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あくる日の彼女たちは  作者: 酒田青
明地翠
10/14

明地翠 5

 最近、翠は朝起きられなくなった。学校に行くのもいつもギリギリになる。もちろん待っていてくれる美登里もいないので、早く行っても関係がないのだが。廊下を走って教師に注意を受け、遅刻ギリギリに教室に入る。教室の面々が振り返るが、翠とわかるとすぐに会話に戻る。


 まだ時間があるので、スマートフォンを開く。スマートフォンは当然禁止されているが、こっそり持ち込んでいる。最近、六谷怜の新作が、同じ漫画アプリで開始されたのだ。タイトルは『ブルー・ブルー・ブルー』。以前連載していた『ぼくらのホリデイ!』は、コメディー要素が強くて明るいテイストだったが、今回は青春とファンタジーを強く押し出したノスタルジックな作風だ。忌避感があったはずなのに、どうしても読みたくなって、軽く読んで一気に引き込まれた。コメディーだった前回の作品よりも、今の気分に合っていた。教室に担任教師が入ってきたので、急いでスマートフォンをしまい、漫画作品を思い出しながら浸った。これを美登里に読ませられたらどんなにいいだろうと思った。


「『ブルー・ブルー・ブルー』読んだ? すごくよかったね!」


 笑い猫が桔梗を含めトークルームで話しかけてきた。最近はDMのトークルームで話すことが多い。オープンな会話は他のユーザーにも筒抜けで、周りから茶々が入るのが煩わしいのだと笑い猫が言っていた。


「毎週更新だって。いいね。私も今回の展開好きだったよ」


 と桔梗が言った。


「私も今回の展開好きでした。何だか少し寂しくて……」


 翠は桔梗に時折敬語を混ぜて話す。何となく大人っぽい桔梗には距離感を感じる。


「いつか六谷先生に会いたいなあ」


 笑い猫が言うので、翠は画面の外でクスッと笑う。六谷怜は北海道に住んでいるらしい。ならば会うことは難しいだろう。


「六谷先生の作品が激売れして、『ブルー・ブルー・ブルー』展とかがあったら会えるかもね」

「六谷先生の作品は映像的でアニメに向いてると思うし、そしたらありえるけどね。今は難しいかな」


 翠の言葉に続けて桔梗が冷静に答えるが、実際、『ブルー・ブルー・ブルー』は前回よりも順位は上げたが、やはり中くらいの順位だ。


「会いたいなあ」


 笑い猫の言葉に、何となくの違和感があったのはこのときだった。




 五月のある日、学校から帰ってバイトの準備をしていると、誰かからラインのメッセージが届いていた。知らない名前だった。最近は家族やバイト先の面々以外の誰かからラインが来ることは滅多になかったので、詐欺のメッセージだと思った。


「明地さん、今大丈夫?」


 メッセージにはそう書いてあった。何となく、詐欺ではなさそうだった。簡単に返信する。


「誰ですか?」

「俺、竹本。去年同じクラスだった」


 ぎくりとした。手が震えてスマートフォンを落としそうになったが、こらえて握り直した。


「どうしたの?」

「あの日、美登里と待ち合わせしてたの、明地さんだよね」


 呼吸が荒くなった。誤魔化そうと思った。でも、ここで正直に話すことも、自分への罰の一つだと思った。罰なら望んで受けるべきだ。


「うん」

「どうして美登里に会ってあげなかったの? あんなに仲よかったのに」


 それは、どうして美登里を事件に巻き込ませたのかという質問と同じだった。実際、彼女が事件に遭ったのは十時四十分ごろで、翠が時間通りに会いに行っていれば彼女は駅前にいなくて済んだのだった。


「ごめんなさい」

「俺に謝っても仕方ないよ。でも、明地さんに謝ってもらいたかったわけでもない。ごめん。まだ混乱してる。ラインすべきじゃなかった」

「ごめんなさい」


 ラインはそれきり交わすことはなかった。翠は、この混乱した気持ちをどうすればいいのか、わからなくなっていた。




 その夜、あの首相官邸の放送があった。髪を後ろになでつけた総理大臣は、巨大隕石が来年一月に地球に衝突すると言った。それまでに努力をするし、している。普段通りに生活するようにと、彼は国民に呼びかけた。


 それを聞いて、翠は、やっと死ねると思った。

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