物語はその先へ
それからしばらくして、俺は新設の班の一員になった。
新しくアストライアで暮らす貴族の護衛班だそうだ。
貴族の大半は嫌いだからやる気が出ない。
班長は王都から派遣される騎士で、副隊長候補だという噂だ。二人目の副隊長、別の任務もあるから既にいる副班長の補佐官相当になるらしい。
いわゆる貴族騎士が役職だけ手に入れて、箔をつけるというやつ。
ムカつくから、咎められない範囲でいびってやろうなんて話が出て俺も賛同した。
しかし——
「フィラント様! フィラントさまーーー!」
俺の前に現れた新班長は、あの死神騎士フィラント・セルウスだった。
思わず泣いていたし、気づいたら足に抱きついていた。
他の班員も似た感じで泣いたり彼の名を呼んだので、俺たちに元部下という共通点があると判明。
「あー、誰だお前ら。記憶力が悪くて悪い。うっとおしいから離れろ」
フィラントは部下になったことのある班員たちの誰のことも覚えていなかった。言葉遣いも変化している。
俺も含めてみんな、それぞれどこで何があったと伝えたのに「そんなこともあったような」と苦笑い。
「ちょっと待った! なんでフィラント様がこの街の副隊長候補なんすか! 英雄獅子のフィラント様が!」
先輩風を吹かせるビアーが叫ぶと、俺たちも「そうだ」と拳を振り上げた。
「俺は英雄獅子の切り込み兵だ」
「何を言っているんすか! あの豚が英雄獅子じゃないことは俺がよーく知っています!」
俺は『あの豚』が『どんな豚』か知らないけど、「そうだ!」と賛同した。どうせどこぞのクソ上官だろう。
「うるさい! 俺は与えられた仕事に励むだけだ。金も地位も名誉も要らん。全員並んで自己紹介をしろ。覚えがないから覚え直す。必要ないから過去の話はするな」
戦場で聞いた吠え声に似た恫喝声に軽く震える。
けれども、彼の健康な姿と再会への歓喜の方が優っている。
俺は夢を抱いた。
というよりも、野戦病院の時に考えた希望を再度胸に抱きしめた。
貿易商や市場を狙う荒くれ者の多いこの街を、フィラントと共に国で一番平和な街にする。
大人気になったこの街には王族が相応しいと、ユース王子を市長に招く。
そして、俺もサシャも第二の王都みたいなこのアストライアで面白楽しく暮らすんだ。
夢はこれだけど、再び戦場へ行くことになっても構わない。最後の仲間、サシャの暮らしを守りたい。
ただし、ろくでなし上官は二度とごめんなので、絶対にフィラントの部下だ。
俺がいた、劣悪な病院環境を変えてくれた戦場の天使フィオール様もこの街に来て欲しい。
俺を介護してくれた天使たちや、フィラントの回復を手助けしてくれた超絶美人天使も。
★
警護する要人が到着するまで、俺たちの班は普通の警務騎士仕事を行った。
フィラントはあっという間に新聞記事に名前が載る活躍ぶり。
麻薬取引現場に突撃する班の応援任務で、相手にビビる主要班をより前に出て、最前線で犯罪組織の連中を蹴散らしたから。
戦場ではないからか、足を剣で突いて蹴りまくり。
そんなわけで、フィラントはアストライアでは『死神騎士』とは呼ばれず、『隼騎士』と市民に名付けられた。
今は市民も同僚も『隼のところのもじゃ犬』と呼ぶけど、いつか格好いい名前がつきますように。
ほどなくして、俺はフィラントの見合い相手と知り合った。
お相手はあの超絶美人天使で、彼女は俺たち兵士の英雄、戦場の天使フィオール様の御息女。
貴族夫人が私財を投じて兵士たちを救ってくれただけでも驚きなのに、娘まで甲斐甲斐しく働いてくれていたとは。
フィオール様の一人娘、エトワール様が俺たちの班が護衛する要人だったのでテンションぶち上がり。
うるさいビアー先輩は自己紹介時に話しかけまくったけど、俺は彼女の神々しさに気後れして遠巻き。
口を開いて感謝を述べたら号泣しそうで。
サシャが「街に詳しくて強い女性」ということで引き抜かれていた。
洗濯人から、エトワール様のお屋敷で使用人になり、奉仕活動に励む主人の道案内や護衛もする。
裏街道やその住人を把握していて、そこで顔が知られて敵視されない女。
メリケンサックやナイフを扱えて、先制攻撃と逃亡はお手のもの。
サシャの特技が活かせる仕事が「戦場の天使の護衛」だなんて、人生とは何があるか分からない。
俺とサシャは同僚みたいになり、お互い、とても尊敬する人の部下だから、日々誇らしい気持ちで働いている。
★
さて、運命とは奇妙なもので、マルクはやがて貿易街アストライアからアルタイル王都へ移住することになる。
その時の国王は、当時の国王の長子。彼を助けて支える両翼には弟のユースたちが並ぶ。
かつてユース王子だった者は、国を守ると剣を手にしていくつもの戦場の先陣で戦い抜いた。今は国防の頂点となり、国中の治安を向上させようとしてくれている。
今のユース王子は、国王宰相として新しい政権を牛耳って俺たち市民を助ける政策に勤しんでくれている。
ユース王子が二人。ややこしいので、一人は昔の名前を使い続けている。
なぜそうなるのか、それはまた別の物語。
——なんて言えるのは、俺がその未来を生きているから。
フィラント隊長の部下だったのに、随分と離れてしまった。
けれども、俺はどこまでも追いかける。
必要があれば地の果てまで。俺は彼の後ろで、死神騎士のためなら死にたがる。
もちろん、最後の最後まで生きようとして。
年々書き方が変わっているので、いつかリメイクしたい過去作→「成り上がり騎士と貧乏子爵令嬢の新婚生活」
冒頭だけ下書きしてあって、設定を少し変えたから今作で使いました。マルクもそれに伴い今作のように変更。
ゴルダガ兵のオルトが主役の一人→「復讐乙女と黒羽騎士の恋物語」
最後までお付き合いいただきありがとうございます。
暇つぶしになっていれば幸いです。




