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星の物語  作者: あおぞら S
それははじまりなのか
6/6

時を司る者

 暗闇の中、歩き回る者がいる。それがソラだと知っている者はおそらくすぐそばで昼寝を装っているカイだけだろう。ソラが何をしているのか、それを知ったところで何かが面白くなるわけでもない。あきれる理由以外ないのだから。だから、カイは寝たふりを続けた。

「おい、カイ!起きているだろう?ちょっと手伝ってくれ!」

ついに、ソラがカイに助けを求めた。

「・・・。」

とても面倒くさそうにカイは目を開いた。大きくあくびをするふりをしたが、

「こんなところで寝られる神経をおまえが持てるわけないだろう?っぽいふりをしたって無駄だからな!このあたりで例の物を探すって言われただろう?」

と言われ、真顔に戻る。

「真っ暗だろう。見える物も見えない。」

「・・・どうせおまえは見つける気はないだろうって言われたが、本当に動きがないな。」

「何か明暗でもあるのか?俺を動かしたいなら面白いことでもするか?」

「・・・べつに、何もしなくてもいい。おまえが来た理由がなんとなく分かるからな。」

「なんだ、知っているのか。」

「俺の力を知りたくて。あきれた理由をだよ。」

ソラはそういいながら、ひどくあきれていた。ソラとて、カイがもつ力を見たい気はするが馬鹿らしくてお互いに誹りあっている。お互いに素直にならないのはその力が絶対強者が持つ力だと知っているから。そしてお互いに喧嘩になれば星一つ消し飛んでもおかしくはない。認め合えばお互いが楽になるのにとユミに諭されるのだが、あいにくとそう言われてはいそうですねと協力することもない。

「明かりくらいはつけたらどうなんだ?」

カイは眺めるだけ眺めて言う。確かに明かりがあれば少しは探しやすくなる。

「・・・。このあたりに明かりを灯せば・・・、おまえは気づいているのにどうしてそういうことをいう?」

カイの言葉に素直に答えそうになってすぐに気がつく。

「おまえなら、ああいう厄介者は一瞬で蹴散らせるだろう?」

「そうだな・・・。まず、おまえが視界からいなくなってくれれば・・・。はぁ。本当になんでついてきたんだよ。」

ソラが徐々に怒りを孕んでくる。

「さっきおまえが言った。おまえの力を知りたい。それだけだ。」

「興味がわいたのが、遅いだろう?俺の力なんて見飽きたはずだ。」

「『炎の神』にふさわしい、炎の力のこと、ではない。おまえが持っている本来の力について。」

ソラはようやく、確信を告げられ、その行き場のない怒りを鎮めるために一度座った。炎の力は自分が持つ一部の力。一番扱いやすく最も弱い力。

「誰から、聞いた?」

「創造主と名乗る神様だ。おまえの力はほんの一部で最も弱い力だ、と。」

 創造主と名前が聞こえた瞬間、ソラの周りからぶわりと猛烈な炎が噴き出した。

「・・・あいつが生きていたか。」

ソラのその声はいつもと違った。聞くすべての者物に聞こえて響く。

「・・・そいつはどこにいるんだ?」

静かに話しているのに、強引で強く脅されているようだった。

「死ぬ直前の話だ。あいつが死ぬ間際にソラのことを言ったから・・・。」

初めて会ったわけでもないのに、目の前のソラは別人だった。カイはあの死の間際に出会った神が何故ソラに執着していたのか、今理解する。



その昔、世界が穏やかで神ですらただ生きるために穏やかに暮らしていた。その花園のような世界に永遠に眠り続けている存在があった。ティディーアと呼ばれたそれは、創世の書を使う『はじまりの者』と呼ばれたのだが、あまりにも美しく姿を見た者は眠るその存在に脅威を抱こうなどと思わず、そのまま通り過ぎるのだという。またその存在によく似たディーアに興味を持つことでティディーアの存在を忘れるのだ。



