セイ君の星座
私は今夜も、山小屋の外でタブレット越しにおしゃべりをしている。モニターに映っているのは、私だけが知ってる秘密の友達、セイ君だ。
「今日はね、お父さんのお手伝いをしてたら猪に出会ったの!」
「ええ、猪って、かなり危険な生物だって聞いたけど、大丈夫だった?」
「大丈夫よ、慣れてるから!」
私はずっと、この山で暮らしている。登校はせず、街の学校から通信で授業を受けている。だから、友達らしい友達もいなかった。
セイ君はどういう子か、正直わからない。ミーティングアプリをいじっていたとき、偶然通信が繋がって、そのまま会話をしているうちに友達になった。
「僕も海底の調査をしてたらさ、キモい生き物が出てきて……」
セイ君との会話は、楽しかった。見た目は普通の男の子のようだけど、私より遥かに多くのものと、広い世界を知っていた。
でもその交流は、突然終わりを告げた。
「美空ちゃん、この通信は今日で終わりにしようと思うんだ」
「えっ、どうして!?」
「故郷に帰るんだ」
「故郷って……、衛星通信もできないような所なの?」
「……うん」
しばらく、セイ君を引き留めようとがんばってみた。でも彼には、深刻な事情があるようだった。
「僕も悪いと思っている。何か一つ、君の願いを聞いてあげるよ。」
話が煮詰まって、セイ君はそんな事を口にした。
「じゃあ明日、年に一度の星を見る会があるの、それに来てくれる?」
「それは――いや、行くよ。明日の夜、きっと行くから」
当日の夜空は、厚い雲で覆われていた。この日だけは、県外からも何人か登山客が来ている。でもそこに、セイ君はいなかった。
「この雲じゃ、今年は厳しいかもしれんなあ」
不機嫌な私の横で、父さんが呟く。
その時だった。
夜空を覆っていた雲が、まるでカーテンを開くみたいに、あっという間に左右に除けられた。
そして、煌めくばかりの星々が、夜空に現れた。登山客からは、大歓声が上がった。
「なんだこれは、星の数もすごいが、配列も今までと全然違う。どれがどの星座か、まるでわからん」
父さんの横で、私も驚いていた。
一際目立つところに、人の顔を模った星々を見つけた。それは、まさしくセイ君の顔。セイ君の星座は、穏やかに笑っているように見えた。
あれからセイ君とは、一度も会っていない。彼はひょっとしたら、わたしの想像もつかない大きな存在だったのかもしれない。
でも彼との思い出は、この小さな胸の中に、いつまでも残り続けている。
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