「はいはい、私、婚約破棄代行サービスの者です」
ご覧いただき、ありがとうございます。
★誤って連載形式で投稿したものです。本来の短編での再投稿になります。
勢いのみのふんわりです。
あまり細部に拘らずにお楽しみいただけると幸いです。
法律用語風のものが出てきますが、薄目でご覧ください。
「アリシア・シルバーストーン!お前との婚約は破棄だぁっ!」
王城の小ホール、今は王立学園の卒業を祝う会が開かれている、その会場の少し高くなったところで、我が国の第一王子殿下が声をあげた。
卒業生の代表として挨拶に登壇した王子殿下は、それはもう、目に見えて楽しそうだ。傍らにギラッギラに着飾った女生徒を携えて、勝ち誇った顔をしている。
実にノリにノッておられる。何にって?そりゃ、調子よ。
大きな声をあげて、皆の注目を集めて。
アドレナリンがバンバン出てるせいなのか、瞳孔がひらいているらしく、瞳が必要以上にキラキラ……ギラギラ?している。
興奮して鼻息が荒くなってて、鼻の穴が、ふすー、ふすー、と開いたり萎んだり。
元々、どちらかというとお猿さん系の顔立ちだ。
頭に血がのぼっているのか、顔が赤くなって、もう、お猿さん度数が上がりに上がってる。
「アリシア!返事をしろゥよ!」
苛立ってきたのか、声がひっくり返っている。
あぁ、こういうところで決めきれないんだなぁ。
こういうときは腹に力を入れないと。喉だけで大きな声を出そうとするから、声がひっくり返ってしまうんだよ。
「アリシア!どこだ!」
三回目。ようやく私の出番。
「はいはい、私、婚約破棄代行サービスの者です」
すすすっと人混みを抜けて。ドレスの裾を軽く整えて、カーテシー。
そして、顔をあげたら眼鏡をくいっと指先で。くいっ。これ、絶対やりたかったやつ。よし。決まったな。仕事できる風味だよね?
顔を真っ赤にして大声をあげていた王子……敬称はいいか、王子で。敬称ないと、なんだかあだ名みたいで一気に軽くなるね。
王子に見えるように、国からの営業許可証を広げて見せる。
きょとん。幻聴が聞こえるほどの、絵に描いたような間抜け面を見せる王子。笑える。お猿が鏡に映った自分を見て驚いてる童話の挿し絵を思い出すわ。
「あっアリシアは?」
さっきまでの威勢はどこいった?
「申しましたように、婚約破棄代行サービスの者です。貴殿が、依頼人であるアリシア嬢を婚約者として心配りなさっていましたら、アリシア嬢が会場にいらっしゃらない事にも気づけましたでしょうに」
定型文を、耳心地よい明瞭な声色で伝える。
伝える相手は観客だ。
ここは、王子が始めた舞台の一幕。
主役のつもりで幕を開けた王子から、主役の座を奪えばいい。
アリシアの不在と、それを知らない王子に対して観客からざわめきがおきる。
だよねー、だよねー。婚約者が不在なのを知らないって、ないよねー。
「本日のアリシア嬢の不在に関しましては、以下の二点の問題によるものでございます。一点目は、婚約者からのドレス、装飾品の提供並びに確認がなされなかったこと。二点目が、婚約者からのエスコートに関する申し出あるいは出来ない理由の説明がなされなかったこと」
みんなぁー聞いてー。の、気持ちで先走って早口になってはいけない。
分かりやすく、丁寧に。え、あいつ、そんなことも出来ないの?婚約者のくせに?と、思わせるのが肝だ。
ほら、観客のあちこちからざわっざわっと、つぶやきがさざ波のように押し寄せる。
え?王子の婚約者用の予算はって?そこのあなた、いい質問ですね。その声、もう少し大きければ、流れに採用しやすかったのに!惜しい!ざわっざわっが大きすぎる。
「そ、それはっ!アリシアがっ!かっカ、タリーナをっ!」
王子よ、予定外の台詞下手くそか。
なんだ、かっか、たりーなって。公爵閣下に対する悪態か。
あと、スタッカート多いと聞きにくいんだよ。
共演者としての最低限は頼むよ。幕開けたのそっちだよ?