「死ぬ間際に会った?」

「あぁ。俺が例え死ぬことになったとしても蘇ることができる特殊な存在だということは知っているだろう?」

「知ってはいるが、何故死ぬことになった?あの男が・・・、何のためにおまえに会う?」

ソラの独り言は何かを恐れているかのようだった。

 創造主と名乗る神はソラを起こし彼からすべてを奪おうとした。その力も、その姿も、そしてその存在も。彼はソラという名を与えられた。名を与えられたソラは力のほとんどを制御できなくなった。持っていた力で荒ぶるように世界を削った。だが、その前にその所業を止めたのは名もなき存在だった。グリーンと呼ばれたそれは、ソラよりも強い力を持っており、創造主が行った行いを制御させ、ついでに創造主に呪いを与えた。

「・・・理由なんてたいしたことないだろう、な。俺を気に入ったわけではないだろうし。ただ、お前と接触するために俺を挑発したんだろう。」

「それが何を意味するのか理解できるのか?」

ソラの言葉は怒りではなくあたりに巡らせた音に反響し、やがてカイの魂を震わせた。

「意味なんて・・・」

「カイ、あいつがどこかで何かを企むならば、それは俺だけではなくお前にも意味のあることになる。本当の力とは何か、ではすまない。俺の力が知りたいのか?」

カイはソラを見て何を伝えればいいのか分からなくなった。とても、とても恐ろしい何かを見ている気がした。

「・・・いや。すまない。」

謝罪がこんなにも軽く、まるで意味のない言葉なんて感じたことなどない。相手はあのソラだった。そう、ソラなのだ。なのに、彼は違う。それの意味を知りたいのか?否。知る意味などないだろう。知ってどうするというのだ。

「・・・暇なら帰ればいいだろう?」

ソラは元のソラに戻った。今までの会話をすべて流したのだ。

「・・・帰るに帰れないだろう。お前の護衛を任されたんだ。」

カイはそれに感謝しつつ、答えた。

「護衛?なんだそれ。星の連なりの最強と謳われた俺に意味があるのか?」

「・・・お前の護衛であり、この星に存在する『ホシヒト』回収のためのお前からの護衛だ。」

「・・・ああ、なるほど。俺が嫌いなホシヒトを俺から守るのか。はあ。俺が嫌いな存在を全員殺すと思うか?」

「ああ。当然そう思う。」

「ならカイはもう消し飛んでいると思うが?」

「おれは不死身だからないな。」

「ははははは・・・。呪いを乗り超えたやつが言うとすごいな。」

「なんで、呪いだと知っているんだ?」

「俺の瞳には割と正確にそれらを映すからな。レナの呪いもみえている。それを解除するには何が必要かとか、そういうものも。」

「・・・レナは知っていそうだし、それを誰にも知られたくないだろうな。」

「俺がそれを言うわけないと知っている。そして、あいつも、な。」

ソラは暗闇に明かりを少しだけ灯し、何かを探している。

「星夜はレナを想っているからな。スズだって・・・。何故ユミはソラを好いたのかが分からない。」

「・・・それは俺がユミを口説いたからだろうな。彼女は俺がこの世界で守る相手だ。」

ソラがそう言うと、カイは小さく笑った。それはソラを心から友人だと思っているからだった。カイはソラを馬鹿にする言葉を多く口にするが、カイはソラを大切にしていた。友人だと思っているし、何よりもカイが唯一彼の力を純粋に褒めてくれた相手だったからだ。相手を認めるには様々な手段があるだろう。ソラはカイの力を認めてくれた上で共に戦ってくれた。彼のことを認めるにはそんなに時間など必要なかった。ただ、ソラがカイを認めているかは定かではない。一方的な友情でも今のカイには良いのだ。

「ユミは俺を最初は嫌っていたからな。」

カイが笑ったことを否定的と捉えてソラは拗ねたように呟いた。

「そんなことはなかったようだが?お前をユミは好いていた。ハルカがお前に付きまとっていたからだろう?だからユミはお前を好くように見せなかった。」

「・・・よく知っているな?」

ソラの手が止まった。何かを見つけたようだ。

「お前を見ていたからな。観察していた。それに、ハルカをどう始末するか考えていた。」

「・・・それは、ハルカの始末を今も考えているのか?」

「お前は何もしないのか?」

ソラは手を止めて何かの力を使っている。

「ハルカは始末しないとあの老婆の呪いを未だに使ってユミを追ってくるぞ?」

「マザの聖地は片付いていないことぐらい、理解している。だから集めているだろう?力を持つ者たちを。ハルカはマザを崇め今も心酔している。いずれはこちらに手を出すだろう。」

