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第四章:目標

異能や日常のささいな事件、そして仲間たちとの絆を描いた物語です。

この物語では、普段は平凡な日常の中に潜む非日常や、思わぬ出来事に立ち向かう少年たちの姿をお楽しみください。

戦闘や危険の中でも、友情や信頼が試される瞬間があります。どうか肩の力を抜いて、彼らの世界を一緒に体験してください。

「それ、どういう意味だよ?」


瞬が勢いよく立ち上がり、手のひらを机に叩きつけた。

カップが揺れ、澄んだ音が室内に響く。


「そうだよ?」

陽菜は慧司のすぐそばまで距離を詰め、笑みを浮かべたまま視線を向けた。

その目は、冗談を言っているようには見えない。

「そんな話、今まで一度も聞いてないんだけど?」

「お、俺だって……さっき知ったばかりなんだ!」

慧司は反射的に両手を上げた。

言い訳のようでもあり、降参の仕草にも見える。

「それに……まだ、確定ってわけでもなくて……」


「さっき?」

壁にもたれていた真白が、その言葉に反応して顔を上げた。

冷ややかな視線が慧司に向けられる。

「数分前に“知った”ってことか?」


一瞬、空気が止まった。


慧司は喉を詰まらせ、すぐには答えられなかった。

代わりに、慌ててポケットからスマホを取り出し、ロックを解除する。

画面を操作し、そのまま皆に向けた。


「……これだ。」


画面には、八分前に届いた一通のメッセージ。


――「問題を解決したいなら、こちらへ来てください。」

その下には、見覚えのない住所が添えられていた。


三人が同時に画面を覗き込む。


「……それ、騙されてない?」

最初に口を開いたのは陽菜だった。

まるで些細なことを指摘するような軽い口調で。

「最初のメッセージでいきなり住所送ってくるとか。ほんと、ドジな弟だね」


「新手の詐欺じゃないのか?」

瞬は腕を組み、首を傾げる。

声には疑念しかなかった。


「……やっぱり、そうだよな。」


慧司の視線は、その一文から離れなかった。

まるで、見えない重みが画面にのしかかっているかのようだ。


そのとき、ふと気づく。

今の自分は――

彼らの目には、焦って他人を信じようとするだけの人間に映っているのかもしれない。


指先が、スマホの縁で止まる。


本当は、何か言うべきだった。

けれど結局、画面を消し、スマホをポケットにしまった。


その瞬間――


「……一概に詐欺だとは言えない。」


真白の低い声が、静かに割り込んだ。


彼はスマホを受け取り、画面を数秒見つめる。

眉を寄せ、指先でアイコンを軽く叩いた。


「このアカウント……」

「名前なし、白紙のアイコン。」


言い終わるより早く、

真白は突然、まだ蛋餅を頬張っていて状況を理解していない瞬の襟首を掴み、強引にデスクの方へ引きずった。


「ちょ、待てって――!」

瞬は口をもごもごさせながら抗議する。


その光景は、どこか懐かしい記憶を呼び起こした。


「今日はツイてるね。」

陽菜は口角を上げ、歯を見せて笑う。

そのまま、立ち尽くしていた慧司の腕を掴んだ。

「一緒に任務に出られるじゃん」


「え? ちょ、どういう意味――」

慧司は半ば引きずられ、足取りが少しもつれる。


モニターが点灯する。


真白の手は、マウスとキーボードの間を高速で行き来していた。

ファイルが次々と開かれ、画像、データ、記録が目まぐるしく切り替わっていく。

その横で、瞬は腹をさすりながら、目を細めて小さくげっぷをした。


数秒後――


「……見つけた。」


真白の手が止まる。


「名前、アイコン、能力の記録、入力の癖。」

低く言い切る。

「全部一致してる。」


「……それで?」

慧司が思わず尋ねた。


真白は、少しだけ沈黙した。


「住所だ。」

小さく息を吐き、画面を閉じる。

「これは……実際に行ってみないと分からない。」


「え、今から? まだ早いでしょ!」


「こういうのは、早い方がいい。」


「……分かったよ。」


真白は立ち上がり、机の上に置いてあった腕時計を身につける。

そして陽菜と慧司を振り返った。


「君たちは――」


「行く!」

陽菜は迷いなく右手を挙げた。


「え? 俺も?」


陽菜は背伸びをして慧司の耳元に近づき、声を潜める。


「ずっと思ってたんでしょ?

