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星の物語  作者: あおぞら S
それははじまりなのか
1/6

りゅうの存在

 夢の中の話はいつも誇張され思っている以上につまらない。どのような理由があってもそこに真実がなく、現実ではないから。だけど、あの夢はきっと現実で幻ではないのだろう。いや、現実であるからこそ夢だと勘違いしてしまうのだ。




 その日、麗良は義理の弟であるりゅうの実母と会う予定だった。麗良の実母の雪菜によって命じられたことで、伯母は麗良の父親の蒼鬼との間にりゅうを産むことになった。雪菜はその子供を欲していたが、産まれたりゅうを伯母が守るために数年の間姿をくらましていた。やがて9歳になったりゅうが麗良の前に姿を現し、彼が、神の力を携えていることが分かると、麗良の母親であり、精霊でもある雪菜はりゅうには手を出そうとするのを止めた。

 りゅうを家族として受け入れ、暮らすようになった。父親の蒼鬼は雪菜の姉であり、りゅうの母親である雪蘭を再び探すようになった。雪菜が蒼鬼に雪蘭をもう一度抱くように命じたと聞いた。

 雪菜と雪蘭は雪の精霊で、蒼鬼は小鬼だ。小鬼は基本的に精霊に従い、強い力の持ち主に惹かれる。そして、精霊のほとんどが、家族間でのいがみ合いが存在せず、無関心であり、強い力を持つ存在の種を残すことに重きを置く。雪菜と蒼鬼は子を成した結果、麗良が産まれたが、麗良は精霊としては弱い、風の精霊であった。そこで、雪菜は雪蘭との間に産まれたりゅうが強い神の力を持った存在であるために、また子を産ませようとしているのだ。



 麗良は雪蘭のいる、霊の揺り籠に向かった。その場所では精霊たちが暮らし、さくら大姫様がおわすところとされている。ただし、さくら大姫を実際に見たものはいない。さくら大姫は霊神と呼ばれる、精霊の中でも最も位が高い神の力を持つ精霊だ。

 神の力を持つりゅうは精霊ではないが、さくら大姫にお会いしたことがあると言っていた。彼は世にも珍しい人神と呼ばれる存在だ。




 さて、麗良が霊の揺り籠の内部に入ることは許されない。内部にはさくら大姫が揺蕩う夢の中におられることで、この世界は守られているのだ。

 麗良は揺り籠の前で待つしかないが、雪蘭が揺り籠の中で、浄化の義を受けている。子を産んだ精霊は一度揺り籠の中で浄化され新たな精霊になる。

 それが、雪菜の姉として戻ってくるということではないことを意味するのだが、生命の心と呼ばれる楔を持っていた場合は、姉妹のままでいられる。雪蘭はそれを持って、揺り籠に入ったと聞いている。

 ただ、雪蘭は雪菜を嫌っていたし、小鬼の子を産むことを嫌った。雪蘭が忌むべき小鬼の子を産んだのが、雪菜との姉妹としての縁を切るためだとしたら、おそらく持ったまま入ることはない。


 しばし、風と戯れていた麗良の前に、りゅうが迎えに来た。

「麗良。雪菜が呼んでいる。雪蘭は転生したそうだ。」

りゅうは淡々と告げた。

 精霊の転生とは先程説明した通り、雪蘭が生命の心を持たずに揺り籠で浄化されたことを指す。


「りゅう。お母様が消滅したのに、哀しくはないの?」

「精霊ですらない俺に両親や家族という概念は無い。俺は唯一人の人神だ。」

りゅうは清々しいほどにきっぱりと言った。

 その言葉になんの嘘偽りもない。りゅうは人神という存在であり、それが唯一無二であることをよく理解しているのだ。精霊たちですらりゅうから距離を置く。りゅうが神の力を持っているということが精霊の神、さくら大姫と同じ位の存在だと誰もが認めているのだ。

 神の力を持つのはどんな位のものからでも誕生する。現在のさくら大姫もただの小鬼から産まれたのだ。


 りゅうと暮らすうちに麗良は情を抱くようになった。それがまだ恋として実っていないうちに雪菜はりゅうと麗良を離すつもりでいた。


 人神は精霊とは共にいられない。位の高い存在であり、それこそさくら大姫に礼を尽くすように接するのが義務だ。それが産まれた瞬間に持つ、生命の本質であり、己を己とする唯一無二の証拠であり、証明だ。すべての生命に位があり、自分がどの位置に存在するのか。それに理由などなく、羨みや妬みすら自分の存在を理解できるものでもある。

 麗良が仮にりゅうを愛したとしよう。それは下等な存在から上位の存在への憧れという感情だ。それ以外説明できない。二人が同じ想いになり想い合うということはない。りゅうにとって、麗良はただの精霊。価値は無いに等しい。

 それは雪菜にとっての蒼鬼への想いと同じ。麗良も父親と思ってすらいないことは明々白々だ。

 位とはそういうもので、自分たるものの証しだ。



 麗良は雪菜が今後どう行動するのか考えた。雪菜は、りゅうと抱き合い、子を産むのだろうか。だが、りゅうを遠ざけている。だとしたら自分が子を産むのだろうか。りゅうとなら、良いかもしれない。

 彼は優しくはない。だが、それは蒼鬼も同じだ。だからそういうものかもしれない。ならば、と考え

「りゅう。今日は私と一緒にならない?」

 麗良は今までそんな気持ちを持ったことなどなかった。だが今ならりゅうは自分の元にくると傲慢にも考えた。相手の位を忘れ。

「…」

その日、精霊が一人消滅した。神の力を持つ者に反位を行ったからだ。



 りゅうはその日を境に精霊から距離を置いた。彼の存在は脅威であり、彼を知らぬ者達からは理解できないものだ。彼はその日から『最強のりゅう』と呼ばれた。精霊族から産まれた人神は誰一人と心を通わせない。それが数百年と経過するまでは。 

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