乙女心と春の空
宇宙人の可能性
「そうか!いい宇宙人が映画に関わってくる可能性もあるわけだ!」
ダバノンは元気づいた。
「そう、だからわたしはきみが映画に関わることを本当に嬉しく思う。そして何より、」
「何より?」
「へんに人類の存亡をかけた使命だとか、大仰にとらえずに、もっとライトに、普通の学生が映画を撮るように、単純に楽しんでやって欲しいんだ。どっちにしろ、結果は同じなら、緊張せず、ライトにやった方が良い。」
ダバノンは納得して——
「そうですね。ちょっと使命感にかられて、重々しくとらえ過ぎてたかもしれません。はい、単純に楽しみます!!」
キメラ教諭は笑顔になって——
「それでよろしい。くどいようだが、とにかく楽しむことだ。あと、きみが撮る映画の種類によっては、考察、資料提供、科学的アプローチの監修、なんでも協力する。そして、わたしはわたしの研究も引き続き、やっていくつもりだ」
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場がいったん、落ち着いた——
ダバノンが静寂を切り裂くように、言葉を発した。
「ところで、セーラ。お前は進路どうしたんだ?この街、テェラーからは出ていくんだろ?この辺には芸術大学はあるが、勉強できるヤツらが行く大学は無いもんな?国立か?」
セーラは少し、躊躇して——
「じ、……つは、わたしもテェラー私立芸術大学に行こう、と……。」
ダバノンは驚いて——
「お前が!!?」
「意味わかんね〜、お前、芸術なんか、まるで興味ないだろ?どうしたってんだ?頭打ったか?」
セーラは一瞬、いらっとしたが、すぐにとりなおして、
「いや、あんたの宇宙人対策の芸術作戦にわたしも仲間に入れて欲しいと思ってね。まさか、映画をあんた、ダバが専攻するとは思わなかったけれど——」
ダバノンは素っ頓狂な声を出して——
「で、専攻は?」
「文芸科。」
ダバノンはすかさずツッコミを入れて——
「ばか!文章に関してはあいつら宇宙人には耐性がある、って教諭に言われたばかりだろ?あんまり意味ないんじゃないか?」
セーラはいきなり涙ぐんで——
「ばか、ってあんたの方がばかよ!!人の気持ちも知らないで!!!」
(あんたが好きだから地元のテェラー市を離れたくないってなんで気づかないの!?)
そこにキメラがセーラにひっそりと近づいて耳打ちした——
小声で——
(セーラくん、きみはダバノンくんが好きなんだな。きみがわたしにダバノンくんのことを語る時の、表情、仕草を見ていたわたしとしては、これは確信に近い。だから、テェラー市を離れたくないんだろう?図星だろう?)
セーラは涙を拭いながら、コクンコクンとうなずいた。
キメラは——
(彼はどうやら、研究や趣味以外のことには鈍感なようだ。罪の意識はない。許してやってくれ。そして、わたしはきみの恋を応援している。)
セーラは急に笑顔になって、困惑する、ダバに答えた——
「意味がないとは言われたけれど、映画の脚本、文芸に関わったり、あんたの書いた脚本の訂正ぐらいはできるわ。」
ダバは、セーラが急に泣き出したり、急に満面の笑顔になったりすることに困惑しながら——
「お、おぉう……。」
と、気の無い返事をした。
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