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第一楽章:後編

今回は書く余裕がかなりあったので、多めです。

「っつ!?」

 とっさに頭を抱え、しゃがむ。頭の上を何かが通り過ぎる音がした。

「あれ、意外と速い?」

 彼女が驚いたとことに、僕も驚いた。今頭の上を過ぎた音はかなりの速度だったはずだ。そんな速度なら普通は今頃僕の首から上は宙に浮いていてもおかしくない。

 はっとして顔を上げると、目の前の彼女の手にはいつの間にか、同い年くらいの少女が持つには余りにも大きすぎる鎌が握られていた。その鎌は黒く、禍々しい見た目をしていて、天使のような見た目とは正反対の、死神を彷彿とさせた。

「今度こそはっ」

 彼女は何の躊躇いもなく、先ほどよりかなり速く鎌を振るった。

 けれど、僕はそれを事前に避けることができた。自分に向かってどのように死神のようなそれを振られるのがおぼろげに頭に浮かんでいた。どういうことだ?

「避けんなよっ」

 またしても鎌が振られる。それをさっきと同じ要領で避け、足に力を入れる。

 冗談じゃない。やっとのことで自分の人生の第二楽章にまで辿り着いたというのに、死んでしまいたくない。きっともう二度と、こんなことは訪れない。だからこそ、逃げる。そうするしかない。

 周りの得体のしれない白い空間を走っていると、木々が見えた。森だ。たとえ人と違う見た目をしているといえど、夜の森という、視界が良くない場所なら、さすがにどこに逃げたかは分からないはずだ。

 相手との差はどれくらいあるのかと、後ろを振り返ろうとした時だった。また、頭の中にイメージが浮かんだ。僕の右肩が、黒い鎌によって切り取られるイメージ。とっさに左へ避け、森の中に入る。

 二回も経験して大体分かった。今の自分は自分の危機を予知できるのだ、と。一体どういった仕組みになっているのかは分からない。けれど、今は逃げるしかなかった。

――この行動が、後で問題になるとは知らずに。


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 森をしばらくの間走っていると、もう足音はしなくなった。辺りを見回してから、茂みに隠れる。よかった。もうダメかと思った。人生で一、二番目くらいに長く走った。息切れが止まらない。

 そういえば、何か走っている途中で、何か落としていないだろうか、そんな思いに駆られ、ポケットに手を伸ばした、その時だった。

 僕の右手の親指が、宙に舞った。

「あがっっ……ぐぅっ!?」

 突如、自分を襲った鋭い痛みにうめき声が漏れる。右手の親指があった位置を見ると。見覚えのある黒い鎌がそこにあった。

 なんで。どうして。なぜ予知できなかった(見えなかった)んだ。

「おっ、大当たりー」

 さっきから僕に殺意を向けてきていた人物が、僕のすぐそばにいた。

「なっ、なんで……」

「『俺の横に』って感じ?足音がしなくなったから気付かなかった、ってわけ?甘いねー。追い付いた時にも足音はしないんだよ」

 僅かな月の光に照らされて、鎌が不気味に黒光りする。

「にしても、面白い能力(スキル)持ってんだね。予知能力みたいな感じだろ?私、能力(スキル)持ちは相手することあまり無いんだよねぇ」

 そういって鎌を振り上げる。彼女が小柄なせいか、月に照らされた鎌の大きさはさっきよりも大きく感じられた。

「今みたいに、致命傷にならないと時は効果がないのかな?確かめるためにも、何回か切り付けてみようかなっ、と」

 そう言っている途中で、命を余裕で刈り取れる速度で、首元へ鎌が振られる。それをぎりぎりのところで予知できた(見えた)僕は、頭を後ろへ倒す。右上の木々の葉が多い茂っていた部分が消し飛んだ。

 続けて、左腕の中指から左側が切り取られるイメージが浮かぶ。とっさに手を引っ込め、何とか回避。それを安心する前に、右手の小指が切り取られる映像が、はっきりと頭に浮かぶ。右手も同じように引っ込めようとする。が、切られた親指が傷んだせいでうまく動かず、手のひらに浅くない切り傷ができ、親指と手のひらの痛みが同時に右手を襲う。

「ぐあっ」

「あれぇ、予想が外れたかなぁ。でもさっきは予知できなっかたのは確かだしなぁ」

 そういって、前の敵は目を瞑って考え込む。右手の痛みでまともに思考が働かなくなっていたが、今逃げないとまずいことは明らかだった。何も考えず、走り出す。右手全体が傷むのを根性で耐えて、再び森の中に入った時だった。

――僕の左足が、飛んだ。

「なるほど、月の光かぁ。それならさっきまでの予知がうまくいっていたのも納得いく」

 そう言って、鎌を持った敵は僕に近づいてくる。

「やめっ、やめてくれっ」

「ここまでくると流石に可哀そうだけど、これが世界の決まりだから。ごめんね」

 そう言って振り下ろされた鎌が、途中で止まる。振り下ろした人物の目は、僕の右手に向けられていた。その右手には、失われたはずの親指があり、手のひらから血が広がっている、なんてこともなかった。足からの血も、あまり出なくなってきた。

「……再生するのか、お前」

 驚愕と喜びの混じった表情でそう言われる。自分でも、自分の体がよくわからない。

「本来なら殺さないといけないんだけれど、再生するとなると、そうはいかない」

「ど、どういう事ですか?」

「再生できる奴は、首を切っても、バラバラにしても生き返る。だから、再生できないようにその人物の『精神』を壊す必要がある。それで、私はその作業が大好きってわけ。大体分かった?」

「あああっ」

 無我夢中で走り出そうとする。が、左足しかない僕にはそんなことが出来ず、頭から倒れる。

「無理無理。たとえ右足が戻ったとしても、君は私から逃げられないよ」

 そうして、月光の下、僕に対する拷問が始まった。

 いじめられていた時の痛みより、事故の痛みより、右足が飛んだ時よりも鋭く、無慈悲な痛みが永遠と続いた。

痛みによって気を失う前に見た、満月が隠されていく様子が、僕がまだ『第一楽章(はじまり)』にいることを暗示していた。

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