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星の物語  作者: あおぞら えす
それははじまりなのか

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8/11

あなたのそば、に

 レナがこの世界が何かおかしいと気づいたのは、いつだったのだろう。だが、繰り返し星夜が自分を守って死ぬこともそのあと白い光に包まれ、また新しい同じことの繰り返しが始まるのも、すべて意味があると知っていた。それを求めたのは、

『私だったのかな?何か、誰かに言われた言葉・・・。なんだろう?』

違和感を感じてもその先を知ることに迷いがありそれを知りたくないと思った。






 赤い髪が特徴的なユミ。微笑み、愛を告げられ、首を振った。彼はユミを愛していた。しかし、彼女を守ることができないほどの身分だった。身分違いの結婚は両親が許さない。特にユミの母親は高貴な身分であったため、それを許すことはなかった。両親は結婚を許すことはしないと言った。愛のない、知らない殿方を紹介された。その相手は別の女性を愛している。いや、複数人のそのような相手がいる。身分を欲しがった殿方との結婚話はどんどん進んだ。

 ユミは行方を眩ませることを選んだ。家を出て、一つの願い星を探して進んだ。愛してくれた彼はすでに別の女性と結婚していた。ユミは悲しみをこらえた。愛してくれていた彼が自分以外を愛していることを。ユミは旅をして願い星を見つけた。その願いが成就する前に変化する世界に飲み込まれた。

 ユミは、過去に愛を捧げてくれた男性ではない、自分を見つけてくれる存在に出会えることを願った。

 この世界は自分が自分であることを理解させた。ユミはこの世界に飲み込まれた存在の一部。もうすぐ消えてやがて消滅する。ユミは悲しいのかと思った。苦しいのか。寂しいのか。いいや、嬉しいのだろう。自分の世界を知って。どれほど小さな存在か、と。哀れな存在が自分の世界で、世界の一部のユミが、幸せをつかめるはずなどない。あぁ、願い星が私の望みを叶えてくれるのだろうか。

 ユミは知らない。あの願い星が外の世界から迷い込んだものだということを。そして、かれこれ何万年ものあいだ願いを叶え続けた、『いにしえのもの』だということを。

 ユミがユミである所以。彼女が愛を司る存在としてあったことが、彼女の望みを叶えるための願い星の力を引き寄せることができた。彼女が無意識に手にしたのは愛を探し、愛を手に入れる唯一の力だと言うこと。

 彼女はこの世界で消える術がない。彼女こそ世界の一部を離脱できた存在。彼女が進む道がどんな道でもこの世界を消滅させるために必要な存在となった。願い星を有したその力が世界の破滅を引き寄せる。

 それに気づいた唯一無二の存在は、ユミを引き寄せている。終焉の場所に。彼もまた、終わりを用意し、自らの持つ『絶つ』力をその場で使おうとしている。






「なぁ、ソラ。」

世界の何週目かの時。

「どうしてお前は、いつも何かを探しているんだ?」

それは、ヒョーカイの何気ない言葉。陰の薄い彼はふと、思いついたように尋ねた。

「え?何かを探している?んー。探している、か。よく分からない。もややっとして何か浮かぶんだけど。でもふわっと消えるんだ。」

「それは・・・俺にもあるな。あれは、なんなんだろう?ただ、今の状況とは違う悩み、みたいな。」

二人はたった今たくさんの怪物を倒し終えた後だ。その後の会話が拍子抜けするほどゆっくりしている。

「ははは。あんまり考えると頭がおかしくなるな。まるで、頭の中に隠された探し物みたいだ。」

「・・・俺は、探し続けたい。俺の大切なものだと、思うから。」

ヒョーカイは胸に手を当てて深呼吸した。今はだめなのかもしれない。でも、思い出す。


レナと別れた後、頭が激しく回転した。すごい頭痛もして、記憶は本を読むより早く頭の中に戻っていった。

 答えがとても難しかったら良かったのに。そうしたら、ソラとカイとテイにこんな風に出会うこともなくて。

 懐かしい。嬉しい。そして、悲しい。自分が、彼らと別れて彼らとの約束が破れて、結局、命の時間を捨て去ることになった。彼らの前に立つことが最も恥ずかしいと思える自分になったのに、会えたといううれしさにおかしくなる。あぁ、記憶など消えていれば良かったのに。

