文芸科の動機
「テェラー私立芸術大学、文芸科に転科することです!」
キメラは絶句した——
「き、君は何を言っているのか分かっているのか?」
ダバノンは自信満々の表情——
「はいっ!!」
しばらく二人の間に気まずいとも、緊張感の漂うとも、違う、何とも言えない空気が流れた——
すると、当然の流れとして、キメラはその際の問題点を真っ先に指摘した。
「大体のことは……、そう、大体のことは多めにみるつもりでいる、君、ダバノン君に関しては。だがこれだけはわかって欲しいんだが、君はセーラ君とは違うんだ。頭の中が宇宙人の母体の惑星の幹部、“中心”に筒抜けなんだ。まだ、映画や音楽や絵なら、実像や見えない音色や抽象的な表現でオブラートに包むことが出来るが、ことに「文章」に関してはまずい。“意味”が脳内から筒抜けにダイレクトに“ヤツラ”に伝播する。悪いことは言わない、諦めるんだ。」
なおも自信満々なダバノンは
「そう、セーラとは違う。それは分かってます。違うんです、教諭が前に言ってたあの研究が形になれば、問題ないでしょう。」
キメラはあたまを一瞬抱えた——
——あの、研究?
勘のいい教諭は一瞬でそれを悟った。
「それは……、頭の中身を読まれることをガードする、言ってしまえば、『脳内スキャン・キャンセラー』のことか?」
「へえ〜、正式にはそういう呼び方なんですね。そうです、その脳内スキャン・キャンセラーのことです。前回、まだ教諭は銀の包み紙を頭に巻いておられましたが、そろそろ形になってきているのでしょう?」
ダバノンは期待感バッチリの視線でキメラを見た——すると?
「ダバノンくん、君はまるでなんでもお見通しみたいだな。タイミングが良すぎる、もしかして、世界は君を中心に回っているのか?まさか、そんな訳はないと思うが……。」
「もしかして!!もう完成してます?まさかのまさかですが。」
キメラは黙然とした後——
「シンクロニシティ、というやつか……、いや、何でもない。私の独り言だ……。そうだ、君が来る、二、三分前にそれは完成した。しかし、本題に入る前にひとつ聞いてみたいことがある。」
ダバノンは、へ?という顔をした。
「何ですか?」
「君の志望動機はなんだ?」
ふふ、とふてきな笑みをしたダバノンは、
「元々、フィクションに憧れがある、ということは昔、散々話したと思います。映画も好きです。本も好きです。もちろん、『物語』と冠した作品はほとんど好き、と言っていいと思います。何より、自分自身のあたまを使って、世界を、自分の世界を創造できる、というのが最大の魅力です。なんなら、その物語に、『真実味』が加味されるなら、なおも良しです。」
「君、世界を創造、というのはリアル世界のことか?」
「え?ぼくは単に自分の想像世界を文章にしたいと……。」
「わ、悪かった、何でもない、ただの戯言だ。気にしなくていい。」
?なダバノン——
キメラは密かに思っていた。――よ、良かった。もし、ダバノンくんが自分がまるで世界の中心でもあるかのように、“自覚的”になりすぎたら、宇宙人どころか、身内であるダバノンくんの扱いが一番センシティブになってくる。そういう意図が無い、純粋な志望動機なら、まあ、いいか——
そして、キメラはまだ聞きたいことがあった——
「ちなみに——」
「何ですか?キメラ教諭。」
「文芸科にしたのは、文芸科にセーラ君がいるからか?」
「バッ!」
「ばっかなこと言わないでくださいよォ!!あいつは一切かんけいありません!!」
「いや、一見仲が良さそうに見えるから、君はセーラ君を好いているのかと……」
「関係ないです!!好き?やめてくだい!!!」
みょうにムキになるダバノンの扱いを少し楽しんだキメラであった——