表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/18

第9話 模範の自己申告


 自分がどう見られているかを、

 私は、ほぼ正確に把握している。


 それは推測ではなく、

 観測の結果だった。



 先生たちの言葉。

 掲示板の空気。

 表に出ない評価。


 どれも、

 特別な感情を伴っていない。


 淡々と、

 「扱いやすい生徒」

 「判断が安定している」


 そういう位置づけ。



 悪くない。


 むしろ、

 理想に近い。



 朝、学校に着くと、

 クラスの空気は静かだった。


 騒がしいわけでも、

 張りつめているわけでもない。


 問題が起きていない状態。


 それが、

 一番評価される。



 私は、

 その中央にいる。


 目立たない。

 遅れない。

 引っかからない。


 「模範生」


 誰かが、

 そう呼んだのを聞いた。



 否定はしなかった。


 肯定もしなかった。


 ただ、

 修正しなかった。



 模範生、という言葉は、

 性格の説明ではない。


 役割だ。


 制度が、

 安心して配置できる場所。



 昼休み、

 掲示板を覗く。


 《最近、先生たちが

 落ち着いてる気がする》


 《問題児が減った?》


 誰かが、

 冗談めかして書いている。



 それを見て、

 私は考えた。


 問題児が減ったのか。

 それとも、

 問題が問題にならなくなったのか。



 後者だろう。


 判断保留。

 未確定。


 それらが、

 即時の摩擦を防いでいる。



 放課後、

 担任に呼ばれる。


 面談、というほど

 大げさではない。


 机を挟んで、

 数分。



 「君は、自分を

 どう評価してる?」


 突然、

 そう聞かれた。



 少しだけ、

 間が空く。


 質問が、

 制度側のものではない。


 個人への問いだった。



 「……大きな問題は、

 起こしていないと思います」


 無難な答え。


 でも、

 それでは足りない気がした。



 「役割としては、

 模範生寄りです」


 自分で言うのは、

 少し奇妙だった。


 けれど、

 事実でもある。



 担任は、

 うなずいた。


 「そうだね」

 「自覚があるのは、いいことだ」


 いいこと。


 評価は、

 確定した。



 「無理はしてない?」


 その一言だけ、

 制度から外れていた。



 私は、

 正直に考える。


 無理。


 という言葉の定義を。



 何かを我慢しているか。

 何かを抑え込んでいるか。


 答えは、

 すぐには出ない。



 「無理、というほどでは

 ないです」


 結局、

 そう答えた。



 それは、

 嘘ではなかった。


 ただ、

 省略だった。



 帰宅後、

 ノートを開く。


 今日の記録。


 赤はない。

 青も少ない。

 未確定が、数件。


 整っている。



 私は、

 安心する。


 この状態なら、

 何も起きない。


 起きないことが、

 最善だ。



 ふと、

 空白だった頃のノートを

 思い出す。


 理由もなく、

 何も書かれていない欄。


 あれは、

 不安定だった。



 今は違う。


 未確定には、

 名前がある。


 処理の順番がある。


 扱い方が、

 共有されている。



 私は、

 それを守っている。


 守っている、

 という感覚が、

 いつの間にか

 自然になっていた。



 模範生であることは、

 命令ではない。


 選択だ。


 少なくとも、

 私はそう理解している。



 だからこそ、

 外れない。


 外れないことを、

 自分で選んでいる。



 布団に入る前、

 少しだけ考える。


 もし、

 模範でなくなったら。


 もし、

 判断を即断したら。



 想像は、

 途中で止まる。


 そこまで考える必要は、

 今はない。



 私は、

 模範生だ。


 自己申告済み。

 周囲確認済み。


 制度的にも、

 個人的にも、

 齟齬はない。



 それで十分だと、

 思っている。


 少なくとも、

 今は。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