「どうして、どうして吸い込まれた?こんなおかしな世界に。確かにおかしな引力を感じた。・・・星夜?そう、そうだ星夜だ。犯罪者の・・・。この世界の星夜は違う・・・。誰だあの男は。星夜にされたのか?・・・この世界の元凶が犯罪者なら、あの鏡男が、俺の探し続けた・・・。会わないと。誰よりも先に。父親の恨みを・・・。」


 ヒョーカイにとっては思い出した記憶が素晴らしいものだとは言い難かった。過去の記憶がすべて美しいもので染まっているなんてあり得ないことだが、それでも、彼にとっては最悪なものに近く、ソラとカイとテイとの再度の対面が今の彼には困難になっている。会う勇気など今の彼にはない。彼が持っていた羞恥心は三人の偉人の前では最高潮に上がるのだ。

 何周もしたが、記憶が戻った今の状態で話すことがどんなに緊張し、どんなに勇気を必要とするのか。さらに状況を複雑化させているのは鏡男の存在だ。あの男に会わなければこの世界は終わらせられないのだろう。その男にも会うことへの躊躇があった。彼が自らの父親を殺した男であることは間違いない、が。それはけっして悪い意味ではない。むしろ、感謝の念すらある。あの美貌の君主が国をどれほど巻き込み、民を苦しめたか。あの男が消えたことであの地域は住みやすくなり良い国へと変わった。その際にお礼を聞かずに去った存在。

 あとから、彼が世界を広げた存在だと聞いた。世界が広がったことで、悪意の侵入が始まった。それによって、自分が命の時間を捨て去り、国を出ることを余儀なくされた。

 母親が毒を飲み、幾人もの親族が死を選んだ。国の世継ぎとして担ぎ出されたのは、幼い子供。その子供は多世界からやってきた子供で、話を聞けばすぐに子供の中には邪悪な存在がいることに気づけた。彼は愉しそうに云う。

『ふふふ。この世界は幼い。いくらでも壊すことが可能だ。私の実験に丁度いい。』

 その後のあの国はひどい有様だと聞いた。まともな存在はすぐに消され、実験にされる。そんな国がちらほらと聞こえるようになってくると、徐々に鏡男を捜し出すことを聞かれるようになった。鏡男が実際に多世界と繋げたのかはまだ分からないが、ヒョーカイは理由を知ろうと思った。正体不明の乱れる世界の話を聞いて迷い込んだまでは良かった。

「できることなら、会わないでいたいが・・・。」

近いうちにテイと行動する。その前に星夜とあって話をしよう。テイと行動するかどうかは星夜の決定権がある。無視してもいいが、それはそれで拒んだようで嫌な気もする。それに、レナとの約束でもある。彼女がこの世界の住人であるのはもう理解していた。彼女が強制力のある力でこの運命に紛れ込まされている。そういう被験者を知りうるからこそ、彼女の解放が困難であるのも知っていた。

「早いうちに星夜と会う・・・。」

ヒョーカイは目標が定まるとすぐに行動を起こした。





 キリは不思議な森に居た。迷いの森。森と云うには相応しくない景色、岩石でできた岩木。生えている苔は青白く光り、キノコに似ても似つかない砂でできた妙な生き物も生息していた。そこに精霊が住まわっているというのだ。りゅうがいるのかは定かではない。が、さくら大姫がいることには間違いないだろう。彼女はこの世界の要。そしてその見た目通りに華やかで麗しい。

「・・・。精霊、か。姉上も精霊であることを誇りにしていた・・・。」

 過去の記憶が混じるのは仕方ないだろう。キリが外の世界では精霊という種族を憎く思っていたことは誰も知らない事実だ。両親がハーフであり、姉は精霊というだけで何もかも奪っていった。キリはそのことに文句を言うことがなかった。ただの人間だから。ただ、妹が生まれ、彼女も人間だった。姉の暴力を誰も止めなかった。精霊が、本当に偉いのか。ある日、キリは切れて姉を殺めようとした。両親はキリを家族から追い出した。キリの妹もキリについてきた。彼女はやがてどこかの国で知り合った人間の男性と結婚した。キリはそれを見届けて放浪した。妹が幸せになったことを風の知らせで知った。姉と両親は精霊という身分だけでは、生活が苦しく姉の浪費癖が問題だという。

