第1章 オレノケツイ その1
完全なる自己満足の小説ですが、楽しんでいただけたら幸いです。
カタカタとキーボードがタイピングされる音が聞こえる。
ありえない速度で入力されていくアルファベットや数字や記号の数々。
それらをタイピングしているのは高校1年生の少年であった。
カタ・・・、とタイピング音が切れた。
一通りのプログラミングが終了したようだった。
少年はふと時計を確認する。デジタル時計には07:30と表示されていた。
「そろそろハルカが来る時間か。」
誰に言うのでもなく、呟いた。そこへ、玄関のチャイムがなる。
部屋を出て、玄関へと向かい、扉を開けた。そこにはハルカがいた。
茶髪のロング、化粧をしているわけではないのに整った顔立ち、半袖のワイシャツにクリーム色のベスト、チェックのスカートの少女である。服装については高校の制服であるが。
「あ~!カイトってばまだ部屋着だ~。」
対して少年、カイトは黒髪、長髪というわけではないが長めの髪、さらに上下はジャージであった。カイトはボサボサの頭を掻きながら、
「いつも通りだろ。なにをいまさら・・・。」
「いつも通りだからダメなの。ほら、早く制服に着替えて!」
ぐいぐいとハルカに押されて部屋の中に押し込まれる。
カイトは一人暮らしだ。一人暮らしといっても、広すぎるカイトの一族の敷地の中に、カイトの家を造り上げただけなのだが。カイトの一族は田舎であるこの町の敷地のほとんどを占めている大地主である。もちろん家も厳しい。しかし、それでいてカイトの家をわざわざ造り上げたのには理由がある。それにはカイト自身と彼の兄のことが関わっているのであるが。
カイトの部屋の扉が再び開く。中から出てきたのは制服姿になったものの、髪はボサボサのまま。そして右手には通学用鞄、左手にはなにやら珍しいデザインのノートパソコンを持っている。
「またパソコン持っていくの?今は梅雨だから雨降るかもしれないよ?」
今は6月。今日も天気予報では雨が降るという予報。当然と言えば当然である。季節は梅雨に入ったばかりである。
「俺のパソコンは防水加工されてるからって前も説明しただろ。それに、『TS』もあるし。」
そういいながらカイトは自分の右手首についたデバイスをハルカに見せた。
『TS』というのは『Tool Summons』の略称である。なんとも言えないネーミングであるが、その名前とは裏腹にすごい機能なのである。その内容は言葉通り、『道具を召喚』するというものである。例えば、雨が降り出したとなれば、『TS』のインストールされたデバイスを用いるとこによって傘という『道具』を『召喚』、つまりは何もないところから取り出すのである。その原理を理解できるのはごく一握りの人だけである。しかし、カイトはそれを完全に理解しきっているのである。というより、この『TS』の原案者はカイトなのである。
カイトは高校生にしてはずば抜けた頭脳の持ち主であった。彼は中学2年生の時に『TS』の原理を考えあげたのである。カイトはその時に『TS』を使用できるデバイスの設計図まで作り上げていた。そして、そのデバイスを作る資金を調達するべく、父親に相談しにいったのだが、
「それを利用して新しい企業を立ち上げる。お前は学生としての生活をしっかりと送るように。」
と言われ、資金の調達は失敗し、ある条件で設計図を提供したのである。そして、新しい企業である『TSカンパニー』は、『TS』が使える手首に装着する形のコンパクトなデバイスを世間に発表し、今では一人に一台と言われるまでとなった。これにより、傘や合羽といった雨避け具などといったものは持ち運ばなくても済むようになったのだ。道具を召喚出来るとは言っても、何でも召喚できるわけではない。それこそ、いきなり包丁を召喚させたりなどということがあれば、それは大問題である。そこで、国が定めた道具のみ、それを召喚するアプリが販売されている。アプリをデバイスにインストールしてしまえば、その後はいつでも自由に使えるのである。ちなみに、『TS』では勉強道具を出すことが出来ない。とくに理由があるわけではないが、教育委員会が禁止している。
「別に私はカイトのパソコンが壊れても困らないからいいけどね~。」
長い黒髪を揺らしながらハルカは言った。カイトは「じゃあ、気にするなよ」という言葉を口に出しかけたが、頑張って抑える。言い合いになったらそれこそ、女の子に口で勝てるわけがない。
