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それから数日後。
悠馬がまたいつもの席に座ると、詩は既に消されていて、かわりに一言。
『結加と申します。』
とだけ記されていた。
それを見た悠馬は思わず目を見張る。まさか本当に相手からメッセージが返ってくるとは思わなかった。なんだか楽しくなってきて、先日自分が書いたメッセージを消し、そこに再びメッセージを書く。
『素敵な詩ですね。
よく詩を書くんですか?』
自分が書いた文字を見直して、読みにくい部分がないかどうか確かめる。そして納得するとペンを本に持ち替えて、またいつものように読書に耽るのだった。
そしてまた次の時も、テーブルの上には〝紅〟宛ての新しいメッセージが記されていた。
『自分の気持ちを文章にすることが好きでよく書いています。
まだまだ未熟ではありますが……』
そして悠馬もその横にコメントを書き記す。
『いや、すごく素敵でしたよ。
それに、目の前にないものをイメージしながら書けることはすごいと思います。
私には真似できないことです。』
まるでチャットをしているような気分だった。チャットと言うにはあまりにも原始的で、かなりの時間を要するが。これほど通信手段が発達した現代でなかなか出来る体験ではないだろう。
コメントを書き終えてから、運ばれてきたミルクティーを一口飲んで、そして相変わらず読書に没頭するのであった。
*****
それからも“結加”と“紅”のやり取りは続いていく。
ある日、いつものようにテーブルに視線を落とすと、今日も書き込みがされている。文字を目で追って、思わず眉間に皺が寄る。
『最近思うように書けないんです。
自分の伝えたいことがうまく言葉にならなくて……』
文字をを眺めながら思わずうなってしまう。
こんなときどう答えるべきか。
腕を組んで考え込んでいるとミルクティーが運ばれてきた。一口飲めばやさしい甘さが広がっていく。同時に一つ思いついて机に筆を走らせる。
書いては消し、消しては書いて。
その繰り返しで、やっと納得のいく返事を書けたときには、消しゴムのカスが小さな山を作っていた。
『そういうのって誰にでもあることですよ。
私もあります。
なら無理に書こうとせずお休みしてみてはどうでしょうか?
またすぐに書けるようになりますよ。
きっと大丈夫。』
そして数日後。
いつも通り席に座るだけなのに、なんとなく緊張してしまう。
自分の言葉は彼女に届いただろうか。彼女を励ますことが出来たのか、自分の言葉に自信がなかった。
恐る恐るテーブルを見つめると、いつもと変わらない達筆な文字で
『優しいお言葉ありがとうございます。
なんだか元気になれました。
少しゆっくりしようと思います。』
とある。
特に彼女を不快にするよう事はなかったらしい。ホッと胸をなで下ろしていつものように返事を書き始める。テーブルに向かう悠馬の表情は、とても穏
やかなものだった。