1129river next next〜絶え間ない真実と未来の上を少女から――~
日本 北海道 名寄
令和七年 夏
朝
駅のホームには、私だけを乗せた私の特急――青紫の二両編成――が停車している。ホームにも人はいない。駅舎の中もそうだろう。いるなら会いたいものだ。
話したいな。
ふとそう思った。
と、横から声をかけられた。窓際の席の私は落ち着いて通路側を見る。通路には警察官が立っていた。
「復讐は駄目ですよ」相手はさりげなく言った「失礼。これはとにかく言ってるんですよ」
復讐は駄目――警察官らしい発言だ。
「私は復讐なんてしませんよ。そんな気持ちは浄化されていますから」私は答えた「私は今探しています。それを目標にしています」私も、私らしい発言をした「でも見つからない。残念です」
でも、景色があるわ――
「きっと大丈夫ですよ」と、警察官は通路の隣の席を指差した「空いてますか?」
「どうぞ」
相手が座ると、私は窓を見る。警察官はイレギュラーか。まぁいいけどね。
と、列車は動き出した。
一時間ちょっとして、列車は旭川駅に到着する。
戻るか。と、無人のホームを眺めながら思った時、車内にアナウンスが流れた。
〈稚内方面へは“スーパー野草エレシュテン”が次いで到着したので只今発車できません〉
新型か。邪魔だな。
仕方ない、動いてもらうか。
と、私は席を立ち、列車を降りる。ホームには青年男性がいた。
「“エレシュテン”の人?」と、私は青年に聞いた「キミも欲しいってこと?」
「欲しくないよ」青年はきっぱりと答えた「ゾッとするよ。キミはしないのか?」
「しないわ」
「ビックリだ。少女だからか?」いや、それより発車してくれないか? 急いでいるんだ、と青年は付け加えた。
「どこへ? ――『札幌』か。悪いけど今日はその気分ではないわ。キミが動いて。私は反対へ行きたいの」
「断る」
「残念」
と、青年は消えた。“エレシュテン”――“専用車”の例に漏れず二両編成――も。
席に戻ると、列車は動き始めた。ふと私は警察官を見る。寝ている。
列車は名寄を通り過ぎ、美深、音威子府を通過した。そして、二時間近く走った列車は天塩中川に着いた。
さて、名寄に戻るか。
そう思った時、またアナウンスが流れた。
――今度は“スーパーべーサロセカンド”か。
行くか。と、私はホームへ。やはり人がいて、今度も青年男性だった。
「すまない、悪気はないんだ」青年は私に謝る。
――怯えている?
青年は、「すぐに引き返す。我が青と白の列車に誓って」
「どうして怯えているの?」私は聞いた「私が怖いの?」
「……ああ」青年はためらいながら答えた「いくら強くても」
「――お願い聞いてくれる?」私は思いついた。
「お願い?」
「私は少女だから車の免許ないの。でもドライブしたいの。私のドライバーになってくれない?」と、私は笑う「永遠にじゃないわよ?」
青年はほっとしたように笑った。「良いよ。ボクもドライブ好きだ。お安い御用だ」差し当たっていつ? と青年は付け加えた。
「そうね――まず名前は? 私はベー」
「べー?」
「あっ、ニックネーム言っちゃった。本名は――」
「いや、それでいいよ」青年は遮った「大差ないから。ボクの名前はショウイチ」
「ショウイチ、電話番号交換しましょう」
一週間後の朝、私だけを乗せた私の特急は名寄駅に着いた。その直後、汽笛が聞こえた。早く動けってか。と、私はホームへ。
稚内方面からの、金と黒の特急があった。
と、若い男が降りてきた。私に近寄ると、「早く行けよ。オレの“スーパー宙”に壊されたいのか?」と、男は偉そうに言ってくる「ブサイクちゃん」
はぁ? 「――キミ、私のこと知らないの?」
「知らないよ。誰?」
「与えようか?」と、私は掌を相手に向ける「永遠の命を」
「永遠の命だと? ――まさか……」
「なんてね」
「えっ?」
私は手を下げる。「キミにはしないわ。見覚えないから。でも、キミの態度次第かもね?」と、私は笑う「どうする? 私、美深へ行きたいんだけど?」
「……分かった、従おう」
美深に着くと、ホームにはショウイチが待っていた。
「道の駅だよね?」と、ショウイチ「で、イチゴのジェラートと」
「ありがとう」
翌日も、私は彼の運転でドライブ――名寄市内――した。
翌朝、私は中川駅で降りた。駅前にはショウイチとその車。
「悪いわね、面倒臭い景色が好きで」と、私「昨日も運転で大丈夫? 稚内まで持つ? 今更だけど」
「大丈夫。ボクはこれでも――」
爆発音が轟いた。
何!?
「べーさん、あれ!」と、ショウイチは駅の方を指差す。
私の列車が燃えている!? どうして!?
