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星の物語  作者: あおぞら S
それははじまりなのか
3/4

ソラとテイとユミ

ある日の昼下がり。

 星の連なりにはたくさんの種族がそれぞれの理由で仲間になった。

 ソラが連なりの一人になろうと思ったきっかけはユミという存在があったから。ユミはまっかに燃えるような髪を持ち、とても澄んだ緑の瞳を持つ癒しの一族だ。優しい彼女は笑うと頬に小さなえくぼができる。

 彼女は癒しの一族の生き残り。そして、それはマザの殺戮によってそうなったのだ。マザは自らよりも美しく清らかな女性を酷く憎み妬み、そしてその手で消し去った。一方で、美しい男子を欲し、守ろうとする家族を消し去り、自らのそばに置くことで安堵していた。マザは恐ろしい姿をしたただの哀れな子どもだった。醜い姿であることを恥ずかしいと感じ、周りにある美しいものを消して、自分を癒す存在を欲した。それが、神の力を持ったことで、残虐な行為を平然としてしまったのだ。許せる行為ではないが、彼女が片割れを消失したことで本来の制御が行われなかったのだ。神の意志がないままに神の力を行使した結果の末路ともいえる。


 ユミは癒しの一族中で最も美しい女性だろう。彼女が、一族の姫であったことを知ったのは共に行動してだいぶあとの時だった。彼女の口から囁くように紡がれた、太古の言葉でのことだ。

『玉座を賜ることはもうございません。わたくしに帰る国があればそこに席がございましょう。』

それは、とある王国での会話だった。王子が結婚を申し込むという話をしているときのことだった。王子は冗談で玉座をユミに与えると話した。ユミは唐突に太古の言葉で返したのだ。王子には理解できなかった様子だが、ソラは呆気にとられて馬鹿みたいな顔をしただろう。ユミはそのあと小さく笑うと王子にいらないことを伝えたのだ。

 ユミにソラが何者かを教えたことはない。自分が、とても強い力を持つこともそれを何故使わないのかも。だが、ソラはユミを愛していることを伝えるつもりはなかった。愛を交わすことは許されないからだ。この世界で『世界』以外を愛することは許されていない。想い募るものが、日々増えるのに、何故囚われるのだろう。

 ソラもまた、解放を願うのだ。あの存在と同じように。




 テイには二つの意味で誰からも必要とされていない。一つは主であったはずのソラ、インティティが消滅したことで、ティティーアという種族を捨てざるおえなくなったこと。新たにテイが姿を保つために風の民となったが、ソラは記憶をかなり失い、再び出会った時には全て忘れられていたこと。

 テイはソラを好きでいた。恋愛感情ではないが、家族の愛とは少し違う。相手を好きでいたからこそ記憶を消すことはなかった。ただ。ソラは何かと常に戦っていて、それを屈服させるために行動していることはずっとそばで見ていて気がついていた。そして、それがあの存在に対するときにより顕著に表れた。あの存在を守る意識と自分の中にある何か。

 ああ、そうか。自分はずっと、この時のためにいたのか。自分が何故造られたのか。

『ソラ。俺はお前の、代替だ。お前が仕事を放棄した時のための。俺はそのために生まれ、そのために破壊される。一度しか使えないからティティーアはたくさんいた。俺はお前の友達じゃなかった。俺は…俺は友達でいたい…』





 ユミは星の連なりが自分の家で、みんな家族だ。でも、この世界がおかしいことには気がついていた。何故なら、ユミはこの世界とは別の世界からきたから。元の世界では赤い髪に緑の瞳は悪魔の申し子とされた。この世界で癒しの一族と呼ばれる理由はおそらくたまたまこの世界に墜ちたときにその土地の住民と間違われたのだ。もちろん、その住民とは関わりがないが癒しの一族と同じ能力を持っていた。この能力のせいで、外では酷い暴力を振るわれた。そして自分の血筋がとある王の血をひいているせいで、より残酷までに傷を負った。そして自分の能力が傷を治した。

 ユミはその王とメイドとの間に生まれ、命を狙われ、母親は王に無理矢理されたことで、精神を病み自死した。王女として受け入れられるはずであったユミを、王妃が許さず追われることとなった。曰く、ユミの容姿が悪魔だからなのだと言う。確かに赤い髪は国では不吉とされた。しかし、緑の瞳は王族の色で、とても貴重な色とされた。ゆえに、王家に悪魔の子どもが産まれたなどと誰にも知られたくないという理由だ。

 母は赤い髪の女性ではなく茶色だったそうだ。一方、王族は黒髪だった。滅多にない赤い髪は確かに不吉なのかもしれない。

 そんな事もあってユミは逃げ出した。逃げ出す際に『門』と呼ばれる空間移動を使い、辿り着いた先がこの世界であった。この世界に入った瞬間に感じた違和は小さなものだったが、いつのまにかはっきりと身体に違和を感じるようになっていた。

 この世界の『時』が進まないように誰かが止めている。まるで誰かの死を受け入れないようにわざと動いていないのだ。そんな事ができる『能力者』は限りなく少ない。

 産まれて初めて能力を使った時に聞いた名前。

  『リテイン·フォン』

 その名前は魔力を持つ者、超能力を使う者、ありとあらゆる能力者の中でも最もすぐれだ者とされる。その名前はこの世界でも出てきたが、ユミが知っている人とは違う。リテインはすでに亡くなっており、彼の三人の弟子のうち二人が行方不明になっており、その一人が、あの名前のない存在だと理解した。彼は外の世界で生きているとされている。意識不明の状態で保存され、実験の途中に目を覚まさなくなったという。だが、それは噂であり死んでいるという話も聞いていた。

 真実が何かはまだ分からないが、もしリテインの弟子が、ここに閉じ込められているならここの時を止めている存在を突き止め、時を動かすべきだろう。このままであれば、ユミは元の世界に戻ることはない。それを望んでこの世界に来たわけではない。いずれ強い力を身に着けて、王族に仕返しをしたい。単に相手を呪うとかでなく、自分は悪魔の子どもでもなく、また、母親を無理強いした王と王妃へ謝罪をさせるため。彼らの子どもにはそれ相応の罰を。それがすんだら、自由の旅に出たい。

 ユミはそんな事を思い描いて、この世界を解放したいと考えていた。




 テイがソラとユミを羨んでいることは誰も知らないだろう。そして彼がどうなるかも知らないだろう。

 ソラとテイはいずれこの世界が解放されたあとどうなるかなど、きっと考えないだろう。彼らはこの世界のために存在する人形であり架空の幻。この世界が消滅したあとどうなるのか。

 ユミは知らないだろう。二人の想いと真実を。二人と共にこれからも生きられると信じて疑わないだろう。


 この世界の住人のほとんどは真実と事実と嘘によって生きている。そして、外から来た者たちが解放しようと動いている。この世界を守ろうとする者は動き出すだろう。


  終


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