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星の物語  作者: あおぞら S
それははじまりなのか
4/4

旅人の歩きかた そのいち

 彼は自由だ。そして、束縛され続けている。




 ある者は云うだろう。この国の王はとても酷い王で、民を見殺しにした、と。

 ある者は云うだろう。この国の王は魔女に操られ、民とともに死んだのだ、と。

 結論からいえば、どの結末も一緒であり、王も民も死んだのだ。生き残った女が今も生きていれば、真実を聞けたかもしれない。しかし、この国はその女の手によって滅びたことになり、その女も何故か死んでいる。そして、国は続いているのだ。女も王も民も消えて。


 ここには三種族の生き物が住んでいる。ヒト族、星人族、ノワ族。ノワ族は限りなく精霊族に近しいが、根源は大きく違う。精霊はあらゆるものから芽吹くものであり、ノワは時、時間を支配する人神の一人が創ったものだ。だが、創られたあとの長い時の流れがノワに生命を与え、生き物として繁栄できるようになったのだ。




 生命が最期にたどり着く場所。それが、死界だ。そこには博士と呼ばれるヒト族がいる。博士は死界の守り人に連れてこられた、死神と呼ばれる眼を持つ類まれなる存在だ。死神の一族が淘汰されたことで、死界への道が狭まった。それは生命の循環を途絶えさせる一因になる。

 そこで、死界の守り人は博士を連れ去り、死界に閉じ込めたのだ。博士は命があるまま、死界で永遠に生きる事となった。

「あの頃から変わらないな…」


彼は博士と呼ばれる以外に名前がもうない。名前を失うということは生命を失ったとカウントされた。守り人は博士に死神の役割をするように伝え、それ以来、博士は死神の人形を創り出し、死者を迎えに行くよう、指示した。博士が死ぬことはなくとも死界から出ることはできない。そして、死ぬことはない。博士は唯一の世界の果てで生きているヒト族だった。

「…やあ、キミは何者だい?」

そんな世界の果てに流れ着いたのがこの私だ。私は死者ではない。

「お前とは会ったことがないな。」

俺は今まで繰り返した時の流れで、唯一出会うことの無いヒト族だった。その時初めて死界に流れ着いたことに意味があると理解した。死界にヒト族及び生者がいると考えなかった。

「えー?僕も初めて会うね。」

「私は生者ではない。」

彼は笑う。

「それは分かるよ。」

「死者でもない。」

「うーん…。神様?」

彼は唸って考えた。彼は死神の末裔だと、一目見てわかった。死神とは死者を生命の流れへと導く神の総称であり、またの名を『生命の守り神』と呼ばれた。

 彼らは生命を巡らすことを宿命とし、すべての神を統治していたのだ。それができることを妬み嫉み、やがて死神と呼ばれ、一族は減った。彼らの消滅こそすべての世界の終わりだと悟った時、人々は恐怖と同時に再編を望んだ。世界が別の形になることを。

「神様とは、特別な力を持つ者のことだろう?それはお前も同じだ。」

「…では、キミは誰だ?」

「私はこの世のすべてだ。ヒトの姿を保っていてもそれはお前が望む姿だろう。」

彼は途端に首をかしげる。そして頷く。

「ああ、つまりキミは世界、か。」

「理解したと言うことは、やはり死神の力は受け継がれ守られたわけか。」

彼はにこやかに笑う。

「僕が最後の一人。力を恐れた者たちが仲間を殺したんだ。」

彼は誰も憎みもせず、ここにいる。それは神であることとは違うのだろう。彼は太古の神であり、今まで会わなかったことで助かっていたとも言える。会うことのない存在に会うことで、私はある意味で救われた。

 彼はヒトになった神であり、永遠の世界で初めて永遠とは違う『存在』であり、己が望む『変化』だ。

「僕がやっていることを話そうか?」

彼は明るく話す。

「僕は世界を広げようとしている。キミは僕と同じように外へ向かおうとしている。」

「…。」

「繰り返している世界はもう見飽きた。でも、きっかけがなくてね。だから、僕は世界を広げるために穴を開けることにした。レナの呪いを利用し、双子が持つ神の力で本来消滅するはずのマザの聖地の復活。」

確かに、マザの聖地が消滅することは永遠に変わらない。そして復活はあり得なかった。何度も繰り返す世界で、マザの聖地が新たに出現した事は今までに起きなかった。今回現れたマザの聖地でマザが今まで呪いによってふたつの魂に裂けていたことは誰も知らなかったのだ。繰り返していた世界に変化を加えたのは彼だった。