「・・・それで?見つけたのか?」

「ああ。この地に眠る伝説の秘宝とやら、だな。『青い結晶石』は赤き光と呼応し、眠りし魂の目覚めを促す。記録の通りだな。『トキノワ』がいる場所に繋げてくれるはずだ。」

ソラの手元には青い光と赤い光が仄かに輝き、いつのまにか暗闇で輝きを増した。

「その『ノワ一族』だけが本来世界と交わらないというのはどういうことなのか。」

 淡い輝きの中、あまりにも異質な空気が含まれていく。横になっていたカイも起き上がってソラのそばに立った。

「やれやれ、私をよんだやつは誰だ?」

異質な空気を纏った黒髪の青年が突然現れた。背が高くきちんとした身なりに耳の右と左に赤と青の宝石のイヤリングをつけている。

「ほう、ソラか。驚いたな。こんな時期に呼び出すとは以前よりも早いのではないか?」

二人を見た青年はのんびりと言う。

「・・・周回している世界とは本当のことなんだな。」

ソラは何かを理解していたように答える。

「なんだ、知っているのか。そうだ。お前もいずれそのせいでいやな目に遭うだろうが・・・。今は今の生活を楽しむことを勧めるぞ。この世界にはまだ平和がありそうだ。」

「言われなくてもそのつもりだ。それより、例のあいつは今どこにいる?」

「うーん。まだ君と会うのは早いだろうな。ただ、記憶があると言うことは、早くに会いたいと考えてもおかしくはない。あいつはいる場所で待機しているだろうし。」

「俺が会いたいときに会えないというのは面倒だ。呼び出すために何か行えばいいと考えたんだけど。」

「なるほど。私を呼び出したのはあいつを呼び出すためか。確かに俺は時を管理するための一人だからな。ただ、俺ですらできないことをあいつはしようとしている。だから今は何もできないだろうな。」

「だが、あいつが準備をしていてそれを手伝うことはできるだろう?」

「・・・ふむ。どこまでの記憶を持っているかによるだろう。今回は不思議なことが起っていると理解している。はじまりの者の記憶があると言うことは、連なる者の記憶もあるだろうか?」

「・・・いや、テイの記憶は完全にない。ただ、あいつが苦しむのは俺にとって良くないことだ。」

「それは君の望む考えだ、ソラ。私には連なる者たちの記憶も正しく戻っていると理解している。その証拠に、君がその記憶を封じたことを今ここで話した。苦しむ彼の記憶を封じたのだろう?」

青年は鋭い目つきでソラを見た。ソラは一瞬だけ瞳を曇らせる。

「・・・。そうだ。俺にはテイが苦しむことだけは許せない。あいつは俺のただ一人の理解者であり唯一の俺の友人だった。」

「ならば、その友はひどい目に遭っていると言うことだろう。久しく会っていなかった大切な存在の記憶をその手で封じられたのだから。理由はなんであれ、君が記憶を封じたのは君の為だよ、ソラ。」

「そうだろう、な。ただ、世界がおかしくなっているならば、それはどうでもよいことのはずだ。」

「さて、どうだろうな。記憶を持っていると言うことは幾重にも重なり合って今ここにいると言うこと。ソラ、君の記憶にマザという存在が今まであっただろうか?」

「ああ、それはもちろん。」

「では、マザの片割れと呼ばれる存在の記憶はあるか?」

「・・・いや、知らない。」

青年は手のひらを広げ不可思議な力で奇妙な者を映し出した。

「マザは自らの魂を半分に割り、もう一つの魂を作り出した。マザは神であり、その力が強いだけでなかった。必要ならば新たな命をその身から生み出すこともできるほどの存在だ。そして、その半身が朧気と呼ばれる神だ。君の力を手に入れようとした創造主と名乗った神の前身だ。朧気がさらに生み出したのが創造主と名乗る神で間違いない。そして、君の力を守るために動いたのが君のよく知るあいつだ。あいつが君の記憶をある程度消したのは、世界の廻りを終わらせるためだ。記憶が戻っているというならば、それはもうすぐ終わるということ。終わりが近いと言うことは今まで何度も廻り出会ってきた者たちの記憶も戻るだろう。」

