので、ボクたちはこのルールを変えました」

「オッケー、続けてくれ」


 わかる! わかるぞ!


「寿命を残して亡くなった方は、無条件で生まれ変わることができる。加えて、一定の条件を満たした方は、転生できる。今はこのようなルールになっています」

「おー……その条件ってのは気になるが、つまり転生できる可能性があるってわけだな」

「はい。そしてその条件を得るためにここ、つまりこの世とあの世の境目に来てもらっているのです」


 オーケーオーケー、わかった、わかっちゃったぜ。


 俺は寿命をめっちゃ残して死んだ。だから、転生するための最低条件を達成したってわけだ。そんでもって、そこから先の更なる条件を達成できるかどうかを見るためにここに連れてこられた。


 こういうこったな!


「はい、大正解です!」


 っしゃー、大正解もらったぜ。今日の俺は冴えてるぞ。


「そして、亮様。転生のための条件とは……」


 イメちゃんが言う。むむ、ドラムロールが聞こえてくる気がするな。


「ずばり! 他の方とリバーストーナメントで戦い、上位入賞を果たすことです!」


 ドヤ!

 そんな音が文字で出る勢いの顔で、彼女は宣言したのだった。


「……リバース、トーナメント……?」

「はい。この一年間で、寿命前に亡くなった方たちがこの境目の世界に集まっています。

 彼らとトーナメント形式で戦い、見事勝ち抜いた方が転生できるのです。わかりやすいでしょう?」

「お、おお……これ以上なくわかりやすいけど……でも戦う、つったってなあ」

「ご安心ください」


 ちっちっち、って感じでイメちゃんが指を振る。


「素人が戦ったっておもしろ……じゃない、形にならないのはわかっていますよ。それに、もし武道の達人と当たったらそれこそお話になりません。ですので、その辺りの救済システムは用意してます」

「そ、そうか。それなら安心だな」

「そちらの説明は後ほど。……それからこちらが肝心なのですが」

「うん?」


 首を傾げた俺に、イメちゃんがずずいっと迫る。俺好みの、ちょっと細めだけど出てるとことは出てる身体と、少し陰のある美形な顔が一気に近くなる。


 うへへ、おいおい近いぜイメちゃん。死んでも俺は健全な高校生なんだぜ?


「参加者には、常識や理論を無視した特殊能力が一つ与えられるのです!」


 スルーされた!? 心読めるのに!?


 ……って、それはいいや、それよりもすごいこと言われたぞ、今!


「マジで!?」

「マジです!」


 今日何度目だ、このやり取り。


「特殊能力は基本的に、死因に関係したものが貸与されます。ただし同じ能力は不可能なので、死因が重複した場合はまた異なる能力が与えられます。

 亮様の場合死因は焼死、かつ同死因の参加者はいらっしゃらないので……」

「まさか……俺、炎を操れるとか?」

「大正解! 大正解ですよー!」

「マジかああ!!」

「マジでーす!!」


 うおおおお、なんかちょっと楽しくなってきたぞ!

 ファイアーとかできるのか! やってみたい!

 転生とか生まれ変わりとか小難しいことはわかんねーけど、バトルはすごくやってみたい!


「うふふ、興味を持っていただいて何よりです。その特殊能力と、先ほど申し上げた救済システム。この二つを駆使して、ぜひトーナメントを勝ち抜いてください!

 いかがです? 参加しますか? しませんか?」

「面白そうだ、やってやんよ!」

「そう仰っていただけると思っていました。では、戦いの舞台へと参りましょう!

 トーナメントが行われる境目の世界、川渡し待つ賽の河原へ、レッツゴー!」


 握り拳を振り上げた俺に、イメちゃんが寄り添って拳を振り上げる。その瞬間、俺たちしかいなかった世界が一気に色を得て、景色が出来上がっていく。


 こうして俺は、深く考えずにそのリバーストーナメントとやらに参加することになったのだった。


当作品を読んでいただきありがとうございます。

感想、誤字脱字報告、意見など、何でも大歓迎です!


前作デビルハンターを書いていて、異能力バトルがやりたくなったのでこの作品を始めることにしました。

前作とは異なり、ストックを作らずその場の勢いで執筆するスタイルを取ることにしましたので、アラが随所にあるかと思いますが、平にご容赦を。その時はご指摘をいただければ幸いです。


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当作品の異能力バトルにおいてキャラクターが使う特殊能力と、彼らが戦うバトルエリアのアイディアを募集しています。
もしアイディアがございましたら、規定をご確認の上提供していただきたく思います。
【急募】能力とエリアのアイディア【来世に(ry】
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