 キリがそれを知っている理由は、彼の一部に精霊族が持つ心石の効果だった。精霊は相手の心を奪う力を持つ。それは心石の強さによる。

 キリには必要なものでなくとも、その力で親族がどうしているかは分かるのだ。妹には一切ないもの。キリが妹を妬むことはないが、唯一それが羨ましかった。

 半分流れる精霊族の血はキリの年齢を延ばした。見た目もおそらく良いものだろう。ただしキリは言葉使いが悪く、丁寧に話すなんてことはない。そして、彼は見た目以上に魔力を持ち魔法を扱える。

「・・・いるなら出てきてくれないか?」

キリは冷めた口調で強めに云った。

「あら、あなたのお話を聞こうと思いましたの。」

可憐な姿の女性。さくら大姫。

「はっ。くだらない。俺がここに居る理由がただの使いっ走りだと理解しているのだろう?」

「・・・。」

さくら大姫は無言で促す。

「・・・手配したものたちをここに集める。お片付けの時間だ。」

キリは単調に伝えた。

「ふふふふ、わかったわ。わたくしももうすぐ、この閉じた世界を出られるのですね。」

「・・・記憶が戻っているのはどれくらいなんだ?」

「外への世界とつながりを持つものは全員。あなたもそのお一人でしょう?」

「まぁな。」

キリは言葉を選ばなかった。さくら大姫が外の世界の人間であることなど誰もが想像できる。彼女はどこかの国の本物の姫。あるいはもっと上の。

「ねぇ、キリさん。わたくし、あなたのことを存じ上げているの。でも、外の世界ではきっと会えないのよね。」

「・・・あんたにはりゅうがいるだろう?」

キリは眉間にしわを寄せる。くだらない。そう、くだらない。

「りゅうは違うわ。彼も外の世界の方なのは分かるわ。でも、違うわ。ここが現実なら、非現実世界では会わないの。でも、あなたは違うもの。あなたは」

「俺はあんたのヒーローになんかならない。俺が救ったのはそのためではない。」

くだらない、夢。ただ、その場にいたから救った。それだけ。それは甘いものになるはずない。それに、彼女はあんなに嫌った、存在。

「わたくしはあなたのことをヒーローなんて思いません。あなたはわたくしの初恋の人。それがどこで出会ったかなんて関係ないわ。それだけは伝えたかったから。私が嫁に行くことを許してくださる?」

「・・・くだらない。」

キリは視線を逸らした。自分の顔が哀れな表情をつくっているから。あぁ、彼女はやはり。

「俺は戻る。ここに最期に来るとき、あんたに答えを用意する。いいな?」

「えぇ。」

顔を見なくても彼女は微笑んだと手に取るように分かった。あぁ、俺は馬鹿だ。俺の命が非現実世界に戻ったとき消える可能性があった。こちらにくる寸前に心臓に刃を刺したから。その理由が彼女を知らないことを願う。彼女はもう雲の上の存在。






 星夜はヒョーカイのことをあまり知らない。それは、記憶が戻る前と後でも変わらない。彼が求めたので、二人で会うことになった。

「それで。いったいなんだ?」

星夜は表情の乏しい顔を見た。今は少しだけ怒りを伴っている感じを受けた。

「・・・テイと出かけることについて、なんだが。」

「・・・。」

「俺は彼を連れて行く理由を知りたい。レナが頼んだのか?」

「そうだ。」

星夜は話を終わらせてしまうために早口で答えた。ヒョーカイがテイを嫌っているのか、あるいはレナに何か気が触ったか。

「・・・星夜。お前は記憶を思い出しているのか?」

ヒョーカイは直球だった。星夜が嘘をつかないと理解している。

「この世界の外の話か?」

「そうだ。俺は思い出してしまったんだ。」

星夜には思い出すことが辛いと云っているような気がした。促すように言葉を待った。

「テイは俺にとって大切な存在。いや、眩しい太陽みたいな人。カイもソラもおれにとってはそういう人たち。そんな人たちに、俺は会いたくないのにもう一度出会った。俺の中で何も、解決していない。」

「・・・俺が命じたところで、テイは君についていく。俺が彼を操るなど無理だよ。特に、記憶を思い出した今ならなおのこと。」

「テイは思い出しているのか?」

「残念ながら。俺の知る、かの叡智を悟ったテイ・クンテイとしての記憶が戻っている。私が何者かも理解して。」

「・・・。その名前を知っているって云うことは、星夜、あんたは何者なんだ?」

ヒョーカイは目を見張って尋ねた。そのフルネームは一部の人だけが知っている名前。

「俺は彼の・・・。彼の最も正しい血族の者。血筋を正せばの話だが。」

「・・・まさか。テイが王族であるのは知っている。俺もその一人だからな。あの愚かな王が消えた後に別れた王族は20いて、その血族にテイ・クンテイがいらっしゃった。あなたはその子孫・・・?」

