表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/18

最終話 模範の外側


 終了は、

 宣言されなかった。


 制度は、

 終わりを告げない。


 ただ、

 前提を更新する。



 朝の画面に、

 警告は出ていなかった。


 赤もない。

 黄もない。

 灰色の点も、

 増えていない。



 数値は安定している。

 統計的には、

 理想的だ。



 それでも、

 私は分かっていた。


 もう、

 同じ状態には

 戻れない。



 面談以降、

 相談の数が

 減った。


 急激ではない。

 露骨でもない。


 ただ、

 自然に。



 声をかけられなくなった、

 というより。


 思い出されなくなった

 感覚に近い。



 掲示板を見ても、

 名前は出てこない。


 かつては、

 暗黙の基準点だった。


 困ったら、

 あそこに行けばいい。


 そう言われていた。



 今は、

 別の名前が挙がる。


 あるいは、

 誰も挙げない。



 制度的には、

 正しい推移だ。


 負荷の分散。

 役割の再配置。



 私は、

 それを妨げていない。


 訂正もしない。

 引き留めもしない。



 ただ、

 自分から前に出ることも

 やめた。



 授業中、

 先生に当てられる回数が

 減った。


 態度が悪いわけじゃない。

 成績が落ちたわけでもない。



 「安定している生徒」は、

 確認の対象にならない。


 それだけだ。



 私は、

 透明になっていく。



 それは、

 不快ではなかった。


 むしろ、

 楽だった。



 判断を求められない。

 模範を期待されない。


 空白を、

 誰かに見られない。



 ノートの空白は、

 五つになっていた。


 色をつけないまま、

 ページが進む。



 不思議なことに、

 溢れる気配はない。


 圧も、

 焦りもない。



 空白は、

 溜まっているのに。



 放課後、

 あの小会議室の前を通った。


 ガラス越しに、

 別の生徒が座っているのが見える。



 職員は、

 同じような表情で

 話を聞いている。



 私は、

 足を止めなかった。


 声も、

 かけなかった。



 あれは、

 もう自分の役割じゃない。



 家に帰り、

 ノートを開く。


 空白のページを、

 一枚だけ切り取った。



 破るのではなく、

 切り離す。


 その違いが、

 大事だった。



 切り取った紙を、

 机の引き出しに入れる。


 処理もしない。

 分類もしない。



 保留のまま、

 保存する。



 ノートには、

 もう空白はない。


 すべて、

 色が付いている。



 それでも、

 私は知っている。


 処理されていないものが、

 確かに存在することを。



 翌日、

 評価ログに

 一文だけ追加されていた。



 《役割適合度:安定》

 《他者依存率:低下》



 模範、

 という言葉は

 もう使われていない。



 それが、

 終了の合図だった。



 私は、

 誰にも相談されない。


 誰も、

 私を問題にしない。



 制度の中で、

 完全に適合している。


 それ以上でも、

 それ以下でもない。



 帰り道、

 夕方の光は

 昨日よりも弱かった。


 でも、

 目を細めるほどではない。



 模範生は、

 終わった。



 代わりに残ったのは、

 編集できる自分だ。


 誰のためでもなく、

 制度のためでもなく。



 処理しないものを、

 処理しないまま

 持ち続ける。



 それが、

 今の私の

 選択だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