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気がつけば店のテーブルを通じての会話が始まって数ヶ月が過ぎた。会話をするようになって、店に通う回数は確実に増えている。悠馬が行くとほとんど確実に新しいメッセージがあって、数ヶ月かけて交わした言葉は相当な数である。会話を続けるうちに二人は確実に打ち解けていった。
彼女は悠馬のどんな話にも丁寧に返事をしてくれた。どんな言葉も全て受け入れ、そこにある思いを汲み取ってくれる。もちろん彼女の意見も返ってきたが、批判や否定は決してしなかった。あくまでも悠馬に別の見方があることを伝えるために、彼女なりの意見が述べられる。
この関係が心地よくて、ずっと続くように願う自分がいた。
顔こそ見えないものの、文面から人柄がにじみ出て〝結加〟のイメージが悠馬の中でゆっくり膨らんでいく。そうするうちに詩人としてではなく、人としての彼女に興味を持つようになり、もっと彼女を知りたくなった。
相手を知りたいと思うなら、会ってみたいと考えるのは当然で。その思いは日増しに強くなっていった。彼女がくれるメッセージが嬉しくて、今ではラドリオに通うのが楽しくて仕方がない。出費はだいぶ嵩んだが、それでも通い続けるのは、少しでも彼女を知りたいから。
強くなる思いを抑えきれず、意を決してメッセージを綴る。
『もしよろしければ今度直接お会いして話しませんか?
あなたともっといろんな事を話してみたいです』
書き終えて思い切り息を吐く。たったこれだけの文章なのに、書くだけでひどく嫌な汗をかいた。この日は読んでいる小説の内容がちっとも頭に入らなかった。
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もしも返事が来ていなかったら、と思うと怖くてなかなか店には行けなかった。いつもより日を空けて、期待と不安が入り混じって不協和音を奏でる心に鞭打って店の扉を開けた。席に着いて、わざとテーブルを見ないようにしながらいつもと同じ注文をする。一度深く深呼吸をして、テーブルの文字に目を走らせた。
『そうですね。
いつか機会があったらぜひお会いしましょう』
悠馬はため息をついて頭をうなだれた。結局のところ、遠回しに断られたのだ。半分は予想していたことだが、それでも実際に断られるとショックは大きい。もう一度大きなため息をついてがっくりと肩を落とし、話の流れを変えようと何か別の話題を探した。
それからはもう会いたいとは書かなかった。しかしあの日以来、彼女の様子は変わってしまった。何となくよそよそしく、悠馬と距離を置こうとしているのを感じる。自分の発言は物理的距離を埋めるどころか、新たに心の距離を生み出してしまった。
それでも悠馬は諦めない。
相変わらず彼女の書く詩は儚げで美しく、紡ぐ言葉は穏やかで優しい……
彼女を知りたい。
彼女に会いたい。
いっそう強く願うようになっていた。