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第2話:Gランク女王と底辺の賢者

 私が目覚めた場所は、Sランク寮の清潔で明るい空間とは正反対だった。


 壁紙は薄汚れたベージュで、カビ臭い湿気と消毒液の刺すような匂いが鼻につく。私がGランクへ降格し、特別奉仕班に配属されたことを示す『RCシステムログ』が、頭上の古びたモニターで無機質に点滅していた。


 私は立ち上がると、無意識に全身を払った。新しい制服は、まるで粗末な雑巾のような肌触りで、私に与えられた『Gランク』の黄色い腕章は、これまで纏っていた金色のオーラを嘲笑しているように見えた。


「こんな場所で、私が奉仕? 笑わせないで。私は橘華恋よ。学園の女王にふさわしいのは、私ってワケ!」


 苛立ちを隠せないまま、私はこの特別奉仕班の班長室へと続く扉を蹴破った。


 ーー 遠野拓 ーー


 私がSランク時代、「Fランクの賢者」という皮肉な二つ名を聞いたことはあった。彼はこの学園の裏側の作業――つまり、誰もやりたがらない肉体労働とシステムの補修を請け負う最低ランクのリーダー格だ。


 だが、部屋にいた男の姿は、私が想像していた「底辺」とはかけ離れていた。


 拓は、積み上げられたシステムマニュアルの山に埋もれるように座り、無骨なノートPCの画面に目を落としていた。彼の纏う空気は冷たく、私の登場によって空気が一変したにもかかわらず、彼はまるで無関心を装い、画面から目を離さない。


「おい、アンタ。今すぐこの薄汚い部屋を片付けるのよ。私は、こんな所で埃を被っているために生まれてきたんじゃないわ」


 苛立ちに任せて命令したが、拓はキーボードから手を離し、ゆっくりと私の方を見た。

 彼の瞳は、私がこれまで見てきた誰よりも澄んでいて、底の見えない深さを湛えている。そして、その視線は私の全身を一瞥し、Gランクの腕章で止まった。


「……随分と豪勢な自己紹介だな、元Sランクの橘華恋様」


 低い声が、薄暗い部屋に響いた。彼の口調は皮肉に満ちていた。


「ここは『特別奉仕班』の管理室だ。Sランク寮のスイートではない。そして、あんたの役割は奉仕。つまり、雑用だ」


「なっ……!」


「今、あんたがすべきことは、この部屋の掃除でも、威張り散らすことでもない」拓はデスクの上の一枚の紙を指さした。それはA4サイズのシンプルな書類だった。「あんたの『ポンコツ女王』という属性は周知の事実だ。まずそれを自覚することだ」


「無礼よ! あなたのようなFランクに、私の能力を否定する権利はないわ!」私は感情的に反論した。


 拓は肩をすくめ、再びキーボードに手を戻した。


「権利ではない。事実だ。あんたの知力C、実務Gというスペックでは、Gランクでも足手まといだ。だからこそ、俺の指示に従う『カリスマS+』という唯一の武器を利用させてもらう」


 拓は顔を上げず、事務的に続けた。彼の声には、私に対する無関心と、全てを計算し尽くした冷徹さが滲んでいた。


「俺は、あんたをSランクに返り咲かせるための『計画』を立てる。あんたはその計画を実行し、周りの人間を動かす駒になれ。そのためにはまず、その傲慢な態度を改め……いや、無理か。いい。そのままでいい。ただし、俺の指示に対立的に逆らうな。さもないと、あんたの『完璧な復讐』はここで終わるぞ」


