第4話 安定値
数字が増えると、説明が減る。
それは、実感としてすぐに分かった。
週に一度、担任が私のノートを確認する。
見るのは、内容じゃない。
件数と、処理済みの割合。
「今週も安定してるね」
その一言で終わる。
細かい質問は、もうない。
説明を求められないというのは、
信頼されている、ということだと思う。
少なくとも、
疑われてはいない。
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学年主任から、
小さな提案があった。
「週ごとに色を変えてみない?」
「視覚的に分かりやすくなるから」
私は了承した。
青は軽微。
黄は保留。
赤は未処理。
実際にやってみると、
ノートは見やすくなった。
赤が少ない週は、
それだけで気持ちが落ち着く。
今日は、全部青。
それだけで、
いい一日だった気がした。
⸻
クラスも、静かだった。
小さな不満は、
表に出る前に消える。
誰かが一言言いかけて、
途中で止める。
その瞬間を、
私は何度も見てきた。
介入しなくても、
回る。
それは、
成功だ。
⸻
掲示板は、
ほとんど見なくなった。
評価は、
もう更新されない。
「助かる」という言葉が固定され、
「気持ち悪い」は埋もれた。
多数派が決まると、
空気は静かになる。
それが、
安定という状態だ。
⸻
放課後、
担任が言った。
「このクラス、
問題行動がほとんどないんだ」
誇らしげというほどでもない。
ただ、事実の共有。
私は、
自分のノートを思い出した。
問題は、
確かに起きていない。
起きる前に、
形を変えているだけだ。
⸻
家に帰って、
ノートを開く。
今週の色分けは、
きれいだった。
赤はない。
黄も一つだけ。
この数字なら、
誰も困らない。
そう思った瞬間、
少しだけ、胸が軽くなった。
安心、
という言葉が浮かぶ。
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でも同時に、
何かが抜け落ちている感じもした。
どれを処理したのか、
具体的に思い出せない。
思い出さなくていい。
そういう仕組みだから。
私は、
ノートを閉じた。
記録は残っている。
数字も揃っている。
だから、大丈夫だ。
模範生としては。




