守りたかった君と
故郷のアストライアへ戻る前に、別の街へ寄ってサシャの職場へ行ったらクビになっていた。
探してみたものの、彼女は見つからなかった。
流行病が蔓延って、俺たちの様子を見るために一時的に帰ってきたように、アストライアにいるかも。
もう仲間は俺しかいないけど、だからこそ、俺の帰りを待つために。
アストライアに帰り、最後に住んだ極安アパートに行ってみたけど、他の住人がいただけ。
元々の根城、スラムの一つにも行ったけどいない。
死んだかも……と最悪な予想が脳裏をよぎったけど、サシャは図太くて強いから平気だろうと自分に言い聞かせる。根気よく探すしかない。
予定通り騎士署へ行って、警務の仕事を手に入れた。
狭くて汚いけど格安の寮で暮らせることになった。
母が病で死に、暴力父を捨て、スラムの仲間になった元浮浪児の俺が警務騎士になれるなんて。
ただし、準騎士のそのまた見習いからなので勉強と訓練から開始。
準騎士になり、見回り仕事をしていたら、サシャと再会できた。
多分、だけど。
サシャらしき女性が横を通り過ぎたので、思わず振り返って叫んだ。
「サシャ!」
俺の声で振り返った髪の短い少女は、瞬きを何度かして首を傾げた。
「騎士さんが私になんですか? 歩いていただけで何も悪いことはしてません」
彼女は明らかに狼狽えた。しかし、悪いことをしたようには見えない。
戦争前にしていた仕事、宿屋の使用人みたいな服装をしているし、痩せこけていない。
髪にも肌にもちゃんと艶がある。まともな仕事をして、逞しく生きていると伝わってきて、体中が喜びに包まれた。
「俺だよマルクだ! お前、生きてたんだな!」
すると、サシャは目を大きく見開いてから、屈託のない笑顔を浮かべた。
「マルクなの⁈ 何その格好! 生きてたんだはこっちの台詞だよ!」
どちらともなく駆け寄って、思わず抱き合った。二年前は俺より背が高かったのに小さくなっている。
その日、俺たちは仕事後に待ち合わせた。
街を歩きながら、俺はサシャをレストランに誘った。夕焼けが消えかけている。
今夜は星は見えそう。流れ星は落ちるだろうか。
気取ったところで話したくないこともあるから、酒場にしようと言われた。
「何かあった? 大丈夫か?」
「図太いから平気だけど、あのクソ野郎って愚痴りたい話もあるよ。レストランじゃ無理でしょう?」
騒がしい酒場の出入り口近くに座り、「出世したからご馳走する」と格好つけた。
帰還祝いでご馳走すると返されて、喧嘩っ早いサシャと揉めるのは嫌だから、「お互いご馳走しよう。割り勘」と話をまとめる。
血に塗れた戦場での話はしたくなくて、笑い話だけにして、サシャのあの後の話を聞き出す。
サシャは相変わらず豪胆で、前職をクビになるとすぐ、この街であちこちの扉を叩いて仕事を得たという。
門前払いばかりされていた時に、街中で貴族夫人を助けて、それがきっかけで領主屋敷で洗濯人だそうだ。
「だからそんなに手が荒れて痛そうなんだ」
「でもお給金が今までで一番いいの。制服も可愛いし、かなり狭いけど寮もあるから寒くないの」
「昔の薬のお礼にさ。俺が手にいいクリームを探してきてやるよ。署の医務官なら知ってそう」
「やった! お礼を受け取らないとしつこそうだからありがたくもらう。ありがとう」
代わりに、「二度と金のために危ないことはするな」と念押しされた。
仲間たちが流行病で死んでしまって、俺たちはこの世にたった二人の姉弟なんだからと。
「俺が兄貴だろう」
「はぁ? マルクのどこが兄なの⁈」
「俺は兄だし、俺には兄貴が増えた」
「へぇ。兵になって誰と仲良くなったの? それとも同僚?」
「超格好いい兄貴だから、自分が姉って言うなら秘密ー!」
「マルクのくせに生意気!」
些細な喧嘩でさえ愛おしい平和な日常だ。
こうして、俺は悪魔のような戦場や野戦病院から本当の意味で帰還した。
死神騎士の部下になれた幸福が、俺を帰りたいところへ帰してくれた。
毎日祈っているけど、どうか、彼が死の淵から甦り、回復していますように。




