第11話 選別された相談
最初に来たのは、
放課後だった。
教室に残っていたのは、
私と、もう一人だけ。
名前を呼ばれたとき、
少し間があった。
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「……今、いい?」
いいかどうかを聞く、
というより、
逃げ道を確認する声だった。
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「大丈夫」
私は、
即答した。
ここで迷うと、
相手は引き下がる。
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その生徒は、
席に座らず、
立ったまま話し始めた。
それだけで、
内容の重さが分かる。
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恋愛でも、
友人関係でもない。
進路でもない。
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家庭の話だった。
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詳細は、
書かない。
私自身、
その種類の情報を
ノートに残さないと決めている。
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ただ、
話は長かった。
整理されていない。
感情が先行している。
泣きはしない。
けれど、
声が揺れる。
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私は、
途中で遮らなかった。
以前なら、
区切りを入れていた。
今回は、
最後まで聞いた。
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終わったあと、
相手は言った。
「誰にも言えなかった」
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それは、
選別の結果だ。
軽い話は、
他に流れる。
重い話だけが、
残る。
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私は、
その事実を
静かに受け取った。
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「今すぐ答えは出せない」
そう前置きしてから、
制度的な選択肢を並べる。
相談窓口。
外部の支援。
時間をかける、
という判断。
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相手は、
何度も頷いた。
理解した、
というより、
整理された、
という表情だった。
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その日を境に、
同じ種類の相談が
続いた。
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週に一件。
やがて、
二件。
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共通しているのは、
どれも、
「軽く扱われると困る話」
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私は、
それに向いている。
感情的にならない。
噂にしない。
判断を急がない。
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安全。
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安全だから、
預けられる。
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だが、
安全な箱には、
注意書きがない。
容量制限も、
見えない。
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職員室で、
担任に声をかけられる。
「最近、
相談を受けてくれてるみたいだね」
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把握されている。
つまり、
制度の視野に入った。
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「無理はするなよ」
その言葉は、
善意だ。
けれど、
具体的な制限はない。
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無理かどうかは、
自分で判断しろ、
という意味でもある。
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私は、
頷いた。
拒否はしない。
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掲示板を見る。
《あの人、
本気の相談向き》
《軽いノリじゃ無理》
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線が引かれた。
境界が、
はっきりした。
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私は、
模範生であると同時に、
重たい話専用になった。
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夜、
ノートを開く。
空白が、
一つ埋まっていた。
赤でも、
青でもない。
黄に近いが、
分類しきれない。
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処理は、
していない。
ただ、
置き場所を変えただけだ。
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重たい相談は、
感情を動かす。
けれど、
動かしたまま
止めることもできる。
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私は、
それを覚え始めていた。
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ふと、
思う。
この役割は、
いつまで続く?
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制度は、
壊れるまで
使い続ける。
壊れたかどうかを
判断するのも、
制度側だ。
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私は、
まだ壊れていない。
少なくとも、
数値上は。
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ノートを閉じる。
今日も、
問題は発生していない。
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ただ、
軽い話は、
一切なかった。