「ヒョーカイ、君も王族の一人か?王の血筋はみな魔力が強いから集まるのかもしれないな。それに、それぞれが必ずしも王族に名を連ねているわけではない。並外れたテイですら、王族から離脱・・・。俺は彼のように強い意志があって外にでたわけではない。俺はこの変異した世界の調査に来て、取り込まれた。王族がそんなことをするなんて馬鹿げていると笑われた。でも、どうしても調査をしたくて国を出た。俺はテイの実子だ。テイが親だと認知するかは知らないが。笑ってしまう。俺は父親と顔合わせをこんなところでしたのだから。母親は昔に死んで、俺は永久に近い命を持ってしまった。母が亡くなるとき、父親の名と俺が王族であり、決してその玉座に座らないことを約束した。長命であるがゆえに、母と父が何度も変わった。今は義妹も義兄もいるのに、私はあの国を出たんだ。おそらく、もう限界だった。命の長さに合わない国の運営を見守ることに。」

星夜は吐き出すように吐露した。王族という名ばかりの地位も、本来の親子の関係がかなり昔に破綻しているという事実も、何もかもが血筋という呪いによってその国に縛られてしまったことも。

「・・・テイの息子?あの方にお子様が・・・?」

「・・・彼にも色々あった、と聞いている。玉座を去る前に引き起こされた事件が原因だ。狂った国王が国で実験を行い、それを阻止したと聞いた。私が生まれた時、彼は瀕死の状態だった。母は父を救うために、母が持つ異能で父を救った。引き換えに、彼の時は止まった。母は異能を使ってしばらくして亡くなった。父は俺を知らない。いや、母が知らせなかったんだ。父があの王を討つことを願っていたから。俺は母の異能をその身に受けた。俺は『ゼノロワの民』の血を引いている。母とは違う異能を持って生まれた。いずれはこの異能が発動し、この世界の歯車が歪になる可能性を俺が取り込まれたときに決まっていた。ほかの誰かが同じように破壊を望んでいることも踏まえて。」

ヒョーカイは聞けば聞くほどに、星夜がテイの息子だということに何か感じた。嘘ではない。真実だ。しかし何か重要な何かを見落としている。

「・・・あんたの母親が王妃になるはずだったのか?」

「・・・。私の母の家系図は国にとって重要な人間だった。母がゼノロワの民だという以前に、母がゼノロワ国の王家の一人だと事実が婚姻を結ぶ理由になった。今でも二人の話を伝承で聞いたりした。仲が良かったらしい。」

「テイには想う女性がいたってことか?そんな話は・・・」

ヒョーカイは一笑してしまう前にふと思い出した。昔の話をすると何故か女性関係の話をしないテイ。まるでそこにはとても大切な存在が居たと云っているかのうように。もし、自分のために亡くなった相手を今も想い慕っているならば、その残りの愛の結晶と呼ばれそうなこの目の前の男性は何故それを云わないのだろうか。

「あんたは本来の姿になれないのか?」

「・・・なれないな。理由は分からないが、この世界の人形として生きるようになっている。魔法も何もかも封印、いや役割を演じきるために必要なものが扱えない。異能という力以外は。」

「それは扱えているのか?異能が何かは知らないけど。」

「・・・俺の異能は母とは違い、攻撃型重視だ。ただ、タイムリミットは近い。この世界が行う『リセット』と『構築』は生きている人間を動力として使っている。俺が発動できるのは外の世界の人間に対してだけだ。なぜなら、ほぼすべてのこの世界の人間が『死んでいる』から。生きている人間には発動できるが、死んだものたちが多く居るこの世界にはその発動条件が整っていない。俺は異能という力自体が嫌いだが、名を冠してしまった以上は役目を果たす。」

そういって、星夜は息を吐いて、

「ヒョーカイ、テイがついて行かないように調整しておく。俺が言う時間に先に出発しておいてくれ。レナには別の要件を伝えて、ほかの用事を済ませるように伝えておく。レナは『死者』ではあるが、『キー』の役割を持つ者だ。そして迎え入れるセイラたちは、おそらく『生者』だ。なんとしても保護しなければならない。」

