【実話怪談】跳ねて、転がるボール
いまちょっと思い出して、あれっていったいなんだったんだろうと不思議に思ったので、とりあえず書いてみます。
私の家はそれほど大きくない山の中腹にあります。昔はそれほど家もありませんでしたが、だんだん増えていきましてね、いまはそこそこの住宅地になりました。
山ですんで、上り下りがけっこう大変ですね。チビっ子の頃なんかは平気で駆け回ったりしましたけど、疲れている時などはうらめしい気持ちになったりします。
出かける時はいいんですよ。自転車に乗りましてね、ビューンってなもんです。子どもは怖いもの知らずですからね、ノンブレーキで大爆走ですよ。アホですね。出会い頭にドカンと事故ったりしなかったのは運が良かっただけでしょう。
それで楽しく遊んだら遊んだだけ、帰りの坂道がシンドいわけです。もうね、グッタリして自転車を押して上っていく。
後年、私も体力つきましてね、自転車に乗ったままグイグイ上れるようになりました。立ちこぎなしでどこまで行けるかチェレンジしてみたりね、いまでも自転車で出かける時はやりますね。私は自転車という乗り物が大好きなんで。いい運動になります。
まあそうやってね、上っていきますとね、道が三本に分かれている地点にやってきます。上り側から見て一番左が昔からある住宅地へ続きます。一旦下りがあって、そこで勢いつけて次にやってくる少し急な坂を駆け上がる。あとはずっと上りですが、その突き当たりに我が家があります。
真ん中の道はギューンと上っていきまして、そこにもまばらに住宅がありますが、そこをすぎてさらにさらにと進んでいきますとこの山の頂上です。いまは寂れた公園とか展望台、仏舎利塔なんかがありますね。この公園、子どもには面白いんですがね、いかんせん遠すぎる。途中杉の木が並ぶ薄暗い森とか、なんかボロい神社とかあって怖くもある。滅多なことでは行きませんでしたね。
そして最後、右側の道。これは私が子どもの頃できた割と新しい道で、こちらも新たに造成された住宅地へと接続しています。団地とかあって最先端でしたよ。まあ新しいといってももう四十年以上も前のことですが。
そこの坂がもうすごくてですね、ここまで坂だったのに、そこからさらに急になる。クルマでも馬力のないやつはへーコラしながら上っていきます。徒歩で上る人はあんまりいないですね。近くの高校の運動部とか、私とかがたまに坂道ダッシュしたりしてますけど、普通は途中にあるショートカットの階段を利用します。ああ、この階段もダッシュしてますね。運動部や私が。
それでですね、このすげえ坂道の側面、その階段とかある側ですが、ちょうど坂の登り口の斜面に小規模な墓地があるんです。この道ができる前からあったやつでね、我が家の墓もそこにあります。まあ墓があるからなんだって話ですが、夜はけっこう雰囲気ありますよ。暗いし静かだしね。
私は以前書店員をしてまして、夜番だと深夜の二時過ぎとかにそこの前を通るんですね。元気な時は自転車で一気ですけど、疲れている時はさすがに私も自転車押してへーコラ歩いていきます。
その日もね、たしか新しい売り場作るのでクタクタになってましてね、二時過ぎにその地点にやってきました。こういう時はホント早く帰って缶ビールでも開けたいところですが、足取りが重くてね。ノロノロしてましたよ。
当然道には人っ子ひとりおりません。ポツポツある民家も寝静まっています。でもその日はまんまるお月さんが出てましてね、ボンヤリと明るかったと記憶しています。まあ、そんなとこにヘロヘロ書店員がやってきた、その時です。
――ターン、ターン、と音がしたんですね。
なんだろうとその音のする方を見ました。するとボールがね、バレーボールとかサッカーボールくらいのですが、右の坂道で跳ねている。ターン、ターンときて、ゴロゴロゴロゴロと転がってくる。静寂のなかでこの音もよく聞こえました。
えっ !? ってなりますよね。意味わかんないですもんね。まずそのボールがどこから来たのか?なぜこのタイミングで跳ねていたのか?
ボールはゴロゴロ転がって、唖然としている私の横を通り過ぎ、私がいましがた上ってきた坂をまっしぐらに下っていきました。
その時ですね。ちょうどすれ違う瞬間だったと思います。
私は――子どもが笑う声を聞いたような気がしたんですよね。
まあこれはボールっていうイメージから拵えた幻聴かもしれませんけどね。わかんないです。あれってホントなんだったんでしょうね。