「これらのことは、国法の婚姻法第5条婚約者規定に定められております追加第3項『婚約者とは良好な関係を築くべく、双方の意思確認を密にし、相違がある場合は互いにその旨を確認すること』に抵触する疑いがございます。アリシア嬢からは、二点についての問い合わせを書面にて確認されておりますが、お返事がありませんでした」
そう言いながら、配達記録証明書を観客に見えるように掲示する。私、小柄だからちょっと背伸びして。遠くまで見えるように。
近くの観客は身を乗り出して確認しようとする。気持ちはわかる。けど、ここはさらっとね。奥の観客から「見えねー」「読めねー」のブーイングが出ないように。
だけどこういう客席に向けてのパフォーマンスは絶対だ。意識を引き込むからね。
あと、お堅めの難しい言葉を並べると、聞いてる方は「えー、わかんねーよ」となるので、これは法律違反かもなことですよー、でも、こっちはちゃんとやってますよー、の、アピール大事。大まかでいいの。え?法律??まじで??くらいで。
しかし、婚約者規定条やその追加項とか、何代前か知らないけれど、こんな法律作らないと問題があるような時代って、どんだけ婚約者を蔑ろにしてたんだろう、当時の阿呆どもは。
そしてこれを決めた大人たちは、当たり前のことを法律で決めたことを忘れたんだろうね、当たり前のことすぎて。
紙ぺら一枚を張り付けたような、大審判部からも忘れられていた婚約者規定条や追加第3項を王立図書館の重要書庫の片隅で見つけたときの、私のひらめきに感謝してほしい。アリシア。頼むよ、成功報酬。
目の前のお猿な王子は、顔色を悪くしてる。
青ざめてないで台詞!なんでもいいから台詞言って!独白だとダレるから!
カタリーナ某は巻き込まれたくないとばかりに逃げようとするが、そこは王子、逃がさないんだね。
ガシッと腰を掴む手にもはや優しさがないぞ。
台詞を求める私の眼鏡がキラリと光る(はず)。
その眼力に負けたのか、ジリッジリッと身を乗り出す観客の視線に負けたのか、王子が決め台詞、じゃないや、宣言をした。
「うっ、うるさいっ!ゴチャゴチャうるさいっ!私はっ!傲慢で身分を笠に着て横暴の限りを尽くすアリシアとの婚約を破棄しっ!このカタリーナと婚約するっ!」
ちょっと王子、声量気を付けて。近くで怒鳴られると耳がキーンってなるわ。
しかし。アリシアが傲慢で横暴かはさておき、身分を笠に着てって、自己紹介か。
アリシアは公爵令嬢だし帝国皇室の血を引くから、身分的には王子より上かもだけど。
そしてカタリーナ、姓は?まさかの平民?ごめん、王子よ、私、その辺興味なくてよく知らないんだ。
あぁ、でもそのカタリーナ嬢のドレスのやり過ぎ感は、確かにドレス慣れしてない人っぽいね。
でも、そっかー、平民かぁ。可哀想に。
うっとりと王子を見上げるカタリーナ嬢、これ、完全に状況わかってないよね。
「カタリーナ嬢と婚約でございますか?」
相手の声に引きずられないように、敢えて冷静に、やや落ち着いたトーンでゆっくりと話す。
王子、かかれ!
今、イラっとしたろ?したよな?
顔が赤くなってきた。よし、もう一声。
「それは『本心』でございますか?」
ムッカーーー!って音がきこえる。王子、毛穴開いて髪逆立っちゃうんじゃない?