といつものように淡々と話した。

 ヒョーカイは彼の本来の姿をみたいと思った。そして、彼がテイに似ている姿を思い描いた。しっくりきたのは、彼が本当のテイの息子だからだろう。血縁者は王族のみだと悲しそうに笑ったテイが、一人息子の存在を知ったとき、どうなるだろう。彼は自分の子供をどう受け入れるのだろうか。彼はいまだに人形のような役割を背負いながら少しずつ機械を窺いこの世界を脱出しようとしている。

 なぜだか分からないが、ヒョーカイは初めてテイの気持ちを知りたいと思った。そもそも興味がないわけではない。本当の親子がこんなに近くに居る、奇跡。星夜という名前は飾りだろう。だが、テイが愛した女性の息子。それが偽りではないのはテイを前にして話していないからだろう。理由はたくさんあるだろうが、きっと話すべきことではないなんて考えているのだ。星夜は、性格的にそういう男だ。相手が実の父親だと知っている。だからこそ、すべてを許していたのだろうか。父親への甘えも本当はあるはず。人形にならざる終えなくても、気持ちはずっと向いていたはずだ。いつも一緒に仕事をしていると聞いた。それは、星夜が本当の姿で素を曝け出して、一緒にしたいと思ったのだと今なら分かる。

「星夜。」

無性に真実を打ち明けることを優先したくなった。

「なんだ?」

「やはり、テイと行動するよ。」

「・・・、今の話は内密に願いたいのだが。」

星夜はいつもとは違い、素の姿が一瞬だけ見えた。それは嘘偽りの姿が一瞬だけほどけた瞬間だ。ほんの一瞬でその姿が本来の姿へ戻った。それはテイによく似た若者の風貌をしていた。ただ、瞳は黒く髪の色がまろやかな赤と茶色の混ざった色がテイの特徴とほぼ一致した。それが、この世界の終焉による解けた魔力のおかげだろう。そして、星夜にはより強力な魔力がかけられていたという事実の反映だった。

「あんたはその話を何故しないんだ?」

「俺にはもう親はいないと公言している。テイが父親だという事実を国は秘匿としている。母が正当な血統を持つゼノロワの民の一人だという事実も含めて。俺は父親との再会を憂いていた。いずれは、テイが知ってしまう可能性も・・・考えた。だけど、もう父に母の面影がある俺を会わす理由はない。最後に父が母と決別するために王国は母を・・・。母の身を消滅させたんだ。ひとかけらも残さずに消した。父が命を助かった後、母が父をおいて去ったという嘘を話し、俺の存在は教えずに、そのまま。その心はきっと、きっと・・・」

星夜は星夜ではないその姿を晒していたことに気づいていない。


 そのとき、何の前触れもなくテイが現れた。

もともと、ヒョーカイと話をするために来ただけだった。だが、彼が目にしたのは星夜とは呼べない風貌の青年。彼の姿が自分によく似ているとは思った。そもそもかの国の王子だと知っていたからこそ、ひどい言葉を投げかけ続けたのだ。だが、彼がふと気がついてテイを見た。そして、テイもその黒い瞳を見た。その瞳が記憶の最も奥に眠る、大切な女性の眼だと瞬時に悟った。どういうことなのか、なにも言葉が出ない。

「なあ、名前があるだろう?それも封じられているのか?」

ヒョーカイは彼の名を聞きたくて、尋ねた。星夜という名を無理に与えられた青年の名を。このときにはまだテイがいることに気がついていなかった。

「・・・『テア』だ。母のアディアと父の名前を掛け合わせて・・・。テイ、何故ここに・・・?」

テイは何も言わない。その名が懐かしいのは彼が今も愛してやまない女性の名だから。そして、目の前の青年は魔力によってまたあの見たくもない姿に戻った。彼は確かにあの国の王子だった。嫌みを言っていた自分を殴りたい。

「テア・・・。なんで、だ?アディアはどうして・・・。」

テイはようやく理解した。あの国の王子だったとしても、それはあの国の元王だった自分が去る際に贄のように繋がれてしまった、可愛い息子だ。

「あんたが国を出て行くように仕向けられただけだ。母様は俺を産んだ後にあんたに異能を使い助けた。あんたが生きてくれることを願って。母様は俺にも同じ異能を使って、父のあとを追うように望みを託した。俺があの国に縛り付けられてしまうことは想像できなかったみたいだ。」