 遠野拓の言葉は、氷のように冷たく、私の心を貫いた。


 私の『カリスマS+』が唯一の武器だと指摘され、私は喉の奥で言葉を詰まらせた。この男は、私の転落の原因も、私の内面も、全てを既に分析し尽くしている。


「分かったわ……遠野拓。ただし、私を駒として扱うのなら、それ相応の成果を出してもらうわよ。あなたの『知力S+』が本物かどうか、この私が試してあげる」


 私がそう言い放つと、拓は薄く笑った。それは嘲笑でもなく、軽蔑でもない。ただの、論理的な確信に基づいた表情だった。


「結構。では、早速だが最初の仕事だ、ポンコツ女王」


 彼はデスクの上から、油で汚れた軍手と、古びた作業着のようなオーバーオールを投げた。


「今日からあんたの仕事は特別奉仕班の『補助作業員』だ。最初の任務は、旧棟地下の『備品倉庫B-4』から、F/Gランク寮に『電力調整ユニット(PUC-3)』を運搬すること。これはF/Gランク寮のシステムが不安定になっていることへの緊急対応だ。俺はここでシステムの解析を行う。あんたは運べ」


「運搬? そんなものは執事にやらせていたわ。私にできるわけがないでしょう!」


 私は反射的に拒否した。Sランクの女王たる私が、肉体労働などありえない。


「実務G。それを証明しろ」拓は冷徹に言い放ち、再びノートPCに向き直った。「PUC-3は小型だが、精密機器だ。絶対に落とすな。…いや、落とすだろうな。運搬ルートは『裏階段ルートR-1』。移動時間、往復40分。制限時間は50分だ」


 ーー 無能さ(実務G)と最初の壁 ーー


 私は屈辱に耐えながら、汚れた作業着を着込み、軍手をはめた。Sランク時代、私が触れていたのは最高級のシルクと、最新鋭のRCデバイスだけだった。この粗末な装備は、転落した現実を嫌というほど突きつけてくる。


 備品倉庫B-4は、予想通り、カビと鉄の匂いが充満する薄暗い場所だった。ようやく見つけた『PUC-3』と書かれた木箱は、見た目以上にずっしりと重い。推定30kgはあるだろうか。


「こんなもの……」


 私はSランク寮にいた頃、筋力トレーニングすら趣味の一環としていた。しかし、それは優雅なフィットネスであり、こんな無骨な重労働とは根本的に違う。私は箱を持ち上げようとするが、腕が震え、重心が定まらない。どうにか抱え込む形で持ち上げるのが精一杯だった。


「ふざけないでよ……!こんな、こんな単純な作業に……っ」


 私は重さに耐えかね、何度も箱を抱え直す。この備品を設置すれば、F/Gランク寮のシステムが安定する。そんなこと、Sランク時代にはRCシステムが自動でやってくれることだった。


 ゴツン!


 バランスを崩した瞬間、箱の角が固いコンクリートの床にぶつかった。鈍い音と同時に、私の手から滑り落ちそうになる。


(危ないっ……!)


 私は咄嗟に箱を受け止めようと、支給されたばかりのGランク作業用グローブを箱の角に押し付けた。その瞬間、グローブが裂ける、鈍い破裂音が響いた。


『実務G』。


 私はSランク時代、全てが整えられた環境で生活していたため、道具を扱う「実務」の能力は壊滅的だった。力の配分も、重心のコントロールも、全てがなっていない。私は唇を噛み締め、汗でぬるぬるになった箱を再び抱え直した。


 ーー RCシステムがもたらす五つの不便さ ーー


 備品倉庫から出た私を待ち受けていたのは、学園のRCシステムがGランクに課す、冷酷な『秩序の壁』だった。


 1. RC認証の制限(秩序の壁)

 旧棟地下からF/Gランク寮までの最短ルートは、Sランク生徒たちが日常的に使用する高速移動エリアを経由する。私は重いPUC-3を抱え、そのエリア入口にある、美しい鏡面仕上げの『高速搬送エレベーター』へと向かった。


 私は無意識に、首元のペンダント型のRCチップを認証パネルにかざす。Sランク時代なら、金色の光とともに「橘華恋様、ようこそ」という合成音声が流れたはずだ。


 しかし、鳴り響いたのは、甲高い拒否音だった。


「ピィーッ!」


 認証パネルの光は、私のSランクを示すはずだった金色ではなく、警告の赤色に点滅する。そして、無機質な女性音声が、私の耳元で冷たく響いた。


「『RCシステムログ:アクセス権限がありません。別ルートを使用してください。』」


 私のすぐ後ろを、優雅なAランクの生徒が通り過ぎ、何事もなかったかのようにエレベーターに乗り込んでいく。彼らのRCチップは静かに認証され、扉は無音で閉まった。


 私はポケットから拓に支給された携帯型のRCデバイスを取り出し、チャットでメッセージを送った。


 華恋: エレベーターが拒否したわ。どういうことよ!移動できないじゃない!?