顔真っ赤だよ。
「本心に決まっているっ!カタリーナこそ我が最愛!真実の愛だっ!」
あいだっ、あいだっ、あいだっ…………。
天然でエコーかかるような大声、ほんと頼むからやめて。
観客がドン引いてる。うるさすぎて。特に前列の皆さん。耳押さえちゃってるじゃない。
大声出せば主役になれるってもんじゃないのに。
「さようでございますか」
観客の意識を再び私に向けるために、ゆったりと話す。
声を遠くに投げるように、胸でしっかり響かせる。
ほらね、ちゃんと発声すれば、大声で怒鳴らなくてもきちんと客席隅々まで聞こえるの。
「それでは。婚姻法第5条婚約者規定の第一項、婚約者とは互いに尊重しあい他の異性に対して心身を傾けることを禁ず、に則り、そちらの有責にて、この婚約破棄、承ります」
おおーーーっと、観客からの感嘆の声や拍手が巻き起こる。建物が揺れたかと思ったわ。
王子、調子のってるとか言ってごめんね。これ、気持ちいいね。鼻の穴ピクピクさせちゃったの、わかるわ。私の鼻の穴もピクついてるわ。いかん、淑女の仮面が外れそうだ。私は女優。
王子が「えっ」と呟くが、その声の出し方じゃ、この歓声に消されるわ。
私は違うよ。ちゃんと歓声を抑える話し方を知ってるから。
お腹にきちんと息をいれ、吐き出し、肩を下げて胸を開き、身体で音を共鳴させるように、しっかりはっきりと最初の音を発声する。
「なお」
これで観客は続きの台詞に耳を傾ける。
「損害賠償金につきましては、当婚約が結ばれました際の条件を採用し、婚約年数、掛ける、500万イーエーン、そこに10年越えの加算も加わり、合計7000万イーエーンを本人の個人資産からの支払いとして請求します。また、カタリーナ嬢においては、同法第7条不貞者規定に該当しますので、賠償金300万イーエーンを請求します。また、身分法第4条の抵触が懸念されますので、そちらについては別途調査の上での対応とさせていただきます」
「えっ!賠償って何!300万イーエーン?払えるわけないじゃない!」
完全に呆然自失で立っているのがやっとという風情の王子の横から、キャンキャンと甲高い声がする。
おや、カタリーナ嬢、喋れたのか。
そりゃ、台詞なしは辛いよね。いいよ、聞いてあげよう。
「そちらのドレスと装飾品を売却されれば、30万イーエーン程にはなるかと存じます」
「30万?嘘でしょ、これ、100万以上したのよ?半額以下?」
雑な計算だな。
そして、嘘だと言いたいのはむしろ観客の皆様だ。
100万!そのクソダサいドレスに100万!
なんたる無駄遣い!
それ誰に買わせたの。
多分、ここにいる皆が気づいてるけど。
ほら、客席で新たなざわめきが起きてるよ。
ドレスが身近な女生徒も、きちんと婚約者にドレスを買ってる男子生徒もドレスの相場はわかるからね。
平民だと可哀想だからと思って、この場ではスルーしてあげようかと思ったけど、このクソダサドレスに100万はなんか世間的に許されない気がする。
ほら、あそこの子爵令嬢の視線が怖すぎる。私まで呪われそうな恨みのこもった目だ。
子爵令嬢、落ち着いて。いくら高価なドレスでもこのクソダサ仕様だよ、着たくないでしょ。
私は観客に視線を配る。
大丈夫、ちゃんと押さえるから。
観客の熱気をきちんと受け止め、小さく頷いて見せる。
ああ、しかしカタリーナ嬢。100万はないわー。少しは遠慮しろー。
「そちらは王子……殿下からのプレゼントでしょうか?」
おっと、敬称忘れるとこだった。あぶない、あぶない。不敬罪適用されるとこだったわ。
「そうよ、当たり前でしょ」
なぜ威張る。
とりあえずの賠償金の心配でもして、焦燥でも感じているふりしてくれ。客席のヘイトがヤバいぞ、気づけ。こうして舞台に上がった以上、あなたも私も女優だろ?
「殿下の個人資産からの購入か、婚約者使途費からの購入かで変わりますが、婚約者使途費からの購入の場合、王子殿下には横領罪、カタリーナ嬢には横領教唆罪が適用される可能性があります。その場合、ドレス装飾品一式は国に返還となりますので、売却は叶わなくなりますね」
「え、待って、わかんない……」
カタリーナが呟く。
でしょうね。
私はにっこりと微笑む。眼鏡がきらりと光る(はず)。
「そのドレス、ヤバくない?って話です」
「え、マジで!ヤバいの?ねぇ、でんかぁー。ほんとうぅ?」
ちょっとすごいね、カタリーナ。一瞬でデロデロに甘えた声出せるのも、その前の下町感しかない口調も。女優魂感じる。
でも、そこのすがりついたでんかぁー。は、もう、生ける屍みたいになってるよ。
どれが効いたかな。個人資産から7000万イーエーンの賠償かな?それとも横領罪かな?