カイトの家を出て、二人並んで学校へと向かう。高校とはいっても田舎であるため、小中高と皆近場の学校を選んでいくので、基本的には単なるクラス替えみたいなものである。
とは言っても、一つの学年につき、二つのクラスしかないのであるが。付け加えて言うのであれば、高校への道のりはほんの10分程度である。そんな道のりを他愛もない話をしながら進んでいく。
「今日、英単語のテストだね。嫌だなぁ。」
ハルカが足元を見ながら呟く。
「そんなのあるのか。全く知らなかった。」
「またカイト寝てたでしょ?」
カイトは授業中の殆ど、というより先生に当てられている時以外はすべて寝ている。
「いつも遅くまでパソコンやってるから眠くなるんだよ?」
心配そうな顔をして、ハルカはカイトの顔を覗き込む。対して、カイトは口を押さえながら欠伸をしていた。
「ふあぁぁぁ。パソコンで思い出した。今日の帰り、家に寄ってくれ。いいものがある。」
「わかった。楽しみにしてるね。」
ハルカは笑顔をカイトに向ける。だが、カイトはその笑顔には見向きもせずにもう一度欠伸をしていた。その様子を見てハルカは頬を膨らませる。だが、カイトはそれすらも見ていないのだった。
気がつくともう学校の前である。ハルカはウキウキとした雰囲気で校門を通るが、カイトにとってはとても憂鬱だった。
無駄に広いグラウンドを通り、1階建ての校舎の中に入っていく。そこでローファーを下駄箱に入れ、校内シューズに履き替える。そして、二人は『1-B』と書かれた教室に入った。カイトとハルカはここ6年間ぐらいずっと同じクラスになっている。正直、それには裏の事情がある気がするが、カイトはそんなことは気に留めていなかった。
教室の中には既に10名ほどの生徒がいた。もともと、ひとクラス20人程度なので、既に半分近くの生徒が登校していることになる。と、そこへカイトの憂鬱の原因である一人が近付いてきた。
「おっす、ハルカちゃん。」
「あ、トオル君。おはよー。」
トオルと呼ばれた少年はわかりやすいようにハルカにだけ挨拶した。これはいつものことだ。わざわざハルカを名指しで声をかけた理由は二つある。一つは『カイトへのあてつけ』、もうひとつは『ハルカへの好意』なのである。カイトへのあてつけをする理由は色々とあるのだが、ハルカへの好意は誰もが知っている。というのも、トオルが皆の前でハルカに告白したからだ。だが、ハルカの返事は「え~、困るなあ~。」と言いながらカイトのほうを見る、というものであった。カイト自身は全然気づいていないようだったが、それを感じ取ったトオルは泣きながら家へ帰ったらしい。だが、まだトオルはハルカのことを諦めていないのである。
それゆえに、トオルはまだハルカに頑張って話しかけているのである。
「あ、ハルカ。おはよー。」
「ハルカ、昨日のドラマ見た?」
などという言葉をかけながらクラスの男女がハルカの周りを囲んでいく。ハルカはクラスの中心人物なのである。これもまたいつものことだ。そんな様子をみて、カイトはいつも通りに自分の席につき、机に頭を乗せて10分程度の仮眠をとる。気がつくとクラスの皆が登校し、教室の隅で談笑している。席についているのはカイト一人。これは、クラスでカイトが浮いている何よりの証拠であった。
カイトがクラスで浮いている理由は色々とあるが、その中で一際目立つものがある。それは『ありえない頭脳を持つ天才である』ことと、『一族である』ということだ。前者については、カイトは『人を見下す』タイプの人間ではないのだが、どうにも話しかけづらい雰囲気を作り上げてしまっているのである。授業中は爆睡、先生にいきなり当てられても何気ない顔でさらりと答えてしまう。などといった行動もその原因の一つである。後者については、カイトの一族は非常に厳しく、色々な決まりごとがあるのである。例えば、『剣術の習得』。しかも、それがカイトの家の一族オリジナルの剣術なのである。言ってしまえば、習得する必要性が感じられない。しかし、一族の者曰く、「常に平常心を保つためには武術を習得するのが一番効果的である。それと同時に、我が一族の伝統的な剣術の継承も行える」といったものらしい。そのほかにも『必ず大学をでること』。これは当然という気がしなくもない。だが、すでに大学院以上のレベルの知識を身につけているカイトには必要のないものである。しかし、「中卒では一族の顔が汚れる」という父親の意見によってカイトは仕方がなく高校へ進むことにしたのだ。他には『食事のときには緊急時以外は席を立たず、会話をしてはいけない』、『遊びに行くときには必ず執事か、お手伝いさんを連れていくこと』などといったものだ。そのようなものがいくつも重なり、カイトはいつしか一番近い存在であるハルカとしか喋らなくなっていた。それと同時にクラスでも浮くようになってしまったのだった。