「――まぁ、いいか」
「えっ? べーさん?」
「ショウイチ、新しくすればいいのよ」
数週間後の朝、私だけを乗せた私の特急は名寄駅に着いた。ホームにはショウイチがいた。
「赤と白か」ショウイチは私の特急を眺めながら言う「かっこいいね」と、私を見る。
「特急らしく見えないけどね」と、私は肩をすくめる「でも楽しめるわ。この“スーパー野草アタラメ”でも」
「――べーさん、今も探しているのか?」
「もちろんよ」
「なぜ? こんな素敵な列車があるのに」
「だってつまらないからよ、 遥かな未来が」
走行音? と、私は旭川方面を見る。緑と白の特急がノロノロやって来ていた。停車すると、若い女が降りてこちらに来る。
――くっ、私より……
女は私の前で止まると、「私の“スーパー商業”の邪魔をしないでください。戦いましょう」と、さりげなく言った「私はクロ。二人がかりでもいいわよ?」
「戦わないわよ」と、私は肩をすくめた「呆れた。――でも、命拾いしたわね」と、笑う「惜しいわ、キミ」
「がっかり」と、クロは肩を落とす「さようなら、つまらない人間」と、またさりげなく言って彼女は自分の列車に帰っていった。
「当たり屋みたいだな」と、ショウイチは呆れたように呟く。
と、“スーパー商業”は走り始めた。
私はつまらない人間か? 列車を見送りながら私はふと自問する。
――そうかもしれないわね。もしかしたら。
でも、気にしないわよ。
と、着信音がした。
「失礼」と、ショウイチは電話に出る「――『爆発』した!?」 爆発? 「“宙”も? 誰の仕業だ?」
こっちは大丈夫かな? ふと気になって私は“アタラメ”を見る。
爆発した。
翌日の昼、私とショウイチは人気のない名寄駅のホームにいた。
「落ち着いた?」と、私は聞いた「ちゃんと待ち合わせできたから大丈夫そうだけど?」
ショウイチは苦笑する。「大丈夫だ。愛車だからって冷静さを欠いた。すまないな。それよりこれからどうする? 本当に一緒に行かないのか?」
「復讐なんて興味ないわ」と、私は肩をすくめる「私にもやることがある」
と、そこへ“スーパー商業”が停車した。
「気をつけて、ショウイチ」
「ありがとう」と、彼は乗り込み、列車は出発した。私は見送る。
――不愉快だわ。ふいに思う。
なんで私の列車が爆発されなくちゃならないのよ? 腹が立つ!
復讐したい!
いや、落ち着け。
私には列車がある。それで景色を眺めれば――
でも、今はないんだ……
早く欲しい!
「べー」
私は振り返る。
はっとした。
「ついに現れたわね!」私は歓喜する「キミで満足してあげるわ!」
相手は首を傾げる。「何を言ってるの?」
私はニヤニヤしながら、「うるさいわね、ゴミ風情が」と、掌を相手に向ける「キミは逃さないわよ。永遠の命を与えてあげる」
「永遠の命?」
「そうよ。不老不死。あなたはずっと生きるのよ。――青ざめないでよ、名誉なことよ」
「名誉?」
「遥かな未来で確定した真実になるんだから」私は笑う「素晴らしいわ!!」
「やめて!」
「たわけボケ! 喰らえ!」と、掌からピンクの光線が放たれる。
と、相手はしゃがんでかわした。
私は舌打ちした。「クソボケが。かわすんじゃないわよ。次いくわよ!」
「べーさん!」
横? と私は見る。ショウイチがいて、「もうやめてくれ!」と、懇願してくる「キミはもう満ち足りているはずだ。その日々を送ってくれ!」
「だからこそよ」私は反論する「私のやろうとすることはその上にあるの。とても高尚なことなのよ」と、にやりと笑う「知ったらやるわ。それを知っているのにやらないなんて愚かな人間だわ! ああ、身体が興奮する! これが気高さなんだわ!!」
「乗れ!!」ショウイチは真剣な表情で叫んだ。
その瞬間、私とショウイチは特急の中の通路に立っていた。
ヤツは? ――いない。
「やるじゃない」と、私は笑う「油断したわ。でも次はそうならない。何をしたいのか言って。打ち砕いてあげる」
「窓際の席に座って。そして眺めて」と、ショウイチは優しい声で言った「天塩中川から札幌、札幌から天塩中川までの景色を。ボクはキミを救いたいんだ」
景色? そんなもの!
えっ? 何この気持ちは?
恋しくなっている? 切ないわ――
でも私は!
――でも……
ショウイチじゃないわ。
……ちょっとだけよ。
と、私は席へ――
翌日の昼過ぎ、私は隣の席のショウイチに、「ありがとう」と、微笑する「救われたわ。だからやめるわ」
「ありがとう」と、ショウイチは微笑む。
「それにしても良い列車ね。六両編成、それに快眠もできるなんて。なんて名前?」
「“スーパー野原”だ」
「好きになったわ」と、私の腹の虫が鳴った。
「食堂車へ行こう。またマーガリンたっぷりのトーストを食べよう」
「そうね」
と、私は微笑した。
〈了〉