「それは俺の記憶も戻るのか?」

黙っていたカイが言葉を発した。

「カイ。君の記憶が戻れば、君は私の本当の意味を知るだろう。時を司る者として、君は私の上司なのだから。世界が廻るということがなければ、私は君のそばを離れずにいたいと考えていた。思い出してほしいと思うのは私の身勝手だが・・・。また会えてうれしいです。」

青年は微笑んだ。カイはその仕草に懐かしさなど微塵も感じないのだが知っているという気がした。

「ソラ。どうしても探すというならば、ハルカが悪さをする前にその場にいくことだ。あいつはハルカが持っているマザの根源を奪うために動く。そして、創造主と名乗る神はレナとスズの義父だ。レナの呪いを操作し、あいつの邪魔をするために動くだろう。それはソラの力を奪うためでもある。君は強いが、それは弱い力も持っていると言うこと。あいつは廻りの根源を止めるために動いているがそれが君たちのことを守るためではない。私も手助けできることがあれば良いが、私はただ時の流れを監視するという役目しかない。いずれ、カイの記憶が戻れば、私の本来の力が作動するかもしれない。今は、ハルカを目指し、創造主の動きを監視するんだ。」

青年はそこまで語ると小さく笑う。どことなく、その笑みが過去の誰かを思い起こすのだが誰なのか思い出せない。ソラもカイも、その記憶をたどろうとした。

「カイ兄さんもはやく思い出して。」

最後、そうぽつりと零して消えた。

 カイはその瞬間、何かを見た。


 前世、なのだろうか。いや、いくつもの記憶が混じっている。カイ兄さんと呼ばれたことは数え切れないほどある。それが、幾人ものヒトに慕われた自分の記憶。自分が時の大魔道士であったあのときも、時を司る魔法使いであった時も、どのようなときでも自分が持っていた力は時を操る力だった。そしてその力を行使するたびにヒトを恐れさせ、離れていく。その中には実の親もいた。ただ、いつも受け入れてくれたのは、星の連なりの者たち。ソラ、テイ、ヒョーカイ、ユミ、レナ、スズ、星夜、それ以外も大勢。セイラやセルスといったあとから入ってきた者たちとだって楽しい生活をいつの間にか送っていた。それだけではない。自分と同じ時を操る力を持つ者たちが集まり、いつの間にか時の遣いヒトと名乗り、カイを筆頭に争いごとを止めるようになった。それは星の連なりにとっても大きな戦力になった。やがて、マザの追っ手から逃れられなくなっていくにつれ、ひとりひとりと命を散らした。星夜が最後にマザの毒牙にかかった瞬間、世界の終わりとなった。

 まるで、長い映画を見ていたような。そんな気分になる。カイは、小さく呟いた。

「キリトがこの世を去ったのはいつだったか。」

「・・・さっき会っただろう?」

「はっ、はははは。俺は、忘れていたのか?あいつはずっとそばにいたんだ。」

「いいや。今回ははじめてだろう。カイ。しっかりしろ。お前は時の魔道士として、今回は生きている。それが事実だ。」

「・・・。いいや、違うね。ソラ、お前の友人だったテイだって思い出させてやれ。俺たちはずっと戦っているんだ。何度も繰り返しているならば、絶対に最後がある。そうだろう?」

「・・・。終わらない可能性をどうしてそんな風に言える?」

「そうだな。可能性を見ないのと、ただ、俺の記憶が正しければお前はいつも前を向いて困難も諦めずにつき進んだよ。過去よりも未来が大事だと。お前は死ぬまで言った。星夜を守るために最後まで、な。」

「それは知らないからだ。知らなければ何も怖くない。知っていることと知らないで戦うことはまるで違う。現実は徐々に疲弊する者たちばかりだった。星夜があの神から受けた呪いは見るも耐えない、恐ろしいものだった。それが今回もきっと起るだろう。そして、同じようになる。」

