イスカ1
ベッドを出ると、眠気覚ましに顔を洗う。
鏡を見れば、少し憂鬱そうな顔を浮かべる私。
今日もまた、レイ様のお小言を頂くことになるのだろう、と想像するだけで億劫になる。
でも、こんな顔して、レイ様のもとに行くことができるわけがない。
鏡に向かって、穏やかな笑顔をつくる。
これで、よし。
メイド長のトビリシさんに言われたことを思い出す。
「レイ様を支えてあげられるのは、専属のあなただけでしょう。
あの方は、誰も信用しておりません。あなたが最後の望みです」
という言葉を。
トビリシさんは厳しい所もあるが、親切だ。
仕事の覚えが悪かった私にも丁寧に指導してくれた。
故郷の母を思い出す。
レイ様は、両親との関係が上手くいっていないという話を聞いている。
私には、彼のことをあまり責める気にもなれなかった。
身支度を整え、自室を出る。
レイ様の部屋の前で立ち止まると、一度、気合を入れるために、深呼吸する。
やはり、中で、レイ様は眠っていらした。
「おはようございます、レイ様」
彼はむくりと体を起こすと、ボーっと私を見ていた。
反応がない。
また、機嫌を損ねてしまったのか、と思った。
「申し訳ありません。何かお気に障るようなことしたようで」
「ベッドの端に座れ」
私は、よく分からないが、これ以上機嫌を損ねたくないので、言われたとおりにしてみる。
「えっと、こうでいいですか?」
私が腰かけると、私の膝の上に再び寝転がってくる。
膝枕の態勢だった。
「れ、レイ様!?」
「動くな。気が散る」
私は、混乱して、何をどうすればいいか分からなかった。
彼は私を質問攻めにしてきた。
朝から、こんなに話しこんでいる場合じゃない。
何とか魔術学院に行ってもらえるように説得しないと。
私がトビリシさんに叱られてしまう。
恥ずかしさが混じりながらも、彼を説得しようと思った。
しかし、話はあらぬ方向に行ってしまい、私のことをほめちぎってきたかと思えば、いきなり土下座しだした。
そして、彼は、とうとう、魔術学院を退学するという話までしだした。
私がそれを引き留める前に部屋を飛び出して行ってしまった。
人が変わったようだ。
しかし、もともと精神状態が不安定な方なので、あまり、気にはならない。
こういったら、失礼に当たるだろうが、昔から狂人じみたところがあった。
でも、あんなに私のことを褒めてくれたのは、初めてのことだった。
内面も外面も褒め殺しというべきほどに褒めてくれた。
鏡の中に映る私は、頬が赤くなっている。
頬に手を当てれば、明らかに熱を持っているのが分かる。
少し、心が動いているのを私は、意識せざるを得なかった。
いががだったでしょうか
不評なら、他者視点は作りません。
テンポが悪くなったら、嫌だなと思いますし、今後もつくるかは考えているところ。
好評なら、作ろうかな、と思います。