異能管制局の一員になるって」


その言葉が、頭の中で一瞬、止まった。


慧司は前を歩く三人の背中を見つめ、数秒だけ黙り込む。


「……行こう。」


「じゃあ、準備だ。」


真白はそう言うと、突然しゃがみ込み、引き出しを一つずつ開け始めた。


「何探してるの?」

陽菜が振り返る。


「持っていかないといけないものだ。……どこにやった?」


三人が玄関に立った頃――


「……また失くしたんじゃない?」

瞬が天気の話でもするような口調で言った。


「手伝わないの?」

陽菜が尋ねる。


「いや。」

瞬は、部屋中をひっくり返している真白の背中を見つめる。

「こういう時が、一番人間らしいから。」


真白は床に座り込み、額に汗を浮かべていた。


「あり得ない……確かにここに置いたはずなのに……」

「これは、あいつらにとって命綱なんだ。」


「瞬! 見てないか!」

真白が声を張り上げる。


「机の上は?」


「……机?」


「何探してるか、分かる?」

慧司が小声で訊いた。


「全然。」

瞬は即答した。


慧司は、ため息をつく。


無意識にポケットへ手を伸ばし、スマホを取り出そうとした、その時――


「……あった!」


真白が百メートル走を終えた直後のような息遣いで駆け寄ってくる。

手には、黄ばんだ白い小箱が握られていた。


「それ何?」

陽菜の目が輝く。


「よく見てろ。」


蓋が開く。


天鵝絨の内張りの上に、

黒く光る四つのガラス玉が静かに並んでいた。


「……これって?」

慧司が思わず手を伸ばす。



「これは“俺”だ。」

真白は即座に手を引っ込めさせた。


「きも。」

陽菜が眉をひそめる。


「分身体だ!」

瞬は興奮した様子で一つを手に取る。


「割れば出てくる。

一人一個持っていけ。」


真白は扉の前に立ち、振り返って付け加える。


「本当に危ない時だけ使え。

絶対に無駄に割るな。……特に瞬。」


「了解。」


瞬はポケットに珠を入れ、軽く叩いた。


――今回は、もう失敗できない。


何があっても。

あの光景を、二度と繰り返さないために。


しばらくして、四人は屋敷を後にした。


三、四十分ほど歩くにつれ、最初は混雑して騒がしかった人通りも、次第にまばらになっていく。

繁華街のネオンは背後へと遠ざかり、住宅街の灯りも一つ、また一つと消えていった。


やがて彼らは、一本の細い路地の前で足を止めた。


廃棄された二棟のビルの間に残されたのは、人が一人通れるかどうかという程度の隙間だけ。

壁は剥がれ、地面は湿り、空気には腐臭と油汚れが混じっている。


「……ここ、本当に人がいるのか?」


瞬は両手で輪を作り、即席の双眼鏡のようにして、真っ暗な路地の奥を覗き込む。


「くっさ!」

陽菜は顔をしかめ、片手で鼻を押さえ、もう片方の手を振りながら後ずさる。

「なにこの場所!?ゴキブリに挨拶されそうなんだけど!」


「地図上では、もうすぐだ。行こう。」


真白はスマホの画面を一瞥し、冷ややかに言った。


真白が路地へ踏み込む。

足元で割れたガラス瓶を踏み、「カラ…」と鈍い音が響いた。

瞬と陽菜は顔を見合わせ、眉をひそめながらも後に続く。


慧司だけが、その場に立ち尽くしていた。

三人の背中が闇に溶けていくのを見つめ、喉が小さく動く。


「……どう考えても、ゴキブリとネズミしかいなさそうな場所だよな……怖いの、俺だけ?」


拳を握りしめ、少し遅れて歩き出す。


路地の奥へ進んだ四人は、やがて突き当たりに辿り着いた。

しかしそこにあったのは建物ではなく、ひび割れと汚れに覆われた石壁だけだった。


「……やっぱり、騙されたのか?」


瞬は周囲を見回し、少し力の抜けた声で言う。


「じゃあ帰っていい? ここ本当に臭いんだけど!」

陽菜は鼻をつまみ、嫌悪感たっぷりに壁を見ながら後退する。


慧司は俯いたまま、何も言わなかった。

だが、身体の横に下ろした拳は、無意識に強く握られていた。


胸の奥に、言葉にできない不安と後悔が込み上げる。

――また、みんなに迷惑をかけたんじゃないか。

最初から何も言わなければ、こんなことにはならなかったのではないか。


自責の念が静かに膨らみ、落ち着かなくなる。


慧司は歯を食いしばり、ためらいながら壁を軽く叩いた。


「……道、間違えたのかな?」


真白は再度、住所と地図を確認し、間違いがないことを確かめると、ゆっくり壁の前へ歩み寄った。


「……何か仕掛けがあるのか?」


「もう探すのやめようぜ。

この壁、俺が朝食べたトーストより普通だぞ。」


瞬は両手を頭の後ろに組み、のんびりと欠伸をする。