テアは話すしかないと理解し、離した。

「・・・お前を抱きしめて謝りたい。だけど、それはこの世界を破壊してからがいいのだろう。」

テイは怒りの形相で握りこぶしをしていた。だが、この世界の心臓部にいたるには時間がかかる。それに、今の一瞬でも息子の姿を見たことは、テイにとってどんな事柄よりも嬉しいことだった。

「俺はあんたと会うことは、望んでいなかった。母に似ている俺の姿があんたの心を抉るだけだと。」

テアは自分の姿が一瞬だけ戻ったことに気づかなかった。

「なるほど。お前が母親似というのはそうかもしれない。その黒い瞳は『ゼノロワの民』の証拠であり、『異能』を扱う術を持っている。異能がどんな力かは民が知っているだけ。そして王族はより強い力を受け継ぐ。昔、アディアがそう言いながら異能とはどのような力なのかを説明してくれた。」

テイは昔の記憶をたどるように語る。

「『その地に玉座を望むならば、彼の地を目指せ』『いずれは流れに沿ってそこに辿り着き』『宝物を隠した偽者たちが出迎える』『異なる者がその手を使い、偽者の力を手にして宝物を暴く』これは物語ではなく、ゼノロワの民の伝承だと言われた。王族がもっている力は偽者の力を指し、宝物とは王国を指しているのだそうだ。今でもゼノロワの国が存在していることは確かだった。そして、彼女はその国の王族の一人だと云う。王族が国に帰ることが玉座を望むことだと。そして、異能とは異なる者と呼ばれた人々が集い、血脈者となることで強き力を育んだという。今はかなり少ない人数しかゼノロワの民はいない。それでも王族が延々とつながり続けているのはいずれ玉座に戻るためだと云う。異能の力を持つ仲間を集めて国に帰るために、異能という力を受け継がせてきた。異能の力がゼノロワの民と理解させるから。テア、お前の異能は・・・」

「・・・。母様が話されたことをすべて覚えていたんだな。異能は人間の内面を変化させる力。母様が命を延ばせる力は人の細胞を書き換える力だ。俺は時間経過と共に人々の持っている魔力を削り取る力。ただ削るのではなく、その人間が気づかないように消し去る。そろそろ魔力がつきかけているはず。」

「『星夜』のか?」

テイの言葉にテアは小さく頷いた。照れているのがすぐに分かった。本来は星夜として全うしているのに様々な呪縛から解き放たれていくようだった。

「ははは。まさか、本当にこんなことが起きるなんて・・・。」

ヒョーカイはからりと笑った。不思議な感じだった。まだ夢の中にいるのだろうか。

「ヒョーカイ。俺も驚いた。どうしてこんなところに?」

お互いに、記憶を蘇っていることがもうわかった。テイは不思議そうに尋ねる。

「さぁ?俺も分からない。飲み込まれたのだろうとは思うけど。」

ヒョーカイはすんなりと答えた。

「それにしても、テイが巻き込まれたのはどうして?」

「あぁ?それはあの天然のソラが巻き込んだに決まっているだろう?あいつは、電波をキャッチしたらすぐに云えばいいのに。」

「ふふふ。懐かしい。三人の旅は続いていたんだな。」

「・・・。これからは二人旅か、四人旅だ。」

テイはテアを見た。テアは一瞬だけ顔が強張った。おいそれと、有名な人の中に入りたくないという気持ちと、父親の不名誉をなくすまではあの国にいるつもりだったから。

「お前が考えているのは俺の名誉回復だろうな。」

その様子を見てテイは少し不貞腐れた。テイは正真正銘の息子の存在を知って、その子に悪い態度をし続けたことがまだ、引っかかっていた。テアが息子ではない可能性は一ミリもない。あの姿を見て、そして、黒い瞳をみて、何も疑うことなどないからだ。ちなみに、愛する女性の名がアディアである事実を知っている者はかなり少ない。総合的に否定などする理由などない。それに対して、テアは謙虚で、文句を聞いても何も言い返さないほどに大人しい。それは今までの人生を鑑みてもそうなったのは必然かもしれない。あの国で、きっと奴隷のようではなくとも、父親の名誉回復を人質にこき使われただろう。それが本当の父親にさらに罵詈雑言のように言われた。たとえ、人形となっていたとしても、どこかで怒りはあってもいいはずだ。

