全身芸術家
セーラの闖入——
セーラが話に入ってきた——
「ダバが芸術大学に入るべき理由、説明されてなんとなくわかったけれど、なんでダバなの?ダバはたしかに怪奇趣味もあるし、不思議なことが大好きだけれど、一見、わたしから見えるダバは普通の人間よ?ダバにそんなチカラがあるとは思えない。」
キメラはふふっと笑い、説明を続けた。
「彼は怪奇趣味、それこそ、オカルトだよ。それを、わたしが見たかぎり、“極めた”のだよ。どんなひょんな分野でもいい。一つのことを極めた人間は、全てに通ず、じゃないが、彼の見るもの、話すこと、感じたこと、全てが宇宙レベルで言語になっており、それは宇宙人には丸わかりなんだ。つまり、宇宙を追い求めて、極めた結果、彼は超・メタ人間になったのだよ。だから、彼の内面を芸術で表現することには、値千金の価値がある。わかってもらえたかな?」
セーラはなおも納得いかぬ表情で——
「そうなのかなあ〜。でも、もともとダバに怪奇趣味があってそれに全神経を傾けて挑んでいる、ってキメラ教諭に教えたのはわたしだし……、これってわたし結構大きな役割を演じたことになるのでしょうか?」
キメラは——
「そうだね。君もこの結託ができる上での重要人物だ。だから、サイモンくんの記憶は消したけど、君の記憶は残したのだからね。もちろん、学業優秀で役に立つ人間だという点も大きい。」
二人の会話に対して、ダバノン——
「わかりました。俺が芸術に傾倒したらいい、と言われた訳が……。しかし、どんな分野の芸術でも良い、とおっしゃりますが、例えば、原稿用紙に文章なんかを書いた場合でも、宇宙人は感知するのでしょうか?ネットに載せて、宇宙人がハッキングするとかならわかりますが……、ちょっと文章は無理では?」
余裕の表情のキメラ——
「地味な表現、それこそオフラインでの執筆活動なんかは、さすがの彼ら宇宙人にも感知できないのでは、とのことだね。大丈夫。わたしの発明品に文章のサーチスキャナーがある。そのスキャナーに、文章を書いた紙を通すと宇宙、何光年と君の書いた文章の情報がひるがえる。まあ、もっと言えば、君はもうとっくに彼らに目をつけられているから、スキャナーなしでも、君の目に写る文章の一言一句は情報として彼らのデータベースにインプットされているだろう」
ダバノン・セーラ「えええ!」
「ちなみに、わたしも目をつけられている一人だ。だから完全に彼らの宇宙からの監視レーダーを遮断する装置をこの研究所にはつけている。だから安心だ。」
ダバノンは抗議した—
「え?じゃあ、宇宙人のやつらに俺の情報、丸わかり、ってこと?そりゃないよ〜、教諭。おれ、宇宙のやつらに対して、完全にノンプライベート人間じゃん。気がおかしくなりそうだ。俺の家には安全装置ないし。」
キメラは語気を強めた—
「それがまた君の強みになるのだよ、ダバノンくん。完全メタフィクション人間である君は、一挙手一投足が彼らに影響を与える。君は選ばれた人間なのだよ。もっと自信を持ってもいい」
セーラが入ってきた——
「でも、ダバが文章を書くだけで、やつらを退治できるなら、絵とか音楽の表現は必要なくないですか?まどろっこしいし……、それに、芸術大学なんか行かなくても、文章は書けます。」
キメラは急に怖い顔になって——
「確かにそうだが、“文章”という表現は彼らにとって耐性があるものなんだ。だから諸刃の剣、とでもいうか、攻撃もできるが、やつらに耐性を作らせてしまう。だから、わたしは絵や音楽は薦めたが、文章は薦めなかったんだ。わかるかい?」
それでもセーラは—
「文章があまり良い策ではないことはよくわかりました。でも、芸術習うのに、わざわざ、大学まで行かなくても良いのでは?自主活動でも良いでしょう?」
キメラはもっと真剣な顔になって——
「わかる。わかるよ。君の言う意見。しかし、しかしだよ?わたしは最初に芸術表現はいかに技術がつたなくても良い、彼ら、宇宙人に伝わればいい、と言った。でも、とはいえ、そりゃヘタクソな作品より、より精度の良い作品を作った方が彼らを刺激しやすいし、殺せるし、癒せる。ゼロサムゲームじゃないが……。」
「じゃあ、俺は全身芸術家を目指すべきなんだな。よし、キメラ教諭、なんとしても芸大受験、頑張るよ。地球のためにも!!」
ダバノンは決心を決めた様子だった—
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