脳内スキャン・キャンセラー
ダバノンはセーラ関連の、キメラによる揺さぶりに一旦、動揺したが、すぐに気を取り直して、
「ところで、本題ですよ!本題!その、脳内スキャン・キャンセラーは完成させてあるんですよね?あと、このキメラ教諭のご自宅の外装、内装、研究室が簡素、というかかなりすっきりしたのは、そのスキャン・キャンセラーの完成となにか関係が?」
キメラはふっふと笑って——
「ああ、さっきも言ったように、君がくる二、三分前に完成した。それと、この私の邸とキャンセラーの関係だが、そう、その通りだよ。大いに関係ある。
前回、確かに卑弥呼の国、ジャパンの現代の有名ミュージシャンの取った脳内スキャンの防止法、銀紙を頭に巻く、を試しに実行していた。まあ、そのミュージシャンは病気を疑われていた事もあって、方法が不完全であることが後からわかったがな……。しかし参考にはなった。金属製の塗料を面したもので宇宙人の干渉から逃れ得るのは事実だったらしい。しかし、その方向で技術をエスカレートさせていっても、先は見えている。どうしても、銀紙、いや、金属の重厚化。体積を大きくする方向に進んでしまうのだよ。そこで、私は考えた、「ナノパワー」が使えるのではないかと。ナノパワーというのは非常に少ない電力で高出力のパワーを発したり、機器の省エネ、といった意味だ。つまり、銀紙、いや金属の波動を特定範囲に解き放つ放射型チップを作れんかな、と。」
ダバノンはニンマリして——
「それが、できたんですね」
「そう。この邸は外装も内装も、以前から重厚な金属で覆ってあったが、たったチップ数十枚でそれが不要になってしまった。とくに内装!研究室だが、まるで、今流行りのミニマリスト、とやらの部屋のようだろう?ここで問題。金属エネルギー放射チップをどう使えば、ダバノン君、きみのような脳内筒抜け人間の思考を奴らから遮断できると思う?」
「まさか……」
「まさか?とは?わかるのかい?ダバノンくん」
ダバノンは恐る恐る口を開いた——
「脳に?」
「いやいやいや、そんなんじゃない。脳にチップを埋め込むなんて、もう半世紀も前の発想だ。それこそ君の好きなSF映画や小説にはよく出てくるが……。もっと、カジュアルでいい。手首に埋め込む。チップの放射範囲は十全にきみの体全体を覆い尽くしてくれるので、何も心配はない。それこそ、脳にチップを入れるなんて、危険すぎる。先人の精神病の治療法、ロボトミー手術等の悪行は私は踏まん。」
ヘェ〜、とダバノン。
「それじゃあ、それで自由に文芸科に入って小説が書けるなら、僕は——」
にやりとキメラ——
「僕は?」
「チップの手術、受けたいと思います。