第五章 家
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。
『異能禁地』は、日常のすぐ隣に存在する「異能」と、それに振り回されながらも前に進もうとする少年少女たちの物語です。
派手な能力や戦闘だけではなく、迷いや弱さ、そして仲間との関係性も大切にしながら描いています。
少しでもキャラクターたちの息遣いを感じてもらえたら嬉しいです。
それでは、今回のエピソードも楽しんでいただければ幸いです。
真白を先頭に、四人は迷いのない足取りで壁の中へと踏み込んだ。
青いリング状の光が周囲を照らし、冷たい空気が鼻から喉へ流れ込み、体の芯から少しずつ熱を奪っていく。
金属製の手すりを強く握りながら、螺旋階段を一段ずつ下りる。
カン、カン、と乾いた足音がやけに大きく反響し、胸の奥まで響いた。
その音に急かされるように、自然と鳥肌が立つ。
階段を下りきった先には、先ほどとほとんど同じ通路が広がっていた。
鋼鉄の壁、青い光の輪。
違うのは――
銀色の大型扉の前で、ピンク髪の女性が壁にもたれてスマホをいじっていることだけだった。
まるで任務中とは思えないほど、緊張感がない。
真白は眉をひそめる。
(この人……本当に大丈夫なのか?)
「はぁ……やっと来た? 早く来て」
眠そうな声でそれだけ言うと、彼女は左手を壁に当てた。
次の瞬間、無数の黄色い光が壁の中から集束する。
――ドンッ!!
爆発のような轟音。
衝撃波で床と壁が大きく揺れ、四人は思わずよろめいた。
その直後、彼女の背後に並ぶ数十枚の扉が、ドミノのように次々と開いていく。
「……早く行こ」
何事もなかったかのように、彼女は歩き出した。
真白たちは顔を見合わせ、慌てて後を追う。
やがて辿り着いたのは、円形に配置された十数枚の金属扉。
巨大な鋼鉄の壁に囲まれているような圧迫感に、自然と呼吸が浅くなる。
「次、どこ行けばいいんだよ……」
瞬が小声で呟く。
近づいてみると――
ピンク髪の女性は、立ったまま寝ていた。
「……マジかよ」
真白は深くため息をつき、パンッと両手を打ち鳴らす。
彼女はびくっと跳ね起きた。
「はぁ~……また寝てた。ごめんごめん」
まったく悪びれた様子がない。
「それで、どうすればいいんですか?」
「適当なドアの前に一人ずつ立って~」
軽すぎる指示だったが、従うしかない。
そのとき、陽菜の足が止まった。
後ろから慧司がそっと手を掴む。
「……怖くない?」
不安げな声。
陽菜は一瞬だけ目を伏せ、それからいつもの笑顔を作った。
「大丈夫だよ。真白の珠もあるし、瞬の交換もある。なんとかなるって」
自分にも言い聞かせるように、軽く笑う。
やがて全員が扉の前に立つと、警報が鳴り響き、足元に赤い円が浮かび上がった。
「なんだこれ!?」
床が開き、ピンク髪の女性がそのまま落下する。
「……転送装置か」
真白の判断で、まず瞬が降下。
安全確認ののち、三人も交換される。
視界が切り替わる。
橙色の光。
温かい空気。
そこは先ほどとは別世界のような空間だった。
中央には一枚の木製ドア。
古びた表札。
「天川……」
真白の鼓動が強くなる。
「ここだ。預言者の家だ」
扉を開けると、そこにあったのは――
普通の家のリビングだった。
白い壁。
テレビの音。
整然と並ぶスリッパ。
戦場でも秘密基地でもない。
ただの「家庭」。
その違和感に、全員が言葉を失う。
「どうぞ。入ってください」
穏やかな男の声。
ベッドに横たわる中年の男性が、優しく微笑んでいた。
「天川透真。S3階級、常選者です」
そして、静かに告げる。
「……天選の地は、まもなく滅びます」
その一言で、部屋の空気が凍りついた。
誰も、何も言えない。
テレビの音だけが、やけに大きく響いていた。
つづく
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
今回は、任務の始まりと新たな人物との出会いを中心に描いた回でした。
少しずつ物語の核心に近づいていく、不穏な空気を感じてもらえていたら嬉しいです。
これから彼らがどんな選択をし、どんな真実に辿り着くのか。
物語はまだまだ続いていきます。
もし少しでも面白いと思っていただけたら、感想や応援をもらえると、とても励みになります。
次回もどうぞよろしくお願いします。




