第四話
「双子じゃない?!」
喋れるくらいには落ち着いた俺は現実をどうにか受け入れようと必死にもがいていた。
しかしまだ正常ではない脳を懸命に働かせても、理解ができない。
「私たちは、同一人物なの」
だめだ、もうすでにわからん。
「仮に同一人物だとしよう。でもそしたらなんで俺の目の前には2人の佐藤さんがいる?」
「それは裏場と表場が関係してるの」
裏場と表場?意味がわからないどころか聞いたことすらない言葉なんだが…
「えーっと、その裏場と表場?ってのはなんだ?」
「えーと簡単に説明するとよくアニメとかライトノベルにパラレルワールドってあるでしょ?それがこの宇宙空間にもあって干渉し合わない二つの世界があるって感じかな」
宇宙?こいつ頭いってんのか?
「あんたは一体何者なんだ」
「…ただの一般人だよ」
「な訳あるか、一般人が裏場と表場なんて意味不明なこと知ってる訳ねぇだろ」
「口が悪くなってるよ、実君」
「…。教えてくれないなら別にいい」
「ごめんごめん、冗談だよ、詳しくはまだ教えられないけどある一国の使いだと思ってほしいかな」
国の使い?話ぶっ飛びすぎだろ。いやでもゴリゴリの日本人顔じゃねぇか。中国とかの使いか?いやだとしたら怖すぎだろ 。
「なんでそんな奴が俺に接触してきたんだ?」
俺は今1番疑問に思ったことを口に出した。
「それは…」
なぜか答えにくそうにしている、何か不利益なことでもあるのだろうか
「答えられないのか?」
少し詰めるように質問をする
「ごめんね、それは答えられないや」
なんかどうも悪ふざけ感が否めないんだよな。
「もう1人の佐藤さんがいなければ、何もかも信じられないんだけどな」
まぁ正直な話、双子の悪戯だと思ってるんだけどな
「ちょっと一回あんた達隣に並んでみてくれないか?」
俺は一度、2人の顔の一致度を確認するべく、2人の佐藤紬(仮)にお願いを申し出る、しかし佐藤紬がそれに応えるよりも早く、
バタンっ!!
前触れもなく屋上のドアが勢いよく開いた
俺は佐藤紬をそっちのけにして、というかびっくりして振り返る。
そこには少し息を切らしているような亜乃と志乃が2人してこっちを見ていた
「お兄ちゃーん、今日の昼飯奢ってー…え?その人誰?」
亜乃が奢ってとか意味のわからないことを言った気がするが、今はどうでもいい。
「お兄ちゃん、まさか…」
志乃もなんかよからぬ勘違いをしている気がする。
「待て、誤解するな、この人は転校生で俺が今学校全体を案内してるだけだからな!」
俺はすごい早口で誤解を解いた。
それに志乃と亜乃もわかってくれたような表情を見せる。
「いや、最初からお兄ちゃんがそんな可愛い人に告白できるとか微塵も思ってないよ」
「私は2人でいたから、お兄ちゃんが何かよからぬことをそこの可愛い転校生にしようとしてるんじゃないかと思っただけだよ」
「いやおい志乃、お前にはお兄ちゃんがどう見えてるの?そんなに俺キモい不審者っぽい?」
「「うん」」
「おめーらマジでお兄ちゃん舐めんなよ?」
なんで俺が傷つく羽目になってんだ
「まぁそんなことは置いといて今からマック行こうよ、お兄ちゃん」
「なんでだよ、俺今日は慶と昼飯食べる予定だから。お前らとは無理」
俺はそれっぽい嘘をついて逃れようとする
「じゃあ亜乃たちと一緒に食べればいいじゃん」
「いやそれは慶が気まずいだろ、うん、きっとそうだ」
「いやいやなんなら亜乃たちがいた方が盛り上がるでしょ」
「いやいやいや男同士の熱い会話ってやつがあんだよ」
「そんなのどうでもいいから志乃たちに奢ってよ、もし断るんならお父さんに今日遅刻で清谷先生に怒られたことちくるよ?」
「志乃、その手はずるいだろ、てかあれはお前らも遅れてただろーがよ」
「でも亜乃たちは怒られてないもん、お兄ちゃん、行かなかったらお父さんに説教くらっちゃうよ?いいの?」
「それは良くない、けどお前らにマックおごんのも同じくらいやだ」
「じゃあもう仕方ないね、亜乃」
「そうだね、これはもうチクるしかないかなぁ」
「わかった、百円でどうだ、百円で手を打とうじゃないか」
「あー、今すぐマック食べないとお父さんに絶対に言っちゃうなぁ」
「亜乃もマックさえ食べることができれば大丈夫なんだけどなぁ」
「あぁぁぁぁもう、わかったよ!」
俺はもう佐藤紬の存在なんてとっくに忘れて悔しさを渾身に込めた雄叫びを上げる
「じゃあそういうことですから、転校生さん、お兄ちゃん返してもらいますねー」
「えーっと、でもまだ私、実くんとの会話が終わったないんだよね」
「そ、そうだぞ!俺はまだ佐藤さんとの会話が終わってないんだよ!」
まさかのタイミングでのまさかの人物の助け船に俺は少し動揺しながらも勢いよく乗っかる
「じゃあ佐藤さんも一緒に亜乃たちとマックに行きませんか?」
「あ、それ名案!佐藤先輩、一緒にマックに行きましょうよ!」
「何言ってんだ、そんな急に一緒にマックなんて行けるわけないだろ」
妹2人と正体不明の転校生とマックなんてたまったもんじゃない
「妹ちゃん達がそれでいいなら行っちゃおうかな」
…へ?