 拓: (即答)『秩序の壁』だ。正規ルートはS/Aランク専用。エレベーターは最上位層の時間をリソースとして確保するために存在する。Gランクの移動時間など、学園の効率から見れば「無駄」だ。Gランクは全て徒歩、裏階段ルートR-1を使え。


 私は怒りに震え、PUC-3を抱え直す。Gランクの移動時間など無価値。その一言が、私のプライドを粉々に砕いた。


 2. 移動手段の制限(動線の分断)

 拓に指定された裏階段ルートR-1は、学園の建物の壁沿いに設けられた、錆びついた鉄製の階段だった。


 蛍光灯は一部が切れ、カビ臭い湿気と、何年も掃除されていない埃が充満している。


「嘘でしょう……」


 私はSランクの快適なモノレールシステム、または専用の移動ポッドを常に利用していた。学園は広大だ。旧棟地下からF/Gランク寮までは、Sランクの最短ルートで約15分。しかし、この裏階段と徒歩ルートでは、倍以上の時間がかかる。


 私は重いPUC-3を抱え、延々と続く階段を上り始めた。一階上るごとに息切れが激しくなり、体中に鉛が詰まったようだ。Sランクの制服は通気性が良く、常に清潔さを保つ特殊な繊維だったが、Gランクの作業着は汗で張り付き、不快感で満たされる。


 この裏階段は、学園の『表の秩序』を乱さないよう、下位ランクの生徒や業者が目立たないように移動するための、隔離された動線なのだ。


 3. 配給食の質と量(最低限の維持)

 ようやくPUC-3をF/Gランク寮に運び終え、任務を完了した私は、飢えと疲労でふらふらになっていた。昼食の時間だった。


 私は拓に指示されたGランク用の『配給食堂』へと向かった。食堂は、Sランクの「クリスタル・サロン」とは似ても似つかない、ただの殺風景な広間だった。


 並んで受け取った食事は、固いライ麦パン一切れと、水っぽく塩気の薄い野菜スープ、そしてひどくパサついた鶏肉のミンチ。


 私の携帯型RCデバイスに表示されるログは、この食事の評価を無機質に伝えていた。


「『RCシステムログ:Gランク配給食:栄養バランス最低限。カロリー700kcal。一日の活動をギリギリ維持する量です。』」


 私はSランク時代、一流シェフが監修した、フォアグラやトリュフを使った豪華な食事を、好きなだけ摂っていた。味覚を刺激し、知性を高めるための最適な栄養設計が施されていたのだ。


 隣のテーブルでは、私を降格させた如月怜の取り巻きの一人だったAランク生徒が、RCポイントで購入したらしい、美しいステーキと彩り豊かなサラダを優雅に食べている。彼らの視線が、私の質素な配給食と、汗まみれのGランク作業着を、好奇心と軽蔑の目で貫いた。


 私は屈辱に耐えかね、パンを無理やり胃に流し込んだ。食事が、単なる『生きるための燃料』に成り下がっている。


 4. 通信/情報アクセスの制限(情報の階級)

 昼食後、私はすぐに拓の計画を実行するための情報を集めようとした。如月怜の動向、白鷺優衣の現在のタスク、そして学園の重要なRCネットワークの最新ニュース。


 Sランク時代、私のRCデバイスは、学園のあらゆる情報をリアルタイムで、しかも優先度の高い順に提供していた。


 しかし、今は違う。


 私がデバイスで学園のコアネットワークにアクセスしようとすると、すぐにエラーメッセージが表示される。


「『RCシステムログ:情報制限レベルG。最新のAランクタスクリスト、及び学園の機密システムログへのアクセスはブロックされました。』」


 得られる情報は、Gランクの清掃スケジュールや備品調達リストといった、末端の雑用情報ばかりだ。必要な情報にたどり着くには、何十もの無関係なファイルを検索しなければならない。しかも、表示される情報自体が、Sランクに届くものより数時間遅延しているようだった。


 華恋: 情報へのアクセスがゴミよ!これじゃあ、何の策略も立てられないわ!