「・・・テイ。変な気を起こさないでくれ。・・・とにかく、レナの元へ向かってくれ。今はこの世界でなすべきことに尽力してくれ。」

「戻ったら話があるが、いいな?」

テイはまっすぐにテアを見つめた。テイを見ることなく、

「そうだな、また星を観察するだけだ。」

星夜という役割に戻ることで話を流そうとした。

「テア、俺の顔を見ろ。」

それをテイは許さなかった。テアは恐る恐る彼を見返した。星夜という役割をこの瞬間だけ捨て去った。

「お前は、俺の息子だ。違うか?」

「それは」

「お前が認めなくともそれは俺が認める。お前は俺の息子だ。そして、今後は国に戻すつもりもない。お前は俺が連れ去る。いいな?」

「・・・。今、答えることはできない。この世界の終焉が来たら」

「ついてくる。」

「・・・。それは、今は」

「あぁ。だけど、終焉なんてすぐ来る。お前のわがままは聞かない。お前は国を飛び出したんだ。その時点で俺はお前と会うことが決まっていた。それだけだ。国に戻ることのない父親を見てお前は何を考えたのかは聞かない。ただ、俺が気がついて見逃すはずないだろう?俺があいつの忘れ形見を見つけたらそれは逃げられないってことだ。いいか?お前は俺とこれからは一緒だ。」

「・・・。もう、行け。レナを待たせるな。」

テアはそう言って、急いで去って行った。彼は返事をすることがどれだけ緊張することなのか、テイを父親だと理解してからも変わらなかった。相手はあのテイなのだから。





 テイとテアの会話を聞きながら、ヒョーカイはふと思い出した。

「なぁ、テイ。ゼノロワの民って、生き残りは多いのか?」

「・・・いや。玉座を壊した男がゼノロワの民だということは知っている。あの男はこの世界に呑まれている。」

「・・・?この世界にいるやつはやっぱりあの男、なのか?」

「もしそうなら、怒りで世界の終焉をどうするかわかったものではない。彼の異能は人を操り、その人の考え方をすべて否定させる。しかも、異能を複数持つ多種持ちと呼ばれる存在。ゼノロワ国が存在したとされる国は人を造り出すことに成功したと言われている。異能をいくつ持っていてもおかしくない存在は、ゼノロワの民の中でもより強い地位の者だと言われていた。王族ですら複数持つ存在は特に重宝されたという。テアもそうだった場合は何が何でも俺と一緒にいさせる。今度は死なせない。」

テイは強い口調で呟いた。

「・・・レナが操り人形になった理由が分かるだろうか?」

「それもそうだが、まずはセイラとセルスに接触した方がいい。彼らがどこの生まれなのか、予想しているが。」

「・・・?どこの生まれ?」

ヒョーカイはセイラのことを知らない人だと思っていた。

「俺の記憶が正しければ、ヒョーカイ。彼らは異界の地から来た存在。正確には多世界の人間。」

「・・・。」



 外の世界は広がった。その意味を理解している者は多い。多世界の人間は弱い人間を助けるということを考えず、虐げる。虐殺を行う者や実験を行う者。それ以外の多世界の人間はかなり少ない。旅行者と呼ばれる多世界の人間は暴れ回る多世界の人間を打ち倒すこともあったが、それはただ旅しているのに邪魔してくるからという理由だ。お互いの境界線を守ればお互い見なかったことにする。

 ただ、冒険者は違った。殺戮や実験をする多世界の人間を示しの法と呼ばれる魔法を使いその場で粛正した。冒険者はそのような多世界に害を加える人間を許さなかった。理由は誰も知らない。




「セイラとセルスは冒険者だったと記憶している。俺も旅をしているうちにそういう輩とも交流はしたからな。ただ、冒険者ではあるが、ただの冒険者ではなかった。二人が扱う魔法は絶対的な力を有していた。まるで、クリスタルを使っているかのようだった。」

「クリスタルを?」

「あれはこの世界では特殊な石だ。外ではただの扱いにくい宝石。だが、二人が言う話では、クリスタルは魔法石であり、種類によっては自分の魔法を飛躍的にあげる石なのだそうだ。いずれにしても、外から来た人間の話は興味深かった。二人は間違いなく巻き込まれたのではない。自分から来たと思っている。」