「いやいやいやいや落ち着いて考え直そうよ、無理に行こうとしなくていいから、気なんて使う必要ないから、ね?」
「気なんて一切使ってないよ?」
「いやだから、一回落ち着k」
「お兄ちゃん、志乃はダブルチーズバーガーが食べたい」
「亜乃はフィレオフィッシュがいいな」
「お前らは一回黙れ」
「実君、私はなんでもいいですよ」
「え?それはどういうことですか?まさかなんでもいいから奢れって意味じゃないよね?大丈夫だよね?まず行くって決まってないですからね?」
「つべこべ言ってないで早く行くよ、お兄ちゃん」
「志乃お腹すいたー」
「あぁぁぁぁぁぁ、わかったよ、行けばいいんだろ行けば!」
本日2度目の雄叫び、最悪の気分だ
「さすが!それでこそ亜乃たちのお兄ちゃんだ」
「それでこそ、佐久間家の長男!」
「実君、太っ腹です」
「はいはい、ありがとう」
嘆いていても仕方がない、人生諦めが肝心なんだ、きっと。
「マックはもういいけどなんでお前らは俺の場所がわかったんだ?」
「あぁそれは海がアウトストグラムのストーリーになんか屋上で転校生とお兄ちゃんが案内っていう体でいちゃついてるって上げてたから」
「あー、なるほどな、ってじゃあなんで最初佐藤さんを知らない体で来たんだ?」
俺が覚えてる限りではこいつらは俺を可愛い女の子を襲おうとしている変態野郎として扱っていたハズだ
「そんな細かいことは気にしないの、ね、志乃」
「そーだよ、そんなこと言ってるからモテないんだよ?にぃにの焦った顔が面白いからみたかったとかじゃないから安心して」
「おい、お前ら絶対わざとじゃねぇか、あと俺がモテないのは関係ないだろうが」
とりあえず海だけは絶対に許さん
「じゃあ栞里も誘ってるから先に行って、一緒に売店で待ってるねー」
「佐藤先輩も一緒に行ってましょー」
「妹ちゃん達がいいなら」
「「ぜひ!」」
「あ、あと私たちのことは志乃と亜乃で大丈夫ですよ」
「じゃあお言葉に甘えて、よろしくね、志乃ちゃん、亜乃ちゃん」
「「こちらこそ!」」
「あ、あと先輩はなんて呼ばれるのがいいですか?」
「えーっと、じゃあ紬先輩って呼んでくれる?」
「「はい、紬先輩!」」
怒涛の女子のコミュニケーションを傍観しつつ、俺は一度我にかえり、先ほどまでの状況を整理する。
何かがおかしい、そう感じた俺はすぐにその疑問の正体に気づいた。
あれそういやなんでこいつらは佐藤さんが2人いるのになんで違和感を覚えないんだ?