 拓: (即答)当たり前だ。Fランク以下にシステム中枢の情報を与えるリスクは、学園にとって高すぎる。情報もリソースであり、最上位層に優先的に割り振られる。あんたは今、『情報弱者』だ。


 5. 備品の耐久性/調達コスト(経済の差別)

 任務中、PUC-3を落としかけて破ってしまったグローブの代わりに、新しいものを調達する必要があった。私は拓に「新しいものをよこせ」と要求したが、彼は冷たく言い放った。


「支給品は半年に一度だ。破損は『自己責任』。緊急調達は学園の売店でRCコイン自腹で購入しろ」


 私はSランク時代に貯めていたRCコインの残高を確認した。残高はまだ十分にあった。学園内のRCストアへと向かう。


 私が店内で見つけた、Gランク用の『作業用高耐久グローブ』の値札を見て、思わず言葉を失った。


 価格:5,000RC


 この価格は、Sランク時代に私が買っていた最高級の化粧品やドレスの10倍以上の相対的な価値を持っていた。Sランクの生徒にとって5,000RCはジュース一本分の感覚だが、Gランクにとって5,000RCは一ヶ月の食費に相当する額なのだ。


「馬鹿げてる……。こんな粗末なグローブが、どうしてこんなに高いのよ!」


 店員は私を一瞥し、鼻で笑った。


「Gランク用備品は、学園が『管理コスト』として価格を乗せている。壊し、再購入させることで、お前たちの怠慢に罰を与えているんだよ」


 結局、私はグローブを買わざるを得なかった。SランクからGランクへ転落したことで、私が以前持っていた経済的特権が、一瞬にして経済的な罰則へと変化したことを思い知らされた。


 ーー 賢者によるシステムの核心(冷徹な説明) ーー


 その日の夜、特別奉仕班の班長室に戻った私を、拓は無言で迎えた。私は破れたグローブと汚れた作業着、そして、これまで感じたことのない屈辱と疲労に満ちた顔で、彼のデスクの前に立った。


「この学園は……おかしいわ。全てのルールが、下位ランクをいじめるためにできている」


 私は絞り出すように言った。私の言葉には、初めての怒りではなく、困惑と絶望が混じっていた。


 拓はノートPCを閉じ、初めて真剣な目で私を見つめた。


「違う。あんたは根本的に勘違いしている、橘華恋」


 彼はデスクに肘を突き、静かに、しかし有無を言わせない論理の剣を突きつけてきた。


「RCシステムは、誰かをいじめるために設計されているのではない。『絶対的な公平さ』のためでもない。『最大限の効率』を追求するために設計されている」


 拓はゆっくりと、私が今日体験した五つの不便さを、学園にとっての効率という観点から、冷徹に分類・解説し始めた。


 RCシステムがF/Gランクにペナルティを課す真の理由

 1. エレベーター・RC認証の制限(リソース分配の効率化)

「あんたが拒否された高速搬送エレベーター(不便さ1)は、Sランクの移動時間を一秒でも短縮するために存在する。Sランクの脳は、学園にとって最も価値あるリソースだ。彼らが移動で疲弊したり、時間を浪費したりすることは、学園全体の生産性の低下に直結する。Gランクのあんたの移動時間は、学園のRCシステムから見れば、『ゼロの価値』を持つ。だから、価値ある者のために、価値のない者は迂回させられる。これは公平性ではなく、リソースの偏重分配だ」


 2. 配給食の質と量(コストパフォーマンスの極大化)

「Gランクの配給食(不便さ2)が最低限の栄養しか供給されないのも、同じ理由だ。学園の目標は、あんたたちを『最高の状態』に保つことではない。『最低限の生産性』を維持し、『不満による暴動』を防ぐギリギリのラインでコストを削ることだ。Sランクは常に脳をフル回転させるため、栄養面でも最高の環境が与えられる。あんたの食事は、学園のリソースを最も効率よく節約するための産物に過ぎない」


