ダバノンの進路
季節は春
それは春うらら。新緑の芽生える時期。アメリカのかの街、ヤマハ州テェラー市には桜吹雪が舞い降りていた。受験生が最後の追い込みをかける時期。そして、ここに、進路をある程度、見定めた男子学生が親と同伴で三者面談を行なっていた——
テェラー高校の三者面談室——
「本当にこの子、いきなり勉強に精を出しちゃって、人が変わってしまったかのようなんです。もちろん、うれしいですよ?落第もまぬがれましたし。でも、なにがこの子をそうさせたのか、理由を聞いてもはぐらかされるだけで、何も答えてくれないんです。先生、何か知りませんか?」
担任教師はやや苦笑いして——
「まあまあ奥さん、どちらにせよ成績は上がっているんだから、問題ないでしょう。きっかけについてはわたしも知りません。」
ダバノンは沈黙していた——
「ところで、」
と担任。
「ダバノンくん、君の第一志望はどこかな?はっきり言って今の君の成績なら、選び放題というか、どこの大学にだって入れるだろう。お望みは?」
ダバノンは冷静に答えた——
「僕はテェラー私立芸術大学の、映画監督科に進みたい。」
「なんと!!」
尋ねた担任教師と、ダバノンの母は目をまんまるくした。
まっさきに口を出したのは担任だ——
「たしかにわたしは君ならとこでも入れると言った。しかし、幾分、畑違い、というか、君、芸術?映画に興味あったのか?本気か??」
ダバノンはどうせこのような反応が返ってくるであろうことを予期していたので、
「僕は僕の使命のために、芸術大学に進まなきゃいけないのです。くわしくは言えませんが、僕の心はもう決まってます。」
ここで、やっとダバノンの母が口を開いた——
「たしかにあんたは映画とか小説を観たり、読んだりすることが好きなのは薄々感じてたわ。でも、見る側と作る側ではまったくちがうのよ?わかってるの??」
この母親は、単純に明日もわからない芸術の道に我が子を放り込むより、自分と夫のように公務員になるんじゃないとしても、より安定した職についてほしい、と思ったのが本音だった。
「決めたったら決めたんだ。」
ダバノンはこの後、母と担任になにを聞かれてもこの言葉いっぺんとうで、二人を無理やり納得させた。そして、二人が諦めたところで——
「大丈夫。受験まで間も無いけれど、基礎学力はあるし、入るところがいかんせん、映画学科だから、絵画科のデッサンみたいに、受験的スキルは必要ない。入れますよ、おれ!」
——
こうして、ダバノンが無理やり押し切るかたちで、正式に、ダバノンの進路が決まった。
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