「キミが世界であるなら、僕はキミを欲しいと思わない。僕はこの世界が、大嫌いだから。この世界はキミのためにあるだろうが、キミもこの世界が嫌いで世界を破壊するために頑張っていた。キミは…外の世界からきた。僕はこの世界とは別の世界から流れてきたんだ。外の世界とここが閉じる間際に。」

「…。」

「この世界を創り出した人物を探していた。世界と呼ばれるキミを知った時に絶望したよ。この世界の『魂』であるキミは殺せないし壊せもしない。キミがこの世界とは別の世界から運ばれたから。おそらくキミを破壊すればこの世界は全ての調和を失くすだろう。でも、キミは外の世界の存在であり、『生命』を宿している。僕は『人殺し』はしたくない。この世界にどうやって運ばれてしまったのか…。」

彼は考え込み、呟いた。

「キミが望むなら僕はこの世界に彷徨い込んだ、他所からきた者たちを探してあげる。この世界はキミを捕らえるための牢獄なのだろうね。」

彼はそう言うと私から少し離れた。

 ただ何もない空間なのに、澄んだ音が響いている。

「お前はこの空間から出ないのか?」

「何故?どこも似ている。ここはキミの体内だよ?どこも同じさ。」

初めて、そのことに気づいた。

 この世界は自分という意識とほぼ一緒であり、寝ても覚めても何も変わらない。夢の中にいると感じたことがある。そしてその度に意識がこれは夢ではないと認識させるのだ。ただし、それは確定的ではなかった。今までは。

「お前は誰だ?私の知っている博士ではない。私の知る博士に似せた何だ?」

相手は驚き、固まっていた。

「残念だったな。お前は、私を誰かと勘違いしたのだろう。なるほど。この世界は時を止めて封じられていたのか。」

「貴様は…」

「久しく眠っていたようだ。『神』、グラストだな?お前の大事な『ソラ』を封じ何をしようとしていたのか…。愚かだな。」

博士、否、神グラストは瞬時にその姿に戻り、私から距離をとった。

「何故ここに…」

「そうだな、私も知りたい。おそらくだが、原因はお前だろう。お前がこの時の牢獄を創り出し、私を眠りへと誘ったことが原因だ。私は全てを司り私がお前たちを常にみているのはよく理解しているはずだ。お前が行った行為は私の一部に引っかかりを与え、私を呼び出したのだろう。お前が神である以上、私の視線を惑わすことはできない。時の牢獄を創るのはたいそうな労力だったがな。」

「…」

グラストはただ無言だった。この世界を創り出すのにどれほど画策し力を使い、人々を誑かしたか。たった一つの魂であるソラを手にするためにこんなに懸命に動いたことはなかった。ただ愚かだったということは相手を間違えた、ということだ。ソラは確かに大きな力を持っている。だが、目の前にいる存在を忘れていた。そしてソラをも凌駕する力を持ち、絶対に対抗心を持ってはいけない相手を忘れていたのだ。頭が働いていればやってはいけないことだと気付いたはずだ。何かに溺れた。それは自分の出過ぎた力か。いや、おそらくは持て余した時間かもしれない。

「わたしは愚かだ。」

「そう理解しているなら私から何か言う必要はないか。」

相手は価値のない存在をただ見つめるだけだ。

 グラストは、ソラの力が欲しいと思っていた。だが、それはただの神には持て余すもの。それなのに欲しいと手を伸ばした。おそらく、今後グラストはソラとは会うことは赦されなくなるだろう。過ちを赦すほど、相手は興味を持ってくれていないからだ。それは『死』と一緒だ。

「グラスト。お前がこれから行えることは二つ。この世界を終わらせること。2つ目は…」




 桜吹雪がさくら大姫を顕現させた。

「りゅう。」

さくらは小さな声で愛する者の名を呼んだ。相手がもうすぐ戻るだろう。ここは静寂だがおそらく迷い込んだまま失せてしまった愛する子を愛する者は連れて来る。自信があった。何故なら目の前に立つ『世界』がそう言ったから。

「…時間だ」

さくらは目の前から突き荒む風を受けながら涙が溢れるのを感じた。

「母さん!」

最初に受けた衝撃。母と呼んでくれたのはいつのことか。

「さくら。」

そして、愛おしい人の呼び声。

「おかえりなさい、りゅう、ソラ!」

愛おしい者たちが帰ってきた。





「2つ目はお前のその力を失わせること。お前が神の力を失えばお前はソラの友になれるだろう。お前が欲したのはソラの力ではない。お前が欲したのはソラの隣だ。」

グラストはしばらく何を言えばよいのか分からなかった。しかし、頭では歓喜する自分がいた。何をどう表現すればよいのか。おそらく、

「ありがとう」

それだけでよいのだろう。



そのいち 終わり



 

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