王子の個人資産、去年公開されてるので6000万イーエーンなんだよね。足りてないもんね。
それに横領罪が付いたら、まぁ、破滅だよね。
で、カタリーナはどうやって300万イーエーンを用意するのかな?
平民が余裕をもって一年間生活できる程の金額、簡単には用意できないよね。働かないとね。大金が稼げるところで。でも、もし罪歴ついたらとうするのかな?
さて、観客の熱も落ち着いたし、ここらで終幕としようか。
私はさっと壁側に視線を走らせる。
父親の手駒を何人か忍ばせておいたので、予定通りにうちひしがれてる彼らを回収して退場させてもらう。暴れてないから楽に回収できそうでなにより。
あとは大人に任せよう。
法律のラインを大勢の前で示したから、そこまで甘い判定にはならないだろう。
「卒業生の皆様、ご卒業おめでとうございます」
私は丁寧に、心を込めて、過去最高レベルのカーテシーで観客に礼をする。練習しておいてよかった。
「かような騒動でご迷惑をお掛けしましたこと、誠に申し訳ありません。此度の件につきましては、改めてのお詫びとなるやと存じます。ご了承くださいませ」
誰か責任をもってお詫びを……私も騒動の関係者になるかな。
父親あたりが上手いことやってくれると助かる。
大人に頼れなかったら、王子の賠償に上乗せだな。
「皆様がいらっしゃいましたからこそ、滞りなく、依頼人のアリシア嬢に瑕疵が付くことなく無事に纏まりました。感謝申し上げます。ありがとうございました」
アリシアには瑕疵はない。
これははっきり宣言しておかないと。
皆のお陰でアリシア無事だったー、ありがとーう!ってしておけば、アリシアに悪い噂を立てにくくなる。
そして最後にもう一度。丁寧に、丁寧にカーテシーをして、会場を出る。扉が閉まるまで一度も振り返らない。慌てずに。余韻を残して。
退場。終幕。よし。
でも。
ぶ厚いレンズの眼鏡をかけて、髪を三つ編みでまとめてシンプルなドレスにしただけで、私ってわからないんだなぁ。
髪色、明るい茶色でありがちだからかな。
私は『走ってないです』と言い訳できるギリギリの速度で、ホールを後にした。
***
私の自室まで戻る。
扉は軽く開いたままで、入り口に衛兵が立っている。
顔見知りの彼らに軽く手を挙げて合図をすると、さっと横に逸れて入り口を広く開けてくれる。
なにその、楽しそうな顔。
私は彼らを軽く睨み付けると、部屋へと進んだ。
部屋の奥にある来客用ソファに座っているアリシアは、組んだ両手に額を乗せ、目を閉じて祈るようにしている。
「アリシア、全部上手くいったよ」
「殿下!ご無事で!あぁ、ありがとうございます!」
私の声に反応してパッと顔をあげたアリシアは、こらえていたものが溢れ返ったのか、大粒の涙をポタポタと拭う間もなくこぼした。
慌てて立ち上がろうとする彼女を片手で制して、向かい側の一人掛けソファに腰を下ろした。
「泣かないで、もう大丈夫。本当に全部上手くいったから」
「殿下……」
私は控えている年嵩の侍女に視線で指示をすると、侍女はスッと手巾をアリシアに渡し、座っている私の姿を確認し、スカートの中でひざが開いていることを視線で指摘してくる。
もう、終わったんだからいいでしょ。
私は敢えて両ひざを掴むように手をつき、ぐぐっと背中を伸ばす。「はぁーっ」と声が出るほどの心地よさだ。
そんな私の様子を見て、ようやくアリシアがふふっと小さく声をあげて笑った。
「すごいよ、皆、私だって気づかなくてさ」
首を左右に倒して、筋を伸ばす。
あちこち凝ってる感じがするな。
「こんな、こんな姿をなさって……」
「意外に似合うから、自分でも驚いてる」
侍女が私とアリシアのお茶を淹れてくれた。