 3. 通信/情報アクセスの制限(リスクヘッジと情報独占)

「情報制限(不便さ3)は、リスクヘッジが目的だ。Fランク以下にシステム中枢の情報を与えることは、システムを攪乱させたり、学園の秩序を乱す危険な知恵を持たせることに繋がる。学園は『秩序維持』のため、情報を『階級に応じてフィルタリング』する。あんたたちに届くのは、その末端の、もはや鮮度の落ちた情報だけ。情報はSランクの『統治』のための武器であり、Fランクにはその武器を与える必要がない」


 4. 移動手段の制限(動線の分断と心理的階級付け)

「裏階段ルート(不便さ4)やモノレールの不使用は、物理的な動線を分断し、階級を可視化するためのものだ。Sランク生徒は、裏側でGランクがどう苦労しているかを知る必要がない。それは彼らの『完璧な集中力』を乱すからだ。同時に、Gランクのあんたたちに、Sランクの『優雅さ』を常に視認させることで、『自らの地位を自覚させ、Sランクを目指す動機を与える』という心理的な統治効果もある」


 5. 備品の耐久性/調達コスト(経済的統治と懲罰)

「そして、調達コストの高さ(不便さ5)は、『経済的懲罰』だ。学園のRCコインは、実社会の貨幣価値とは異なる。Gランクの備品は故意に低品質に作られ、壊れることで『再購入』を促される。それは、あんたたちGランクが『労働』以外でコインを貯めることを妨げ、常に学園への従属状態に置くためだ。Sランクが何もしなくてもRCコインが降ってくるのに対し、Gランクは『システムに消費されるための存在』として設計されている」


 拓は説明を終え、フッと息を吐いた。


「この学園のシステムは、完璧なまでの合理性を持っている。それは、あんたのような『知力C、実務G』の人間が、Sランクという地位を維持することすら許さない、絶対的な効率主義だ」


 ーー 華恋の唯一の武器 ーー


 私の全身から、力が抜けるのを感じた。Sランク時代、私はこのシステムの『恩恵』しか知らなかった。優雅な生活、最短の移動、最高の食事、最速の情報。それらは全て、私自身の能力によって勝ち取ったものだと思い込んでいた。しかし、実際はシステムが私に合わせて用意した舞台装置に過ぎなかった。


「……私の無能さは、分かったわ。じゃあ、私はこのシステムの『燃料』のまま、一生泥の中にいろって言うの?」


 私が絞り出すように尋ねると、拓は再び薄く笑った。今度は、わずかな期待のようなものが混じっているように見えた。


「だからこそ、俺が言っただろう。あんたの『カリスマS+』が、このシステムを『ルールを曲げる唯一の武器』になり得る、と」


 彼は身を乗り出した。


「学園のシステムは『論理的』だが、人間は『感情的』だ。如月怜は『秩序』を愛し、白鷺優衣は『策略』を愛する。だが、彼らが無視しているのは、あんたの『圧倒的なカリスマ性』だ。あんたの言葉一つで、Gランクの生徒が動員され、Aランクの協力者が手を差し伸べる。それが『感情の力』だ」


「俺は、あんたのGランクの『無能』を、この非人道的なシステムの『歪み』を逆手に取って、Sランクの鼻を明かすための『論理的な計画』を立てる」


 拓の目が、暗い部屋の中で鋭く光る。


「あんたは、その『カリスマ』と『度胸』で、俺の計画を『実行』しろ。『ポンコツ女王』として、システムの外側から、この『完璧な効率主義』を破壊するんだ」


 私は、今日一日で痛感した屈辱と、拓の冷徹な分析、そして復讐への渇望を、全て混ぜ合わせて飲み込んだ。


「……いいでしょう、底辺の賢者。私をSランクに返り咲かせ、あの冷酷な絶対君主と、あの仮面の淑女に、全てを思い知らせるのよ」


 私の瞳に、Gランクの薄暗い部屋の照明が、新たな決意の炎として揺らめいた。

お読みいただきありがとうございます。

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