「自らこの世界に・・・?」

「冒険者だけは多世界から来ていながら異なる姿勢でやってきていた。俺はセイラと会話を交わしたことで何故、多世界からきたのか、はっきりした。冒険者はこの世界で行われてきた俺たち星の連なりのような集団がいるという事実だ。多世界でも粛正を行いながら目的を持って動いていた。それがただの集団とは違った。多世界を広げたのも冒険者だったようだ。何が目的なのか、セイラは」

「その先は云わない方がいい。」

 いつの間にか、約束した場所に着いていた。そこで待っていたセイラ・コウライは制止した。

「なんだ。記憶が戻ったのか?」

テイは不敵に笑った。

「記憶が戻るようになることはすぐに理解した。特に、『レナ=操り人形』と接触した直後に記憶が消えたから、皆よりも記憶の抹消が遅かったはず。記憶を消される前にやれることはやったからな。」

セイラは役から完全に抜けていた。彼の元からの性格がこうだということに少し驚いた。セイラはいつもたおやかで優しげという印象だからだ。本来はかなり好戦的なのだろう。

「セルスに関しては冒険者ではあるが、俺とは違う冒険者だ。たまたま共に過ごすことが多いが。」

セルス・フィルタスはセイラの横で無言で立っていた。鋭い眼差しをテイに向けている。

「・・・冒険者の話は今は関係ない。余計なことを云うなよ?」

セイラは意味深に云い、圧をかける。

「それもそうか。ただ、二人は役割から脱していることをレナにどう伝える気だ?」

「レナ?あぁ、あの人形か。俺はレナを操る人間に用事がある。あの男の元に連れてくように『指示』するために今はここにいる。」


 セイラは清々しいほどに、目的を重視している。消失した記憶がすべて戻った瞬間から彼の行動はやるべきことのために動いていた。目覚めが悪いだろうことも理解していたため、特に、レナという女性をみて苛ついた。彼女の人形という側面はある意味でセイラのことも指していたためだ。彼は組織の一人であり、使いっぱしりだ。手足のように使われ、死んでも歯車の一つであり、命もその魔力ゆえにクリスタルを使って復活させられる。命の最深部を少しずつ削られながら何度も駒として扱われた。組織の重鎮がやれと云えば、やる。彼にはその生き方しかない。それは、『レナ』という人形と一緒だ。彼女は駒だ。ただの駒。それなのに、彼女は生きているという錯覚をただずっともらっていた。人形に『生きる』という概念はない。あるのはそのたどる道。どんな風に生きるのではなく、ただ、敷かれた道を歩き、最後は死を与えられる。

 自分が見た中でも自分を思い出させられた存在は彼女以外居ない。ゆえに、寂しいと感じた。彼女を終わらせて自分も終われたら、と。そんなことはおきはしない。ただ、この瞬間も仕事をするためにこの世界にやってきた。この世界の中核に居る、あの男の命を狩るために。



 


 手元にはもう、何もない。一人残らず魂を刈り取った。

「・・・おかしいな。私の実験は成功したはずなのに。どうして、『聖なる者』が誕生しない?おかしい。私の魔法は完全無欠。何か穴があったとしても補えているはず。いや・・・。」

男のような者は、両手を広げる。

「魔力・・・!私の魔力が吸い取られている・・・?どうやって?魔力を吸収する魔法はこの世界にはない・・・。まぁ、いい。魔法が使えないなら、無理にでも発動するだけだ。私の肉体など消えても云い。それほどに、私は待ち望んだ。『リテイン・フォン』を呼ぶために。私にはそれを呼ぶ資格がある。命の源を呼ぶ資格が!」

狂ったように叫ぶ男は自らの最後に残った魔力を捧げ、肉体の消滅を行った。

 その空間は静かになった。『リテイン・フォン』が現れることはない。そこに命がないから。

「星夜様。わたしはどうすれば?」

居ない人に、声をかけたのはレナだ。レナだけは星夜のためにいた。

「星夜。わたしのことを愛してくれるのでしょう。」

瞳から伝う涙などない。ただ、人形だった。怒りも存在しない。主人を待つ、人形がそこにいた。魂もなく命も持たない。

「わたしとあなたは永久にここにいる。約束した。」

レナはただ佇んでいた。魂をこの世界に繋がれた彼女は星夜の命令しか聞けない。そして、星夜しかみていない。役割を演じることが星夜の為。それは自分のため。


 では、人間ではない自分はいったいどうすれば、考えて動けるだろうか。

『わたしは?』




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