初陣
あれから色々。
それからしばらく、ダバノンやリーダスは単調な映画の実務を習う作業や、セーラの方は戯曲や文芸の醍醐味などを着実に学んでいくのであった。
そしてある日、初夏の迫った心地良い気候の中、学校の課題の、ショートフィルム上映会がテェラー市サンゼン広場で執り行われることとなった。
ダバノンは事前に知り合い何人かに声をかけて、まだ誰にも見せていない、初めての自身が撮った映画を発表する機会にたいへん興奮していた。
「まだかなぁ〜俺の出番。」
客席で左にセーラ、右にリーダスが座る中、ダバノンはハラハラしていた。
「そんなにがっつかなくても、ちゃんと出番は来るから安心しな、ダバ。」
リーダスが言った。
この頃には、リーダスもすっかり気心の知れた仲となり、初対面で大げんかをしたのが嘘のように、リーダスはダバノンのことを、愛称の“ダバ”と呼ぶまでになっていた。
「脚本あれだけ手伝うって言ってたのに、結局一人で書き上げちゃったね、ダバ。ほんと頑固なんだから。」
セーラは少し寂しげに言った。
「リーダス。初お披露目ってこんなに緊張すんのな。知らんかったわぁ〜。そしてセーラ、そのうち共同脚本とかも考えてるから、気長に待っててくれ。あ、それよりキメラ教諭は?」
辺りを見渡しても見つからない教諭。
唯一、連絡先を知っているリーダスが、
「メール来たけど、今、向かってるってさ。何やら、テェラー高校の講義のあとしまつが中々終わらないらしい。終わり次第一直線に飛んでくるって言ってるから、気長に待と!」
そして、テェラー高校の映画上映会が始まった。
なんと!一本目はリーダスの映画だった——
司会「それではテェラー高校学生映画鑑賞会、第一本目、モーツァル・リーダス監督の「さよなら、バイバイ」です、どうぞ!!」
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内容は血のつながらない兄弟が恋をし、お互い成長していき、最後に田舎から都会へ向かう兄が妹に、
「大丈夫。また会える。俺たちが同じ月を見ているかぎり」
で、締め括られる、という、なんとも切ないストーリーだった——
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上映会場のサンゼン広場は大きな拍手に包まれた。
セーラは涙を流して感動していた。
「こんな、ピュアなの撮れるんだね。すごい……。リーダス。」
セーラにそう言われたリーダスは、
「お、おう……、ありがと。」
と、少し照れているようだった——
アマの映画評論家、と言ってもいい位の知識を持つダバノンは、
「同じ月を見ているかぎり、っていう最後の台詞がいいな。良かった!」
リーダスは、
「くうう〜、分かってるね、ダバ!そこなんだよ!その台詞にこの映画の全てがかかってるんだよ!アンタの鑑賞眼本物!!」
心底嬉しそうなリーダス。
———
それから二本くらい学生映画が上映されたが、なかなかダバノンの出番にはならない。その時だった——
「ダバノンく〜ん!!」
あれは!?
キメラ教諭が小走りでサンゼン広場の中に入ってきた!
「間に合ったかね!?」
ダバノンは余裕の表情で——
「全然余裕ありますよ。むしろ、今来てくれた方がいいくらいでした。あ、リーダスの映画は観てほしかったけれど。」
「リーダスくんの映画、観たかったなあ〜、どんな話だったんだい?」
「リーダス特有の、純な愛の映画ですよ。良かったですよ。」
そうかそうか、とキメラ。
「ダバノンくんの映画はいつだね?」
「まだ分からないです。順不同なので。」
司会「それでは、今回の四本目、テェラー私立芸術大学一年、オン・ダバノン監督の「キャッチ・ザ・アウェイ」です!どうぞ!!」
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