文芸科編入
そして、ダバノンはテェラー私立芸術大学、文芸学科に編入した。
既に文芸科に在籍していた、ダバノンの幼馴染、セーラ・キョーユは、
「あんた、どうしたの?映画好きだったでしょ?なんの心変わり?宇宙人には文芸は効果薄いってキメラさんも言ってたでしょ?あと、あんたの脳は宇宙人に丸見えだから、ダイレクトな“文芸”は敵に情報を丸流しにしてるだけってなことも、キメラさんは話していたわよね?」
「実はな……。」
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——ダバノンは最初、自分が総合芸術探求科に編入しようとしていた事、そして、期待していたキメラの“脳内スキャン・キャンセラー”が発明されたこと、そしてチップを手首に埋め込んだ結果、ダバノンは宇宙人の監視下から逃れたこと、そして今までは不可能・非効果的だった”文芸”にダバノンが目覚めたことをセーラに話した——
セーラはキョトーンとした表情で——
「そんなことがね……、でも、ちょっと待って?ダバ、あんたは確かに脳内筒抜けだったけど、それが宇宙人を“芸術”で撃退する手段として、最も効果的だったんじゃないの?どうすんのよ?あんた、テェラー、いや地球を守る上でとても大事なピースが地球人側から失われたんじゃなくて?」
ダバノンは一瞬黙ったが、すぐに弁解した——
「ああ、確かに俺の脳が筒抜けだった方が、宇宙人、やつらに与えるダメージは甚大だったはずだ。でも、脳を読まれなくなったことで、ある現象が起こりうるだろう、とキメラ教諭は予言していた。」
「ある現象?」
「やつらの親玉。宇宙のどこかの惑星で、既に地球に放った手下に情報収集させていたヤツ、言わば悪玉の『リーダー』が地球に降下してくる、と。あとはそいつを直接たたけばいい。」
「ええ!?」
「あとな、別に俺の脳内が読まれなくなったからって、俺の“芸術力”がなくなった訳ではないぞ、わかるか?」
「?」
「つまり、この前の自主映画みたいに、ローカルな舞台で、“直接対決”することはできるってわけだ。悪玉の宇宙人に俺の芸術を直で見せれば、その宇宙人は死ぬ。、とキメラ教諭は言っていた。」
ふーん、とセーラ。
「で、なんで文芸科なのよ?も、もしかして、私がいるから?」
「アホ!んなわけあるか。文芸は表現方式として好き、というのもあるが、何より、出版されれば、数多くの宇宙人を撃退できる、というわけだ。」
セーラは一瞬沈黙した後——
大笑いした。
「あはは、あんた、まさかベストセラー狙ってんの?あはは、そんなん無理無理、あんたの映画のセンスは認めるけれど、文章の才能は、……、ナイッ!」
ダバノンは一ミリも動揺していなかった——
「まあ、出版されなくても、こうして文芸科にいるわけだし、ヨコのつながりもあるわけだし、なんならネットにでも上げちまえばいい、評判になれば奴らの目に触れる可能性は高まる。俺はそうするつもりでいる。」
セーラは笑うのを止め——
「本気なの?」
「ああ、大真面目だ。」
それは、テェラー市がそろそろ木枯らし吹き抜ける季節になろうかとしている時期での出来事だった。