「ちょっ! そのゴミ臭い手で、あとで私のリュック触らないでよ!」

陽菜はすぐさま半歩跳ね退き、露骨に嫌そうな顔をした。


再び、空気が静まる。


沈黙の中で、慧司はふと、壁の隅から冷たい視線を感じた気がした。

気のせいかと思いながら、視線を向ける。


――やはり。


灰黒色で外装の壊れた監視カメラが、斜めに取り付けられていた。


「あの……あそこ、監視カメラがあります。

動いてるかは分かりませんけど……」


自信なさげに指を差す。


「ほんとだ。」

瞬が見上げる。


「こんな臭い場所に人が住んでるとは思えないけど?」

陽菜は肩をすくめる。

「どうせ壊れてるでしょ。」


「……見落としていたな。」

真白は眉を寄せ、小さく舌打ちする。

「ナビに集中しすぎた。」


「じゃあ……瞬、試しに叫んでみたら?

誰かいるかもしれない。」


「はい。」


真白の声は淡々としていた。

次の瞬間、彼の掌が青白い光を放ち、プラスチック製の拡声器が形を成す。

握り部分と先端には淡い光沢が残り、他は真新しい白。


「えぇ!?なんで俺!?」


文句を言いながらも、瞬は拡声器を受け取った。


真白は一瞥するだけで、再び光を放つ。

今度は橙色のシリコン製耳栓を八つ複製し、二つを瞬の手に置いた後、陽菜と慧司の方へ向かう。


「頼んだ。」


「無視すんなって!」

瞬が叫ぶが、真白は振り返らない。


耳栓を渡そうとした瞬間、陽菜は何か恐ろしいものを見たかのように半歩下がった。


「慧司にあげて! 私、自分の持ってるから!」

そう言って鞄を胸の前に抱え、必死に探し始める。

「授業中に寝るために用意したやつ!」


真白は一瞬だけ視線を向け、何も言わず慧司に耳栓を差し出した。


「これを。」


「……ありがとう。」


慧司は軽く頷き、受け取る。


瞬は拡声器を構え、真白を見る。

全員が耳栓を装着したのを確認すると、真白自身も耳栓を入れ、右手でOKサインを出した。


瞬は一度、深く息を吐く。

そして拡声器を口元へ――


「――あああああ!!」


轟音が路地を震わせた。


廃屋の上にいた鳥が一斉に飛び立ち、

中に潜んでいた犬や猫も飛び出す。

無数の鳴き声が重なり、まるで災害の後のようだった。


耳栓を外した四人は、その騒音に目を見開く。


「……瞬、どんだけ叫んだの?」


入口を見ると、何匹もの犬が吠え立てている。


慧司は空を仰ぎ、乱舞する鳥の群れを見上げた。


「……こんなに大きいとは思わなかった。」

瞬は耳を赤くし、後頭部を掻く。


真白は答えず、再び壁へ近づいた。


指先で壁をなぞり、裂け目や剥がれたコンクリートを一つ一つ確かめる。

感触は普通の壁と変わらない。


――少なくとも、今は。


一瞬、彼自身の中にも迷いが生じた。


……本当に、何もないのか?


そのとき――


――ガチャン……ガチャン……


重い金属音。


次の瞬間。


「ゴォン――!」


最も深い亀裂が青く光り、地鳴りと共に壁がゆっくりと開いた。


真白は即座に瞬の隣へ退く。

瞬は鋭く構え、五つの鋼珠を取り出す。

陽菜もすぐに駆け寄った。


慧司だけが、その場に立ち尽くしていた。


初めて見る“戦備状態”。

思考が追いつかない。


陽菜は一瞬で状況を理解し、慧司の手を掴んで引き寄せた。


そのとき――

重たい足音と共に、若い少女の欠伸交じりの声が、内部から響く。


「はぁ……来たんだ。そりゃうるさいわけだ……」


赤い水玉のパジャマに緑のナイトキャップ、ピンク色の髪の少女が、眠そうに階段を上がってくる。


「なに固まってんの? 早く来なよ……」


そう言い残し、再び壁の向こうへ消えた。


「待て!」


真白が叫ぶが、少女は振り返らない。


「追うか、真白!」

瞬が即座に問う。


真白は三人を見渡し、深く眉を寄せた。


……決断の時だ。


「瞬、鋼珠を二つ。

陽菜と慧司に。」


「え?いいけど……?」


瞬は即座に取り出す。


「奥に入れ。絶対に落とすな。」

「それから、さっき渡した珠も手に持て。」


真白は大きく息を吐いた。


「何が起こるか分からない。

危険を感じたら、すぐに割れ。」


「了解!長官!」


「制御不能になったら、即座に宿舎へ交換。

迷うな。」


「了解!」


真白は最後に壁を見据え、低く告げた。


「行くぞ。」


つづく


今回の章では、仲間たちが未知の場所へと踏み込む様子を描きました。

物語はまだ始まったばかりで、次にはどんな困難が待ち受けているかは誰にも分かりません。

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