だが、カイトはとうの昔に慣れてしまっていた。そして、いつも通りに机に突っ伏し、時間が来るまでひと眠りすることにしたのだった。
カイトはいつも学校ではずっと寝ているのである。もともとカイトは基本的に夜に寝ないで昼に学校で寝るタイプなのである。
学校終了のチャイムが鳴り、各々部活行ったり、家に帰ったりしている。
帰りの支度をしているカイトのもとへ、ハルカが駆け寄ってきた。
「カイト、かえろ?」
「ああ。」
カイトはそっけなく答え、自分の鞄を持ちあげ、教室をでた。
その様子をトオルは恨めしそうに見ているのであるが、カイトはそんなことには全然気付かない。靴を履き替えたところでふと外を見る。気がつけば外では既に雨が降りだしていた。カイトは欠伸をした後に時計を見る。15:30と表示されていた。
「もう準備も完了したころだな。」
カイトの言葉を聞いたハルカが疑問の色を顔に浮かべる。
「行くぞ、ハルカ。」
「うん。」
ハルカはそう言いながら右手につけたデバイスをタッチし、ドラッグ、空間にドロップした。ドロップした手の先に光が集まり、その光が傘へと形を変える。そして、その光が弾けた。ハルカの手にはハートの模様、フリルのついた傘があった。
カイトも同様にして無地で紺の傘を手にする。。
今日の授業がどうだったとか、そんな他愛もない話をしながら歩いているとカイトの家についた。
「まあ、いつも通り適当にあがっててくれ。ディスクトップからノートに移してくるから。」
「うん。お邪魔します。」
礼儀正しく一礼し、家に入る。それからしっかりと靴を揃える。そして、カイトの部屋とは別の部屋に入った。
しばらく時間が経ち、ハルカが待っていた部屋の扉が開いた。カイトの片手にはノートパソコンがある。
「やっぱり準備も終わっていた。それで、今このノートパソコンの中にある。」
「珍しく自慢げだね?」
「まあな。じゃあ起動するぞ。」
カイトが『Enterキー』を押すと、アルファベットや数字がパソコンの画面いっぱいに表示される。しばらく、表示が続いた後、プツリと画面が真っ暗になる。
「あれ・・・、ねぇカイト。起動しないよ?」
ハルカは心配そうな顔をしてカイトを覗き込んでいた。
「これでいい。あとはもう少し待てばプログラムが起動して…。」
そう言った直後、パソコンに普段見慣れているものとは違う画面が表示される。
青い画面にハートを少しいじった様な模様、さらにそこに書かれた英語の二文字。
『AI』である。『AI』とは、『Artificial Intelligence』の略。つまり、『人工知能』のことである。その直後、青いロングの髪、青い水玉のワンピースを着た、碧眼見た目10歳程度の女の子が画面に映し出される。ハルカはそれを見て目を輝かせ、カイトはそれを見て吹き出しかけた。
「可愛い~~~~~!!!!!!」
ハルカの絶叫にも近い声が上がる。それに対して、全体的に青い少女は告げる。
「わたしの名前を決めてください、マスター」
可愛い少女の声でそう言われる。カイトは今度こそ吹き出した。
「え?なんでカイトは笑ってるの?カイトがプログラムしたんじゃないの?」
ハルカの疑問に対し、カイトはむせながら答える。
「ゴ、ゴホ!俺はその辺は、ゴホゴホ!全部プログラムに任せたんだ、ゴホッ!」
カイトはとりあえず『AI』を完成させればいいとだけ思っていたので、そのあたりはテキトウに済ませてしまったのだった。その結果、『全体的に青く、見た目10歳の少女(幼女ボイスつき)』になってしまったのである。しかし、これはまだいい方なのでは、とカイトは思うことにした。よくよく考えれば、何かの間違いが起き、『全体的に筋肉質で、上裸、見た目30歳ぐらいのマッチョ。幼女の音声付。』になる可能性だってあったのだから、これは妥当なところである。