いつもは一つしか出してくれないチョコレートを二つ皿に並べてくれる。良い労いだ、さすがわかってるね。
「……何て申し上げたらよいのか……」
「いいんだよ、折角だから誉めてよ。来年……再来年あたりだともう着れないよ、こんなの」
そういって両手で肩口を軽く持ち、胸元の飾りがアリシアによく見えるように広げる。
喉仏はまだ出てないけれど、一応、誤魔化すための共布のチョーカーをつけていて、偽装は完璧だ。胸が平たいのは、そういう仕様の女性もいるしね。
「まぁ、殿下ったら、ご冗談ばっかり……」
「あぁ、でもやっぱりちょっと腰が苦しいね。すごいね、こんな窮屈なのいつも着てるなんて」
私ははじめて着たドレスの苦しさに、再び大きくため息をついた。
「これでアリシアは自由だよ」
「殿下……本当にありがとうございます……」
「よかったよ、助けられて」
本当にそれが本心。アリシアはただ、ひたすらに、周囲の期待に応えようと頑張ってきただけだ。
傷つけられる謂れはないし、婚約破棄されて彼女の瑕疵になることがあってはいけない。
「本当に、何て申し上げたらいいか……殿下の夢を壊すようなことになってしまって……」
アリシアがまた涙を浮かべる。
私が幼い頃に話した他愛もない夢を、今でも覚えてくれてるんだ。王族が冒険者になるなんて、そんなの難しいってちゃんとわかってるよ、大丈夫。
「いいって。どのみち異母兄はアリシアを裏切った時点で詰んでるんだよ。側妃殿がすごく頑張ってアリシアとの婚約をもぎとったのにね」
「でもそのせいで、殿下が」
「まぁ、すぐだろうね、立太子。成人まで待ってくれないだろうなぁ」
父親の満足げなにやけ顔が目に浮かぶ。
そんなつもりはなかったけど、結果的に逃げられなくなっただけだ。
父親を喜ばせるつもりは毛頭ないのに。
「興味はなかったし、できれば避けたかったけど、こればっかりは仕方ないよ。むしろ、何年か後に変に揉めて国が荒れなくて良かったよ」
そこそこの伯爵家出身の側妃から生まれた第一王子と、帝国の皇室の血を引く公爵家出身の王妃から生まれた第二王子。
年が五つ離れていても、私の方が後継としては有力だった。
だからこそ、母方のいとこのアリシアが鍵だったんだ。
血筋で劣る第一王子の妃としてアリシアを迎えることで、私と同等の立場にするつもりだった。そして、年齢やアリシアの立場を考えて、王太子にごり押しするのが側妃殿の魂胆だったはず。
私に欲がなさそうに見えたのも、アリシア以上に血筋の良いご令嬢がいないのも、側妃殿としては好都合だったのだろう。
だが、当の本体がアレでは、いくら策略を練ったところでどうにもならない。
今ごろ、全容を聞いて地団駄踏んでるだろう側妃殿を想像して、腹の中で笑った。
「考えてみて。陛下の代わりに諸国に行くだろ?ついでにあちこち見せてもらえば、冒険気分を味わえるよ」
「私はあまり剣の腕も振るわないし、冒険者になるなんて、母上も許すわけないし。どだい無理な話なんだよ」
「幼い頃に、アリシアが読んでくれた冒険譚が面白かったからね。憧れは憧れのままでいいんだよ」
私が大丈夫だと言葉を重ねる度に、アリシアはポロリポロリと涙をこぼしながら何度も何度も頷く。
ねぇ、大好きな年上のいとこ殿。
私はね、自分の手であなたを救えたことが、何よりうれしいんだよ。
だから、これでいいんだ。
あなたが幸せになってくれることが、私にとって一番の成功報酬だから。
第一王子は18才、アリシアは17才、婚約はアリシアが七歳のときに結ばれまして、第一王子が卒業でした。
第二王子は13才です。身長も、成長期前で150センチくらい。
変声期前の少年だから、ドレス着ての女装がはまりました。