最果てのゼノロワ
向かう場所は、ゼノロワの王国。
けれど、フィーブルタンの記憶は今も曖昧だった。朧気に覚えていることが、とてつもなく必要で。忘れてならないことだった。
星夜はその土地に近づくほどに人形よりももっとほど遠い。まるで紙切れのように言葉がなく、記憶もなくなっていった。
フィーブルタンは記憶を思い出そうとした。そして、ついに、その場所に辿り着いた。
踏み入れた途端、なにもかも、全てを思いだした。
巨大な鏡はが置かれただけの何もない空間。ただただ広く周りを闇だけが覆った。
鏡の前に立つと記憶が蘇った。
フィーブルタン=ランリュウ=ラセン・リュウキ。魔法使いとして生まれ、コードネーム・ランリュウとして隣国の幻零夢鷹と戦った。魔法の鏡と呼ばれる光線が世界中に放射された時、仲間のコードネーム・メマと共に己と同じ性格や個性を鏡の中で作り出された。
思い出した瞬間、目の前がクラクラとし、そして、小さく笑いを噛み殺した。
夢のまにまに・・。
フィーブルタンは己が何で、何だったのかを知った。
冷たい氷のような鏡はもう稼働せずにいる。触れるとひやりとするだけで、その先へ連れて行ってくれない。
「向こうの私は、ただの人間。偉そうな・・・、私は・・・。」
冷たい鏡に映るフィーブルタンは、映し出された自分の笑みが全てを現していた。滑稽な人形。作り物であり、紛い物。そして、閉ざされた鏡の中で、永遠に踊り続けるのだ。
鏡に映る自分は嗤いながら、涙していた。
その囲いから出られることは、誰一人、出来ない。
永遠の永遠を繰り返し、繰り返し・・・・・。
鏡はずっとあった。ゼノロワの王国が、現実で何かをしたから。蓋は閉じられたのに、おもちゃは勝手に踊って。
ゼノロワの民が行った事。それは・・・。
セルスは星夜に向かって叫んだ。
「夢鷹!いるなら返事を!」
コードネームではなく、実名で呼ぶとき、それは仲間である証。国と国との争いは激化していった。その中で、仲間を作り、守ろうとする動きを人々は、星の連なる証と呼んだ。
「むたかーーー!!」
声が悲痛なほど、掠れている。
「セルス!止めなさい!今は敵もいるのよ!」
酷く焦ったようにセルスを押しとどめる女性。真っ赤なショートヘアに整った顔立ち。宮訊癒魅だ。生きて動いている姿を見ることは滅多にない。何故なら彼女は聖なる力を宿した癒やしを司る魔法を使うのだから。とても重宝されるからこそ、決して危ない場所へは出てこない。来させない。
それが、今はこうして前衛の場所にいた。
「でも・・・!彼がこの世界の要よ?あの国が消滅したことでより彼は全ての国の人から頼りにされる。」
「えぇ、そうでしょう。けれど、ゼノロワはそう言う国ではない。滅んで終りなんてない。知っているでしょう?」
「・・・それ・・は・・・。」
そう、かの国がただ斃れるわけがなく。何かしたから、突然の滅びに繋がった。
「夢鷹を待ちましょう。彼は私と同じ。この世で最も希少な魔法を扱う人。」
そこには、フィーブルタンもいた。癒魅に治療され、敵だった相手が、敵ではなかったことを聞かされた。
あの時、夢鷹が一時的に消えたのは、その魔力を利用され、ゼノロワが使った魔法の鏡と呼ばれる銃器によって世界の人々をまるごとコピーされ、それを魔法の鏡の内部へと変換させたのだ。
そう。魔法の鏡によって、ゼノロワの民は死んだ。彼らの魔力は吸い取られ、魔法の鏡の魔力になったのだ。
あの後のことはフィーブルタンには分からない。自分はあのときコピーされたランリュウから造られた存在。だから、もうその先を知らないのだ。
放心状態とは、このことを言うのだろう。
探していた場所には、巨大な鏡。この世界にはゼノロワなどなく、滅びた国を起点に鏡の中にたくさんのコピー体が住んでいる。
これらをどうしようと考えたのかも分からない。けれど、間違いなく良い利用方法など考えはしなかっただろう。
戻っても、戻らなくても、ここは、どこまでもずっと同じ。
閉じられた世界にいたから、外に出ようとした。もっと大きな箱の中にいたのだと、理解したとき、人は立ち止まる。そして、うずくまる。
隣で紙切れのように動かない星夜。誰のコピー体なのか。
「ふふ、ふふふふh、ふふふふふふふふh・・・・」
壊れたように笑い、全ての力を抜いた。
永遠の永遠。まわる、まわり、ぐるりと、まわって。
出口はもうない。
最果てのゼノロワ おわり




