初授業
無事入学。
そうして、平々凡々と平和な毎日がつづき——
ダバノンとセーラは遂に、テェラー私立芸術大学に入学した。
初めは映画の基礎知識の映画史の授業から始まり、ダバノンはそのマニアぶりをいかんなく発揮して、先生をうならせた。
映画史担任の日系アメリカ人である、講師、コーゾー・タチバナ教諭は、生徒達に質問をした——
「君らの中で”映画史は◯◯以前、◯◯以後しかない”、という、有名な文句を知っているものはいるか?ちなみに◯◯には、昔の監督の名前が入る。分かるかな?」
「はい!先生!」
(またこの子か、最近の子にしては、ものを知っているな。これも知ってるのか?)
タチバナ教諭は、なかば試すようなこの問答に、この生徒、ダバノンがどう答えるのかを伺っていた。
「おお、ではダバノンくん。◯◯に入るのはなんという監督かな?」
ダバノンは自信満々の顔で——
「ジャン=リュック・ゴダール監督です。この前、亡くなったばかりですが……。」
タチバナ教諭は、
「素晴らしい!よく分かったね。最近の子にしては映画をよく観てる。では、言い直そう、この“映画史はゴダール以前、ゴダール以後しかない”この言葉の真の意味合いを知っているかい?」
タチバナ教諭は、流石に簡単には答えは返ってこないとは思っていたが——
ダバノンは——
「ゴダールが映画を変えたんです。あらゆる映画をメタ的視点で再構築し、あらゆるパターン、構成、バラエティに富んだ映画を撮って、ゴダールより後に映画を撮り始めた者は、必ずゴダールが過去にやったことを通らなくてはいけなくなる。逃げられない。「映画」とは、ゴダールなんです。」
意気消沈のタチバナ教諭——
「君は……、素晴らしいね。素晴らしい。気に入ったよ。きっと君はすごい映画監督になれるよ。と、キリのいいところで、授業はおしまい。解散!!」
タチバナが講堂から去った後、ワッと集まる生徒——
「誰だ?ゴダールって初めて聞いた」
「お前、すげえな。タチバナ先生、黙っちゃったもんな」
「名監督の片鱗、早くもほとばしる、か?」
皆んな、一様にダバノンを褒め称えた。
しかし、そんな中で一人、それに乗らない生徒がこちらにやって来た——
「フンッ、ちょっと昔の映画知ってたからってなんになんのよ!」
そこには、金髪で黒ライダースファッションでかためた、女生徒が立っていた。
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