「あいつとは、みどりのことか?グリーンか?名前が存在しないあいつをお前は頼りたいのか?」

「そうだ。あいつが最強の存在だと言うことを忘れているなんて、馬鹿だった。あいつが何もかも」

「ソラ。あいつが手を貸す理由があるのか?いや、そもそもこの輪廻があの馬鹿げた存在のせいならそれは悪手ではないか?」

「それは・・・。」

「俺は一度あいつに聞いたことがある。お前が倒した方が早い、と。」

「・・・。」

「あいつは、倒すのには何回も死んでもらう必要がある、と答えた。今のこの状況を起こしているのはあいつだ。」

ソラは黙った。ソラだって理解はしていた。あの存在がただ何もしていないわけではないということを。それが、輪廻を回すことだということも考えがあって行っていることも。それがこの世界のすべての人間の魂を使った大きなことだということも。それでも求めるのは、心の安念であることは変わりない。

「・・・何故、ソラを一番最初に必要だと思ったのか理解した。俺にとってお前は今までもそしてこれからも必要な存在だからだ。おそらく『最期』はお前が終わらせる。時を司る者として予言しよう。お前はこの世界を終わらせる存在であり、必要な者として『時の知者』が描いた存在だろう。お前がその責務を背負う者として『外側の存在』がお前を最果てに導くだろう。俺はそんなお前と友でいたい。」

カイは真顔で淡々と未来予知を発現した。カイは時を司る者であり、未来を予知した場合、その未来は百パーセント当たる。その未来が外れることはない。どんな未来かをここまで具体的に発現させたのは彼にとってもあまりにも驚くべきことだ。だから、最後の言葉は照れくさい言葉であっても紡ぎたかった。カイの命は限りなどないが、ある特定の時間が過ぎれば彼も死ぬ。それは、何度も繰り返した世界で明白であった。彼のクリスタルの輝きがその瞬きを失せたとき消える。彼もまたクリスタルを融合された命だった。クリスタルは延命装置にもなるが、その分その命の数だけしかもたない。それはヒョーカイもそうだが、その人間の命の重みを知っているだけ、自分の命を軽んじることもある。だが、それはカイにはもうない。自分にはどれだけの命の回数があるのか、思い出したから。カイは死んでも良い回数を理解し、その命の限り、ソラも含め何人もの命を守ることを決意した。

「俺と友人・・・?カイ、変なことを考えるなよ?俺にとってお前は・・・。」

「俺にとってお前の友人でいたいと願うことはお前の願いに反するだろう。だが、それでいい。」

「よくない!俺はお前の友というだけで・・・。」

「殺されることもあるだろうな。だが、俺に遠慮をする必要はない。お前は世界を終わらせるためにいる特別なんだ。俺とお前の差はそこだろう。」

カイはどこかおかしいという気持ちはなかった。むしろ当然のことだと納得していた。ソラはもともと『特別』だという事実があるだけだ。だが、世界が終わった後はきっと・・・。

「どうして、そんな風に納得する?変だろう?同じ命だ。」

「世界は一つではない。ソラ、その言葉を誰が言ったか知っているか?」

「・・・」

ソラは苛々した様子で俯いていた。

「あの存在だ。俺は死ぬだろうと思っていた。だが、蓋を開ければ違った。世界は終わる。でもこの世界だけだ。それから先は皆がおのおのその人生を紡ぐのだ。もちろん、繰り返されたこの世界がどこまでの命が外側に逃がせるかは分からない。」

「は・・・?外側の世界?」

「今まで忘れていたが、この世界は最も小さな世界『第一ヲード』と呼ばれていたはずだ。神とクリスタルの世界。世界はあまりに広く、この世界は小さな世界であり、廻る理由も『とても小さい世界』だからだ。この世界を廻らした理由はまだ分からないが・・・。とにかく、でるためにはソラという特別が必要だと言うこと。そして解放のためにあの存在が動いている。」

