ひらめきと各々の変化
ダバノンはシェルドン学生科長が最後のクギを刺している間、ある、固定観念を覆す考えを浮かべていた——
そして——
「分かりました。シェルドン学生科長。僕、どうかしていましました。一度、家に帰って頭を冷やしてきます。」
シェルドンは意表を突かれた。なに?何故、あれ程食い下がってきたダバノンがこんなにかんたんに?納得したのか?いや、違う。なにかとんでもないことを秘めているに違いない。
「君、なにか突飛なことを内に秘めているな……、それを、可能なのならば私に話してくれないかな?」
なんとしても、この腑に落ちない状況をシェルドンはどうにかしたかったのである。
しかし、相変わらずダバノンは——
「言葉のとおりです。僕がどうにかしていたんです。色々と僕について親身なアドバイス、ありがとうございました。それでは、僕はもう行きます。では」
「ちょ、ま……」
呼び止めようとしたシェルドンそのままに、ダバノンは勢い良く学生科室から飛び出して行った——
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——キメラ教諭が開発途中だと言ってた“アレ”が完成したなら——
ダバノンはそのことと、キメラに会いたい気持ちの一心で、キメラ邸へと向かっていた。
そして、昼過ぎ頃、キメラ邸へ着いた。キメラ邸の外観は前回見たよりも、こざっぱりとしていた。なんというか、前よりも、無駄なモノがとりのぞかれた、かのような……。何か、教諭に心境の変化でもあったのか?などとも考えたが、今は深く考えず、さっそくキメラ邸のチャイムを鳴らした——
すぐに、入れと言われるかと思いきや、チャイム越しに——
『ダバノンくん、君、何を考えている』
急にキメラがしゃべった。
『な、何を考えている、って、今、それを教諭に話そうとしてここまで来ました。邸の中に入れていただけませんか?』
やけに不機嫌そうなキメラ教諭。まさか、学生科のシェルドンがキメラに情報を渡したのか?——と考えた矢先——
『テェラー大学の学生科のシェルドン学生科長から連絡があったんだ。君が良からぬ事を考えているかもしれない、と……。シェルドン学生科長とは、彼が前回のサンゼン広場での映画上映会で親しげにしているわたしたちを見て、個人的に連絡先を交換し合った。まぁ、いい、中に入れ』
言われるままにキメラ邸に入ったダバノン。そして、また感じたのが、やはり、外観だけでなく、内装の変化。こざっぱりとしていた、前回まであった、たくさんの機器や配線がことごとく無くなっている。そして、キメラの研究室に入った。
研究室もまた、形容し難い、というか、必要の無い機器を全て取り去ったかのような、一言で言うなら日本の“禅”の思想に立ったような内観であった——
「キメラ教諭!随分、この建物、内装も外装もこざっぱりしましたね。なにか機器上の変化が?」
相変わらず、ダバノンに対して虫の好かない状況にあると思われるキメラは、
「君が先に質問をするな。君の考えている、と言っていた話を先に聞かせろ。」
今までにない高圧的な態度。ダバノンは初めて、教諭、いや、一人の男としてのキメラ・ストゥーデントに恐怖を覚えた——
「わかりました。では、はなしますねっ」