綱引き
「それって超、理想的なカリキュラムじゃないですかあっ!」
仏頂面のシェルドンは、ノンノンノンと顔と指を振り、この話にまだ続きがあることを示唆した。
「確かに、君の言う通り、ある種の生徒に対しては他学科よりも、より魅力的なカリキュラム、有意義な時間になるだろう。た・だ・し、『ある種』の生徒に関してはなっ」
シェルドンは何か含むところがある語りをした後、彼が話したかった核心に迫った。
「つまり、自己管理。自分を律して、遊ばず、ほうけず、まじめに自分自身の将来をイメージできた者にとっては、そこはパラダイス!楽園だよ。しかし、しかしだな、」
学生科長シェルドンは、もう言いたいことは言い切った、これで君も転科なんて馬鹿げた考えを改めるだろう、と、同時にダバノンならこちらの思考を先回りしているだろうとタカをくくりながら——
「夢破れ、自暴自棄になってて、あれをやった後はこれをやる(つまりコロコロ変わりやすいということだ、ダバノン君、君の様にな)、たばこを講内でふかす、そんな彼らに『自己管理』、なんてことが可能だと思うか?」
急にオセロで四隅を取られたような感覚におちいったダバノンだったが、まだ諦めていなかった——
「どんなに素行が悪く、夢破れた生徒たちであっても——」
学生科長は、ほぉ、と目を細めた。
「色々な出会いや何かしらの化学反応によって、更生し、真面目に自己管理ができるかもしれないじゃないですか。僕が……、なんならみんなを僕が変えて見せます!」
こいつ、ものわかりが悪いのか良いのか判断がつかぬ生徒だな、とシェルドンは思いながらも、ダバノンが自分の力で、総合芸術探索科の悪童たちを更生させると啖呵を切ったことに関して、少々の感嘆と、微々たる嘲笑を覚えた。しかし、『最も』その学科でやっていくことを挫折させるであろう、要点、ダバノンを諦めさせる武器をシェルドンは持っていた——
「落ちた池の水が汚ければ、自分が浄化させる、……、か……。いい志だ。感嘆したよ。嘘じゃない。本当にそう思ったよ。でも、でもな、……、最も、君が学生生活、順調に行けば四年間、院に行くなら六年間。続けていく中でさまたげになるもの、とは何だと思う?」
ダバノンは考えた、しかし、どんなに考えてもダバノンの思考は、“自分の意志”さえ強ければ、『自己管理』は必ず、絶対に出来る、という信念にしか行き着かなかった。
「いいえ、どんなことが起きようと意志が強ければ、やっていけると思います」
本当か?という顔をした学生科長は、ちょっとバツが悪いが答えを教えた——
「モチベーションだよ!モチベーション。腐ったみかんじゃないが、周りの生徒が腐ったみかんだとすると、新鮮なみかんである君は、どんなに意志があろうと、何かしら影響は受ける。これは避け難い。そして何より、これが一番重要なことなのだが、いかなる創作活動にも社会的なつながり無しには日の目を見ない。そして、制作作業にも、横のつながり、切磋琢磨する好敵手、ライバル、というかな。君と同等かそれ以上の存在が必要なのだ。さて、どうする?」
ダバノンは学生科長が長々、御高説を唱えている間に、ある、信じられない考えが浮かんでいた——