「ねえねえ、何にするの?」
もうネコじゃらしを見せられたネコのようにテンションの上がっているハルカ。
「そうだな、『AI』だし『アイ』とかでどう?」
適当なカイトの声を聞き、『AI』の少女は答える。
「わたしの名前は『アイ』でよろしいですか?」
カイトが「はい」と言おうとした瞬間、ハルカがそれを遮った。
「え~。『アイ』はちょっと…。」
なぜか微妙そうな顔をするハルカ。
「じゃあハルカが決めていいよ。」
カイトは投げだした様子で告げる。
「う~ん、『るー』なんてどうかな?」
「…なんで『るー』?」
「かわいいから。」
なぜかハルカは自慢げである。
「わたしの名前は『るー』でよろしいですか?」
少女の声に対して、カイトが何かを言う暇も与えず、ハルカは元気に「はい。」と即答したのだった。
「承諾しました。では、次の質問です。マスターの名前は?」
「カイトだ。」
なぜかここでハルカが不満そうな顔をする。どうやら、この少女のマスターに自分がなりたかったようだ。
「カイト様…了解しました。では、次の質問です。そちらの方の名前は?」
そちらの方、というのはハルカのことだ。
「ハルカです。」
「ハルカ様…了解しました。では、次の質問です。マスターの年齢は?」
その質問に対し、カイトは疑問を感じた。
「…えっと、もしかして」
少女に向かって言う。
「もしかして君は俺たちをからかっているのか?」
「え?カイト、それってどういう…?」
「いや、よく考えたら俺の名前も顔も声も、ハルカの名前も顔も声も既にインプットされているはずなんだ。インプットされていなかったのは『AIの見た目、名前』だけだ。その他の知識もある程度学習させたから、おそらくこんな堅い口調になることもない。」
ハルカはいまいちピンと来ていないようだ。それに対し青い少女は、
「バレてましたか。さすがはマスターなのです。」
敬語のままではあるが、最初の時と比べて機械っぽさが抜けた、まさに『頑張って敬語をつかっている』少女になった。
「ですが、一番最初の質問は真面目なのですよ?」
「質問は真面目かもしれないが、聞き方は真面目じゃなかっただろ。あと、別に敬語じゃなくていいんだぞ?」
対して少女は
「いえ、みなさんには敬語を使うです。私が気に入りましたので。」
『使うです』というよくわからない敬語を使うあたり、『子供っぽさ』が出た『AI』に仕上がったのだった。
「そうか。まあそれでもいいや。よろしく『るー』。それで、ハルカ。」
「え?私?」
キョトンとするハルカに対し、カイトは告げる。
「『るー』に触れてみたくない?」
「できるの?」
まあな、と自慢げに言ったカイトは『るー』を右手についたデバイスへと移す。そして、デバイスをタッチ、空中へドラッグ、そのままドロップした。光の粒子が集まり、一つの光の塊となる。その塊が人間の形を作り上げたかと思うと、光が弾ける。そして、現れたのは青いロングの髪、水玉のワンピースを着た、碧眼見た目10歳の少女である。
「すごい!!あれ?そのデバイスって専用のアプリじゃなきゃ出来ないんじゃないの?」
カイトは満足そうに答える。
「『TSカンパニー』が俺の設計図通りに作り上げてくれたからね。俺はあの設計図にわざと穴を作っておいた。色々便利だからね。」
ハルカは感心した顔をしていた。
「それで、体の調子はどうだ?」
『るー』はくるくる回ってみたり、ワンピースの裾を引っ張ってみたりして確認する。
「違和感は全くありません。問題も…とくにありません。」
「そうか、よかった。」
そう言ってカイトはチラッと時計を見る。15:57を表示している。
「もうこんな時間か。ハルカ、悪いけど『るー』の面倒を見ておいてくれ。俺は道場に行ってくるから。」
「わかった。頑張ってね!」
ハルカは笑顔をカイトに向けた。
「ああ。」
若干わかりづらかったと思いますので補足を。
世界観的には今、我々のいる世界。
時間軸は現在よりも少し進んだ未来ということになっています。
未来とは言ってもそこまで遠い未来ではなく、スマホなどと同じように『TS』が出現しただけの世界と考えてください。
このことを本文中で述べられればよかったのですが、どうにも上手く入れられませんでした^^;
本文中のわかりにくい点や、もっとこうするとわかりやすくなるなどといったアドバイスなどを頂けたら嬉しいです^^。