「・・・。話が吹っ飛んでいる、けど。でも父さんが昔、外から来たと話していた。父さんは嘘なんて言わない。俺の親になったのもあいつとの契約だと・・・。」

「今ここで話し合っても埒があかないだろう。俺たちはキリトの言うとおりにハルカを追いかけて悪さを止めよう。」

二人はそこでようやくたくさんの事実と思われることと、先に進むことを思い出した。


「まだ、星夜に話すことか微妙だな。」

ソラはぽつりと零した。

「・・・。星夜が記憶を覚えている可能性もある。どちらにしろ、別行動を恨むことはない。」

カイは小さく笑みを零した。間違いなく、星夜の記憶は戻っているだろう。

「カイは帰って必要な者と行動したらどうだ?」

「必要な者はお前だ、ソラ。だからこのまま旅のお供をさせてもらう。」

「・・・なんだかすごくやる気だな。今までと違うのは・・・無表情を消したことか?」

「ああ。もう偽りなどいらないだろう?俺はお前を最期まで連れて行く。俺は・・・外の世界に戻るだけだ。」

「・・・その外って言うのは俺は何も分からないな。俺はこの世界の人間だろうか?」

「いや、そんなはずない。俺もお前も外にいた。理由は何だったか・・・。とにかく、外を目指すにはこの世界を終わらせることだからな。」

ソラはどこか腑に落ちない。だが、カイの晴れやかな顔は彼が真実を思い出したことによるものだ。そしてまるで昔一緒に旅をしていたみたいな言い方をされ、覚えてない自分に腹が立った。






 複数人で飛ぶライガーはのんきな旅路がさらにのんきにさせた。

「おいソラ。カイが苛立ちで頭が禿げるぞ。」

黄金色の髪で赤い瞳の青年がソラに向かってそう告げる。

「テイ、俺はこのライガーを一生懸命乗りこなそうとしているのがみえないのか?カイの頭は禿げないだろ!あいつは桂をかぶっているんだ!」

その瞬間後ろから鉄拳が飛んできた。

「ソラ、今すぐ訂正しろ。」

黒髪の黒い瞳でターバンを巻いている青年が睨み付けて言う。

「うるさいな、ちょっとジョークを飛ばしただけだろ。それにしてもこの時間は時空の歪みが起りやすくて、最近噂の出られない世界とやらに遭遇するって聞いたけど・・・。」

「はあ?もしそうなら、是非行ってみたいかも!」

テイが明るく笑う。一方カイは、

「ありえんな。時空の歪みは最近では計算された日に生じるはずだ。そんな妄言が信じられると思うか?」

と首を振る。

「あり得るかどうかは分からないけど、俺の直感が今日現れるって・・・。」

「「・・・」」







 ソラの直感は外の世界でも外れることはなかった。そして、今ここにいる。利用されているのだろうと思う。おそらく何かの歯車にあう存在を招いたのだろう。それが、ソラだ。

 カイは今も昔もともに旅をしてきたソラを置いていくつもりはない。無論テイも一緒だ。三人は腐れ縁で旅をはじめ、いつの間にか終わらないこの旅を楽しんでいた。三人はそれぞれ美形であるが故に、色恋沙汰は多かったが、三人がどこかで分かれなかったのは三人ともそれぞれがその経歴故に死を凌駕した存在で、まともに恋をすると相手とは死別するからだ。三人はただ世界をまわる旅が好きで、カイもソラもテイも各々が一生のパートナーと認識したからだ。恋愛ではない友情という形のパートナー。



「この世界がどれだけソラを理不尽に扱ったか、いずれ思い知らせよう。俺の友を傷つけたこと、思い知らせてやる。」

カイの独り言が誰かに聞かれることはないはずだ。いや、例外を除いて。







 何かを救うために動いていた。だけど、それを救うには必要なものがあった。考えてもきりがない。でも、必要な者を取り寄せていくうちに気がついた。ありあまる存在、に。

「思い知らせてやるって、怖いな。まさか、気づかれていたのか・・・。理由を説明しても赦してくれないだろうし。喧嘩を売った訳ではないけど・・・。うーん。そうか。仕方ない。俺は陰に徹しよう。あの存在たちとは交わらないように。」


 世界の揺らめきがひそひそと会話している。瞬く『無』は闇の中を反射する。この世界の命があとどれほどで終わるのか。

 世界の終わりは世界の命の終わり。誰が、それを悟るのか。世界の命とは誰なのか。


まだ終わらない物語がもうすぐ命を散らす。





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