「おい志乃、亜乃、お前ら何人でマック行こうとしてるんだ?」
「えーっと、私と亜乃と紬先輩と栞里とにぃにの5人かな?あ、あと慶先輩もかな?」
「もう1人の佐藤さんは?」
こいつらは俺にだけは優しくない、裏を返せば俺以外には優しい、つまり1人だけ仲間はずれなんてことは絶対にしないはずだ。なのにこいつらはもう1人の佐藤紬と話すどころか、目すら合わせていない。そう考えると浮かび上がる答えは一つ、
「は、何言ってるの?お兄ちゃん、ついに頭おかしくなっちゃった?」
「亜乃、にぃには元から頭はおかしいよ、でもそのボケはつまんないよ、にぃに」
「いやボケじゃなくて、俺はいたって真面目n、っっ!」
急に脇腹をつままれ俺は情けない声をあげる、
俺の目には今、佐藤さん、志乃、亜乃の三人が写っている
「実君、マックとやらに行った後でいいですから、一度うちに来てください、あとこちら側の佐藤紬に関してはもう触れないことをお勧めします、そうでないと危ないですよ、あなたもあなた以外の人たちも」
…今確信した。この佐藤紬は俺にしか見えていない
夏の終わりに出遅れた暑さの中、俺は今までにないほどの汗を垂れ流していた。
「じゃあもう亜乃達先行ってるねー」
バタンっっ!!
また大きな音が鳴った、もう屋上には俺しか残ってはいなかった。
「実お兄さん、本当に大丈夫ですか?」
「ああ、うん大丈夫だよ」
俺は心配をかけないように今できる精一杯の笑顔でそう答える、俺はさっきの出来事で相当顔色が悪くなっていたようだ
「体調が悪いのならあんまり無理しすぎない方がいいですよ?」
「うん、ありがとな、栞里ちゃん」
やっぱり優しいな栞里ちゃんは
俺は屋上でしばらくの間、自分の足の震えが止まるのを待った後にすぐに校門へと向かい、妹達と合流したあと、とりあえずみんなにマックでオレンジジュースを奢り、帰路についていた。
「お兄ちゃんホントに大丈夫?顔色悪いよ?」
「にぃに、マックでもずっと元気がなかった感じしたよ?」
「大丈夫だって、安心しとけ」
大丈夫なのは本当だ、あれから結構時間が経って精神も安定してきてはいる、でも緊張は解けない。
ちなみにもう佐藤紬はもう帰っている、それで何もなければいいのだが俺はマックで佐藤紬にある紙切れを渡されていた、ある住所が書かれた紙だ
「ここに来て」という文字も添えられていた
しばらくの間紙を眺めながら歩いているとあっという間に家に着いた
ちなみに黒川家はすぐ正面にあるから栞里ちゃんもまだ一緒にいる。
「とにかく亜乃達が稽古している間は部屋で休んでおくといいよ」
「稽古終わったら志乃がアイス持ってくるから」
「いや亜乃が持ってく」
「いや私」
「いーや私が持ってく」
なんでこいつらこんなしょーもないことで競り合ってんだ
ていうか今日稽古の日か、
ウチは俺が生まれる少し前から道場を営んでいる。そこには俺、志乃、亜乃はもちろん、慶も栞里ちゃんもいたりする。今は結構な人数がいて繁盛しているらしい
「あぁありがとな、でも俺は大丈夫だから心配すんな」
「じゃ、じゃあ私が看病してあげましょうか!?」
「いや本当に大丈夫だって、まぁ栞里ちゃんがどうしてもって言うなら看病してもらってもいいけど」
「は、はい!ぜひ!」
「何言ってんの栞里、お兄ちゃんを甘やかすな」
「にぃには志乃が看病するから大丈夫」
「いや私がします!」
なんでこの妹軍団(栞里ちゃんも)はこんなに俺の看病をしたいんだよ
て言うか看病なんてされたら、佐藤紬のところに行けないから困るんだが…
「俺はホントに大丈夫だから、それともお兄ちゃんのことを看病したくてしたくてたまらないのか?」
「お兄ちゃんは黙ってて」
「にぃには黙ってて」
「実お兄さんは黙っててください」
なんでなんだろう、なんでこんな気分にならないといけないんだろう
「まぁでもそんな軽口が聞けるんなら大丈夫そうだね」
「でもまだ戦いは終わってないよ、亜乃、栞里」
「臨ところです、今日の稽古こそ私が勝ち越します」
栞里ちゃん稽古の時は雰囲気変わるんだよな、てかこいつらすげえ細いのにそこそこ強いから怖いよな、いやまあ俺は別にビビってないケドネ?
「お前らそこそこにしとけよ?」
俺はお兄ちゃんらしい一言を添えたあと道場を後にして、家の扉をあけ自室へと足を踏み入れる。
「ふぅぅぅぅぅ」
俺は大きなため息をついた後、一度ベットに横たわる。
夏休みが終わってまだ初日。なんでこんなに疲れなきゃいけねぇんだ
俺は心の中でそう呟きながら、体をサッと起こし、制服から普段着へとみなりを整える。そして俺は佐藤紬から渡された紙を右手に握りしめながらまだ青い空が広がる街に静かに繰り出していった。