映画の芸術的威力
ダバの作品は、どぉ〜かな?
「ダバノンくん、君の映画、始まるね!ベストタイムだ」
時間帯のピンポイントさに、声を弾ませるキメラだった。
「ブウ———————」(映画開始の音)
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冒頭のテロップ——
「世の中から犯罪は無くならない——
しかし、それは後ろ向きな意味のみでなく、
生きるために必要、という連中もいる。そして、この物語の主人公は人の……、
おっと、全て言えないようだ。なぜなら、“彼”は人の記憶を
catch away (キャッチ・アウェイ)意味:1.〈物を〉かっぱらう2.〈死などが〉〈人の命を〉奪う
することで生き延びてい……、う、うわあああ!!!」語り部が殺された音——
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「映画の途中だが、ダバノンくん、セーラくん、リーダスくん。よお〜く、スクリーンの目の前にいる客を見てみるんだ。一人だけ、吐き気を必死で耐えている客がいるのが分かるかい?あれは……、宇宙人だ。焦るなよ、この上映が終わる頃には滅しているはずだから。
そして、ダバノンくん、これが君の映画の威力だ。本物だよ。」
キメラのいる、後ろを振り返ったダバノンはキメラにウインクされた。ちょっとキモいと思った……。
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主人公「おい、ありったけの金をこのバッグに入れろ!!モタモタすんな!!」
どうやら銀行強盗に入った主人公。単独犯のようだ。
——そして、お金を完全にバッグに詰め込んだ主人公は——
「おい!お前ら!!おれを見ろ!!おれを見るんだ!!」
「???」
戸惑う銀行員たち。
しかし、一応言われた通り、主人公を見た——
すると、銀行員たちは主人公の罪をすっかり忘れ、
「何も起こってないのにお金がないな?なんでだ?」
———と、間抜けな対応をしている間に、主人公はこっそり逃げ出す———
この手口でどんどん犯罪に手を染めていくのだが——
つい、たまたま、出会った美女に酔った勢いで記憶泥棒の事実を明かしてしまい、その美女を一日限りのお遊びであしらったため、美女が腹をたて、警察にリーク。
知らぬ間に「厳重注意!心を操られるな!!サイコ犯罪者を捕まえろ!!」
と、全米に指名手配されてしまう———————
男が最後に奪ったものとは———
———自分の記憶だった———
と、いうテロップだけ出て、あとは「To be continued……」
と、右下に出て、終わり。
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セーラ「私、映画よくわかんないけど、これ、駄作だと思う。意味わかんなかった。続きがないと成立しない映画じゃん」
リーダス「あたしはいいと思ったな。低予算でできることはなんでもやってたね。続編作りたいって意気込みも伝わってきたし、好きだわっ」
セーラ「す、好きって!?」
リーダス「ああ。この映画のことさ。やっぱ、本数観るのも重要かもね。今度、誰かの家でサブスク映画祭りしようぜぇ〜」
ダバノン「いいねぇ、嬉しいよ。リーダス。セーラの実直な意見も参考になった、ありがとう。」
キメラ「最後に自分の記憶を“奪う”っていう発想はひとひねりしてあって、好きだったな。わたしも続きが観たい」
ダバノン「あ、ありがとうございますっ!」
キメラはまたあの、薄気味悪いウインクをして、
「目の前のスクリーンの客、何人減った!?」
「えぇっ??」
「キメラ教諭、注意しようとはしていたんですが、自分の映画が他人にどう受け入れられるかが不安で、見逃していました!!」
「二十人から、十六人に減った。つまり、あの中でエイリアンだったのは、四体だったということだ。君は君の実力、言わば“芸術力”でエイリアンを粉砕したのだよ。これは暴力ではない。粛清だ。君はこれを続ければいい。」
「……」
「なんだ?いきなり、生き物を殺すのに耐えられないから、映画撮るの辞めます、とか言うなよ?」
「違います。俺は……、」
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